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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


星の夜にろまんを探して

●オープニング
「またー!?」
 ゴーストネットOFF。
 馴染みのインターネットカフェで、高らかに響く管理人の声。
 雫は、自らのサイトを覗き込み、額に手をやる。
 掲示板の最新の書き込みの中、こんな文字が躍っていた。

『ふふ、ゴーストネットの諸君、元気にしているかい? 今日も元気にろまんをしているかね。
 さて、来る7月7日、世間では「七夕」と呼ばれているらしいこの日。
 お台場に飾られる巨大な七夕ツリー。この元に集まる健全、不健全なカップル達。
 私の力でさらにろまんをかきたててあげよう。・・・よかったら、君達も来ないかね?

●七夕ダンスパーティー
 お台場は既にたくさんの人で賑わっていた。
 新都市空間として開発されたその街は、すべてのものがエンターテイメントを意識して作られている。
 デザイナーの個性が生かされた建築物の中には、ショッピングセンター、屋内型テーマパーク、映画館、海の見渡す公園、浜辺など、あらゆる遊び場が詰まっている。
 その一角で行われた今年の夏のイベントが「七夕」だった。
 観覧車とライブホールの間の広場に据え付けられた大きな笹に、カラフルな短冊が下がる。
 笹は一本だけでなく、横一列に一斉に並べられていた。

「‥‥ここにまろん伯爵がくるのね」
 海原・みあおは、たくさんの若者達で賑わう笹の下の広場に降りていく。広場では華やかな音楽が鳴り響き、ストリートダンスのショーも開かれていた。
 近くにいる若者達は皆、裾を短くした浴衣や、ジーンズやTシャツなどの格好をしていたが、みあおが降りてくると、それを見つけて視線を寄せてくる人々もいた。
「見て。あの子、可愛い〜」
「どれどれ?」
 みあおは、人々が自分に注目し始めてることに気がついて、ちょっと緊張してしまった。
 姉達に見繕ってもらったこの衣装が問題なのかもしれない。
 「ろまん」とはね。みあおちゃん。
 姉達はにこにこ微笑んで、はーれくいんろまんすの小説と、18世紀風豪華衣装を貸してくれたのだった。
 年齢は13歳だが、見かけはどうみても小学校の低学年にしか思えないみあおである。その小さな体に白い社交界の衣装は、コスプレにしても可愛らしすぎる。
 可愛らしい縦ロールの銀色の髪をふわふわ揺らしながら、水色と銀色の清楚なドレスの裾を白絹の手袋をつけて持ち上げて、階段を下りてくるのだ。
「‥‥なんだか恥ずかしいよぅ」
 慣れないコルセットに痛みを感じつつ、広場まで降りていったみあおは、自分より背の高い若者達に取り囲まれてちょっと困ってしまった。
「可愛いね、どうしたの?」
「この衣装手作り?」
「あ‥‥えっと、お姉さんに借りてきたの‥‥」
 表情を朱に染めながらみあおは答えた。そして、戸惑いつつも、ひらりとその場で回ってみる。
 みあおにとってのろまん、‥‥「社交界のドレスでダンスを舞う」ために。
 といっても、ダンスなど何を踊ればいいのだか。広場に流れている曲はどう聴いても「ラップ」だったし、みあおの知っているレパートリーは「フォークダンス」やバリ島の「ケチャ」や、「盆踊り」くらいしか知らないのだ。
 皆の注目を一気に浴びてしまってる中、ひとりだけ違う音楽で踊るというのはなかなか難しい。
 その時だった。
「可愛らしいお嬢さん、よかったら僕と一緒に踊ってもらえませんか?」
 人波を抜け出し、黒いシルクハットに黒いタキシード、さらに黒いマントをまとった金髪碧眼の少年が現れた。年のころは10歳から12歳くらいだろうか。
 幼さがこちらも顔に目立っている。
「あっ」
 知らない人だったが、みあおは少しほっとして、彼の腕をとった。
「よろしくお願いします‥‥」
「もちろんです。ミス・……、あなたのお名前を教えていただけますか?」
「‥‥みあおです」
「素敵なお名前だ……。ミス・みあお。さあ、ダンスを。‥‥こんなけたたましい曲は消してしまいましょう」
 少年は指をパチリと鳴らす。
 会場に流れていたラップがぴたりと止んだ。
「あっ」
「こちらの方がよくあいます‥‥」
 再び少年はぱちりと指を鳴らす。すると、優雅なメロディが代わりに流れ出したのだ。
 周囲の若者達も何が起きたのかわからずに、きょろきょろしている。しかし、まるで意に関さず、少年はみあおをリードしながら広場の中央まで連れてゆき、そこでダンスを踊り始めた。
「あ、でも、私‥‥ダンスは‥‥」
「大丈夫、私に任せてくだされば‥‥」
「‥‥うん」
 みあおは少年を見つめた。
 銀色の細い髪に銀色の瞳をもつみあおと、金色の少し天然パーマのかかったような髪を持つ少年。
 二人ともまるでお人形のような美しさだ。
「素敵ですよ、みあおさん‥‥」
「‥‥」 
 頬が何故か赤くなる。
 少年はうめくように叫んだ。
「あー、なんてろまんだっっっ!!」
 黒マントの下からステッキを取り出すと、少年は高らかにそれを天に掲げる。
 ステッキの先から花火のような光が上がり、気がつくと、あたり一面の若者達の衣装が、社交界のものへと変わっていた。
 たちまち大騒ぎである。
「なんだこれはー」
「きゃーっっ」
「でも似合うぜ、おまえっっ」
「あんたこそっっ。らしくないけど、いいかもっ」
 若者達はいつの間にかそのコスプレが気に入り、中央で踊る二人の少年少女たちを真似て踊り始めた。
 七夕の笹の下、舞踏会がそこに広がっていた。


