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ブラック・ジャック・ジョーカー
ようこそ最後のお客様。ええ、この賭場は今夜限りの夢です。ネオンという光り物にやられてしまいましてね。昔は敢えて土に潜る者も居たのですが、ああ、無駄はお互いに良くない、どうぞお座りください。
ゲームはポーカーでよろしいでしょうか、もっとも、うちの遊戯はこれっきりで他の選択はありませんが。ありがとうございます、ではお金を、はい、バニーもとうにやめて、チップの交換も私の仕事ですよ。どうぞ。
それでは始めましょう。無言は要りますか？構わない？では、我侭で語らいを。私はディーラーとして失格かな。まぁどうせ最後のダンス、やりたいように。おしゃべりなのですよ、私、ですから世間話を致します。失礼ですがお客様、貴方は何故ここへ参られたのでしょうか、
……なるほど、それなら道理だ。お客様、カードをオープンしてください。
ええ、それが貴方の望む道化です。本来、許されぬ場所にいる、ね。だが、ゆえにその道化は王以上になれる。更に何もかも失う事も出来る。勿論これは例え、本来は貴方の知った通り。
私はそうしないかと？私は風変わりな男でね、世間で言うこの無残な失敗が、とても愛しいのです。新たな始まりにより、捨てたくは無い。
それにそのカードは、今夜です。はい、一日だけの魔法なのですよ。
落胆しましたか？ですが、夢を見た後は、覚めなければならないでしょう。だが、一度でもいいじゃないですか。限られた時とはいえ、かつての己や、未来の姿に会えるというなら。
ならば私も使ったらいいって？言ったでしょう、私にもう魔法は要らない。老いは、奪うが、得られる物もあるのです。だのに使えば私の事、甘い夢に溺れるかもしれない。
しかしそうでない者なら、貴方は、どうやら強いようだ。………どうでしょうお客様、その道化を王にして、もし片割れがエースならば、つまり、このゲームの由来であるならば―――仕事と引き換えに、ピエロ達を貴方に授けましょう。
仕事と言っても軽い事です、魔法を、世界にかけてください。
何故かって？……夢はね、弱者の為に用意されてるんじゃない。現を踏みしめ、必死で足掻く者達が、手にするべき権利だと思うのです。
異国から来た男はそこまで語り、ぬるくなったコーヒーを飲み終えた後、そのカードをテーブルに並べる。
「貴重ではないよ、まだ何百人もこいつを配らなければならない。だからと言って誰かれにも渡す訳にはいかない。君たちはかなり、こちらから見た向こう側、怪奇という場所か、触れてるみたいだから」
そしてにこりと笑った。「何よりも、『平均的に』強いだろう」
名も知らぬ放浪者、もう二度と来ない通行人はそう言った後、零の前から消えた。
テーブルの上には道化が笑っている。
◇◆◇
Case of falna.
〈ファルナダイジェスト〉
◇◆◇
人生において『○○（ここに名前をあてる）の長い一日』と称する日を経験する時がある。これは普段とは違う出来事が、良いも悪いも全てひっくるめ、昨日よりも、そしてまだ知らぬ明日よりも、ぎゅっと今日に詰まって充実してたという事だ。
だから、二十四時間年中無休で厄介事が転がり込んでくる草間事務所、そこに通う者達にとって、毎日が長い一日となる可能性は高いのだ。それは天然お色気担当お嬢様、ファルナ新宮とて例外では無い。しかも今日は、充実も充実、豊作となった作物の収穫日並に、満ち溢れた一日だった。その証拠に、
「今日は色々ありましたね〜」
花火を眺めながら、良い肉体を浴衣姿に包んだファルナは呟いた。彩りの光が柔らかな頬に映る。
のんびりとした彼女からは、想像もつかない目まぐるしき一日――
◇◆◇
全ての始まりはというと、不思議なジョーカーが放浪者に手渡された事。もう一歩進めば、そのカードが草間興信所という場所に蒔かれた事。
