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<東京怪談・PCゲームノベル>


タイトル  楽園

 オープニング文章
 一人〜三人

 草間興信所に一人の人物がやってきた。その人物は行方不明になった友達を探して欲しいとの依頼をもってくる。
 その人物は一般の社会人だったが、ある日忽然と消えてしまったのだ。
 子供や金持ちではないのだから誘拐という事も考えられず、警察にも届けたが、いまだ行方が分からない。
「大事な友達なんです。何か手がかりだけでもあれば…」
 どこかで元気にしているのなら、依頼者はそれはそれでいい。
「で、どんな人物なんだ?」
「はい」 
 そうして草間はその行方不明になった人物のことを詳しく聞き出す。
 大手デパートに勤めている明るい女性だった。背はひくく、細めの彼女は誰からも好かれているという。
 恨みをかうような人間ではなく、仕事も一生懸命にやっていた。
 なのに、突然に行方をくらましたそうだ。
 草間はため息をついてそれを書類に書いていく。
「顔の特長とかは……」
「特長……というのはあまりありませんが、美人でした」
「美人……って、美人たって色々あるだろうが。こう、おっとりしてるとか、勝気そうだとか、元気がいいとか……他にも、……う〜ん、色々さ!」
「は、はあ。おっとりした感じの人でしたね……」
「写真! 写真はないのか」
「あ、あります」
 草間はそれを見せてもらう。確かにおっとりした感じの美人だった。
 それを懐にしまうと、草間は席をたった。
「まずは現場検証だ。彼女の家はどこだ?」

本文

 草間は行方不明の女性、桜井睦月のアパートの扉を開いた。鍵は依頼者から貰っていた。入ってみると、そこにはすでに三人の人物がいる。
「……なんだ……? なんでここにいる」
 行方不明の鍵のかかった睦月の部屋に、すでにいる三人。不審に思った草間は思わずそう言っていた。
「なんでって……今行方不明になってる睦月さんはぼくにとってもいいお姉さんでしたので探しているんです。蒼月支倉といいます」
 細身の彼は高校生くらいで、青い瞳に強い意思を湛えていた。
「あたしは、じあ ほあしあよ。睦月さんは支倉ちゃんとあたしの知り合いなのよ。大事なね」
 小柄な小学生くらいの少女が支倉に続いて言った。
 その後に草間に向かって
「久しぶりです、草間さん」
 と青い髪の中学生くらいの少女が言う。
 彼女は海原みなも。彼女にとっても睦月は親戚でいいお姉さんだった。
「何をしてたんだ?」
 そういう草間に三人は、行方不明になった睦月を探す手がかりを見つけようとしていることを告げた。
 支倉は、
「僕、バスケのプロなんだけど、それ関係の知り合いでさ。ほっとけない」
 というと、花霞は
「私にとっても恩人の知り合いなんですよ」
 と。みなもは、
「親戚だから、とかそういうのじゃなくても睦月さんが好きだから」
 と、三人とも行方不明になった睦月を心配していた。
「ほっとけないってやつか……」
 草間は諦めたようにそう言うと、三人を見る。
「俺は草間武彦。探偵だ。そんなに大事ならちょっと手伝ってくれないか? というか、放っておいてもどうせ今みたいに手がかり探すんだろ? なら手伝ってくれ」
 草間の言葉に三人は気色ばんで頷いた。探偵が一緒なら、見つかるかもしれないと思ったから。

