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<東京怪談・PCゲームノベル>


うすのろバカは三下か?!


●プレイヤー大集合

「ひーん。突然友達呼んで来いって言われましても……。」
 三下・忠雄は半泣きでよろよろとあやかし荘から出た。きょろきょろと往来を見回すが、人が通るなんてことはない。
「ど、どうしましょう〜。」
 嬉璃が怒ったら怖い。どうしようどうしようと唸っていると、背後から声をかけられた。
「こんにちは。」
「は、はい?!」
「あやかし荘の人ですか?」
「ああ、はい。そうです。三下・忠雄と言います。」
「私は、神谷・虎太郎(かみや・こたろう)と言います。」
 ぺこりと礼儀正しく頭を下げるので、三下も慌てて頭を下げた。
 虎太郎は和菓子屋と本屋へ寄ったついでに、知り合いに会おうとあやかし荘にやってきたのだった。そう言えば、以前あやかし荘を訪れたときに、三下とすれ違ったことがあるような気がする。
「三下さんはお仕事は何をしてるんですか?」
「ええと、月刊アトラスの編集をしてるんですよ。」
 にこにこと笑う虎太郎に釣られて、三下もほのぼのと話を進める。
「ああ、月刊アトラスですか! あの雑誌、毎月とても楽しみにしているんですよ。」
「あ、ありがとうございます〜。でも、僕はなかなか上手くいかなくて……。」
 思い出すだけで泣けてくる。えぐえぐと泣き出した三下を虎太郎は慰めた。
「大丈夫ですよ。失敗なんて誰でもあることです。頑張ってくださいね。」
「あのう……。」
「どうしました?」
「うすのろバカに付き合ってもらえますか?」
「は?」
 予想だにしなかった単語に、虎太郎はきょとんと目を丸くした。



「トランプゲームだったんですねえ。」
「すみませんすみません。」
 ほぼ無理矢理参加することになった虎太郎はルールを聞いて、たまたま持っていた眠り猫の根付を差し出した。
「ちょうどよかった。大切なもんなんですよ。一応七、八万円くらいはしますが。」
「えええっ!!」
 気弱な三下が悲鳴を上げる。壊したとき弁償できるだろうかと頭の中で必死に計算を繰り広げていた。
「気にしないでくださいよ。傷をつけても買い取れなんて野暮なことは言いませんから。まあでも、もちろん進んで買い取ってくれるのなら、ありがたくお代は受け取りますよ?」
 にっこり笑って冗談ぽく言われたが、なんだか薄ら寒い気配を感じた三下だった。
「残念だな〜。綾ちゃんはお出かけでいないの〜。」
「歌姫ちゃんも留守なのよね。」
「まあ、よいではないか。代わりにアキラを連れてきたのぢゃし。」
「よろしく〜。」
 柚葉に誘われて連れてこられたのは、学ランに白衣を着た中学生くらいの少年だった。
「ア、アキラさんですか……。」
 だらだらと三下は冷や汗をかいている。
「どうかしたんですか?」
 虎太郎は分からいので、首を傾げた。
「神谷さん、どうぞよろしく。僕、マッドサイエンティストの卵なんです。今日はこんなものを持って来てみました〜。」
 じゃじゃーんと、取り出したのはボタンが一杯ついている置物のようなものだった。
「うっかり触って押してしまうとどうなるか分からないので気を付けてね〜。」
 ちょうど掴んだあたりにボタンが集中している。どんなことが起こるのかは分からないが、注意する必要がありそうだと虎太郎は思った。
「わしはこの鞠ぢゃ。追いかけると逃げるから頑張って捕まえるのぢゃぞ。」
「すごいな〜。それ、何で出来てんの?」
 嬉璃の鞠にアキラは興味津々だった。手でついてみても、特にこれと言ったことは起こらない。
「私はこのテティ・ベア。大切なものだから、汚したり壊したりしたら酷いわよ。」
 恵が大切そうにぬいぐるみを置く。うっかり引っ張り合いになったりしたら、血を見そうな勢いである。
「ぼくはどんぐりだよ〜。今の季節じゃ珍しいでしょ。」
 柚葉の差し出したどんぐりは他のものと比べても明らかに小さかった。掴みにくそうである。
「では、僕は月刊アトラスを。」
 最後の三下も、取り難そうなものを選んだ。


