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<東京怪談・PCゲームノベル>


竜神様のおなやみ

◇忘れられた神社
 梅雨明けのちょっと涼しい爽やかな昼下がり。橘・穂乃香(たちばな・ほのか)はいつもの散歩に出かけていた。今日は天気も良いし、気分をちょっと変えて1本遠くの曲がり角を曲がってみる。と、
 ちりり……ん。
 まだ成熟してない真っ白な幼い子猫が目の前を通り過ぎて行く。穂乃香は興味深々に猫の後をついていった。
 いつもと違う道を抜けて見たことのない屋敷の角を曲がると、小さな赤い鳥居が見えた。ずいぶんと長い間手入れが入ってないようで、まわりの木々は苔むしツタが絡み付いている。鳥居の奥にのびる階段の手前に巫女姿をしたひとりの少女がいた。黄金色の瞳でじっと階段の先を見つめている。
「どうかなさいましたか?」
 足元に擦り寄ってきた子犬を拾い上げ、穂乃香はやんわりとした口調で問いかける。
「……この神社から不思議な波動が感じられたので、導かれてきましたの。かすかなほど弱い力と力をつけつつある強い存在が対立しているようですの」
 そう言って少女−榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)−はゆっくりと階段を上り始めた。その後を追いかけるように穂乃香も階段を上っていく。

◇モモVS竜神?
 階段を上っている途中、奥から声が聞こえてきた。かなり若い少年の声だ。
 上がるたびに声が大きくなる。どうやら相手もこちらに向かってきているようだ。
「ここは僕がいて封印をしている場所なんだよ! なんで僕が動かなくちゃならないのさ!」
「へー。封印ねぇ……そのわりにはずいぶんと何もないように見えるよ? そんな風に思ってるのはアンタだけじゃないのかい?」
 古びた賽銭箱(さいせんばこ)の上に寝そべりながら、モモは舐めるように少年を見る。
 と、彼の傍らにいた海原・みなも(うなばら・みなも)が代弁するようにモモに言った。
「竜神さんはこの場所にいなければ消えてしまいます。それをお分かりになっていらっしゃって、そのような発言をされるのでしょうか?」
「消える? へえ……そんなこと初めてしったねぇ」
 知ったことじゃないといったそぶりをするモモ。明らかに相手をバカにしてる態度にもぐっとこらえ、みなもは更に強い態度でモモにつめよる。
「竜神さんはここで静かに暮らしたいそうです。確かに……今の状況だとそうは思えないかもしれません。ですが、モモさんは確かここで仲間たちと一緒に暮らしたいそうですね? それですと、竜神さんはとても困られるんです」
「あの……どうかなされたのでしょうか?」
 なんとなく会話に入ってよいか戸惑ったが、亜真知は思い切って声をかけてみた。
 その姿を見つけ、途端に竜神の顔がほころびる。竜神はだっと亜真知に駆け寄り、必死な声で助けを求めた。
「……お願いします! 協力してください!」
「……えっ」
「あなたのような力のある方なら、どーんと一発懲らしめられますよね!?」
「あらあら、やっぱりすぐにお分かりになられてしまったようですよ」
 にっこりと笑みを浮かべながら、後ろに立っていた穂乃香がそう呟く。
「やっぱり分かったって……この身体、そんなに力が強くないはずなのに……」
 少々困った顔で亜真知は肩をおろす。同類にはともかく、一見してただの女の子にしか見えない穂乃香にも正体が悟られていたのが、少なからずショックだったようだ。
「少し話を聞かせてもらったのですが、ようするに……モモ様はここに住みたいけれどもこの土地の主である竜神様は反対されているのですよね? まずは竜神様のご意思はどのようなものですか?」
「僕はここで静かに暮らしたいんだ。古くからここにいたし、この土地は結界の一部だって聞いたし、僕はその要だから動くわけにはいかない」
 はっきりとした口調で竜神は言う。彼はじっとモモを見つめて必死の思いを告げた。
「ここに住みたい気持ちは分かるけど……ここは僕の治める場所なんだ。おばあちゃんにはもっと良い場所があると思うよ?」
「では、こういうのはどうでしょう」
 ぽんと手を叩き、穂乃香が一歩前に出る。抱きかかえてた猫を下ろし、モモに微笑みかけながら言葉を紡ぎだす。
「よろしければわたくしの館にまいりませんか? お気に召すかどうか分かりませんが、きれいな花々で静かに余生を送ることが出来ますわ」
 だが、モモは渋い顔を緩めない。やはり彼女なりに気にいっている場所をそうやすやす腰を上げたくないのだろう。
「来て下さればおいしいお食事を毎日差し上げますわ」
 モモが一瞬、食事のひとことに反応したのを亜真知は見逃さなかった。どこからかきやっとフードの缶を取り出すと何気なく彼女の前に差し出す。
「ここにいてはこういった物も食べられないと思いますよ?」
「……」
「そうそう、こんな誰もいない場所じゃご飯も満足にいただけない恐れもありますわね」
 同意するかのようにみなもも言う。しばらく考え込んでいるようだったが、モモは軽く辺りをぐるっと見回して、小さな声で言った。
「……私はニャンプチゴールド粒タイプしか食べないからね。それ以外は却下させてもらうよ」
「……! それじゃあ、もしかして……」
「あんたたちの意気込みには負けたよ。そこにいるお嬢さんの屋敷に引っ越そうじゃないか。よろしくお願いするよ」
 そう言って、モモはにんまりと牙を見せながら笑みを浮かべるのだった。

◆神様のお知恵
 数週間後。亜真知の配慮により竜閑神社は動物守護の神として新たに祭られることになった。古い境内は改築され、我が家のペット達の健康を祈る参拝者達が徐々に訪れるようになった。
 それに伴い、竜神の力も強くなっていったが……困ったことに神社にいる動物達に餌をあげたり、誰かが拾ってくれるだろうと捨てていく人間が増えてしまったことだ。
「アイディアは良かったけど、予想できなかった展開……といったところかしら。ごめんね」
 亜真知は両手をぽんと合わせて、苦笑を浮かべながら謝罪の意をしめした。
「……でも、これはこれで良いかもしれないね。そんなに気にすることないよ」
 のんきに餌をつつくセキセイインコ達を眺めながら、竜神はふっと柔らかな笑みをもらしたのだった。

おしまい
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)   ■
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【整理番号 /PC名前  /性別/ 年齢/    職業】
 0405 /橘 ・穂乃香/女性/ 10/「常花の館」の主
 1593 /榊船・亜真知/女性/999/超高次元生命体
                    :アマチ……神さま!?
 1252 /海原・みなも/女性/ 13/中学生
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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました。
 「竜神様のおなやみ」をお届けいたします。
 ゲームノベルということで……プレイング内容でもっとも多かった、交渉シーンを重点に描写させていただきました。

 榊船様:ご参加有り難うございました。まさか神様(?)がご参加くださるとは思わず、竜神も心強かったと思っていた事でしょう。動物の守護への提案感謝です。これで彼も消滅することはなくなりました。
 
 この物語は参加者の行動によってエンディングが変わります。
 意図しない結果となってもあんまり凹まないように頑張って下さい。
 
 それではまたお会いしましょう。
 執筆:谷口舞