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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


「Denial」
〜 謎のバナー 〜

 ある日、よく行く怪奇情報系サイトの一つで、雫は妙なバナーを見かけた。

「Denial」

 その単語が、書体を変えながら、何度も、何度もつづられ続ける。
「Denial……って、確か、『否定』とか、『拒絶』とかいう意味の単語だよね」
 確認するようにそう呟いて、雫はそのバナーをクリックしてみた。

 しかし、表示されたのは、何ともつまらない、ただのエラーメッセージだった。

「403 Access Denied」

 してみると、この「Denial」というのは、アクセスを「拒絶」するという意味だったのだろうか?
 それならそれで意味が通らないでもないが、今度はこのバナーの意味が分からない。
 アクセスを拒絶するのなら、何もわざわざ宣伝する必要などないからだ。
「ここのサイト管理者さんの、一発ネタだったのかなぁ?」
 雫はそう結論づけると、それ以上そのバナーのことについて考えるのはやめにした。
 こんなつまらないバナーよりも、雫の興味を引く話題は山ほどあったからだ。





 次の日。

 その日は、雫にとっては憂鬱な一日になるはずだった。
 昨日の授業の終わりに、数学の先生が「明日小テストをやる」と言っていたし、給食のメニューまで、意図的にそうしたかのように雫の苦手なものばかりが揃っていたからだ。

 ところが。

 四時間目の数学の授業では、小テストなど行われなかった。
 もちろん先生に聞くような愚は犯さなかったが、一緒に先生の話を聞いていたはずのクラスメイトも、全員が「そんな話は聞いていない」と言っていた。
 給食のメニューも、雫が思っていたものとは違っていた。
 気になって献立表を確認してみたが、やはり、雫の記憶とは異なっていた。

(……まさか?)

 不審に思う雫の記憶に、昨日見かけたバナーのことが蘇ってきた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 笑う魔王 〜

「ふははははは……見つけた、ついに見つけたぞ!」
 パソコンのモニターを指差して、海塚要(うみづか・かなめ)は高笑いをあげた。

 先日噂で聞いた、「否定したいものを消し去ってくれるバナー」。
 情報を収集して効果があることを確かめ、実際に目撃したという噂のあるサイトを巡り……。
 それでも、なかなかそれらしいバナーは見つからなかった。

 だが、要はあきらめなかった。

 さらに情報をかき集め、何度も何度もガセネタに引っかかり、ブラウザをクラッシュさせられたり、人を小馬鹿にするようなFlashを見せられたりしつつも、要はバナーの捜索を続けた。
 なんとしても、消してしまいたいものがあったから。

 そして、探し続けること数時間、ついに、そのバナーが要の前に姿を現したのである。

「これで……これで、ようやっとあの『ランラン羅羅ランランラン♪ 要っち〜……見つけたっ♪』とか言いながら、ナイフ片手に我輩を追跡してくる、暴走する十四才とも永遠におさらばできるというものだ!」
 そう。
 要が「何としてでも消してしまいたかったもの」とは、その「暴走する十四歳」……水野想司(みずの・そうじ)であった。
「奴さえいなければ……我輩はシリアス街道をまっしぐらな大魔王として、今頃ご近所の皆様に親しまれていたはずなのに!」
 想司に何度も苦杯をなめさせられた記憶が、次々に要の脳裏をよぎる。
 しかし、その相手を永遠に消し去ってしまえる機会を得た今となっては、その苦い記憶の数々も、勝利の美酒の味をひきたててくれるもののようにも思えてくるから不思議であった。
「……ということで、奴という存在をこの世から良い感じで、消し去ってくれプリーズ!」
 モニタの前から、バナーに向けてそう願いつつ、喜びと緊張のあまりかすかに震える指でマウスのボタンをクリックする。

「403 Access Denied」

 噂に聞いていた通りのエラーメッセージが出るのを確認して、要は一つ大きく息をついた。
「直接手を下さず宿敵を抹殺! 嗚呼……♪ 魔王の面目今こそ躍如♪」
 充実感が、ふつふつとわき上がってくる。

