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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


締め切りは12時。


 碇 麗香の渋い顔に三下は眉をひそめ同僚の後ろへと隠れようとするが、その同僚に邪魔だとばかりに足をけられ転ばされるに至った。
「痛い! 酷いですよ〜! 盛岬さんの担当は夜倉木さんじゃないですか〜〜」
 同僚、つまり夜倉木有悟(やぐらぎ・ゆうご)が頭を痛めているのはそれが原因なのである。
 昨日の晩から作家の一人の盛岬りょう(さかさきりょう)との連絡が取れなくなったのだ。
 事件の可能性もあるが、雑誌のほうが大事な集団である。
 生死に関しての心配はまったくしていなかった。
「締め切りは明日の10時なのよ」
「いっそ死体でも出てくれば休載に出来るのにな」
「それも考えとくわ、まあ生きてるなら這ってでも書いて貰わないと……誰かに探しに行って貰うしかないわね、他に何か知ってる事は?」
「他に……ああ、最後に見たのは飲みに行った帰りぐらいですよ、まったくあの馬鹿作家」
「閉めきり前の作家と飲みに行くなんて、編集者としていい度胸ね」
「いや、それは………」
 口ごもる夜倉木に、ハッキリと麗香が突きつける。
「書く時間も入れて……夜12時、それまでに見つからなかったら、盛岬君と夜倉木君、ついでに三下君はどうなるか覚悟しておいてね?」
「すぐに探します」
「なんでボクも入ってるんですかぁぁぁぁ!?」



【ケイオス・シーカー】

 数多くの酒が揃うその店は、どれもが彼、九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)が集めたものだ。
 静かな音楽と落ち着いた雰囲気。
 談笑を楽しむ女性もいれば、会話を楽しむために来ている男性もいる。
 そんな中、カウンターに座ったのは常連と言っても差し支えのない二人。
「ずいぶん疲れているようですね?」
「ああ……ちょっと忙しくってな」
「ちょっと?」
 りょうと夜倉木の二人は外では相当仲が悪く色々な事をしているが……ここでは軽く言い合う事はあってもそれだけで押さえる当たり、まあそれなりに解っているのだろう。
 伯尾がどういう人間か。
 ここで何かをしでかすようなら、普通ではない方法で丁重にお帰り願う事は明白だ。
「だからいいネタ無いかと思ってだな……面白い話とかないか?」
「そうですね、ではカクテルの由来などは如何ですか?」
「おもしろそうだな、じゃあ……アースクエーク」
「気の早い事ですね」
 アースクエークと言えばジンベースのカクテルで、ウイスキーとペルノの配合で作る、辛口のカクテルで酒に強い人以外にはお勧めできない。
 だからこそ、存分に強いカクテルが出せると言う事に対してプロ意識を感じてしまった事も確かだが……。

 そんなふうに話が弾んで1時間。
「大丈夫ですか?」
「ん、ああ……」
 話が弾んだ事と、その話しにかかわるカクテルを飲んだために自然と量が多くなっていたのだ。
「結構な量を召されたようですが?」
「これぐらいどうって事無い、まあ……確かに酔ってるみたいだし邪魔しない内に帰るな」
 席を立ち、りょうと夜倉木が会計を済ませようとする。
「これで」
「はい……おや?」
 お札に混ざり、どこかの酒屋のビール券が混ざっていた。
「あ……悪い」
「頭大丈夫か?」
「平気に決まってる」
 お互いに軽口をたたき合いながら今度こそ会計を済ませて店を出ていくが、真っ直ぐ歩いているように見えて微妙に重心が右に傾いている。
 大丈夫なのだろうかとは思ったが……。
「よし、もう一件行くぞ」
「仕事はどうしたんだ!?」
 まあいいかと思って気にしない事にしたのだが、その事でちょっとした事件になっている事を知るのはその翌日の事。