そしてファルナにとっての始まりは、強襲護衛メイドファルファを供にして、水着ショップに足を踏み入れようとした彼女の胸元に、『無駄にエネルギーが有り余って思わずスキップダッシュな淫魔』の手から離れたカードが、風に吹かれて潜り込んだ事による。気付いて捨てれば何事も無かったのだが、そこは彼女の特性、胸元の違和感に少し「んぅ」っとやけに艶っぽい声を出しただけで、胸にカードを忍ばせた侭だった。そして、
「あら〜これ可愛いわね〜」
子供用の、セクシなのキュートなのと聞かれたら明らかに後者の水着に立ち止まって、品定めした所を、
「残念ですが、マスターのサイズには合わないかと」
ファルファが二つのデーターを照らし合わせた結果を言った事により、「あらそう〜」と言った後、
「私が子供だったら」
この言葉に応じて、豊満な谷間より道化は来る―――驚きを見せる彼女に、ピエロは入手！と叫び薬指を突きつけ回りそして返した。するとファルナの足元から、花弁が螺旋状に舞い上がる、突然の幻想に対応できずにいると、さらに不可思議、ピエロは大きくなって、前触れも無く目の前から居なくなった。
………花弁の景色が途絶え、元の水着ショップが目に映った時に、ファルナは自分の勘違いに気付く。ピエロが大きくなったのではない、
自分が小さくなっているのだ。
あどけない顔、ちっちゃな手、何より身に着けていたドレスがだぶだぶ、というか埋もれる程に縮んだ身体。時が戻るという世界に逆らった出来事、なのだが、
「あらま〜」
普通の人なら慌てふためき阿波踊る所を、理由も探ろうとせず、ファルナはその一言で済ませた。彼女の感覚的に、醤油が切れたレベルである。
だが大なり小なり起こった問題は処理せねばならぬ、一先ずはこの服、ファルナの法則を考慮すれば、このまま歩けば途中で服は脱げてしまい、そして何故か気にしない彼女がそのまま歩けば、翌日スポーツ新聞にて、『一人だけのヌーディストビーチ』という見出しが掲載されてしまう。いや、ファルナはそこまで想像を飛躍させてないけど、このような危機があるからには、服のサイズが合ってないのは問題なのである。
そこで、ファルナは思い出す。
目の前には可愛い水着があるのだ。
◇◆◇
望んだ物を手に入れられて、少女は至極ご満悦である。よってぱたぱた走っている。
都会の歩行者天国を、水着と麦藁帽子にて。
適材適所という言葉から、夏という季節を考慮しても、162度はずれている女の子。唯一の救いと言えば、その少女が可愛かった事で、通行人達が驚きだけでなく、一種の微笑ましさを覚えた事か。逆に誘拐という可能性も出てきたが、ボディガードが控えていますので無問題。だからファルナは何も気にせず、焼けたアスファルトの上を爆走していた。なんのあてもない暴走、それは、ある少女もした行動。
その少女は今、大人になっている―――
ドンッ、「きゃっ！」何か
衝突音と自分の声が同時に響いた。暴走機関車は障害物によりあっけなく停止する。どうやら人の足に当たったらしい。非は？前を見ずに走ってた自分。だから顔をあげて、謝ろうとすると、「大じょう……」
そこまで言って、その女性の言葉は止まった。
チャイナドレス姿の綺麗な人だ。この姿になる前の自分より、プロポーションは勝ってるやも。何よりも一瞬、その瞳の虜になりかけた。
だが、ある気付きにより、美貌への感嘆は素朴な疑問へと代わる。
初めて出会ったはずの女性を、ファルナは、
知っている気が、
「あの〜もしかして〜」
幼くなっても変わらない口調で聞こうとすれば、それよりも早く、
「ファルナさんっ！？」
女性は、否、大人になった海原みなもは、驚きの声をあげた。ファルナは立ち上がり、麦藁帽子をおさえながら微笑む。
そしてみなもが立っていた場所は、水着姿のファルナ、そして、メイド姿のファルファが、違和感無く存在できる事にも気が付いた。
そこはコスプレ屋台だった。
◇◆◇
「みなもさんが〜そのピエロさんのカードを〜」
「ええ、……すいません、誰かを巻き込むつもりは無かったのですが」
「いえいえ〜」ファルナは首を振る、「謝る事じゃありませんよ〜むしろ感謝したいくらいです〜」だって幼児体形でなければ、
