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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


締め切りは12時。


 碇 麗香の渋い顔に三下は眉をひそめ同僚の後ろへと隠れようとするが、その同僚に邪魔だとばかりに足をけられ転ばされるに至った。
「痛い! 酷いですよ〜! 盛岬さんの担当は夜倉木さんじゃないですか〜〜」
 同僚、つまり夜倉木有悟(やぐらぎゆうご)が頭を痛めているのはそれが原因なのである。
 昨日の晩から作家の一人の盛岬りょう(さかさきりょう)との連絡が取れなくなったのだ。
 事件の可能性もあるが、雑誌のほうが大事な集団である。
 生死に関しての心配はまったくしていなかった。
「締め切りは明日の10時なのよ」
「いっそ死体でも出てくれば休載に出来るのにな」
「それも考えとくわ、まあ生きてるなら這ってでも書いて貰わないと……誰かに探しに行って貰うしかないわね、他に何か知ってる事は?」
「他に……ああ、最後に見たのは飲みに行った帰りぐらいですよ、まったくあの馬鹿作家」
「閉めきり前の作家と飲みに行くなんて、編集者としていい度胸ね」
「いや、それは………」
 口ごもる夜倉木に、ハッキリと麗香が突きつける。
「書く時間も入れて……夜12時、それまでに見つからなかったら、盛岬君と夜倉木君、ついでに三下君はどうなるか覚悟しておいてね?」
「すぐに探します」
「なんでボクも入ってるんですかぁぁぁぁ!?」


【白王社ビル前】

 今日は簡単な届け物の仕事だけで、後はのんびりした一日が過ごせる筈だった。
 過去形なのには明確な理由がある。
 彼女、光月・羽澄(こうづき・はずみ)はこれから入ろうとしていたビルの窓から、過激すぎる光景を発見したのだ。
「いちいち五月蠅い!! 三下のくせに!!!」
「ぎゃあーーーー!!!」
 窓から落とされそうになっている三下と、足首を掴んで窓の外に放り出そうとしている夜倉木の二名である。
 二人とも知り合いなのだが、あまり好んで話しかけたくない状況だとは思うけれど……それもまずいだろう。
 このままでは三下は確実に落ちる事は確かだったからだ。
 階段を駆け上がり、傍観に徹している麗香に運んできた品物を手渡す。
「頼まれた品物です」
「あら、ありがとう」
「いいえ、またご利用下さい」
 しっかりと品物を受け取った事を確認して貰いながら、窓に駆け寄り夜倉木の肩を叩く。
「何してるの、三下さんは死んじゃうわよ」
「前にもやってやったけど、平気でしたよ」
「助けてください〜〜」
 敬語と崩した口調をバラバラに使いながら、なおも実行しようとする夜倉木に限りなく理不尽さを感じ、とりあえず三下を窓から離すように促す。
「何でこんな事になったの?」
「りょうの奴がいなくなって……探すのを手伝えって言ったんですけど仕事が忙しいとか言い出して、しかたなく付いてくるように頼んだんです」
「酷いですよ〜、ボクだって仕事があるのに……ぐす、ううっ」
 不条理以外の何者でもない。
 ぐずっている三下に、流石に可哀相に思えてくる。
「私も一緒に探してあげるから……」
 背後の編集部の面々から歓声が上がった、よっぽど忙しいらしい。
「悪いわね、手伝ってもらっちゃって」
「いえ、ついでですから」
「羽澄がいるなら心強い、じゃあ早速いこう時間がないです」
 夜倉木と共に、羽澄は編集部を後にする。
「ほらいつまで座ってるんだよ」
「仕事がぁ〜」
 ちなみに三下も人捜しなのだから人は多い方がいいと……枯れ木も山のにぎわいとばかりに無理矢理同行させらていた。
「まずは確認よね、どうしていなくなったの」
「それがさっぱり解らないんだ」
「締め切り前の作家と学者は旅に出やすいものって、戒那ちゃんが言ってたわ」
「旅かぁ……いいなあ」
 見当違いな事を言う三下はあっさりと無視される。
 〆切前だからと言う単純な答えも考えられたが、夜倉木の言い方では違う様に思えた。
「何か心当たりがあるの? 家には連絡取った?」
「最初にな、そしたら昨日俺と飲みに行ってから帰ってないってさ」
 何かあったのだとしたら、夜倉木と別れてから帰るまでの間だろう。
「そうね、じゃあ順を追っていきましょうか。何処に行ったの」
「何軒かハシゴしたから……そうだ、最初にケイオス・シーカーに行ったんだ」