 さて、この6人でゲームスタート。



●うすのろバカの「う」

「それでは初めまーす。せーの。」
 柚葉の掛け声で隣の人とカードを交換する。三下は一気に5が3枚集まった。
(もう1枚集まったら取れますねー。)
「せーのっ。」
 うきうきして、次の1枚を待つ。残念ながら、ハートの7がやってきた。
(うー、まだ来ませんね……。)
 三下は次回すカードを手にして、掛け声を待った。
 だが、いつまで経っても号令が掛からない。
「あれ? 柚葉ちゃん?」
「三下さん、何してんの〜? もうみんな取っちゃったよ。」
「えええええっ?!!」
 はっと気付くと全員がしっかりとコマを取っていた。怪しげなアキラの置物はボタンがないところをゆっくり選んで、嬉璃が手にしている。
「全く、どこまでもノロマな奴ぢゃの!」
「三下さんは自分の手に溺れたんじゃないですか?」
 虎太郎がにっこり笑って三下を庇ってくれる。その手には鞠が握られていた。鞠が激しく身悶えているように見えるのは気のせいだろうか。
「三下さん『う』ですよ。」
 恵が紙に書かれた三下の名前の下に「う」と書き加えた。
「さあ、負けた人がトランプ切って配ってね〜。」
 アキラは眠り猫の根付をまた中央に配置する。
「ところで、誰が揃ったんですか?」
「嬉璃だよ〜。」
 あえて一番危険そうなものを選んだのか、と三下は賢明にも口にしなかった。
(アキラさんのあの置物……爆発しませんよね?!)
 壊したら弁償できないだろう眠り猫の根付は触らないことにしようと心に誓っていた。



●うすのろバカの「す」

(う〜どっちにしよっかな〜。)
 柚葉は手持ちのカードを睨んで迷っていた。2と6が2枚ずつある。掛け声は待ってくれないので、柚葉は適当に選んだカードを隣に渡した。
(あ〜〜〜〜〜!! 逆だった!)
 がーんとショックを受けたが、そのとき、視界の端で虎太郎がこっそりどんぐりに手を出したのが見えた。
「ゲッツ!」
 ばっと鞠に手を伸ばした。ひょいっと鞠が逃げる。
「うにゃ?!」
 もう一回跳びかかるが、結果は同じことだった。
「むかっ〜〜〜!」
 カエルみたいにぴょんぴょん飛び跳ねて、ようやく鞠を捕まえることがで来た。
「もー、嬉璃、この鞠一体何なの?」
「特殊な材料で作ってある鞠ぢゃ。」
「何で作ってるの?」
「知らぬ。」
「えーーーー! 教えてよー!」
 柚葉と嬉璃が言い争いをしている間に、またしても取り損なった三下は、虎太郎にこそっと尋ねた。
「さっきはあの鞠、どうやって取ったんですか?」
「さあ。逃げ出す前に取りましたから。」
 どんなに俊敏な動きだったのだろうかと、三下は感嘆の溜息を漏らした。こんな人相手で自分が取れるはずがないとすでに諦めの境地に入っていた。
「三下さん、『す』ですよ。」
 恵がまたしても紙に書きつけた。



●うすのろバカの「の」

 虎太郎がはっと気付いたときには、壮絶なコマの争奪戦が繰り広げられていた。アキラがテディ・ベアを抱いてにこにこと場を眺めている。
(出遅れましたね……。)
 剣術を得意としている虎太郎は反射神経には自信があった。奪い合う手の間から、さっと何かを掠め取った。
「あっ!!」
 取ったものに気付いた三下が顔を歪めて飛びずさった。
「え?」
 何だろうと思って手元を見ると、持っているのはアキラの置物である。しっかりボタンを押していた。
「爆発はごめんですよ〜〜!」
 頭を抱えて蹲る三下を見て、虎太郎も心配になった。アキラをちらりと見やると、にこにこと笑ってこちらを見ている。
「まさか〜。そんなことあるわけないじゃないか。嫌だなあ〜、三下さん。」
 無害そうな少年である。そんな恐ろしいものを作ったりするのだろうか。
 ボンっと音がして、勢いよく水が飛び出してきた。顔面に直撃を浴びて、虎太郎はびっしょりと濡れてしまった。
「……………………。」
「残念〜。水かー。」
「やっぱり爆発するボタンもあるってことですね?!!」
 三下が噛み付くが、アキラは答えない。
「そんなことしてていいんですか? 三下さん取ってませんよ。」
「あっ……。」
 三下はすっかり自分のことを失念していた。恵が『の』と書き加える。順調に三下の名前が埋められていく。
「水も滴るいい男ぢゃな。」
「そうそう。虎太郎、気にしない気にしない。」
 嬉璃と柚葉に言われ、虎太郎はとりあえずは笑うことにした。
(なかなかスリリングなゲームですねえ。)
 油断は出来そうにない、と気を引き締め直した。