「まず、通勤路から勤め先のデパートを聞き込みしてみようか」
 草間につれられて三人は部屋から出た。
 睦月の使っていた駅の駅員や、近くのコンビニなどで、最近睦月を見たかどうか、聞いたが、手がかりは無い。
 デパートへ行って睦月の同僚にも聞き込みをしたが、手がかりは無かった。
 午後いっぱいを使って聞き込みを終えた四人は、また睦月の部屋へと戻る。
「結局、何も分からなかったですね……」
 みなもが疲れた表情で言ったが、支倉は
「これくらいでなんて諦められない」
 と更に熱くなった。
「そうね、支倉ちゃん」
 花霞も支倉に同意する。
 草間は睦月の部屋をぐるりと見回すと、机の上のパソコンに目をとめる。それを見ていた支倉が草間の意図を察したかのように叫んだ。
「メール! メール見てみたらどうですか?」
「今、俺もそう思ってたところだ」
 草間がそういうと支倉は急いでパソコンチェアに座り、パソコンを機動した。メールを見てみる。
 その後ろからみなもと花霞が画面を見ていた。
「宣伝メールばっかしだなあ。あ、でも……」
「ねえ、そのチェックしてあるメール、なにかしら」
 みなもがそういうのに、花霞が
「支倉ちゃん、開けてみてよ」
と静かに言った。
『貴方に幸せを運びます』
 メールにはそう書いてあり、ある一枚の絵画を売りつけるメールだった。
「あ……これ……?」
 支倉がメールボックスを見ていくと、睦月はそれを買っていたようだった。領収メールがきていた。絵画は写真が表示されていて、その絵はとにかく沢山の人が書いてある絵だった。お世辞にも飾っておきたい絵ではない。
「配達日が一週間前……。睦月さんがいなくなった頃だな」
「気になりますね……」
 支倉とみなもが話していると、それを見ていた草間はそれをメモし、帰り支度をはじめる。
「くさまさん、帰っちゃうんですか?」
 花霞が不満そうに言うと草間は、ああ、と答える。
「睦月さんの友達関係、この部屋にあったメモやなんかを事務所に帰って一旦整理する。今日は俺、これで帰るよ。お前たちももうそろそろ帰った方がいい」
「こんなに日が高いのに? 冷たいんですね。たけちゃんって……」
 目を細めた花霞からは冷気が漂ってきそうだった。実際年齢、草間よりもはるかに高い花霞は怒ると恐い。まだ、この部屋を探索する価値はある。そう思ったからだ。
「俺ももう少し残る」
「私も」
 支倉とみなもも花霞に同意し、結局三人は草間が帰っても部屋にいることにした。

 草間が帰った部屋で三人、車座になって座り込む。
「なあ、あの絵……気になるんだけどさ、僕は」
「支倉さんもですか? 実は私もです」
「ほあしあも気になる。しあわせを運ぶ、なんて…」
 もう沈みかける夕日を浴びながら三人は考えた。
「あの絵、探してみないか?」
 その支倉の言葉で三人は睦月の2LDKの部屋を探し始めた。
「あ、これかな……」
 みなもがすぐにそれを見つけ出す。
 狭い部屋なのですぐに見つかった。
 後ろ向きに立てかけてあったその絵を表向きに変えると、三人はそれを見た。
 やはりメールで見たとおりの、人がごったがえしているだけの、飾っておきたくない絵だった。
「変な絵……」
 その言葉と同時に、突然、その絵から真っ白な腕が伸びてきた。夕日を浴びて、なお、青白く長い腕は、両手を広げて中央にいた支倉を中に引きずり込もうとする。
「うわあああ!」
「支倉ちゃん!」
「支倉さん!」
花霞とみなもは必死で支倉を掴んだが、白い腕の力は強くて二人には敵わなかった。
「きゃあああ!」
 静かになった部屋に、人を飲み込んだ絵画は不気味に夕日を浴びていた。

水……の中……?
 みなもは薄い意識の中でそう思った。体にまといつくこの感触は、水。彼女が慣れ親しんだものだった。人魚の彼女には。
(は…。花霞さんと支倉さんは……!)
 そう思って回りを見渡すと、息ができなくて大量の空気を吐き出している二人がいる。
 みなもは二人の顔の周りに丸い空気の空間をつくり、両手に二人を抱える。そして上方に見える水面めがけて泳ぎだした。

