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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【4】
●オープニング【0】
「んっ……んん〜。ふう……平穏だよねぇ」
 6月も終わりに近付いたある日の放課後。『情報研究会』部室に居た会長の鏡綾女は、思いっきり背伸びをした後でそう言った。
 綾女が言うように、この2、3カ月の冬美原は特に大きな事件も起こらず平穏そのものだった。少なくとも、表面的には。
「平穏でいいと思うけどなあ」
 綾女の言葉を聞いた副会長の和泉純が苦笑いを浮かべた。
「……危ないことに綾女さんが関わらないで済むし」
「ん、何か言ったぁ?」
 どうやら純の後のつぶやきは、綾女の耳には届いていなかったようである。
「でもね」
 綾女は表情を引き締めて、皆の方に向き直った。
「事件が起こってないからって、調べることがなくなった訳じゃないんだよね。でしょ?」
 確かにそれはそうだ。冬美原に謎はまだまだ山積みになっているのだから。
「ということでぇ……」
 綾女がにんまりと微笑んだ。あ、何か嫌な予感。
「調べてきてね☆」
 ああ、やっぱり。はいはい、調べてきましょうとも――。

●再び、鈴糸山【4A】
 日曜日の午後――鈴糸山を訪れる妙齢の女性の姿があった。女性は鈴糸山に足を踏み入れると、まるで誰かに挨拶でもするかのようにこうつぶやいた。
「よい気候になったわね……しっとりと……暑すぎず、寒すぎず……」
 すると、だ。女性のすぐそば、足元の草ががささっと揺れ、1匹の蛇がひょっこりと顔を出した。
 蛇が顔を出したことに気付き、女性は身構えるかと思われた。だがそのようなことはなく、その蛇の顔を見るや否や嬉しそうな素振りを見せたような気がした。
「……あら、そこに居たのね」
 女性――巳主神冴那は足を止めて、さらにその蛇に話しかけた。
「今日はこの山に、お客様はいらっしゃる……?」
 冴那の質問に対し、蛇は鎌首をもたげると、2度3度とそれを振り降ろした。どうやら山には誰か先客が居るようである。
 答えを聞いた冴那は、ある噂を思い出していた。それはUFOを呼び出すと言って、冬美原情報大学のあるサークルの者たちが通い詰めているらしいという物であった。
(ゆーほー……って、彼女たちのことかしら……?)
 UFOの正体を知るよしもない冴那の頭に浮かんだのは、以前この鈴糸山で出会った2人の天使の姿であった。
 本来ならば、冴那には関係ない話なのだろう。けれども、件の噂を耳にしてから何がしかの不快感を冴那は抱いていた。それは『テリトリーを侵される』ということに対する、蛇の本性から抱く不快感だったのかもしれない。
「そう……。皆に伝えて……もらえるかしら? すぐに動けるように……」
 冴那がそう言うと、蛇は草の中に戻っていった。恐らくこれから、仲間の蛇たちに今の冴那の言葉を伝えに行くのであろう。
 冴那は蛇の姿が見えなくなったのを確認すると、再び歩き出した。

●本気みたいです【5A】
 冴那がしばらく歩いていると、遠くの方から人の声らしき物が聞こえてきた。
「……とら〜、べんと……」
 もう少し近付いてみると、その声はよりはっきりと聞こえてきた。
「べんとら〜、べんとら〜」
 声は1人ではない、複数のようだ。それも男女各々複数らしい。
「べんとら〜、べんとら〜」
「声が小さいぞ!!」
「べんとら〜、べんとら〜っ」
「べんとら〜っ、べんとら〜」
「もっと強く念じるのだ! それでは宇宙の仲間に届かないぞ!」
「べんとら〜っ! べんとら〜っ」
「べんとら〜っ! べんとら〜っ!」
「べんとら〜っ、べんとら〜っ!」
「まだまだだ! より強くっ、より強く念じろぉっ!!」
「べんとら〜っ、べんとら〜っ!!」
「べんとら〜っ、べんとら〜っ!!」
 妙なかけ声に混じり、指示をする男の声が聞こえていた。きっと、この妙なかけ声を発している者たちをまとめているのが指示をしている男なのだろう。
 冴那はさらに近付いてみると、木陰からそっと様子を窺ってみた。そこで繰り広げられていたのは、何とも不思議な光景であった。
 そこに居たのは7人の同年代の男女。しかしその7人全員が、頭に銀色の妙な飾りをつけていたのである。
 それだけではない。7人のうち6人は、円を描くように地面に正座し、例の妙なかけ声を発しながら何度も頭を下げていたのだ。そして残る1人は円の中央で、他の6人に指示を与えながら妙な踊りを披露していた。
 本気なのか冗談なのか、思わず聞きたくなるような状況であった。その時、円の中央に居た男が他の6人に次のように言い放った。
「我ら、冬美原情報大学UFO研! 何としてもUFOを呼び出し、宇宙人と友人になるぞ!! そのためには、もっともっと祈るのだ〜っ!!」
 男の言葉から考えるに……どうやら冗談なんかではなく、本気のようである。その証拠に、他の6人の妙なかけ声と動きがより熱心になったのだから。
「UFO出てこい!」
「べんとら〜っ! べんとら〜っ!!」
「宇宙人よっ、我らの前にっ!!」
「べんとら〜っ! べんとら〜っ!!」
 はっきり言って、冴那には理解出来ない彼らの行動であった。
 冴那はその場から少し離れると、辺りに潜んでいるであろう蛇たちにぼそっと語りかけた。
「咬んではダメよ? 脅すだけ……」
 次の瞬間、気配が一斉に動き出したような気がした。

