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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


東京怪談・ゴーストネットOFF「行楽は如何ですか?《夏編》」

■オープニング■
「まんずこのままだど故郷に錦も飾れねえだなぁ」
「んだんだ。蓄えも底をつきそうだしなあ」
「まんずまんず。まずは生きてかにゃあならんすのう」

「……仕方があるまい」
「そうですね、このまま相争っていても共倒れ……あのような者どもと心中は御免蒙ります」
「くっ、しかしただ手打ちというのは余りにも……!」

【161】夏だ、海だ、西瓜割だ! 投稿者:元祖&本家丸山ツーリスト
夏も本番!
山へ、海へ、君を大自然が待っている!
今回当社では格安海水浴プランをご用意。真っ白な砂浜を駆け抜け青い海にダイブ!
海水浴のみならず、磯釣り、ダイビング、砂浜宝捜し、ビーチバレーコート、スイカ割り大会!
各種レジャーも取り揃え、お客様を夏へとご案内!
さあ、いま直ぐ03−@@@@−@@@@へお電話を!

*スイカ割り大会では東軍西軍に別れていただき、優勝チームサイドは旅行代金は頂きません。


 注意書きはご丁寧にも背景色と同じ色で記されている。
 丸山ツーリストは化ける事を覚えた狐がそもそも始めた商売で、幻覚を見せる事で格安快適ツアーを提供する旅行会社だ。そこへ狸が参戦し、泥沼の争いを始めていたと聞く。
「……つまり代理戦争……?」
 雫は思わず呟いた。

■本編
 晴天。
 雲一つとて見当たらない、目も眩むほどの青空が何処までも続いていた。太陽の日差しは強く、しかし湿度はそう高くは感じない。
 カラッと快晴。
 端的に体感を現すならそう表現するのが妥当であろう。
 波打ち際にしゃがみこんだ冴木・紫(冴木・紫)は寄せては返すその波に人差し指を突っ込んで唸った。
「うーん適温」
 指先に感じる水温は適度に冷たく、しかし何処か暖かい。少なくとも肌を切り裂くような、行き成り飛び込んで心臓麻痺の不安があるような水温ではない。これだけ太陽が照り付けていれば当然とも言えるが、今回の『海』の場合その『当然』は成り立たない。
「幼女! エマさん! 凄い海の水海の! 多分舐めたらしょっぱいわよ舐めないけど!」
「幼女じゃなくてみあお!」
「いやなんでもいいけど」
 すかさず突っ込みつつ駆け寄ってくる海原・みあお(うなばら・みあお)を軽くいなし、紫は人差し指で水面を指差した。真っ白の水着姿でちょこちょこと紫に駆け寄ったみあおは、紫が指し示す海に恐る恐る踏み入る。
「ひゃ……」
 冷やりとした心地いい感触にみあおは思わず悲鳴を上げた。
 なるほど確かに適温である。
「凄い凄い! 海海!」
「でしょでしょ?」
「っつーわけでエマさん海なのようみ海!」
 はしゃいで振返る紫に、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)は苦笑して手を振った。
「元気ねえ」
 シュラインは、細い肢体に大胆なカッティングラインの黒の水着をつけている。
 手を振ってやりつつ、それにしてもと周囲を見渡す。
 見渡す限り、そこは砂浜だった。しかも日本の海岸にありがちな黒っぽい砂浜ではない。海外旅行のパンフレットに使われていそうな真っ白な砂浜である。所々にどうやら椰子の木らしいものまで見える。
「だっていうのに……」
 くすくすと笑いながらシュラインは後方に目を向けた。
 そこにはなんつーか掘っ立て小屋の類いがずらりと並んでいる。カキ氷、ヤキソバ、浮き輪ありマスなどと様々に昇りが上がり、開け放たれた小屋の中には適当な折り畳みテーブルに、畳。漂ってくる香りはカレーのものだろうか。
 実に見事な海の家である。
「相変わらず全く主旨が一貫してないわねえ」
 まあそれも味だろう。
 海外と国内。何処かスマートな演出と、侘しいがなんとなく落ち着く演出を一緒に味わわせて貰っていると思えば腹も立たない。恐らく狙ってやっているわけでもないのだろうが。
「いいお天気」
 シュラインは立ち上がりんーっと思い切り背筋を伸ばした。
 実際、いい天気だった。

