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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


星の夜にろまんを探して

●オープニング
「またー!?」
 ゴーストネットOFF。
 馴染みのインターネットカフェで、高らかに響く管理人の声。
 雫は、自らのサイトを覗き込み、額に手をやる。
 掲示板の最新の書き込みの中、こんな文字が躍っていた。

『ふふ、ゴーストネットの諸君、元気にしているかい? 今日も元気にろまんをしているかね。
 さて、来る7月7日、世間では「七夕」と呼ばれているらしいこの日。
 お台場に飾られる巨大な七夕ツリー。この元に集まる健全、不健全なカップル達。
 私の力でさらにろまんをかきたててあげよう。・・・よかったら、君達も来ないかね?

●榊原・亜真知の場合
「まず最初に現れたのは去年の8月だったわ。それから10月、12月と出て、2月だったかな……まろん伯爵っていうのが出てきたのは」
 日本色情霊連合との戦いの日々。
 雫は真剣な眼差しで、亜真知に告げた。
「日本の……東京のどこかに、色情霊の溜まり場があるらしくて、まろんもそこから来てるらしいんだけど……正体は不明ね」
「そうなのですか……」
「破廉恥な連中よ。もう……ほんとにやんなっちゃう」
 毎回これから暴れるよ♪ゴーストネットOFFのせいにしちゃうからとめてね〜、という書き込みを送ってくるらしい。
「困った方々ですのね。……ありがとうございます、雫様」
「ううん。榊原さんも気をつけてね。ほんとに、卑怯でいやな連中なんだから」
「はい。気をつけます」
 美しい漆黒の黒い髪に、金色の美しい瞳。どこか崇高な雰囲気を漂わす印象的な美少女だ。
 日本人形のような見目鮮やかな振袖を纏い、まるで舞うようなしぐさで、榊原・亜真知はゴーストネットOFFを後にした。

●七夕の伝説
 海からの風がさやさやと笹の葉を鳴らしてゆく。
 お台場の広場にたてられた数十本の巨大な竹には、色とりどりの飾りがつけられ、さながら夏のクリスマスツリーのようだ。
 もう夕暮れは過ぎ、宵の闇が辺りを包み込む。けれどライトアップされた笹の下の広場には、浴衣姿のカップルや家族連れなどが賑やかに集まっていた。
「綺麗ですね……」
 ファルナはうっとりと目を細め、手の届く笹に触れていた。
 その小柄な体を包むのは、鮮やかな紺の浴衣。乱れ咲くように散らされた大輪の花達の色は鮮やかで美しい。
 彼女の金色の長い髪は、青いリボンをつけ、背中の中ほどまで伸びていた。海からの優しい風が彼女の髪を撫でていく。
「七夕の伝説……今宵限り会える恋人達……」
 見上げれば、数多くの色とりどりの短冊がそこにつるされていた。
 ここに訪れた人々が、願いをこめて記入したものを、下げてあるのである。
 目につくところだけでも、
『彼と永遠に一緒にいられますように』
『お金持ちになりたい』
『SM●P命』
 など、それぞれの思いや願いを短冊に認められている。
 しばらくそれをぼんやりファルナは眺めていた。
「よろしければ……こちらをいかがですか?」
 そのファルナに呼びかける声。
 振り返ると長い麗しい黒髪の見目鮮やかな振袖を纏うの少女が、短冊の束を持って微笑んでいた。
「始めまして。榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)と申しますの」
「ファルナ・新宮(−・しんぐう)です。はじめまして」
 同じく中学生でありながら、光り輝くような少女ふたりである。
「こちらは、……あそこで配られておりましたの。短冊に書き込んで、スタッフの方にお渡しすれば、七夕の笹に飾りつけていただけるらしいですわ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
 微笑むファルナ。
 亜真知はファルナに筆を手渡し、自分も近くの木のベンチに腰掛けた。
「七夕の伝説……ご存知ですか?」
「織姫様と彦星様のお話ですよね」
 ファルナも彼女の隣に腰掛けて、筆をもてあそびながら答えた。
「ええ……でも、中国のお話だけではないのですよ。七夕祭りを始めて開かれたのは、持統天皇と言われています」
 ゆれる笹を見上げながら、亜真知は頷いた。
「あ、そうなのですか?」
「ええ……あれは、彼女の愛しい天武天皇様亡き後、その思いを偲びながらの……清楚で美しいお祭りでしたわ」
 まるで見てきたかのように、亜真知は呟き、小さく吐息をついた。
 その時、笹の向こうから茶髪の黒っぽいスーツの青年が、肩に笹の一枝を持ち、くわえタバコで現れた。
「天漢(あまのがわ)梶音聞(かじおときこゆ)孫星(ひこぼしと)与織女(たなばたつめと)今夕相霜(こよいあふらしも)……か」
「万葉集ですわね」
 亜真知が嬉しそうに両手を合わせる。
「真名神様」
「……遅れたか? いや、そんなことはないか」
 腕時計を見ながら、どこか退廃した感じのする都会の陰陽師・真名神・慶吾(まながみ・けいご)は苦笑を浮かべた。
「その笹は?」
 ファルナが気づいて小首をかしげる。慶吾は、ん、と小さく笑い、ファルナに見えるように笹を近づけてくれた。
 50センチほどの笹の枝にはいくらかの飾りつけと共に、短冊に見せかけた陰陽の符がぶら下げてある。
「……これは」
「会場を見て」
 慶吾はさらに面白そうに二人に言った。人で賑わう広場の方向には、傘をかぶった行者姿の何者かが、皆一様に慶吾と同じような笹を持っていた。
「人間……ではなさそうですわね」
 亜真知が低く呟く。
「勿論……あれは人じゃない」
 式神。
 かの安部晴明が使役されたといわれる一条戻橋の袂に住まわせた十二の式神、天一(てんいつ) 騰蛇(とうだ) 朱雀(すざく) 六合(りくごう) 勾陳(こうちん) 青竜(せいりゅう)
天后(てんこう) 太陰(だいおん) 玄武(げんぶ) 太裳(たいもう) 白虎(びゃっこ) 天空(てんくう)。
 偶然か否か、慶吾はそれと同じ名を持つ、強力な式神達を味方に使役しているのである。