 ライブを披露していたストリートダンサー達までも、銀髪ロールのかつらを振りながら、アクロバティックな社交ダンスを披露している。
 男性グループだったからだろうか、半分の男性は女装をしている。
「ああ……なんてろまんなんだ」
 呻くようにまろんは呟いた。
「もしかして……あなたが……まろん伯爵?」
 みあおは不思議に思いながらたずねた。まろん伯爵は青い瞳を優しく瞬かせて、「そうです、ミス・みあお」と答えた。
「……お気に召しませんでしたか?」
「そんなこと……」
 みあおは微笑んだ。
 これは確かに舞踏会だ。姉達が貸してくれた物語の中の淑女と同じ……。
 社交界にデビューしたばかりの少女は、そこで出会った金髪の貴公子にひとめぼれしてしまう。そしてまた、貴公子も彼女のことを愛してしまう。
 二人は誰よりも美しくその広間でダンスを舞った。けれど悲しいかな、その貴公子は彼女の兄の親友を殺してしまったという嫌疑にかけられ、兄の憎しみの対象となっていたのだった。
 兄に追い詰められ、父にも母にも禁じられた愛の行方はどこに。
 愛の逃避行を誓った二人は、広いお屋敷と豪華な暮らしを捨てて、手に手をとり、嵐の夜の脱出をはかったのだった……。
「……ミス・みあお。何をお考えですか?」
 まろんが微笑む。
「……なんでも……ない」
 そういいながらも、どこか思い浮かんで仕方のない、ロマン溢れるはーれくいんろまんすのあの本の内容。
 赤くなったみあおを、包みこむようにまろんはやさしく抱き寄せた。
「あなたを……攫って逃げたい……」
「えっ」
 言うなり、みあおの体はふわりと宙に舞い上がっていた。
 まろんの腕に抱かれ、ふわふわと飛んでいるのだ。
「みあおも……飛べるよ?」
 みあおは微笑んだ。そして力をこめるようにぎゅっと瞼を閉じる。
 すると、光に包まれたみあおの背中に、白い翼が現れた。
「おお……まるで天使のようだ……なんて美しい」
 目を細めるまろん。みあおは誉められたようで嬉しくて、えへっ、とにっこり微笑んだ。
 空の上で、音楽にあわせて二人は楽しくステップを踏む。地上の若者達も、すべてを忘れたかのように熱心に踊っている。
 それはとても楽しくて、まるで大きなメリーゴーランドのようだった……。
 