●テリトリーを守りて【6A】
「ぎぃゃぁぁぁぁぁっ!」
「いやぁぁっ! 蛇ぃぃっ!」
「毒っ、毒っ! 絶対毒あんぞぉっ!!」
「UFOじゃあなくて、蛇呼んだじゃねぇかよぉっ!!」
 数分後、それまで聞こえていた妙なかけ声の代わりに、男女の悲鳴が聞こえてきた。見れば先程の7人が、多数の蛇の群れに追われて逃げ惑っている所であった。
「……毒のある蛇は居ないのに……」
 離れた場所で逃げ惑う7人の姿を見ていた冴那は、小声でそうつぶやいていた。まあ、毒蛇が居ないなら7人の身も安全だろう。
「今の所は」
 今の所は、ですかい。
「誰だ、蛇を呼ぶよう念じた奴は!! 逃げるんじゃないっ、続けるんだっ!!」
 皆に指示をしていた男の怒鳴り声が聞こえてきたが、男は一番先頭を逃げていた。説得力の欠片もありゃしなかった。
 7人の周囲を囲む蛇たち。だが、上手い具合に1ケ所だけ空けていた。当然7人はそちらへ逃げるしかない訳で。そうなれば、誘導は容易い物である。
 それから10数分後、蛇たちが冴那に報告した所によると、7人はまるで転がるようにして山を後にしたとのことである。
 7人が居なくなったことを知った冴那は、蛇たちに労いの言葉をかけると、以前天使たちを見かけた場所へ向けて歩き出した。
 やがて天使たちを見かけた場所に辿り着いた冴那は、しばしその場で待機してみた。待つこと20分くらいだったろうか、あの時と同じような光景が冴那の前に繰り広げられた。
「……まただわ……」
 つまり――白く大きな鳥のような羽根を背中に生やした、2人の美しい女性が空から降りてこようとしていたのである。見覚えのある、金髪の女性と銀髪の女性。
 2人の女性が地上に降り立つと、背中の羽根は体内に吸い込まれるようにすぅっと消え失せた。その瞬間を見計らって、冴那は2人の前に姿を現した。
「あなたは……」
 先に言葉を発したのは銀髪の女性の方だった。銀髪の女性はさらに何か言おうとしたが、金髪の女性がそれを制して話し始めた。
「先程のあなたの行動は、空から見ておりました。ありがとう……と礼を言うべきなのかもしれませんね」
 この言葉から察するに、例のサークルの連中の存在が邪魔だったようである。
「けれど、どうしてあのような行動を」
 金髪の女性がそう問うと、すぐに冴那はこう答えた。
「人間や鉄の塊よりも……自然や、羽根の生えた生き物の方が好きだから……」
「それだけですか?」
「地に這う蛇には天を舞う翼や地を歩く人の想いは量りかねるけれど……興味はあるわ。蛇だから、しつこいの……」
「……なるほど」
 冴那の言葉を聞いた金髪の女性は、納得したような表情を浮かべると僅かに微笑んだ。
「姉様。早く行きませんと」
 銀髪の女性が、金髪の女性を急かすように言った。頷く金髪の女性。
「ええ。あのことを早く伝えに行かないと……」
 と言って、金髪の女性は銀髪の女性を連れて歩き出そうとした。
「あのこと……?」
 何気に心に引っかかった言葉を、冴那がつぶやいた。足を止め、振り返る金髪の女性。
「冬美原に重大な危機が迫っているのです。では……」
 金髪の女性はそう言い残すと、銀髪の女性とともにその場を後にした。
 冬美原に震度4程度の地震が発生するのは、それから間もなくのことであった。

●アサギテレビニュース【11A】
 その夜のアサギテレビニュースにて。
「本日午後3時21分頃に発生した地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。これは昨年の7月に発生した地震と同様の現象で、現在専門家による分析が行われております」
 それから地震のニュースは被害報告に移り、数名の怪我人は出たものの、火災などは発生しなかったということであった。
「では次のニュースです。本日午後9時頃、冬美原駅前で麻薬を販売していた男が逮捕されました。男は新種の麻薬を売り捌こうと……」

【噂を追って【4】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0442 / 美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)
                   / 女 / 23 / モデル 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 1270 / 御崎・光夜(みさき・こうや)
              / 男 / 12 / 小学生(陰陽師) 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
/ 女 / 中学生? / 超高位次元生命体:アマチ・・・神さま!? 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全33場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・まず最初に、今回皆様のお手元に届くのが大変遅れてしまったことを深くお詫びいたします。本当に申し訳ありませんでした。
・さて、ちょっと特殊な依頼である『噂を追って』シリーズも第4回です。今回のお話で、冬美原で隠れていたいくつかの謎が解決に向かっていたり、表に出てきていたりします。一応、高原が念頭に置いていた展開もいくつかあったんですが、どうやらそれらを外れてまた違った展開に向かった模様です。これがやはりプレイングの妙と言うのでしょうか。
・今回のお話で、冬美原はまたターニングポイントを迎えました。この先冬美原は、どのように転がってゆくのでしょう。その流れを決めるのは、もちろんプレイングです。
・ちなみに今回、流れが変わってきたために情報封鎖はかけません。
・巳主神冴那さん、20度目のご参加ありがとうございます。ま、よく分からない連中が相手でした。天使たちは何かを察知しているようですが……?
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。