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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


動物王国

【オープニング】
 『バンッ!』
 扉が激しく開かれ、編集者達の目がそこに集中する。
 「ネッ…ネタになりにきました!助けて下さいぃぃ!!」
 余程慌てて駆け込んできたのか、黒いスーツが少しよれて、黒縁のオシャレ眼鏡は下がっていた。それだけではない。髪の毛もグチャグチャで、顔にも幾つかの傷がある。
 「お久しぶりね、浅野くん。何があったの?」
 碇はボロボロの若者、浅野龍平の近くまで来て、言った。
 「最近何故か動物に嫌われるようになってしまって…。それもハンパじゃなく。猫に引っ掛かれるし犬に追われるしねずみに噛み付かれるしで…。そう、ことの始まりは三日前の朝。僕が愛しの小鳥、ピピのカゴを掃除しているときでした。ちょっと油断した隙に彼女は僕の目を突ついて逃げ出したんです…」
 龍平が泣き出しそうな顔で語り始めたので、碇は長くなりそうな気配を感じてふと編集部を見回した。そして。
 「三下くーん。話聞いてあげて。ネタもってるらしいわよ」
 「えっ、あ、浅野さん…」
 哀れにも呼びつけられた三下は龍平の長話に耳を傾けるハメとなる。しかも内容は、<愛しの小鳥ピピ>とやらの思い出話で、肝心な部分はその半分にも満たなかった。まぁ、要約すれば、最近様々な動物が龍平を見ては襲い掛かってくるのだそうだ。このままではピピも探せないし、ロクに外にも出られない、とのこと。
 「絶対何か怪事件が絡んでますよ!僕はいつ何時解剖されるともわからない身ですから前回同様、僕が宇宙人であるという掲載は控えて下さいね。危険を冒してネタになる僕を助けて下さい!」

***
「情けないっ!!」
 話を聞くなり龍平に指を突き付けたのは銀の髪に銀の目を持つ可愛らしい少女、海原みあおだった。
 「…三下様と良い勝負ですね?」
 「…どういう意味ですか」
 美しい振りそでの着物で口元を隠して優雅に笑うのは榊船亜真知。彼女は金色の目を細めながら三下と龍平を見比べている。
 「身に覚えはないんですか?」
 理知的で冷静そうな面ざしを持った黒髪黒瞳の少女、崗鞠は動物の行動には一つ一つ理由がありますから、と付け加えた。
 「色々考えたんですけどねぇ。うーん…」
 龍平に心当たりは無いようだった。
 「まぁ、龍平が何かしたせいでかもしれないけど、怪しいのは逃げた小鳥だよね」
 「小鳥の種類を教えて下さい。まさか鳥も宇宙種ではありませんね?」
 みあおの後を引き継いで亜真知がおどけたように訊く。従姉妹の撫子に龍平が宇宙人と名乗っているのを聞いていた為だが、彼女自身、常人には理解できない存在なのだし、まるっきり信じていない訳でもなかった。
 「…期待、されてませんよね?」
 ハッとしたように龍平を見て目を輝かせているみあおと亜真知の視線に龍平は居心地悪そうに身じろぎした。鞠は話の成りゆきを理解できずに首を傾げている。
 「黄色の…カナリアです」
 「なーんだ。つまんないねぇ、亜真知」
 「興醒めですね」
 みあおと亜真知は旧知の間柄のようで、仲良く大袈裟に溜め息など吐いていた。
 「カナリアなら声の通りがいいですよね。そのピピが原因だとしたら…」
 鞠は自分に関系ない事と割り切って話を進める。
 「龍平の悪口を振りまいてるかもね!」
 「そんなぁ〜」
 みあおの推測に龍平が情けない声を上げた。
 「そりゃ、普段からカゴを開けるたびに髪の毛グシャグシャにされるし、顔近付けたら眼鏡つつかれまくりだし、指からエサあげたら指ごと噛み付かれますけど…」
 龍平が続けた何気ない言葉に、一同は思わずにいられなかった。
 『コイツ、嫌われている…!!』

***
 「他の動物に浅野様のどこが嫌なのか訊こうにも、下手に外に出て巻き込まれるのは困りますね」
 亜真知が、窓を隔てた電線の上から心なしか鋭い視線を送っているように見えるカラスを見て言った。
 「それなら私に考えがあります。私の家の近所に親しい猫が居るんです。彼に浅野さんと会ってもらって話を訊いてみるのはどうでしょう?私の家はそんなに遠くないから今から連れてきましょうか?」
 「なんか…ちょっと可哀相だけどそれが一番確実そう」
 動植物と会話ができる鞠の出した案にみあおが賛成した。誰が可哀相なのか、言わない所が彼女らしい。
 「じゃぁ僕はここで待機してまーす」
 龍平は「まだ居座るんですか」と言わんばかりの三下をしり目に鞠の後ろ姿を見送った。