 さてそのハンドスピーカーでの大声は、昼下がり、食事も終わり気分がまったりとしてきた頃合に響いた。
『えー、お集まりの皆様ー、只今より今ツアーのメインイベントー、スイカ割り大会を開催いたしますー。参加希望の方はー受付を行いますのでー……』
「あら?」
「あ、始まるねっ!」
「タダへの道がねっ!」
「……やれやれ、折角だし参加しましょうかね」
「まあ俺も余裕があるわけじゃないしな」
「おねいちゃんもいるだろうしなあ」
 それぞれが経ち上がり受け付け場所へと急ぐ。なにもそれはこのツアーの正体を知っているものばかりとも限らない。
 大方の受付が済んだ所で、このくそ暑いのにスーツ姿の角田(狐)がハンドマイクでスイカ割り大会の説明を始める。
『大会はー、東軍西軍に別れて行いますー。特にご希望のない限り、組み分けはくじ引きとなりまーす』
 集まった人々はざわざわとざわめきだす。角田の宣言にあわせ、一抱えほどもある箱を持った別のスーツ姿が角田の隣に姿を現した。それによって抽選を行うらしい。三々五々、皆箱の中からくじを引き、東、西と書かれた昇りの元へと散って行く。
 東軍。(狐)
「あら?」
「よう、エマ」
「お、美人!」
 西軍。(狸)
「行くわよ幼女!」
「だからみあお!」
「……そう来ますか」
 ツアーの正体を知っている(いてもおかしくない)面子はこのように分かれた。実質戦力といってもいい。
 大方が分かれ終わったところで、各田は再びハンドマイクを握る。
『今回のースイカ割り大会はー、組対抗で行われますー。各陣地に20個のスイカをご用意させて頂きましたー。そのスイカを守りつつ、相手陣営のスイカを全滅させてくださいー』
「……スイカ割り大会っていうか……」
「陣取りや棒倒しに近くないかこれは」
「なるほどねえ」
「割っていいのスイカだけなのかなあ?」
「事故装ってならいーんじゃない? なになんか気にいらないのでもいるの幼女?」
「……止めなさい物騒な相談は」
『尚ー、武器弾薬、特殊能力の使用は各人の判断に従って下さいー。具体的に申し上げますと、選手が生命活動を停止した段階でその加害者となった方は失格となりますー。治る程度なら構いませんー』
「……ふぅん?」
「……待て何を納得してるあんた」
「つまりあれか!? どさくさに紛れてのおさわりもオッケーか!」
「要するにスイカ守るためなら多少のことしても構わない訳ね」
「かてばかんぐん! ってやつだよね☆」
「……だから止めなさいその物の考え方は」
『それではー五分後に開始となりますー。各軍作戦会議は手短にお願いいたしますー。5分後、笛が鳴りましたらスタートです!』
 画して、両軍は散った。