●うすのろバカの「ろ」

 嬉璃は注意深く場を見ていた。手札はバラバラで明らかに揃いそうもない。誰かが揃うのを虎視眈々と狙っていたが、なかなかみんなも揃わないようである。
 トランプが上手く受け取れず、そっちに気が行ったとき、声が響いた。
「揃ったー!」
「柚葉ちゃん、言わなくていいから。」
 恵は嗜めつつ、さっとどんぐりを手に入れていた。今回は三下も無事にテディ・ベアを手にすることができた。アキラと虎太郎もそれぞれコマを手にする。
 何故か揃ったはずの柚葉と嬉璃が月刊アトラスを引っ張り合っていた。
「僕が先に取ったんだよー!」
「奪ってもいいのぢゃ。さっき離そうとしたぢゃろ!」
「違うも〜〜ん。」
 ページを乱雑に扱うので、嫌な音が三下の耳に届いた。
「あ〜〜〜〜! 破かないでくださいよ〜〜〜。」
 これは三下の記事が大々的に載った大切なものなのだ。半泣きになった三下を哀れに思ったのか、嬉璃が手を離す。
「ううっ。よかった〜。」
 敗れずに済んだことに、三下はほっと胸を撫で下ろす。
「三下さん、『ろ』ですから。」
 恵にさわやかに言われてしまう。
「な、何でですか?!」
 今度はきちんとテディ・ベアを取ったはずである。あれ?と思って手元を見ると、影も形もなかった。
「え? ええええ??!!」
 嬉璃が澄ました顔でぬいぐるみを持っていた。
「ひ、卑怯ですよ、嬉璃さん!! 僕から取ったんですねっ!!」
「他所見してるのが悪いのぢゃ。しかも気付いてなかったぢゃないかえ。」
「ひどいです〜〜〜〜。」
 三下の泣き言は黙殺されてしまった。
(やっぱ三下はノロマぢゃな!)
 嬉璃は自分が負けなかったことに満足した。



●うすのろバカの「バ」

 アキラは悩んでいた。
(うーん、何でみんな上手いことボタンを押さないで取るのかなー。)
 はっきり言ってつまらない。
(どういう効果があるか知りたかったのになー。)
 三下が危惧した通り、実験体にする気満々である。
「きゃっ!」
 今回は取った恵の目の前で造花が咲いた。
「アキラさんっ、本当にこれ爆発したりしないんでしょうねっ!」
「ん〜多分ね〜。」
「すっごく心配なんですけど!」
「大丈夫だって。三下さんなら。」
「その自信がどこから来るのか分かりません〜〜。」
 またしてもあぶれてしまった三下だった。



●うすのろバカの「カ」

「三下さん、リーチですよ。」
 恵はそう言いながら、カードを回した。三下がぱあっと顔を輝かせてアキラの置物に飛びついた。先ほどまであんなに警戒していたのに、近くにあったためうっかり手を伸ばしてしまったらしい。
「あ。」
 虎太郎はうっかり出遅れてしまった。あらかたコマは取られており、最後の眠り猫の根付を恵がそっと取ったところだった。ルール上、恵と眠り猫の根付を取り合うことは出来ない。自分の持ち込んだコマは取れないのだ。
「私の負けですかね?」
 口を開こうとした瞬間、ぼしゅっと妙な音がした。全員できょとんと周囲を見回す。
「あああああっ!」
 三下が悲鳴を上げて飛び上がった。掴んでいる置物が湯気を噴いている。しかし、ここで手を離すと先ほどの二の舞になってしまうのでぐっと我慢する。恐怖を顔面に刷いて、アキラを見やるが、興味心身に見つめ返されてしまう。
「ど、どうなるんですか?!」
「さあ〜。どうなるんだろう。」
「アキラさんっ!!」
 叫んだ瞬間、置物は炎を吹き出して宙に浮かび、飛んだ。ふらふらと飛行して、虎太郎の手の中にぽとっと落ちる。
「…………あ。」
 思わずそれを目で追って呆然としてしまう。
「なんでこうなるんですかあぁぁぁぁぁ!!!」
 三下の悲鳴が長く続いた。



●罰ゲームは?

「全員無印だから、三下さん、全員分の罰ゲーム受けないといけないわよ?」
「えーーーーーーっ!!!!」
 卑怯な手で、負け続けたような気がする三下である。
「お手柔らかにお願いしますよぉ。」
「ああ、僕は次の実験の実験体になってくれたらいいから。」
「うっうっ。わ、分かりました……。」
 アキラの罰ゲームに三下は涙した。
「肩揉みをよろしく頼むぞ。」
「トランプぼろぼろになっちゃった。新しいの買って。」
「掃除のとき、本棚とか動かすの手伝ってもらえます?」
 それぞれの罰ゲームを心に刻み、三下はこくこくと頷いた。
「虎太郎さんは?」
「そうですねえ。この場にいる全員に餡蜜を奢る、ってことで。」
「……餡蜜ですか?」
「美味しいお店知ってるんですよ。ちょっとお高いですけどね。そこに行きましょう。」
 三下は自分の財布の中身を覗いて呆然としてしまった。



 *END*


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1511 / 神谷・虎太郎(かみや・こたろう) / 男 / 27歳 / 骨董品屋】
(受注順で並んでいます。)

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■         ライター通信          ■
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こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
お1人では寂しいかと思いましたので、龍牙のNPCアキラくんを出させていただきました。ご了承ください。
結局三下さんは全敗でした。
如何でしたでしょうか? 満足して頂けたら幸いです。
それでは、また機会があったらお目にかかりましょう。