 準備中の店に控えめに開かれたドアから入ってきた少女、光月・羽澄(こうづき・はずみ)は桐伯を見つけて手を振る。
 彼女は未成年だからあまり表立ってはカクテルを出せない、もっともそれは当の本人がよく解っている事だろう。
「どうしたんですか?」
「人を捜してるんだけどいい?」
 後ろに付き添って入ってきたのは、夜倉木と三下だ。
「人捜し……?」
「昨日ここにりょうが来たでしょ? その後何軒か回って……連絡が取れなくなったみたいなの」
「念のためと思ってな」
「お願いしますよ〜12時までに見つからなかったら編集長に何をされるかわかりません〜」
 珍しい組み合わせだと思ったが、その原因を聞いて納得する。
「私の店から出る時点で酔っているように感じられましたが、逃げましたか………」
 忙しいというのは、〆切だったらしい。
 直接は関係ないのだが、逃げた作家を追いかけるというのもなかなか楽しそうに思えた。昨日の夜りょうが仕入れたように、話せる事は多くあって損する訳ではない。
「締め切りに追われると良く在りますよねぇ『白いワニが来る』と言って逃げ回っていた漫画家も居ましたねえ」
 微笑みながら言う桐伯に三下が後ずさるが、夜倉木は楽しそうにその話題に加わり始めた。
「いいな、それ。あんな問題ばっかりの作家は一度痛い目見るべきだ」
 どちらも本気で言っているから困りものである。
「それでやっぱり、りょうの行方は知らないのね」
 話を元に戻そうとする羽澄に、思い出したように頷く。
「私の店を出てからは見てませんから」
「じゃあ次に行きましょう、夜倉木さん?」
 次の目的地をどこか訪ねると、外に出て左右を見る。
「覚えてないの?」
「相当飲んでたようですから」
「………こっちだ、確かあの看板にりょうが突っ込んだんだ、確か……」
 サラリと問題発言。
「よくハシゴなんか出来たわね」
「それは、昨日の俺に聞いてくれ」
 困ったように上を仰ぐ夜倉木に、桐伯が慰めるように微笑む。
「私もお手伝いしましょう、見つけたら捕獲に協力しますよ」
「……そりゃ助かる」
 りょうの捕獲という点で奇妙な一致を見せた二人に、今度こそ三下が逃げたいと呟くが、それもあっさりと無視されるどころか……。
「逃げたら捕まえますから」
 刹那ほどの時間見せられた桐伯の操る鋼糸に、泣く泣く同行を余儀なくされる事になった訳である。
「そうだ、服装とかは覚えてる?」
 確かに人捜しなのだから、それは知っておかないとならないだろう。
 証言者は一人より二人の方がいい、何せ一人は確実に酔っていたのだから。
「白いシャツに黒いズボン、まあいつもの格好だな」
「よく見かける姿ではありますね」
「解ったわ、他は……最後に見かけた場所は何処、夜倉木さん?」
「えーっと………新宿?」
 疑問系なのが多少気になったが、手がかりとしては重要である。
 羽澄は携帯電話を取りだし、知り合いにりょうの特長と服装を伝えたメールを送信する。
 彼女の様に裏に顔が利くからこそ出来る事で、しばらくしたら必ず連絡が入るだろう。
「これでよし……」
 携帯電話をしまい、素早く次はどうするかを考える。
「とりあえず立ち寄りそうな所を当たってみましょう、頼りになるのは足による捜査ですからね」
「そうね、その最後に見かけた場所に向かいながら、行きそうな場所を案内してくれる?」
 何しろ今は夜倉木が一番の手がかりなのだ、色々な場所をめぐって思い出して貰うしかない。
「そうだな、まずは……」


 最初に向かったのは本屋だった。
 それも結構な大型書店。
「探すの大変そうね」
「広いですからね、いるとしたら店員に尋ねた方がいいかも知れませんね」
「立ち読み好きだからな、あいつは」
「あっ、雑誌が……」
 本を手に取ろうとしながらの何気ないひと言に夜倉木が凍り付く。
「そうだ時間がない……!」
 同様にその本を取り落とした三下も固まり、顔を青ざめさせる。
「ど、どうしましょ〜!!!」
「五月蠅い」
「げふっ」
 騒ぎ出した三下にかなり良い角度で手刀を入れ黙らる。
 さながら冗談のような光景だが、知らない人間が見れば暴力事件とも取られかねない。
「ごめんなさい、気にしないでくださいね」
「いつもの事ですから」
 遠巻きに顔を引きつらせた店員になんでもないんですと言いながら、りょうの事も聞いてた所に羽澄の持つ携帯電話の着信音が響く。
 どうやら頼んだ結果がもう解ったらしい。
「はい」
 有益な手がかりがあれば簡単に見つかるだろう。
 そしたらその後は……。
「私の鋼糸で捕獲しましょう」
「いいな、身動きも取れないようにして……」
「まあ呼吸が出来る程度には緩めてあげましょうか」
「そう……だな」
 なんだが歯切れが悪くなってきた夜倉木に気付くが、どうしたのかと聞く前に羽澄が上げた声に思考を中断させられる。
「見た!? それも誰かに連れて行かれてる」
 事件性が感じられる証言の言葉に、夜倉木がハッと目を開く。
「ああああっ!!!」
「どうしたの?」
「……何か思い出したのですか?」
 数秒ほど額を抑えてから、夜倉木が顔を上げる。
「羽澄、その人なんて言ってた?」
「……りょうらしき人を後ろから跳び蹴りして運んでいったらしいって」
 夜倉木に向けられる疑いの視線。
「考えてみればおかしな話ですよね」
「大変な時にりょうを黙って返すなんて有り得ないわよね、本当はどうなの?」
「まさか夜倉木さんが盛岬さんを!!!」
「うっ……」
 後ずさった夜倉木に桐伯の操る鋼糸が絡みつき、羽澄が詰め寄る。
「さあ、ちゃんと思い出して貰いましょうか」 
「さもないと……」
「時間がないんですから急いでくださいよ〜」
「五月蠅い黙ってろ!」
 三下だけはキッチリと黙らせてから、ようやく思い出したように手をポンと打つ。
「そうだ! 全然書かないもんだから家の土蔵に閉じこめたんだ!!!」
「缶詰ですか、まあ仕事をしない作家には妥当な線ですね」
「それって……」
 呆れたように羽澄は呟いた。



