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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


人材発掘‥‥いや、多分。

●募集してみる
『もとむ人材。世界平和や征服を企むクライアントや被験体、並びに離常識な道具を作る人手を募集』
 その下には小首を傾げる小型犬の写真と天王谷特殊工学研究所の文字。

 物が溢れる部屋。そこでそんなページを眺めちた男がぼさぼさの頭を掻きながら、大きな、極めて大きな溜め息をついた。
「なんやねん、これ」
「広告だ」
 応じたのは大きな机でパイプのような塊をこね回していた女。短く整えられ黒髪が幼い顔立ちとあいまって七五三っぽい。
「現在、仕事も頭数もないからな。コネを使ってみた。所長の写真うつりだけが心配だったのだが」
 その声に反応したのか、男の側で転がっていた犬が顔を上げる。
「何故、超常系雑誌にコネがある‥‥いやいや、それ以前に俺らは表に出たらヤバイんと違うんか?」
「IO2か? ふっ、そのための募集でもある」
「さいで‥‥なら、ついでに精神力エンジンの巨大ロボットでも作るか? それともエーテル使用の強化服か?」
 そして男はまた大きな溜め息をつき、犬の頭を撫でた。
「それよりも所長を元に戻す道具を作ったれ」

●来る
「明日だ」「何が?」
 黒電話の受話器を置いた途端の女の言葉に男がのんびりと返す。
「クライアント希望だそうだ」
「よおもまあ、こんなとこに。ま、よろしく伝えといてくれ」
「‥‥何かあったか?」
「地下の扉や」
「そうか、狩りか。ならば神経系を‥‥」

●来た
 天王谷特殊工学研究所。そう書かれた表札の前に、一台のタクシーが止まった。
「立地条件はそれなり、かしらね」
 そう呟くと、応仁守瑠璃子はかけていたサングラスを直した。
 明治時代に建てられたと言っても通用しそうな貫禄のある洋館だ。余り手入れをしていないようなのが、またそれに拍車をかけている。ただ残念なのは、断崖絶壁に建っていないことと、晴れていることか。
「すいません。お代を‥‥」
 空を仰いだところで、タクシーの運転手が申し訳なさそうに頭を下げた。

「ようこそ」
「お邪魔するわ」
 呼び鈴に答え出てきた女に促され、入り口すぐの部屋に入る。
 そこは応接室らしい。落ち着いた調度品などから、そう判断する。判断はした、一応。
「あれか? ただのはったりだ」
 壁際に置かれた鎧兜、しかし武者の。他が洋装なだけに違和感が強い。
(何に対して?)
「気にする必要はない。どうぞ」
 表情には出ていたらしい。
「ま、まあ‥‥そうね」
 冷静になれ。そう自分に言い聞かし、瑠璃子は勧められたソファに座った。女も向いに座ると、テーブルのポットからお茶を用意。
「‥‥自己紹介がまだだったな。井上だ」
 電話で聞いた声だった。
「応仁守です。こちらの所長さんに、とお話したはずでしたわよね? あなたが?」
 握手を求める。
「いや、所長は別だ。だが、対外的なことを含め、私が対応していると認識していただければいい」
 その手のところに茶碗を出された。仕方なく、そのままお茶を飲む。
「つまり広報部長かしら?」
「そう呼びたければ。もっとも役職が必要ならば代表だと認識していただきたい」
「代表、ね‥‥いいでしょう。では、井上代表、これは私個人からの要請と考えていただきたいのだけれど」
 ただ一つの手荷物であるハンドバッグからシャーレを出し、テーブルの上に置く。
「これの培養と制御法の確立を依頼したいの」
「失礼」
 井上がそれを手に取った。
「追加条件として、実証機の歩行メカを提出‥‥無理かしら?」
 じっとシャ−レを見ている井上へ瑠璃子は挑発のつもりでにっこりと微笑んだ。これが安価かつ迅速に行われるのであれば、実家こと鬼神党内でも兵器部門に取り込む価値があると判断させられるだろう。
「無理だな」
 しばらく見ていた井上だったが、あっさりそう言うとシャーレをテーブルに戻した。
「む、り?」
「無理だ。残念ながら、私の知識では生体組織自体の複写培養はできても、それを統括制御する部分の作成はできない。だが、そうだな‥‥」
 くるり。シャーレの蓋の上で指が円を描く。
「子ども。なるたけ幼い子どもを用意してもらおう。後はこちらでこの組織の変異体を移殖。安定増殖後、全神経系を利用した制御法として歩行機械への改造を」
 ばん! 瑠璃子は無言でテーブルを叩いた。
「お気に召さないようだ」
「あ、当たり前でしょう! 人として許せる行動と許せない行動が‥‥」
「冗談だが」
 指を突きつけるも、あっさりと退けられる。
「どこから!」
「無理と言った辺りだ。過去に成功例がある以上、実行可能だと答えるのが正しいのだろう。もっとも、失敗の可能性もあるのは理解しておいていただくが」
「分かってるわよ。別に失敗したからってとがめたりするつもりはないわ」 
 瑠璃子は大きく息を吐いた。
 妙に疲れたが、何とかまとまりそうではある。あとは依頼の完成度の問題だ。それともう一つ。
「ところで、他にクライアントの話はあったのかしら?」
「他に聞かれた時に貴様のことを話せということか?」
「あのねえ」
 どうにも分が悪い。それも問題だろうか。