 馴れ馴れしく声をかけてきた佐久間・啓(さくま・けい)と言う新聞記者の首根っこを片腕に抱え込み、シュラインは真名神・慶悟(まながみ・けいご)に向かって声を顰めた。
「問題は九尾さんね、他は兎も角戦力としては一番危険だわ」
 こちらは東軍。相手チームには見知った顔が三人ほどいる。九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)、冴木紫に、海原みあおである。
 重々しく頷いた慶悟はしかし、というようにちろりと相手陣営を見やった。
「式を放って一気にけりをつけることは可能なんだが……向こうにあれがいるのが気になる」
 そのあれが誰を指すのか、シュラインは熟知していた。
「……まあ、大丈夫でしょ多分」
「ものすごく無責任に言ったなあんた?」
「実際紫は私には逆らったりとかあんまりしないし」
『それはあんたに『だけ』だろう!?』
 言いかけた言葉を慶悟は飲みこんだ。草間興信所の実質的な支配者に逆らう勇気など、普通なくて当然で、それは慶悟も例外ではない。
「今回はあんまり音とか関係ない分私は不利なのよねえ」
 声にならない声を察していないはずなどないが、シュラインは涼しい顔で言う。
「とりあえず俺が式で攻撃するからあんたはスイカを守っててくれ」
 げっそりと肩を落とし、慶悟はそう答えた。
「ま、なんでもいいから働け若者」
 それまで黙り込んでいた啓はへらへら笑いながら慶悟を激励する。
「っつーかおねーさん今一つ肉付きたんねーな、もうちょっとこう、なあ」
 ヘッドロックをかまされている状態は中々至福らしいが好みの体型とは少しばかりずれていたらしい。
 ロクデモナイコトを言い出した啓が砂浜に沈められたと同時に、ホイッスルの音が鳴り響いた。

 今、夏の熱き戦いの決戦の火蓋が切って落とされる!
 わっと歓声が上がり、両陣営から人が飛び出した。因みにスイカは色分けされており、青いペインティングをされているほうが東軍、赤が西軍である。見事に食欲を削ぐ事この上ない。
「あーもったいねー」
 啓が青い西瓜に頬擦りをして溜息を落とす。シュラインはその背中を容赦無く蹴り倒した。
「馬鹿言ってないの、来るわよ!」
 叱咤の声と同時に砂の上に置かれたままのいくつかのスイカが見事に輪切りにされる。
 走る事さえせず悠然と目の前に現れた男に、シュラインは笑顔で答えた。
「お久しぶりね九尾さん?」
 ふっと笑み、男もまた悠然と答える。
「ええご無沙汰してます。ところでスイカを渡してはいただけませんか?」
 他の西軍面子は慶悟が配して行った式に足止めされたどり着くことも出来ずにいると言うのに、桐伯は涼しい顔だ。流石に一筋縄ではいってくれない。
「そうも行かないのよ。私も無尽蔵にお給料出てるわけじゃないし、節約できるところは節約したいの」
「そうですか……」
 桐伯が哀しげに目を伏せた瞬間、またもいくつかのスイカが見事に輪切りにされる。
「なんだあ!?」
 啓が驚愕の声を上げたがそれにはシュラインは構いつけもしなかった。分かりきっている、桐伯が砂の中に糸を走らせ、それでスパンとあっさりスイカを断ち割ったのだ。
「一個でも守りきれればこちらの勝ちなわけよね?」
「ええ、守りきれれば」
「ところでうちの事務所で依頼貰っていく人の中には『ケイオス・シーカー』の常連客も多いんでしょうね?」
『ケイオス・シーカー』は桐伯の経営するバーの名だ。何が言いたいのかは一目瞭然、つまり引かないと客に圧力をかけるといっているのであるシュラインは。
 しかしそんな脅しに乗る桐伯ではなかった。即座にスパンと小気味いい音がして、啓の抱いているスイカ以外が見事に全滅する。
「ご心配には及びませんよ。私にはこう言った特技と、それによる収入もありますしね?」
「その収入はどちらで得てるのかしらね?」
「草間興信所だけではありませんね、残念ながら」
 寒い。
 とほーもなく寒い真夏でありながら。
 行き成り下がった体感温度に、啓はブルっと身を奮わせた。
 そのままこそこそ逃げ出そうとする最後のスイカ(違)に、桐伯はにっこりと笑いかける。
「如何です? そのスイカ渡していただけるなら、うちの店で飛び切りの一品をご馳走しますが」
「へ?」
 ぴたりとスイカ(だから違)の動きが止まる。
 揺れる啓に、今度はシュラインがにっこりと微笑む。
「佐久間さん記者さんだったわね? うちの興信所からネタとか取りたくはない?」
「う?」
 ガキっと再びスイカ(違うと言うに)が硬直する。
「え、いや、なんつーか。スゲモテてねえ俺?」
 お前じゃなくてスイカがな。
 にっこりと笑う二人は同時に心中そう突っ込んだが勿論二人ともそれを表情に出すほど愚かではない。
「さあ?」
「どっちを選ぶのかしら?」
 うーんと唸った啓は、次の瞬間まあなあと呟きつつシュラインを見た。
「まあもう一寸肉付きがいいと最高なんだが、野郎よかなあ」
 一体何の選択だ。
 勿論心中でのみの突っ込みである。
 勝利を確信したシュラインが気を抜いた、その一瞬の隙が命取りだった。
「おわあ!」
 その場で啓がすっ転んだのである。弾みでスイカは宙を飛びそして、
 空中で真っ二つに断ち割れた。
「あ、あ、あーっ!!!!」
「不幸な事故ですね」
 いくら身体の切れはもうない32歳とはいえ何も無いところで行き成りすっ転べるほどご老人ではない。
 糸が足を引いたのだ。
「九尾さん汚いわよ!」
「勝てば官軍と言いましてね」
 桐伯はにっこりと微笑み、白々しくも啓に手を貸して立ち上がらせた。