●ヘンリー・ジョーンズ登場!!
 しかし。
 ダンスタイムは長くは続かなかったのだった。
 それはある男がその光景を眺めていたからによる。 
 ロマンの言葉に「冒険」を思い浮かべ、「冒険」の言葉に自らの職業を重ねあわせ、「インディ先生」と呟いてしまう誰かであった。
「……あれが、まろんか……。驚いたな、少年の姿をしてるとは」
 観覧車の陰からその様子を見て取り、眉間に皺を寄せる男。
 何故か彼は灰色の皮帽子をかぶり、胸をはだけたシャツをつけ、ヴィンテージのジーンズをはき、手には鞭を持っている。
 空に舞い踊るまろん伯爵と、銀髪の可愛いお姫様。 
「……あれは、まろんの手に落ちた姫か? かわいそうに……今、助けてやるからなっ」
 まろんと少女が踊りながら近づいてきたその瞬間。
 彼の鞭は観覧車の柱の一本に絡みついた。
 それを掴み、高々と飛び上がる青年。その名は、桐生・アンリ。42歳。
「うおーっ」
「なにっ!!」
 そんな接近の仕方、さすがに思いつかない。
 まろんは目を見開いた。その腕の中から天使の羽を生やした少女は攫われていく。否、救われていく。
「な、なんだ、お前はっっ!!」
「私の名は……」
 教授はまろんを見つめた。不敵にその視線が光っている。
「インディ……いや、ヘンリーだ」
「ヘンリー・ジョーンズかっっ!」
 いや。そこまで言ってない。
 けれど、まろんは断言して、そう来るなら、っと黒のステッキを振り上げた。
「ふふふ。確かに、冒険活劇もろまんの一つ。君は間違っていないね。ただし、ミス・みあおは返してもらうっっ」
「それは出来ない相談だなっっ」
「これでもかいっ?」
 まろんはステッキを振るった。
 近くのベンチでデザートを食べていたカップルや女性達のその皿が、次々と「猿の頭」に変化する。
「きゃーーーーーっっ!!」
「いやーぁぁぁっっ」
 飛び交う悲鳴。
「ふふふ」
 悪の笑みに酔いしれるまろん。
「な、なんてことを!! おのれっっ!」
 教授は鞭をほどくと、まろんに向けて振付けた。ひらりひらりと身じろぎだけで避けて、得意げな敵である。
 しかし。
「……これはひどいと思いますね」
 彼の背後方向左下に、憤りを露わとした人物が二人いたのである。
 それは手に入れたばかりのかき氷を手にしていた綾和泉・匡乃(あやいずみ・きょうの)と忌引・弔爾(きびき・ちょうじ)。
 やっと席を見つけ、一口目をつけようとしたところで、それは突然不気味な猿の頭のシャーベットへと変化したのである。
「栗くん……覚悟なさいっ!!」
 叫んで、匡乃はその猿の頭をまろん目掛けて投げつけた。
 ぱこん。
 いい音が鳴る。
 まろんは後頭部を抱えて、空中に座り込んだ。
「……たたたっっ」
「今だっっ!」
 鞭も飛ぶ。
 今度はびしりと当たった。
 ぎゃん、と犬っころのように叫んで後ろに転がるまろん。
 弔爾が刀を構えて待っている。
「まったくだっ。この悪ガキ……おとなしくしやがれっっ!成仏させてやるっっ。弔丸、いくぞっ」
 霊刀がすらりと抜かれ、その美しい刀身がネオンの光に反射して七色に輝く。
「う……うわぁっ……っっ!!」
 さすがに恐怖を感じたのか、まろんはあわてて空に浮かび上がった。観覧車に沿って高く高く飛び上がっていく。