●遠のく
 試作機完成の報告が入ったのは、それから三日ほどしてだった。
(早い‥‥と言うより早過ぎるわ。ひどい仕事でないといいのだけれど)
 そんな不安を抱きつつ門をくぐろうして。
 またタクシーの運転手に止められてみたり。

「ようこそのご足労っす」
 瑠璃子を出迎えたのは、へらへらとした男だった。
「井上代表は?」
「ちょいと私用。まあ、大したことやないっすよ」
 男は五色と名乗った。ここの人間だそうだ。
「しっかし、あんなもんどこで手に入れたんすか?」
 地下への階段の途中で五色が振り返った。試作機は地下らしい。
「どこでもいい。そうでしょ?」
 瑠璃子は努めて冷静を装った。あまり詮索されるのは癪に障る。それ以上に灯りが蝋燭しかないこの階段の歩きにくさ。
(本当に大丈夫なのかしら)
「そりゃ、そうかもしれませんけどね‥‥実際、あんなもんを持ち込むとは価値が分かってのことかと思ったもんで」
「‥‥意味が分らないわ。あなたたちはこちらの仕事をこなす。契約はそれだけだったはずよ。余計な詮索は必要ない、と」
「さいで」
 階段は闇へと伸びていく。

 それをどう形容したモノか。瑠璃子はそれを見て呆れることしかできなかった。
「こないなりました」
「ご、ご苦労様」
 片目を瞑る五色に辛うじてそう返す。
 高さは元になった鬼鎧よりもやや大きい程度。だが、単純に大きさを考えれば随分と大きいように思う。純粋に平べったい。
 つややかなひし形箱のような胴体に肉食恐竜のような足が四本。腕と呼ぶべきものには、蟹のような大きなハサミが付いている。
「ご希望であれば赤く塗ったり、角やら羽根やら副腕やらをつけることも可能かと。まあ、ついでに制御脳をいじることになるんで、面倒なんすけども」
「いえ、そこまでは‥‥脳って?」
 先日のやり取りを思い出し、思わず声が裏返る。
「脳は脳っすけど、何か?」
「子どもの?」
「やれってんならやりますけど。その方が好みってんなら」
「誰がよ! ‥‥じゃあ、違うのね?」
「犯罪は畑違いっすよ。まあ、何が犯罪かってのが、時代の常識によって変わるのがなんですが」
 へらりと五色が笑う。
「お陰で苦労しておられるようですし」
「余計な詮索は‥‥」
「さいでした」
 瑠璃子が睨んでもへらりとしたまま。
「‥‥ところで、これはもう動けるのかしら?」
 足の部分に触ってみる。トカゲの背中のような感触だった。
「実働実験はやりました。ぶっちゃけると、振り落とされんようにすんので手一杯なんで足にすんのはオススメしません」
「振り落とされる‥‥」
 そこで瑠璃子は思い出す。歩行メカとしか依頼しなかった自分に。
「裸馬よりもきついっす。お陰で、足擦りむいちまいました。労災になるかなあ、と」
「なりません」
「あ、それともう一つ」
「何よ?」
「維持コストが、ね。今も腹がすいてるみたいで‥‥」
「え?」
 指先に震えを感じて指を離す。慌てて振り返る。ハサミが振りかぶられていた。箱の残半部分(足のつき方からそちらが前らしい)が横に裂けていた。
「逃げないと喰われるなあ、と」
 かき消すように咆哮。
「作り直しなさい! すぐに! ただちに!」
 悲鳴のように叫ぶ。ほぼ同時に襟首が引っ張られ、ほぼ同時にその方向に目をやって、ほぼ同時に‥‥意識が飛んだ。

 何かが顔を舐めていた。何かが胸の上にいた。
その二つの感覚を鍵にして、世界との糸を強くする。
「う‥‥」
 目を開ける。顔を上げる。上体を起こ‥‥して何かを落とした。
「ごめんなさいね」
 ここは先日の応接室らしい。
 そう確認してから落としたモノを見て双眸を崩す。犬だった。振り落とされたことを非難せず、差し出した手にじゃれる犬を見ながら考える。
(何を‥‥見た?)
 最後に見たもの。形にならなず、思い出せないもの。
「馬鹿、な、話」
 急に寒くなったような気がして瑠璃子は自分の肩をきつく抱きしめた。

 なお、実証機だが『捕食本能が消えなかった』とのことで、培養された筋肉組織だけを提出させることになった。そして、その筋肉組織をさらに検分した配下の施設からは『ほとんど別物にまで変異している』との報告があったことを記載しておこう。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1472 /応仁守 瑠璃子 / 女 / 20 / 大学生・鬼神党幹部

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■         ライター通信          ■
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 どうも。平林です。このたびは、参加いただきありがとうございました。
 さて。
 今回はこちらの身勝手で完全個別(おお、文字面は凄そうだ)とさせていただきました。いただいた行動と設定を上手く消化できていれば良いのですが‥‥。

 応仁守 様
 すいません、ギャグにはなりませんでした。コメディというにも‥‥やれやれです(オイ)。
 えーっと、クライアントとのことでしたが奴らがこんなんなので苦労していただきました。文中では省略しましたが予算は予定よりも安くあがっています‥‥実証機できてないですし。
 
 では、ここいらで。いずれいずこかの空の下、またお会いできれば幸いです。