「こんな服着れませんから〜」
そう言ってファルナはひらりと回り、手に持ったステッキを軽やかに振った。店長ピエロのカメラが鳴る。ポラロイドで出てきたのは、
日曜朝九時放送中、魔法少女うさぴょんぷーである。
ショッキングピンクでファンシーな、ポップでキュートでリンリンリンであり、ヤッホーラブラブショートケーキみたいな格好。そんな主人公に扮したファルナが、にこっと笑って立っているだけで、幼稚園児はきゃっきゃと喜び、リュックサックせおってTシャツにプリントしたアニメキャラクターを自堕落な腹と臭う汗により歪ませた男達は燃え否寧ろ萌えとのたまわった。それ程ファルナと、その魔法少女の姿はハマリ役だった、ので、みなもも思わずこのアニメのキャラクター、ファルナが演じる主人公の、憧れの人役のコスプレを買って出た。服は一言で言えば、マント付きのコート、しかもへそ出し。美貌の女性が男装した事により、倒錯的な魅力が香る。今度は二人揃って記念撮影、すっかり楽しんでいる。
「折角ですから、悪役も欲しいですね」
「服もありましたね〜でもあれ着れる人〜」
などと楽しげに話していて、「でもファルファさんじゃ」会話の中に固有名詞が出た時、
「見覚えがあったが」突然の第三者、「余りにも掛け離れて、確信出来なかったが」
やはりお前らか――、と、
「で、何がどうなってる？」
変わり果てた彼女達の前、鳴神時雨が登場した瞬間、
みなもは悪魔の囁きにて、ファルナは純粋に、この人だ、と思った。
その後の事は本人にとって、「もうこりごりだ」と称されてるので、別の段のみで語る物とする。
◇◆◇
コスプレ屋台から離れた後も、ファルナは子供というスキルを、めいいっぱいフル活用。ちょうど渡りに船だったのだ―――遊園地、子供は入場無料。
小規模ながらも夢の国だ、魔法少女の服を買って、いまだに身に着けている彼女が、迷い込まずしてどうするか。入り口で待つというファルファを、半ば強引に連れ込んだ後、一緒に、あるいは一人で、今の身体の大きさにそって童心に帰りはしゃぎまくった。観覧車のてっぺんから、下界を見下ろし満面の笑顔、メリーゴーランドで目を回し、ぬいぐるみから風船をもらって、と、何よりも自由、お気に召すまま気の向くまま、
まるで、やり直すかのように、
幼い頃を。
今の彼女は、その時作られた。
余り知れない、優しい彼女が、自分に対して抱くのは、
冷静にて、沈着。
だけど、今は、楽しかった。
楽しかったから、遊び疲れた幼い少女は、今、ベンチの上でファルファの膝の上。幸せそうな顔で休んでいた。静かに目を閉じて、今日の出来事にありったけの感謝を、
抱いていると、
「や、や、やっとみつけましたよ！」
「……あら？」
突然目の前に、白衣の美少女が現れた。そして開口一番ファルナに言った。
「貴方が海原みなもさんですねッ！」
◇◆◇
ファルナが当然否定した後に、もう一人やってきた人物が、
二人の小さな一騒動の始まりである。そしてそれが切欠で、
ファルナは子供から大人、へと。
◇◆◇
遊園地からの帰宅方法にバスを選択した彼女、運転席の後ろの座席にて、ちょっと苦しそうなファルナが一人。隣で立っているファルファが、大丈夫か否かの問いを送る。
「ん〜少しきついですね〜」
ファルナが着ているのは元々の服である、が、ぱっつんぱつんという言葉がこれ程似合う状態は無い。先ほどまで幼女だった彼女は、今は魅惑のレディに変化した。
もともとの西欧的な顔立ちが、成長して際立って、なによりも、たわわに実った肉体は、ゲージ３消費するくらい一撃必殺である。隣で同乗した塾帰りの中学二年生に言わせれば、埋もれてぇ代物、だ。なにせバスが揺れるたびにお嬢さん！揺れてますっ！震えてます！ああっ！
「？あちらの方大丈夫でしょうか〜」
知らぬ事は罪作りだなぁ。
まぁともかく、子供になったり大人になったりの、ファルナ新宮の今日の一日、何事も無く終りを告げる―――