 そのスイカは最後の一歩手前のスイカ。40個のスイカの内の39個目。

 スイカ割り大会は、西軍の勝利と終わった。

 帰りのバスの中みあおは完全に爆睡状態に入っていた。
 幾人かは宿泊するようだが、子供のみあおはお帰り組。負けて自腹となったシュラインと啓もお帰りを選択していた。
 シートの上ですやすやと寝息を立てるみあおに上着をかけてやったシュラインは、ビール片手にすっかりご機嫌になっている啓の隣りの席へと戻った。別に好んでこの席に座っているわけではない。思いの他日帰り組が多く、あまり席を選べなかっただけである。
「全く」
 少しの不機嫌を露わに、シュラインは溜息を吐く。それを見咎めた啓は足元の簡易クーラーボックスからもう一本ビールを取り出してシュラインの頬に押し当てた。
「ひゃ!」
「腐ってねえで飲めって、驕り」
「……ありがと」
 釈然としないものを感じつつも、シュラインはその缶を受け取った。
「まあ負けたのはアレだったけどな。いーじゃねえかよ格安で遊んでこれたんだしよ」
 最も俺は取材だけど。
 言って啓はグビリとビールを飲み干す。
 カコンとビールの封を切ったシュラインは不思議そうに啓を見つめた。
「そう言えばあんた何事もなかったかのように帰ってきてるけど、夜の取材はいいわけ?」
「取材費でてねえしな。居座って自腹もアホらしいだろうが」
 一体どんな零細出版だ?
 問い質して見たい気もしたが、シュラインは黙ってビールに口をつけた。
 まあ確かに、格安で遊んでこれたのは確かである。少々不本意な自体も、それはこのツアーのせいではない。
 完全な満足と共に寝息を立てるみあおの寝顔を眺め、シュラインは苦笑した。
「ここは大人になっとくべきね」
「ま、そういうこった」
 二人はコツンと缶ビールの縁を合わせ、少しだけ不本意でしかし満足の行った旅行に乾杯した。

 こうして、代理戦争は狸の勝利に終わった。しかし、その争いは恐らく今後も続く。
 誰かを巻き込みつつ、半永久的に、きっと。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【0389 / 真名神・慶悟 / 男 / 20 / 陰陽師】
【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】
【0332 / 九尾・桐伯 / 男 / 27 / バーテンダー】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【1643 / 佐久間・啓 / 男 / 32 / スポーツ新聞記者】


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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、里子です。再度の参加ありがとうございます。

 というわけでスイカ割りです夏です。
 因みにワタクシスイカ割りはスイカでないものを割るのが得意です。スイカ置いてた発泡スチロールの台座とか良く破壊しました。
 楽しいんデスガスイカ割り。
 勿体無いなあとも思う次第です。はい。

 今回はありがとうございました。また機会がありましたらよろしくお願いいたします。