 用事が人捜しなだけに、あまり迷惑をかけるような事はしたくなかったが仕方ないだろう。
 準備中の店に控えめに開かれたドアから入り、店の中にいた男性、九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)を見つけて手を振る。
「どうしたんですか?」
「人を捜してるんだけどいい?」
 簡単に用事を伝え、邪魔にはならないだろうと思い中へと入った。
「人捜し……?」
「昨日ここにりょうが来たでしょ? その後何軒か回って……連絡が取れなくなったみたいなの」
「念のためと思ってな」
「お願いしますよ〜12時までに見つからなかったら編集長に何をされるかわかりません〜」
 背後から入ってきた二人が重ねて説明してくれるので、楽と言えば楽だが……状況はともかく緊迫感だけは伝わったと信じたい。
「私の店から出る時点で酔っているように感じられましたが、逃げましたか………」
 どこか楽しげに話し始める桐伯。
「締め切りに追われると良く在りますよねぇ『白いワニが来る』と言って逃げ回っていた漫画家も居ましたねえ」
 三下が後ずさるが、夜倉木は楽しそうにその話題に加わり始めた。
「いいな、それ。あんな問題ばっかりの作家は一度痛い目見るべきだ」
 どちらも本気で言っているから困りものである。
「それでやっぱり、りょうの行方は知らないのね」
 話を元に戻そうとする羽澄に、思い出したように頷く。
「私の店を出てからは見てませんから」
「じゃあ次に行きましょう、夜倉木さん?」
 次の目的地をどこか訪ねると、外に出て左右を見る。
「覚えてないの?」
「相当飲んでたようですから」
「………こっちだ、確かあの看板にりょうが突っ込んだんだ、確か……」
 サラリと問題発言。
「よくハシゴなんか出来たわね」
「それは、昨日の俺に聞いてくれ」
 困ったように上を仰ぐ夜倉木に、桐伯が慰めるように微笑む。
「私もお手伝いしましょう、見つけたら捕獲に協力しますよ」
「……そりゃ助かる」
 りょうの捕獲という点で奇妙な一致を見せた二人に、今度こそ三下が逃げたいと呟くが、それもあっさりと無視されるどころか……。
「逃げたら捕まえますから」
 刹那ほどの時間見せられた桐伯の操る鋼糸に、泣く泣く同行を余儀なくされる事になった訳である。
「そうだ、服装とかは覚えてる?」
 人捜しなのだから、これをまず聞いておかないと。昨日の夜にりょうを見たの二人なのだからちょうど良いだろう。
「白いシャツに黒いズボン、まあいつもの格好だな」
「よく見かける姿ではありますね」
「解ったわ、他は……最後に見かけた場所は何処、夜倉木さん?」
「えーっと………新宿?」
 疑問系なのが多少気になったが、手がかりとしては重要である。
 携帯電話を取りだし、知り合いにりょうの特長と服装を伝えたメールを送信する。
 裏に顔が利くからこそ出来る事で、しばらくしたら必ず連絡が入るだろう。
「これでよし……」
 携帯電話をしまい、素早く次はどうするかを考える。
「とりあえず立ち寄りそうな所を当たってみましょう、頼りになるのは足による捜査ですからね」
「そうね、その最後に見かけた場所に向かいながら、行きそうな場所を案内してくれる?」
 何しろ今は夜倉木が一番の手がかりなのだ、色々な場所をめぐって思い出して貰うしかない。
「そうだな、まずは……」

 最初に向かったのは本屋だった。
 それも結構な大型書店。
「探すの大変そうね」
「広いですからね、いるとしたら店員に尋ねた方がいいかも知れませんね」
「立ち読み好きだからな、あいつは」
「あっ、雑誌が……」
 本を手に取ろうとしながらの何気ないひと言に夜倉木が凍り付く。
「そうだ、時間がない……!」
 同様にその本を取り落とした三下も固まり、顔を青ざめさせる。
「ど、どうしましょ〜!!!」
「五月蠅い」
「げふっ」
 騒ぎ出した三下にかなり良い角度で手刀を入れ黙らせる。
 さながら冗談のような光景だが、知らない人間が見れば暴力事件とも取られかねない。
「ごめんなさい、気にしないでくださいね」
「いつもの事ですから」
 遠巻きに顔を引きつらせた店員になんでもないんですと言いながら、りょうの事も聞いていた所に携帯電話の着信音が響く。
 どうやら頼んだ結果がもう解ったらしい。
「はい」
 有益な手がかりがあれば簡単に見つかるだろう。
 解決の糸口が見えた事で気が緩んだのか、隣では恐ろしげな会話が交わされている。
「私の鋼糸で捕獲しましょう」
「いいな、身動きも取れないようにして……」
「まあ呼吸が出来る程度には緩めてあげましょうか」
「そう……だな」
 なんだが歯切れが悪くなってきた夜倉木に気付くが、知らされた情報にギョッとする。
「見た!? それも誰かに連れて行かれてる」
 事件性が感じられる証言の言葉に、夜倉木がハッと目を開く。
「ああああっ!!!」
「どうしたの?」
「……何か思い出したのですか?」
 数秒ほど額を抑えてから、夜倉木が顔を上げる。
「羽澄、その人なんて言ってた?」
「……りょうらしき人を後ろから跳び蹴りして運んでいったらしいって」
 夜倉木に向けられる疑いの視線。
「考えてみればおかしな話ですよね」
「大変な時にりょうを黙って返すなんて有り得ないわよね、本当はどうなの?」
「まさか夜倉木さんが盛岬さんを!!!」
「うっ……」
 後ずさった夜倉木に桐伯の操る鋼糸が絡みつき、羽澄が詰め寄る。
「さあ、ちゃんと思い出して貰いましょうか」
「さもないと……」
「時間がないんですから急いでくださいよ〜」
「五月蠅い黙ってろ!」
 三下だけはキッチリと黙らせてから、ようやく思い出したように手をポンと打つ。
「そうだ、全然書かないもんだから家の土蔵に閉じこめたんだ」
「缶詰ですか、まあ仕事をしない作家には妥当な線ですね」
「それって……」
 犯罪にはならないのだろうか。
 まったく持って疑問だった。