かに見えたのだが、とこどどっこい運命とやらは働きすぎだ、何時もは人気の無いバス亭で、車がプシューっと止った瞬間っ
「動くなぁぁぁぁっ！」
突然黒いレザーにフルフェイスのヘルメット、そして片手にマシンガンという、絵に描いたようなハイジャック犯、ハイジャックだ！
誰かに何かを言わせるより早く、男は脇に抱えていたバッグの中身をぶちまけた。ごろごろと床にころがるのは、ダイナマイト。「いいか、まず俺は命を捨てている。つまりお前らが騒げば何時でもドカンだ、……運転手っ！」バスを国会議事堂まで運べッ」
銃口にて脅す男、老年のドライバーは、泣きそうになりながら従った。男はメットの向こうで、多分笑っている。
目的も理由も明かされていない、その事が返って、乗客たちの恐怖に溺れさせた。泣き出した子供の口を、必死にふさがれる親。騒げば、やられる。
コンマ一瞬の行いで、このバスは完全に男の支配化である。だが、
たった一つの例外があり、
「あ、こらお前、聞いてんのか？」
そして男はその例外に声をかけてしまい、
「これから俺様達は、この腐った国の為に立ち上がるんだ」
「はぁ」
「舐めてんのかっ！」
襟元掴んで引き起こして、銃を脳天にぶちこもうとしようとした時、
ファルナの法則は発動する―――ぱっつぱつんに膨れ上がった服、強い衝撃くわえれば、
当然、ハニーフ○ッシュ
服が破れ桜吹雪のように舞い、その向こうに現れたのはぼんきゅっぼんでむちむちでぴーひゃら―――ブーッ！
男の鼻から京の名滝の勢いで鼻血がジェット噴射、余りの衝撃に、男はその場にしゃがみ込んだ。ああでもこの衝撃は、男の本懐であろう。だがしかし、
「最優先、マスターの護衛、目前、マスターへの危害、判定、」
あら突然何をおっしゃってるんですかメイドのお嬢さんってなんで右拳を爆弾尽くしの床にへたりこんでる俺に向けて、って、
「排除―――」
ロケットパンチが放たれて。
◇◆◇
道路には黒焦げになったバスの車体が横たわり、それを囲むのは警察機構。犯人は今捕まらんとする所だが、そこにファルナ達の姿は無い。
大爆発にて超炎上、全てを塵にな勢いであったが、護衛メイドの彼女が、ファルナまで傷つけるような結果を生むはずが無く、彼女の命は勿論、乗客達も少々アフロになる程度の被害で済まされた。どうやったかは気にしてはいけない。
だが魔法少女の服や、最初に購入した水着までは守れなかったらしい、深々と頭を下げるファルファに、ファルナはいいですよ〜、と。だが、
「流石に今、服が無いのは困りますね〜」
と言って、駆けつけたパトカーのサイレンが、遠くに聞こえる茂みの中で首をひねるファルナである。
でも服を、ファルファに買いに行ってもらえば済む事だ、ファルファに顔を向け、その旨を命令しようとした時、
ファルファの顔の向こう側、
星が輝かない東京の空に、
黄金の花火。
そして訪れる静寂の中で、
大人の身体は、子供の心で、わくわくした。
ファルナはその旨を命令した。
買ってくるのは浴衣にしてと。
◇◆ 登場人物 ◆◇
1576／久遠・樹／男／23／薬師
1323／鳴神・時雨／男／32／あやかし荘無償補修員（野良改造人間）
1252／海原・みなも／女／13／中学生
0158／ファルナ・新宮／女／16／ゴーレムテイマー
◇◆ ライター通信 ◆◇
おはようございます、エイひとです。まず前回に引き続き、否、前回より遅れてしまい申し訳ありませんでした。すいません。
話の方ですがいかがでしたでしょうか？……精一杯ファルナの法則を考慮したつもりだったのですが、流石に少女を剥くのはどうかと思い（をい）あと、シリアスシーンを思い切って隠し味ってみたんでっけど、余計でしたやも……へぐ。
なお今回の話は、他の参加者のと多少連携しています。ファルナが別の参加者さまの話に顔出ししたりしています。よければご確認を。
今回のご参加おおきにでした。それでは、機会があれば、ほなまたです。
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