 とはいえ、頭にはこぶができ、さらには鞭で打たれた場所は服も破け、赤くはれ上がっている。手負いを抱え、そのスピードは緩慢といってもいい。
「許せるかっ、待てっっ」
 ちゃーちゃらっちゃー、ちゃっちゃらー♪ ちゃちゃらっちゃーちゃっちゃっらー♪
 ナゼだろう、どこかで聞いたようなBGMがかかり始める。これはひと昔前にはやった冒険活劇有名映画シリーズのテーマ曲。
 それに果て、と思う前に、匡乃、弔爾、教授の三人は観覧車を見上げて飛び出していた。
 鞭をうまく使い、するすると飛び上がっていく教授。
 人間を越えた運動神経で、ずんずん上っていく弔爾。
 知性派を装う匡乃は、とりあえず下から見上げつつ、指先を口元にあて、なにやらぼそぼそと呟く。
 指先に集めた力を、空を飛ぶまろん目掛けて投げつけた。
「邪悪なる者、その動きを縛せよ!」
「な、何っっ!!」
 まろんはそれをステッキではね返す。そして、半分涙顔で、「大人が固まっていじめるなんてフェアじゃないやいっ」と叫んだ。 
「じゃあおとなしく成仏しろっ」
 弔爾が叫ぶ。あと一息で邪悪色情霊の足を掴める……といったところ。その時。
「えーいっっ!!」
 まろんはステッキをさらに振り回した。
 刹那、猛烈な暑さが足元から迫ってくる。三人はその足元を見て、顔色を変えた。
 そこはマグマの海と変化していた。先ほどまで舞踏会と化していたその場所が今はマグマの海になったのである。
「な、なんだこれはっ!!」
 弔爾が叫んだ。「冗談じゃないぜ」
「あーっはっはっは。お兄ちゃん達、落ちたら死んじゃうから気をつけてねっっ。そろそろ……帰ろう。もう疲れちゃった」
「させるかぁっっ」
 その足をつかんだのは教授だった。
「ヘンリー・ジョーンズっっ!! 何時の間に」
「悪いが……逃がすわけにはいかないな……」
 不敵な笑みを浮かべる教授。
「もう一発……いきますかっ」
 時々吹き上げるマグマの熱さに仕方なく観覧車に乗り込んだ匡乃も、その窓から顔を出し、呪縛の技を上空に放る。
「え、えぇぇぃっっ!!」
 なんとか避けようとステッキを振り回すまろん。けれど、だめ押しのように反対側の足も、弔爾によって捕まえられていた。
「観念しろぉぉぉっ」
「うわぁっ!!」
 匡乃の放った呪縛に絡まり身動きとれないまろん。弔爾はその側に立ち、弔丸を抱えてにやりと笑った。
「そろそろ……観念時のようだな……」
「ううううっっっ」
 マグマの赤に照らされながらも美しく輝くパレットタウンの観覧車。その頂が近づいている。
『……邪悪な気を感じるな……弔爾』
 弔丸が唸るように言う。日本色情霊連合に属するもの。それは計り知れない煩悩の世界に生きる霊。身なりに騙されてはならないのだ。
「そうだろうとも……。この七夕の夜に表れたが幸い……ふふふ」
 動けないまろんに暑苦しいほど顔をよせ、弔爾はどこか意地悪に笑う。
 そして、すっと、刀身を下げ、静かに呟いた。
「……今宵は七夕……牽牛に織姫は一年振りだが……我等、当に此処で逢ったが百年目か……。巷間を騒がせる不埒な輩……今宵、天の川の霧と散れいっっ!!」
 煌く光の余韻を残し、刀身は弧を描く。
 けれど。

