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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


■記憶 〜消し去られた過去〜

++オープニング++

「雫さんお願い、私を助けて下さい」それだけ書かれた一行だけの掲示板の投稿が、雫は気になって仕方がなかった。
 雫は何日か悩んだ末、その投稿の書き込みに記されていたフリーのメールアドレス『mikage-**@yapoo.com』へメールを出してみる事にした。何か気になる胸騒ぎは収まることは無く、これは今まで雫が経験してきた怪奇現象から培った感だったに違いない。メールを送信してから数時間も経たないうちに届いた返信に雫の感は的中した。
「何これ?」雫は興奮し思わず声を上げた。返信されたメールには写真が3枚添付され、そこに映し出された光景に声を押さえる事が出来なかったからだった。
 この写真に映し出された異様な光景の真相を確かめるべく、雫は『ゴーストネットOFF』精鋭メンバーを集め、メールに記された差出人の住所を元に、メンバーを調査に向かわせた。そして今回のチームリーダー? 兼、保護者である雨宮祥吾(あまみやしょうご)38才、『インターネットカフェ・ゴーストネットOFF』雇われ店長の私もお供させて頂く事になりました。

++海原みその++

「さぁ全員揃ったし、そろそろ出発しようか。しばらく暑いけど、ちょっと我慢ね」そう言って祥吾様は車を走らせた。
 わたくしを含む4人を乗せた祥吾様のワゴン車は、首都高速道路−新宿料金所から一路、西に向かって走り出した。「ごめんね。みそのちゃん、暑かったら窓開けてね」、そう言った祥吾様はわたくしの事を気づかっている様子だった。クーラの壊れた車中には、梅雨明けを待ちきれなかった眩しい夏の日が差し込め、暑さの苦手なわたくしには少々辛く、先行き不安な一日が始まるように思えた。
 窓を開け外の風を車内一杯に取り込んだ。流れ込んだ風はわたくしの長い髪を優しく包みながら通り過ぎていく。それは何処か懐かしく、まるで漆黒の海の底を海流の気の向くまま流れて行くような、そんな優しく気持ちのいい風だった。
「みそのちゃん、写真どうだった? 何かわかった?」祥吾様はそう言って例の写真の事を切り出した。
 例の写真とは、先日わたくしがパソコンとインターネットの事で雫様に教えて頂きたい事が有り、『ゴーストネットOFF』に顔を出した時、雫様から預かった3枚の奇妙な写真の事だった。
 その写真に映し出された奇妙な光景、それは暗黒の大きな部屋の真ん中に椅子が一つ、その椅子には男が上半身はだかで縛り付けられている。そして口には幅広のテープが微少の声も漏れる事が無いようにしっかり張られていた。ここまでなら営利誘拐事件等でよく見かける光景だったが、写真に写る物はそれだけでは済まなかった。
 写真に写る男達の胸元に爪のような物で付けられた3本のひっかき傷。そしてズボンを脱がす事なく毟り取られたように見える下腹部を真っ赤に染めた男が写っている写真が3枚。体格の違う明らかに別人とわかる男が一人ずつ、同じように写る3枚の写真だった。
雫様はわたくしに、「これ見て何か感じる? 何か視えてくる? 認識してみて」と言って手渡していた。
祥吾様の問い掛けにわたくしはこう答えた。
「いえ、わたくしには何も視えませんでした、ごめんなさい。ただ……」
「ただ? 何?」わたくしの曖昧な返答に祥吾様は答えを求めてきた。
「ただですね、何か憎しみのような恨みのような……」
 なんとなく、ただなんとなく、何か大きな力、人間の力とは明らかに違う何か大きな力が関係してる、そんな嫌な胸騒ぎがわたくしの心を埋め尽くしていた。