 けれども、その心地よさに浸っている時間は、要にはなかった。
 例え想司がこの世から消滅したとしても、彼のせいで無駄に費やされてしまった時間が戻ってくるわけではないからである。
「おっと、こうしてはいられん!
 宿敵のいなくなった今こそ、我輩の世界征服計画を押し進める絶好の機会!
 今度こそ我輩の『萌え』で、手始めにご近所を征服してくれるわっ!」
 自分を奮い立たせるためにそう一声叫ぶと、要は早速準備に取りかかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 ああ覚醒の日は遠く 〜

 それからほどなく、ご近所は恐怖のどん底に叩き落とされた。
『キィィィィィィーッ!!』
 奇声を発しながら、ブルマをかぶった全身タイツの集団が我が物顔で歩き回る。
 その集団によって、女性はブルマの着用を、そして男性は彼等同様にブルマをかぶることを強要され、ご近所はいろんな意味で大変なことになってしまったのである。

 その様子を眺めながら、要は高らかにこう宣言した。
「これぞ『萌え』!
 猫耳でも、妖精さんでも、巫女さんでもなく、ましてやマッチョなどではもちろんなく!
 『ブルマ萌え』こそ、真の『萌え』の最高峰なのだっ!!」
 もちろん、そういう要自身も、部下たちと同じく頭からブルマをかぶっている。

 と、その要の前に、突然、どこかで見たような人影が立ちふさがった。
「そこまでだっ!」
 眼鏡をかけた、一見弱々しい男である。
 だが、その態度は妙に自信に満ちあふれており、その外見とのアンバランスさが要にはかえって無気味であった。
「何者だっ!?」
 要が叫ぶと、男は不敵な笑みを浮かべてこう名乗った。
「それ以上の悪行三昧は、この三下忠雄が許さんっ!」

 三下忠雄。
 確かに、要はこの名前に聞き覚えがあった。
 しかし、要の知っている「三下忠雄」と、目の前の男とは、何かが違うような気がしてならない。
 要は少し首をひねったが、「いずれにせよ、排除しなければならないことにかわりはあるまい」と結論づけると、堂々と胸を張り、声を張り上げた。
「ふっ。我輩にたてつくとはいい度胸だ。ものども、やってしまえっ!」
『キィィィィィーッ!!』
 要の号令のもと、頭にブルマ、身体は全身タイツの戦闘員が三下に襲いかかる。

 決着がつくまで、わずか数秒。
 大地に倒れ伏したのは……当然、三下だった。

「……よ、弱い……」
 自信みなぎる態度と、あまりにもへっぽこすぎる実力のギャップに呆れながら要はついそう呟いた。
 けれど、倒れてなお、三下は闘志を失ってはいなかった。
「なんの、まだまだこれからだっ!」
 そう軽口をたたきながら起き上がる三下は、最初の強気な態度を全く崩さない。
 その三下に、再び戦闘員が飛びかかる。
『キィィィィィーッ!!』
 ろくに反撃することもできずに、三下は二度目のダウンを喫した。
「……いや、もう少しは反撃してくれてもいいかなー、と思うのだが」
 あまりのことに、要はそれだけ言うのがやっとである。
 それでも、三下は立ち上がってきた。
「こ、この程度だと、思ったら、大間違いだっ……!」
『キィィィィィーッ!!』
 立ち上がったと思ったら、あっという間に袋叩きにされて、また倒れる。
「勇気と度胸は認めるが、まずはもうちょっと実力をつけた方がいいと思うぞ、我輩は」
 要のそのアドバイスも、三下には馬の耳に念仏であった。
「……ひ、退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬっ!!」
『キィィィィィーッ!!』
 もはや単なる根比べとなってきた戦いは……三下の四度目のダウンで、ついに決着がついた。
 三下はなおも立ち上がろうとする素振りを見せたが、その途中、ついに力つきて気を失ったのである。

「これが力の差というやつだ……が、こうして一方的にボコボコにするのもいまいち後味が悪いな」
 勇敢なる敗者に自らブルマをかぶせながら、要は大きなため息をついた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 そしてやっぱりお約束へ 〜