 その30分後、夜倉木宅の裏にある土蔵から全身をぐるぐる巻きにされ猿ぐつわまでされたりょうが発見された。
 その姿はさながら芋虫のようで、右手だけが近くにあるパソコンを打てるよう自由になっているという念の入れようである。
「むーー!! むむむーー!!!」
 人が入ってきたのが解るやいなや、じたばたと藻掻き始める……いや、むしろ怒り始めたと言った方が的確かもしれない。
「だ、大丈夫ですか〜!!!」
 慌てて駆け寄る三下。
「すっかり忘れてた、酔ってたからなぁ……」
「酷い人ね、見つからなかったらどうなってた事か……」
 非難がましい羽澄の視線から、ハッキリと夜倉木が目をそむけるが。
「てっめぇ!!! 何て事しやがる……げほ、ごほっ」
 よろけたまま、床へとしゃがみ込む。
「あったまいってぇ……」
「二日酔いですか?」
「もしかして風邪?」
 風邪と言う事も考えられたが、昨日夜倉木は記憶が無くなるぐらいには飲んでいるのだ。
 一緒にいたりょうもそれなりの量は飲んでいるだろう。
「原稿はどうした?」
「そうですねぇ、プロでしたら仕事はしっかりとこなさないと」
 そう、確かにそうなのだが……原因の夜倉木が取る行動としては間違っている気がする。
「この人でなし!!!」
「出来てねぇのかよ馬鹿!!! パソコンまで用意してやったのに!!!」
「無茶言うな!」
「なら仕方ありませんね」
 ビクリとりょうが顔を上げ、後ずさった。
「プロなんですから引き受けた以上は書上げましょうね」
 微笑んだ桐伯の迫力に押され、りょうが沈黙する。その隙にしっかりと夜倉木が身動きの出来ないように捕まえ編集部へと引きずっていった。
「人でなしいぃぃぃ!」
「頑張ってくださいねって、ボクもだぁぁぁ!!!」
 こうして消えた作家、盛岬りょうの身柄は無事確保された訳である。



 そして………。
「それで仕事は間に合ったんですか?」
「なんとかな」
 思い出すだけでも疲れる、そんなふうに溜息を付きりょうが慌てて首を振る。
「辛気くさくなるのはよくないよな、なんかパッとするようなのを一杯」
「お疲れさまです、では今日は軽く飲める物にしておきますね」
「そうしてくれ」
 そう言いつつ作っているのはセブンズ・ヘブンだ。ドライジンをベースにマラスキーノを混ぜ、グレープフルーツジュース少量入れグリーンのチェリーを一つ落とす。
「どうぞ」
「サンキュ……」
 ゆっくりと味わっていたりょうが、ニッと笑う。
「大変な事件だったけどまあ、悪くはなかったな」
「そうですか?」
「ああ、これをネタにしたらなかなか読者に好評だったんだ」
 彼もそれなりにしたたかな人間のようである。



 これはまあ蛇足だが、連れまわされた三下は結局記事が間に合わず編集長に土下座をしたり徹夜をしたりと色々したらしい。



    【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0332 / 九尾・桐伯 / 男性 / 27 / バーテンダー 】
【1282 / 光月・羽澄 / 女性 / 18 / 高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員 】

オリジナルNPC
【盛岬・りょう / 男性 / 27 / 小説家 】
【夜倉木・有悟 / 男性 / 27 / 編集者 】

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■         ライター通信          ■
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ご依頼まことにありがとうございました。
楽しんでいただけたでしょうか?

九尾桐伯さんのクールさと楽しんで色々やってくれる事が伝わりましたら幸いです。
………年齢が同じなのに、そう思うと嘆かずに入られません。

プレイングにはそれはもう楽しませていただきました。
見た途端に大喜びしましたが、生かし切れたでしょうか?