「……天の川の霧……なんて素敵なんだ。君にはろまんを感じるよっっ!! あはは! でもごめんねっ。まだやられるわけにはいかないんだっっ。ボクにはロマンをみんなに配るっていう大切な仕事があるんだから」

 ほわぁん、と惚れ惚れとした表情を見せ、まろんは空に浮かんでいた。
「むむっっ!!」
「あいつは人のろまんで力をつけるのかっっ!?」
 教授が叫ぶ。間違ってないのかもしれない。
「ふふ。それじゃそろそろ帰るねっ。本当に疲れてきちゃったから……」
 まろんはにこやかに微笑み、観覧車よりも高い場所から海の方角へと下っていく。
 観覧車の上で教授と弔爾が叫んでいるのは気にしない。

 が。

 ヴィーナスフォートの屋根の上。
 美しい水色のドレスをつけた艶やかな美人が、金色の長い髪を風に任せながら、まろんをじっと見つめているのである。
「……なに」
 色情霊たるもの見逃すわけにはいかない風景だ。
 ナゼにあんな屋根の上に、美しい人が。
 彼女はどこか憂いを浮かべたような表情で、まろんの姿が近づいてくると、細い白い腕を彼に向けて伸ばした。
「……あなたがまろん伯爵……ね」
「いかにも……そうですが」
 まろんは吸い寄せられるようにして近づいていく。
「……私を……攫って……」
 悲しそうに、哀愁たっぷりに、女性は呟いた。
「攫って……?」
「ええ……お願い」

「……」
 まろんはごくりと唾を飲み込んだ。
「……攫ってといわれて……」
 その長い睫からきらめく光が辺りにこぼれる。
「攫わなければ、まろん伯爵の名前がすたりますっっ!!! というわけで、いっただきまーーーーーーーすっっっ!!!」
 まろんの腕がその細いウエストを片腕に抱いた。
 サイズは短いが力のある腕である。
「ふふ……」
 その腕の中で女性は小さく笑った。ウィン・ルクセンブルク。彼女もまたゴーストネットからよこされた刺客の一人であった。
 ただ攫われるなんて……ポパ●のオリーブじゃあるまいし……と心の中で舌打ちしながらも、作戦がうまくいったことに悦も感じる。
「……さあ姫……、どこに行こうか」
 まろんの甘い声。
 これであと見かけが+10才くらいあればいいカップルだったのだが……。
「そうねぇ……」
 まろんの腕にお姫様だっこされつつ、ウィンは形よい顎に人差し指を置く。
「あそこ」
 指差した先は、お台場テレビの本社ビル。
 ライトアップされた銀色の近代的な建物である。
「……了解ですとも」
 まろんは大人びた声で微笑んだ。
 
●大移動
「……まろん、どこに行くのかなぁ……」
 教授の車に飛び乗った四人は、空をふわふわ飛んでいくまろんの後を追っていた。
 お台場の道は入り組んでいて、直線の距離の建物にたどり着くのが時に面倒であったりする。
 さらに相手は空を行く。道のない場所を行くのだから、なかなか面倒である。
 みあおは後ろの席の窓から、まろんの背中を眺め、小さく吐息をついた。
 さっきまでは私の王子さまだったのに、今は違う人を攫っている。……おとこのひとってそんなものなんだろうか。
 何故かちょっぴりいらいらしてるみあおである。
「多分、あそこだろう……宝物の隠し場所にはぴったりだ……」
 怪しげな笑みを浮かべながら、教授がお台場テレビ本社ビルを指差した。
「……宝物って」
 匡乃が引きつった苦笑を浮かべる。
 それにしてもあれだけ騒ぎを起しておきながら、まろんがその場所を去り新たなろまんに興味を示した途端に魔法は解け、元に戻る。
 舞踏会も迫るマグマも猿の頭も消えた。
 匡乃は観覧車を一回りしてから、自分が投げたカキ氷のむざんな最後を見つけてしまった。
「……この減点はきついですからね……」
「どうした?」
 肩に手をやり自分を抱いた匡乃に隣の席の弔爾が尋ねる。「なんでもありません」と匡乃は息をついた。

 やがて教授の読みどおり、敵はウィンを連れ、お台場テレビへと到着した。
 建物の中央に近い場所にある円形の展望台。
「姫、着きましたよ」
「ええ……」
 ウィンはまろんの隣に腰掛け、円形の展望台の上から、お台場の海と美しい星空を眺めた。
「……なんて綺麗なの」
「ロマンを感じる星空だね……」
 うっとりと目を細めるまろん。
「ねぇ、まろん伯爵……?」
 ウィンは艶っぽい視線でまろんを見下ろした。少年の姿のまろんの唇は、薄桃色で健康的な色をしている。
「どうしました?」
 見つめ返すまろん。大人の女性の美しい色香。この香水の香り……。酔いしれておぼれてしまいそうだ。
「……目を閉じて……」
「えっ」
 耳まで赤くなりつつ、言われたままに瞼を閉じるまろん。ふいにウィンの顔がまろんの唇に重なる。

「!!!!!」
 
 ぼぉぉぉぉん!!