 作戦開始から数時間が過ぎ、日がとっぷり暮れようとする時刻になっても、要の計画を邪魔しようとする者はついに現れなかった。
 着々とご近所の制圧が完了していく様を見つめながら、要は満足そうに大きく頷いた。
「やはり我輩の睨んだ通り、水野想司さえいなければ全てがうまくいくということか。
 まあ、いなくなったらいなくなったで、いまいち物足りない気もするがな……」
 そんな軽口を叩く余裕すらあることが、要には無性に気持ちよかった。

 ……が、その直後。
 要は、「口は禍のもと」ということわざの意味を思い知らされることとなった。

『キィィィィィーッ!?』
 奇声、というより、むしろ悲鳴のような声を上げつつ、戦闘員が次々とこちらに向けてすっ飛んでくる。
「何事だ!?」
 予期せぬ出来事に、慌てて立ち上がる要。
 その目の前に立ちふさがったのは、もうすでにこの世にはいないはずの人物……水野想司その人であった。
「ニュー魔法少女『マジカル☆ソージーα』! 期待に応えて再登場ですっ♪」
 自ら「ニュー」と豪語するだけあって、背中に翼がついたり、手にはステッキよりはるかに破壊力の高そうな釘バットが握られていたりと、いろいろパワーアップしているように見えないこともない。
「貴様、水野想司っ!! この世から消えたはずではなかったのかっ!?」
 事態を把握できないままに要が叫ぶと、想司は心底楽しそうな――要にとっては、ぞっとするような――笑顔でこう答えた。
「まだまだ甘いね、要っち☆ 『番組後半の主人公機乗り換え』は定番中の定番だよっ♪」
 言われてみれば、アニメやゲームの世界では、そういったことがかなりの確率で起こっている。
「し、しまったああぁぁっ!!」
 こんな当たり前のことに気づいていなかったということは、「『萌え』の最高峰」を目指す要にとって、この上ないショックであった。
「しかも、僕を除け者にして、一人で三下さんと最強決着戦をしようなんて……そうはいかないよっ☆」
 想司はなおも何かを言い続けているようだったが、その内容はすでに要の耳には入っていない。
(我輩ともあろう者が、こんなささいなミスに足下をすくわれるとは……!)
 自分に怒り、また呆れながら、要は歯ぎしりをして悔しがった。

 その時、要の視界に不意に何かが飛び込んできた。
 要が我に返り、その近づいてきている何かが釘バットだということに気づいたときには、すでに手遅れだった。

 直撃。
 避けることも防ぐこともできずに、要は想司にジャストミートでかっ飛ばされた。
 足が地面を離れ、世界が縦にも横にもぐるぐる回る。
 その視界の隅に、だんだん遠ざかっていく想司の姿を認めて、要は心の中でこう叫んだ。
(覚えていろ、水野想司っ! 次こそは必ず……!!)
 もちろん、そんなことを言っても全然説得力のない状況なのはわかっていたので、あえて口には出さなかったが……。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 その後 〜

「ええい、なぜ見つからんっ!」
 一声叫んで、要は力一杯机を叩いた。

 想司に場外ホームランにされてから、はや数日。
 ろくに食事も睡眠もとらず、要は再びあのバナーを見つけようとがんばっていた。

「ここにもないっ、ここにもないっ!
 ええい、いったいどこに消えてしまったのだ!?」

 要はまだ知らない。
 そのバナー自体が、既に消滅してしまったと言うことを。





 ちなみに、要がそのことに気付いたのは、それからさらに数日後のことだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1415 / 海原・みあお / 女性 /  13 / 小学生
0759 / 海塚・要   / 男性 / 999 / 魔王
0424 / 水野・想司  / 男性 /  14 / 吸血鬼ハンター

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私の依頼にご参加下さいまして誠にありがとうございました。

・このノベルの構成について
 このノベルは五つもしくは六つのパートに分かれております。
 そのうちオープニング以外のパートについてはPCによって内容が異なっておりますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(海塚要様)
 いつもパワフルなプレイングありがとうございます。
 今回も、要さんには目一杯突っ走っていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
 ところで、「ブルマをかぶる」というのは……変な質問ですが、どのようなかぶり方をイメージしていらっしゃったのでしょうか?
 私は、どうしても「変○仮面」のようなかぶり方が真っ先に頭に浮かんでしまったため、そのイメージで書いてしまいましたが……。
 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。