 その30分後、夜倉木宅の裏にある土蔵から全身をぐるぐる巻きにされ猿ぐつわまでされたりょうが発見された。
 その姿はさながら芋虫のようで、右手だけが近くにあるパソコンを打てるよう自由になっているという念の入れようである。
「むーー!! むむむーー!!!」
 人が入ってきたのが解るやいなや、じたばたと藻掻き始める……いや、むしろ怒り始めたと言った方が的確かもしれない。
「だ、大丈夫ですか〜!!!」
 慌てて駆け寄る三下。
「すっかり忘れてた、酔ってたからなぁ……」
「酷い人ね、見つからなかったらどうなってた事か……」
 非難がましい羽澄の視線から、ハッキリと夜倉木が目をそむけるが。
「てっめぇ!!! 何て事しやがる……げほ、ごほっ」
 よろけたまま、床へとしゃがみ込む。
「あったまいってぇ……」
「二日酔いですか?」
「もしかして風邪?」
 どちらにせよ具合が悪そうな事は確かである。
 誰だって土蔵に閉じこめられれば具合も悪くなるだろう。
 ここから出る事が先だと思ったのだが……。
「原稿はどうした?」
「そうですねぇ、プロでしたら仕事はしっかりとこなさないと」
 そう、確かにそうなのだが……原因の夜倉木が取る行動としては間違っている気がする。
「この人でなし!!!」
「出来てねぇのかよ馬鹿!!! パソコンまで用意してやったのに!!!」
「無茶言うな!」
「なら仕方ありませんね」
 ビクリとりょうが顔を上げ、後ずさった。
「プロなんですから引き受けた以上は書上げましょうね」
 微笑んだ桐伯の迫力に押され、りょうが沈黙する。その隙にしっかりと夜倉木が身動きの出来ないように捕まえ編集部へと引きずっていった。
「人でなしいぃぃぃ!」
「頑張ってくださいねって、ボクもだぁぁぁ!!!」
 こうして消えた作家、盛岬りょうの身柄は無事確保された訳である。



 そして………。
 喫茶店で溜息なんかを付いているりょうを前に、羽澄は細長いスプーンで溶けかけた部分からアイスをすくい取り口へと運ぶ。
「おいしい、ここのチョコレートパフェ食べてみたかったのよね」
「酷い奴だな、俺は犠牲者だぞ」
「いいじゃない、あの事件はしっかりと記事にしたんでしょ」
「そりゃ……身に降りかかった火の粉を活用しないでどうする?」
 つくづく困った大人ではある。
「見つかったから言える台詞でしょ、だからおごってくれるぐらい安いものと思ってよね。りょうのついでぐらいしか食べてないんだし」
「……それもそうだな」
 意外な甘党ぶりを発揮しながら、りょうは三つ目のグラスに入ったウエハースをパキリとかじった。
「あ、それイチゴにチョコレートかけて食べると美味いぜ」
「そう?」
 目の前でそれを見る羽澄はよく胸焼けを起こさないものだと感心しながら、教えられたとおりにきれいに細工されたストロベリーにチョコレートをかけて食べる。
「んんっ! 確かに……!」
 ヒヤリと冷えたチョコレートとイチゴの甘酸っぱさが絶妙だ。
「食べ慣れてるのね?」
「まあな、ここら辺の店は網羅してる」
「ならまた今度違うお店教えてね」
 意外な所から意外な知識を手に入れられた事に満足しながら、羽澄はもう一口アイスをすくい取り口へと運んだ。



 これはまあ蛇足だが、連れまわされた三下は結局記事が間に合わず編集長に土下座をしたり徹夜をしたりと色々したらしい。



    【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0332 / 九尾・桐伯 / 男性 / 27 / バーテンダー 】
【1282 / 光月・羽澄 / 女性 / 18 / 高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員 】

オリジナルNPC
【盛岬・りょう / 男性 / 27 / 小説家 】
【夜倉木・有悟 / 男性 / 27 / 編集者 】

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■         ライター通信          ■
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ご依頼まことにありがとうございました。
楽しんでいただけたでしょうか?

羽澄ちゃんの行動力には非常に助かりました。
紅一点なので書いてて華やかでしたし。

呼び方はこれでよろしかったでしょうか?
何かありましたらいつでも言って下さいね。