++雨宮祥吾++

 みんなを乗せ僕が運転するワゴン車は、有名ミュージシャンの歌詞にも登場する『右に見える競馬場、左はビール工場』その場所を順調に通過し、その数十分後には目的地である東京都の外れ、八王子市に到着した。中央高速道路一八王子料金所を後にし、そこからさらに数キロ離れた所に今回の写真をメールに添付した彼女の住む家は有った。
「こんにちは、雨宮と申しますが」、彼女の家のインターホンに向かって僕は声をかけるとスッーと玄関が開いた。するとチェーンの掛かったドア越しから一人の女性が顔半分を覗かせた。彼女の何かに脅えている様子は誰が見ても直ぐに感じ取ることが出来たに違いない。写真の送り主で有る暗在美影(あんざいみかげ)がドアに掛かったチェーンを外し僕ら4人を家の中に招き入れた。
 普通! まさにこの言葉がぴったりの彼女の容姿に僕ら3人は拍子抜けしてしまった。所がそんな中、海原みそのだけが険しい顔をし家の中に入る事を拒んでいる。「みそのちゃん、どうかした?」そう海原みそのに声を掛けると首を立てに1回ふり僕の事を招き寄せた。
「彼女の他に何かが居ますわ、時空に歪みを感じますもの。物凄く大きな何かの存在を……」
海原みそのは僕の耳元でそう言うと、付け加えるようにこう言い残した。
「わたくし達では無理ですわ……」この言葉の意味を思い知らされたのは、ずっと後になってからだった。
 一つのテーブルに僕ら4人と暗在美影が向かいあう様に座り、話は始まった。
「あの写真の事なんですけど、何処で手に入れたんですか?」始めに僕は例の写真の入手経路について暗在美影に問い掛けた。そして彼女の発言に4人は耳を疑った。
 あの写真は暗在美影本人が朝起きると手にしていた物だと言う。それが始まったのは3ヶ月前、彼女が迎えた30才の誕生日を境にし、必ず月1回のペースで目覚めると手にしていたのだと彼女は言う。そしてその月1回には決められたルールが存在し、それが今日だとも暗在美影は言った。女性が女性で有る事を自覚し、女性の持つ神秘の力を養う日、それが今日だと言うのだ。僕ら4人の予定では、今日は下調べとし、持ち帰った情報を元に再度、暗在美影の元を訪れ真相を解明する段取りだった。しかし、今日がその日ならば僕らは真相を解明しなくてはならい。さらに1ヶ月先ではこの奇妙な出来事が迷宮してしまうかもしれない、僕はそう思いメンバー3人の顏を見回し暗黙の了解を得た。
 海原みそのただ一人、彼女だけがこれから起きる大きな力と僕らの死闘を感じていたに違いない。いやっ! 彼女は既に僕らには見えない何かと戦っていたのかもしれない。なぜなら、そこに居た海原みそのには普段見せる落ち着き澄んだ笑顔はなく、眉間にしわを寄せ険しい形相で目を閉じ微かな声を口に含むように何かを唱える、そんな彼女の姿があったからだった。
 暗在美影の暮らす2LDKのマンション。彼女の寝室と隣り合わせの一室で僕らは時(トキ)を待つことにした。