 爆発音がした。
 お台場テレビ前広場にすべりこんだ車から教授が飛び出す。
 展望台の上から、青いドレスを纏った金髪の女性が落ちてくる。猛烈な勢いで駆け抜け、教授は彼女を地上の手前でキャッチした。
「うがぁっっ」
 衝撃で全身の骨がきしんだ。
 けれどウィンをコンクリートに触れることなく守り通した。
「……ヘンリー……教授」
 驚いたように教授を見つめるウィン。
 全身に行き渡る痛みと痺れをごまかしながら、ひきつった顔で教授はウインクを向けてみせた。

「何があったんだ!!」
 弔爾が駆けつけてきて問う。ウィンは首を横に振った。
「私は……何も……ただ……」
「ただ?」
 足元に近づいたみあおが見上げる。
「キスをしてみただけよ」

「……」
 最後に近づいた匡乃はただ苦笑を浮かべただけだった。
「……それで爆発したっていうのか……」
 弔爾は苦笑しながら頭をかいて見上げた。お台場テレビ本社ビルの展望台の上は、爆発の威力で壁がいくつか破壊されているようだ。
「成仏したってことでしょう」
 匡乃が目を細める。
「いや……まだだな……そんなことで滅びる奴じゃない……」 
 妙に自信たっぷりに教授が告げた。
 そしてそれは間違っていなかった。

 ぷすぷすと音をたてながら、建物の裏から飛び出してきた黒焦げのまろん伯爵は、五人を見下ろし、ぱくぱくと口を動かした。
「き……貴様ら全員ぐるだったんだなあぁっっ!!」
「……えっ……」
 泣きじゃくる子供のような鼻水と涙の入り混じった顔で、まろん伯爵は叫ぶと空に舞い上がった。
 そして展望台の近くまで浮かぶと、その裏に潜り込み、両手で精一杯の力を放出する。
 メリメリメリメリと金属の折れる音が響き……次の瞬間。
 円形の展望台がそのまま五人目掛けて落ちてきたのだ。
「に、逃げろっっ」
 みあおの手をとり、走り出す弔爾。
 ウィンと教授も共に駆け出す。匡乃も仕方なく駆け出した。
 轟音を響かせ、五人の後を円形は確実に追い始めた。まるでレーダーがついてるかのように。
 教授の愛車を踏み潰し、海に逃げていく五人の後をいつまでもいつまでも……。

 その悲鳴と怒声を遠くに聞きながら、お台場テレビの通路の屋根の上で、まろんはファーストキスを奪われた切なさをくすんと鼻を鳴らし悲しんでいた。

                                           おわり。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0845 忌引・弔爾(きびき・ちょうじ) 男性 25 無職
 1439 桐生・アンリ(きりゅう・−) 男性 42 大学教授
 1537 綾和泉・匡乃(あやいずみ・きょうの) 男性 27 予備校講師
 1588 ウィン・ルクセンブルク 女性 25 万年大学生
 1415 海原・みあお(うなばら・−) 女性 13 小学生
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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、鈴猫です。お待たせいたしました。
 星の夜にろまんを探して まろん伯爵のシリーズの第二話になります。
 
 ちょっと騒々しいお話になりました。書いててとても楽しかったのですが、いささか突っ走りすぎたかな……とも。
 皆様のろまん、叶えられたかなぁと不安でもあります。
 いかがだったでしょうか?

 海原・みあおさま

 二度目の参加、まことにありがとうございます。
 胸ズキュンなろまんで参加いただき、ライター冥利につきます。
 ……さて、かなりまろんのお相手を望まぬながら付き合わせていただきました。
 みあおちゃんのかわゆさには、早熟のまろんも色々と胸きゅん(死語)な思いもさせてもらいました。
 またこれからも参加いただけれは、とても嬉しく思います。

 それではまた他の依頼でもお会いいただければ、光栄です。PCさまのご活躍、かげながら応援しています。
 ご参加いただき、本当にありがとうございました。

                               by 鈴猫