「死ぬかと思った……」
「ほあゆあも……」
「みなもさん、ありがとう……」
「どういたしまして」
 三人が来たところは絵に描いたような南国の地だった。海辺から少し行ったところに果物のなる木があり、野菜が勝手に生っている。
涼しい気候の中、りんごの木の下で眠っている睦月を見つけた。
「睦月さん!」
 駆け寄る三人に睦月は怪訝な顔をする。
「どうしてここに? ここは私だけの世界、私だけの楽園なのに……」
 虚ろな目の睦月に三人は言葉を失う。
「私は幸せを買ったのよ。社会のしがらみもない、生活の苦労もない、楽園を」
 薄く微笑んだ彼女に支倉はさけんだ。
「そんなの! 睦月さんは僕達にとっても言いお姉さんだったじゃないですか! いつも優しくて、気が利いて、笑顔も絶えなくて! 楽園ってなんですか!」
「あんなの、嘘よ……。嫌われたくなくてそうしてただけ」
「そんな……」
 花霞は悲しい目で睦月を見る。
「それは本当の幸せなんですか? 貴女の幸せは、そんなものなんですか?」
「そうよ?」
「それは本当? 本当に? 貴女はこんな所に一人で幸せになれるんですか?」
「……」
 みなもは虚ろな睦月の目をしっかり見据えて肩に手をかけた。
「私はあの優しい睦月さんが、嘘だったなんて、思いません。本当に心根が曲がっている人は、人から見て「優しい人」と、感じないからです。人はそんなに単純じゃない。見せかけだけじゃ、人の心はつかめない」
「ここは絵の世界。今の生活に不自由な人がとり込まれるのよ。私には……きっとここの方が似合ってるんだわ……」
「似合ってるなら、ほあゆあ達はここにいないと思いますよ。だってほあゆあ達は睦月さんを探して、前みたいに友達でいてほしかったから」
「くだらないよ。こんな世界! ここの何が楽園なんですか?」
「自由……かしら」
「自由はそんなに大事なものですか? こんなに心配してる俺たちを捨ててまで! 花霞! 焼き払うぞ、こんな世界! 風を起こしてくれ!」
「ええ」
「ちょっと、焼き払うって……!」
「ここは絵の世界だ。紙の世界だから燃えるだろうと思ってさ! だって帰る方法、それしかないじゃないか!」
「焼け死にそうなら私が水を呼ぶわ」
 水を操れるみなもは苦笑した。
 風が巻き起こり、妖狐、支倉の狐火が宙をまった。
 とたん、世界は燃え上がる。空気に火がついたように、油をまいたように、四人以外は炎に包まれた。それを睦月は呆然と見ている。
(楽園……私の楽園が……。でも、熱いはずのこの炎が、暖かいと思うのは何故だろう……? 気持がいいと思うのは何故だろう……? 分かってる。嫌われたくなくて上手く立ち回っていた私。そんな私の本性を聞いても、あの三人は私を求めてくれた。あの三人の気持が、嬉しいから……泣きたくなるほど)

 気がつくと、四人は睦月の部屋に倒れていた。一番初めに気がついた支倉が睦月を起こそうとして、流れている涙に気がついた。
 しきりに流れる涙。
 それを見て、支倉は睦月の頭に手を置いた。
「今の生活に満足してない人が、あの絵に取り込まれる、って言ったけど、僕たち三人は、睦月さんがいないことが不満だったのかもよ」 
 囁く声で。
 窓の外を見ると、夜明けだった。
 花霞もみなもも、寝ているように横たわっている。
 あの絵画は燃えて炭になっていた。

まだ、もう少し、寝かせてあげよう。

本当の楽園は、目覚めた時に、そこにある。

               END

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
  
 1252/海原みなも/女/13/人魚の末裔 普通科の学生
 1651/賈 花霞 /女/600/九十九神 小学生
 1653/蒼月 支倉/男/15/妖狐 高校生兼プロバスケットボール選手


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■         ライター通信          ■
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 精一杯書かせていただきました。喜んでいただけたら光栄です。 有月 加千利