 30分後。猫を連れて建物の中をうろつき回るのも忍びないと言う事で、鞠は連れてきた猫を建物の入り口の前で待たせていると伝えにきた。
 「行きましょう、行きましょう」
早く編集室から出て行ってもらいたい三下が、龍平と亜真知とみあおの背を押すように編集部を出る。鞠を先頭に建物の出入り口の近くまで来ると、扉越しにこちらを見ている黒猫の姿があった。鞠は注意深く戸を開けてしゃがみ込み、その猫と何ごとか話しているようだ。
 「…少しだけ、中に入れてもいいでしょうか?」
 鞠が戻ってきて三下に訊ねる。三下は少し考えて、辺りに人がいないことを一応確認してから頷いた。
 「三下と龍平のいる場所で幸運は期待できないなぁ…」
 みあおが少し不安げ呟くと、亜真知が自分の漆黒の髪に軽く触れながら安心させるように笑う。それはどこか老成されているような不思議な笑顔だった。
 「いざと言うときは、わたくしがなんとかしますよ」
 「室内は荒らさないようにお願いしますよぉ〜」
 三下は辺りをキョロキョロと伺いながら亜真知の少女とは思えないその横顔を眺めたのだった。
 「浅野さん、こちらへ」
 「…はい」
 鞠が扉のこちら側で猫を抱いて呼んでいる。龍平はさすがに襲われるのが怖いのか緊張した面持ちでそちらに向かって行った。みあおと亜真知が牽制の意味を込めてか、2人で回り込むように続く。
 鞠の白くて繊細そうな腕に抱かれた猫は、すぐ側まで来た龍平の顔を見上げた。
 「にゃあ」
 そう一声鳴いただけで攻撃の兆しすら見せないので、少しきつめに猫を抱いていた鞠も拍子抜けしたように力を緩める。
 「とくに何も感じていないようですね…」
 亜真知は猫と精神を感応させて彼(猫)の精神に何の波もないことを確認した。
 「そうみたいですね…」
 鞠は困惑したようにそう呟き、みあおも首を傾げた。三下は安堵したように息を吐いている。
 「ってことは、問題は龍平本人じゃないんだ!」
 「だから何もしてないって言ってるでしょう」
 みあおの、問題が龍平だと決めつけていたような言葉に龍平が少し、諦めたように言った。
 「振り出しに戻りましたね…」
 亜真知が思考を巡らしながら呟いて、他の者もこれからどう動こうか迷う。そのときだった。
 「あれ、何してるんですか?」
 扉を大きく開け放して荷物を抱えた女子社員が入って来ると同時に、黒い影が飛び込んでくる。
 「ぎゃぁー!!!」
 「うわぁ!!」
 「きゃー!!!」
 複数の悲鳴が、響き渡った。

***
 「あーイタイイタイ!!何すんですか!!!」
 龍平は頭を庇いながら逃げ惑っていた。彼の頭の上の黒い物体、すなわちカラスは狂ったように執拗に龍平に襲い掛かっている。
 「もう、怒りますよホントにぃぃぃぃ!!!!!」
 龍平が叫びながら廊下の奥の方に走って行くのを、残った者達が何故か呆然と見送った。少しして扉が閉まる音がして、叫び声が消える。
 「…あ、仕事場に戻らなきゃ」
 先ほど入ってきた女性社員は、さっき見たモノは白昼夢だと言わんばかりに首を振って三下の横をすり抜けて行った。後の4人も我に帰って、龍平が走り去った廊下を慌てて駆けて行く。

 「大丈夫っ?!」
 みあおは廊下の突き当たりの部屋の扉を開けるなり声を上げ、他の3人もその中を覗き込んだ。両面の壁に棚があり、その中に書類がたくさん詰められている。どうやら資料室らしいそこのまん中に龍平が立っていた。
 「どうしたんでしょうねぇ、こいつ」
 龍平は振り向きながら困ったように頭をかいて言う。彼が指す方向、部屋の隅に視線を向けると先ほどのカラスが少し怯えたようにひょこひょこと歩いているのが見えた。
 「なんだか、とても混乱しているみたいです」
 鞠がカラスの<声>を聞き取ったのか、そんなふうに言った。
 「ねぇ、逃がしてあげようよ。話が聴ける状態でもないんでしょ?」
 みあおがカラスを不憫そうに見ながら言うと、鞠は頷いた。
 「ええ、そうしたいんですが彼が話を聴いてくれるかどうか…」
 カラスは混乱し、こちらを警戒している。いくら話せると言っても信用がなければ誘導にも従ってくれないだろう。そこで、亜真知が前に出た。龍平の横を通ってカラスの側へ向かう。カラスは最初は怒ったように嘴を鳴らしたものの、だんだんと大人しくなる。
 「これで、話を聴いてくれるでしょう」
 亜真知が精神感応で自分が敵意を持っていない事を直接伝えた為だった。鞠はそれを見て驚き、近付いて会話を試みた。
 「…やっぱり自分が何をしたかよくわかっていないようです。操られていたのかもしれません。とりあえず、彼は逃がしますね?」
 鞠が確認をとると、皆が頷いた。