++海原みその++

 大きな気の動きにわたくしは目を覚ました。
 予想もしないアクシデントがわたくし達4人を襲った…… 暗在美影を交代で見張って居るはずだったのに4人全員が寝てしまったからだった。
「祥吾様! おきて下さい! 彼女が居ませんわ……」わたくしは、祥吾様を揺さぶり起こした。
「う、う〜ん。どうしたの? みそのちゃん。──んッ! ごめん、寝ちゃった……」そう言って寝ぼけ眼で残りのメンバーを起こし、4人で彼女のマンションから飛び出した。
 わたくしには視えていた。彼女が通ったで有ろう道筋、暗在美影が残した大きな時間の歪みを感じていた。「こっちですわ」、わたくしはメンバーを呼び止め、暗在美影が進んだ方向に指をさし、そして自分が先頭になり彼女の進んだ道をゆっくりと歩き始めた。
 数十分歩いた後、わたくし達の視界に病院の廃虚のように見える建物が飛び込んできた。その建物の周りを包む時空は大きく歪み、何人たりと足を踏み入れる事を許すまいと拒んでいた。わたくしは、深魔海唱の呪文『天地静寂』を唱え、メンバーと共に建物の奥へと進んでいった。そして例の写真と同一の景色に遭遇する。暗やみの大きな部屋の真ん中、椅子に縛られ胸には3本のひっかき傷、下半身を真っ赤に染めた男の姿がそこに有った。しかし写真と違うことが…… そこにはその縛られた男と向かい合わせに立つ暗在美影の姿が有ったのだ。
「イテッ!」祥吾様が暗やみに視界を失い石に躓いて転んだ。その声に反応し、暗在美影が振り返った。
「誰!」昼間聞いた声とは明らかに違う太くて震える声を吐き捨て振り返った彼女の顔に「キャァッ!」、わたくしは声を上げてしまった。耳は動物のようにとがり、顎はしゃくれ口が耳まで裂けている。そしてその裂けた口を完全に閉じる事が出来ず、黄色いよだれの様な液体を垂らしている顏。まるで野獣! いや妖怪と言った方が正しかった。
 同行したメンバー2人は間髪入れずに暗在美影に最初の攻撃を仕掛けた。目にも止まらぬ2人の回し蹴り…… が、空を切った。「ダメーッ!」、わたくしの叫び声とほぼ同時に2人のメンバーは宙を舞うと左右の壁に叩き付けられた。そして2人は床に跪き、腹を抱え込みながら静かに額を地に付けた。
「暗在美影が来る! 今度はわたくしの所に……」
 弱点がわからない、正体がわからなければ攻撃のしようがない、わたくしは必死で『正体見破』を唱えた。一歩、そして一歩と確実に暗在美影がわたくしの元へと近づき、わたくしの目の前で鋭く延びた3本の爪の有る右手を振りかざした。
「──お終いですわ」、暗在美影は右手を振り下ろした。
「ヤメローッ!」、祥吾様のその声に一瞬反応した暗在美影の3本の爪がわたくしの胸元をかすめると3つの切り口がスーッ! と、制服に広がった。かすかに血がにじむ。  
 暗在美影が再度わたくしへ右手を振りかざした時、わたくし胸元から目がくらむほどの光が放たれた。それはわたくしが何時もピンチに立たされた時だけに現れる文字。胸元に浮かび上がる『巫女』の文字から放たれた光だった。
 暗在美影は急に苦しみだすと後ずさりして行く。そして彼女の背後に居る正体が見え隠れする。わたくしは胸元の『巫女』の文字に両手を添え『正体見破』を唱え続けた。
「子供の影?! 水子?!」、暗在美影を操る正体、それは水子だった。正体がわかれば、相手が霊ならば。わたくしは深魔海唱の呪文『霊気堕胎』を唱え、暗在美影から霊魂を切り離す事に専念した。

++雨宮祥吾++

 海原みそのが何かを口に含むように暗在美影に向かって唱えている。そして唱に合わせ暗在美影がもがき苦しんでいる。彼女の閉じる事の無い口から流した黄色い液体が何時しか紫色にかわり突然、悲鳴を上げ何かを吐き出した。大きな肉片?! いやッ! 僕にはそれが赤ん坊に見えた。そして吐き出されたその肉片は地を飛び跳ね暴れもがきながらバタバタと呻き声を上げている。しかしそれはやがて静まり、安らかな眠りついた。僕にはそれが赤ん坊が母親にあやされ、静かに眠り付いたとさえ感じた。
「みそのちゃん?!」僕は海原みそのがそれまで見せていた眉間にしわを寄せた険しい形相から一変し、穏やかで澄んだ優しい聖なる母の様な美しい笑顔をしていた事に、少し後になってから気がついた。やがて海原みそのの唱える口調も穏やかなになり、
『天界帰還』の唱へとかわっていた。

 天から一筋の光が水子の霊魂で有ろう肉片に降り立ち、天へと導いて行く。まるでそれは迷子になった子供が母の元へ帰って行くのにも似た光景だった。そしてこの奇怪な事件は幕を閉じた。

++エンディング++

 数ヶ月後、暗在美影から私の元にメールが届き、新たなる事実を知らされた。
「雫さん、有り難う」から始まったメールの内容はこうだった。
「実は私、16才で子供を堕胎してたんです。それが原因で精神を病んでしまい、見かねた親が催眠カウンセリングでその時の記憶を消した事を知りました。きっと自分の犯した罪の償いをしろと赤ん坊が言ってたんですよね……」
 このメールを読んで始めて水子の謎が解けたのだった。

おわり

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【 1388 /海原みその/  女 / 13  / 巫女】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、海原みその様。
 この度はご依頼有り難う御座います。これがOMCでの初仕事となった為、かなり試行錯誤で作品を書く事になりました。一生懸命書きましたが、ご希望に添えたかどうかが不安です。何よりお客様の決めたキャラクター設定で作品を作る事が始めてだったもので…… これからも頑張りますので、今後とも宜しくお願い致します。
 追伸
 みその様、胸の3本の傷はもぅ治りましたか? 痕が残らなければよいのですが。女の子ですもんね。傷は浅かったはずですので、綺麗に完治すると思っています。痛い思いをさせてしまってゴメンなさい(謝)