 周りに窓が無かった為にカラスは出入り口の扉から逃がされた。その直後、猫が鳴いて鞠が話を聴いている。会話が終ると、鞠はその内容を話し始めた。
 「扉が開け放されたとき、この猫も浅野さんに襲い掛かりそうになったそうです。戸が閉まってすぐにその衝動は消えたらしいですが。さっきのカラスも奥の部屋で扉を閉めたら正気を取り戻したんですね?」
 鞠は龍平に確認をとるように言うと、彼は頷いた。
 「それから、戸が開いた瞬間、とても高い音がしたそうです」
 「やっぱり、ただのカナリアじゃないんだ…」
 鞠の言葉に、みあおが呟く。突き刺さる複数の視線に、龍平はたじろいで言った。
 「仮にピピが何らかの能力を持っていたとしても、僕はそれを知らなかったですよ」
 「問題は猫が最初外にいた時は浅野様に敵意を持たず、さっきは数秒戸が開いただけで攻撃衝動に駆られたという点ですね」
 龍平の言い訳を無視して亜真知が冷静に分析して言うと、みあおが何かに気付いたようにガラス戸の外に目をやった。
 「近くに来てる、ってコト?」

***
 そんなふうに言ったのが、いけなかった。龍平は扉の外へ飛び出して、木の上を見上げていた。あの様子では、小鳥の名前でも呼んでいるのだろう。と思った矢先、龍平に茶色のしま猫が飛びかかり、鳩が突撃し、通行人の犬が吠えたて、ねずみが彼を襲おうとしつつ猫を恐れ、たちまち彼の周りに攻撃衝動に駆られた動物達が集まってきた。
 「なにあれ、やばいよ!」
 「あれはやっぱり操られてますね。人間には聞き取れない音で浅野様に攻撃を仕掛けるように命じている…」
 「もしそうだとしたら、ピピは本当に近くにいそうですね」
 みあおと亜真知と鞠がそれぞれの見解を示して外に出ようとしたとき、後ろから情けない声が掛けられた。
 「僕はどうしたらいいんですか…?」
 「またその猫が変になったら可哀相だから、三下は中で一緒に居て!」
 みあおはそれだけ言って先に出て行った2人のあとに続いた。

 一体どこに住んでいたのか、と問いたくなるような数の動物達が龍平に群がっていた。しかもそれらが全て彼を攻撃しようとしているのだから哀しい話である。
 亜真知と鞠は動物達をなるべく攻撃せず精神感応と会話で説得を試みようとしていた。しかし、その元凶をどうにかしなくてはならない事に気付き、みあおがその役をかって出る。彼女はすぐに青くて可愛らしい小鳥に変身して飛び立った。
 暗黙の内に、亜真知が動物達と精神感応して落ち着いた所で鞠が彼らを誘導するという連携プレーが成り立っていた。しかし相手の数が多い為に亜真知の精神負担も大きい。鞠はそれを懸念しつつ動物達に語りかけるが、それもあまり上手くいっていなかった。
 少し焦りを感じ始めた頃、みあおがピピとの話し合いを成功させたのか<音>が止んで動物達の動きが緩む。そこで亜真知の精神感応がスムーズに行われるようになり、鞠の声も聞き届けるようになった動物達は元居た場所へと帰って行った。鞠はそれを見送りながら、今回の事件の終わりを感じていた。

 「あぁっ!ピピィ〜!!!」
 何故か無傷の龍平は可愛らしくみあおの指にとまっているカナリアを見るなり駆け寄った。
 「結局…」
 「どういう事なんです?」
 鞠と亜真知が龍平に襲い掛かる動物の対応で疲れきった顔で訊くと、みあおは外見にそぐわない、ちょっと大人な苦笑いをした。龍平は楽しげにカナリアと戯れている。
 「ピピの…気紛れだったみたい。まぁ、原因は龍平が彼女の水を取り替え忘れたってことにあるらしいけど」
 「気紛れ…」
 鞠は普段から白い顔を更に白くして呟いた。
 「小鳥にも超能力があるなんて…」
 「改造された訳じゃないといいけど…」
 みあおと亜真知もそれぞれ感慨にふけるように呟いて、3人はそっとその場を去った。
 
オワリ

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)    ■
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1415/海原・みあお/女/13/小学生
1593/榊船・亜真知/女/999/超高位次元生命体:アマチ・・・神さま!?
0446/崗・鞠/女/16/無職 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

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■         ライター通信            ■
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 はじめまして。佐々木洋燈です!鞠さんの服の描写をちゃんとすればよかったと少し後悔が残ります(笑。
 飛んだ乱文ですが、これからも仲良くしていただけたら嬉しいです。それではまたどこかで〜☆