 また近くの木のベンチには、新たに二人のゴーストネットからの刺客が到着してもいた。
「他の人どこなんだろ……やっべぇ、こういうの、はぐれたっていうんだろうか……」
 大きな朝顔の柄の艶やかな浴衣に身を包み、自宅からもってきたうちわでぱたぱたと自分を仰ぎながら、笹の下をそぞろ歩く。
 笹の下のベンチで待ち合わせという話だったのだが、その数も多いし、この人出。
 待ち合わせの時間はとうに過ぎているのだが、なかなかそれらしき人と出会えない。
「目立つと思うんだけどなあ……、金髪の女の子に巫女さんに、陰陽師さんに、それにホスト……」
 そのメンバーの中では一番目立たないのはきっと自分に違いない。と、葛は思って迷わない。
「なんとかして見つけなきゃ……。多分、俺を見つけることのほうが難しいだろうしっ」
 論文を抱えた大学院生であり、浴衣も珍しくないし、個性を強く訴える容姿でもない。
「……広場の方に出たほうが、わかるかな……」
 葛は息を吐きながら、笹の下から出ようとしたその刹那。
「……キミ、もしかして……」
 澄んだ調子の優しい声。女性の声かとも紛う程に。
 葛が振り返ると、そこには濡れたような緑色の髪の青いスーツをまとう青年がたっていた。
「ふふ、やはりだ。藤井・葛さん……。そうだね?」
「へ? あ、そうだけど……」
 陰陽師? いや、まさか。きっとホストだっっ。
 葛は確信する。
「はじめまして。僕は相生・葵(そうじょう・あおい)。……皆とはもう会えたかい?」
「藤井・葛です。……いえ、まだ……」
「そう……一緒に探そうか?」
 さりげなく葵は葛の隣に立った。
 そのさりげなさには流石に気づき、葛はちょっぴり警戒する。
 甘い端正なマスクに、テノールの響きのよい声。微かに香水の香りも漂わせて……隣に立たれるだけでも、誘惑のオーラがなびいてるような気がするのだ。
「あ……少し、離れてもらえるかな……?」
「冷たいね……いいけど」
 葛は葵よりも数歩進んで歩きだすと、笹の下から抜け出して辺りを見回した。
 相変わらずの人の波。
 浴衣の男女、出店も出ている。まるで盆踊りの夕べみたい。
「どこに出てくるんだろな……、そのお騒がせ野郎って……」
「そうだねぇ……」
 胸元から小さな手鏡を出し、襟元をチェックしながら葵も答える。
「呼び寄せるには……ロマンをか……」
「なんだろうね、ロマンって」
 苦笑して振り返る葛。葵は近づいてきて、「教えて欲しい?」と甘く瞳を輝かせる。
「……遠慮しとく……」
 葛は再び葵から離れて歩き出した。
 長い指を口元に当て、子犬のような視線でその背中を見送った後、葵はまたとことことその後をついていくのだった。

●伯爵の作戦
 さて、お台場に全員が足を運んだ頃、まろん伯爵もその広場へと到着していた。
 黒いステッキを手に持ち、黒いマントで身を包み、黒のタキシードの上下をきこなした少年としか見えないおちびさん……それがまろんである。
「うーん……いいねぇ。涼やかだねぇ」
 さやさやとなびく笹の葉の上で彼はあぐらをかくと、辺りの風景を見渡した。
 その真下……彼の足元で少女の祈る声がした。
「……お願い……どうか」
「ん」
 まろんは笹に足首をとめ、そのまま笹の中から下を見下ろした。
 金髪の長い髪の少女。青い浴衣をつけている。
「どうか……あの人に会わせてください……」
 ファルナは短冊に「裕介さんに会いたい」と認めていた。
 側に寄り添う亜真知がそれを優しく見守っている。
「お会いできますわ……。七夕は、単に離れていた二人が出会うだけのお話ではないのです。彼と彼女は別の世界に住んでいて、唯一会うことが許される日がその日だけなのだという説もあるのです。だから夢の中ででも……」
「……今夜の夢に裕介さんが出てきてくれるなら、それでもいいです……っ」
 ファルナはぎゅっと右手を握って祈った。
 あの人と過ごした日々は僅かでしかなかった。
 でも、確実にあの人はこの世にいたのだ。
 本当にもう……いなくなってしまったのだろうか。まだ信じられない。
 これを未練というのかもしれない。でも……わかっていても、でも……。
「ファルナ様……」
 同情したように黒い大きな瞳を潤ませ、まばたきをする亜真知。その横で慶吾だけが、「……あれのどこがいいのかねぇ」と苦い顔である。
 裕介。
 それは、どこまでも卑怯で純情なちかんオバケ・裕介のことだったりすることは、亜真知は知らない。
 ここに向かう前に、雫からも説明も聞いていたし、思い出せば、従姉妹に聞いたことがあるのかもしれないけど、ファルナの語る裕介の雰囲気からは何もかもが違う感じがするからだ。
 あばたもえくぼとは言うが、ちかんオバケも優しくてシャイな人になってしまう恋愛理論は難しい。
「……祈ります。天の上の二人に、二人のようにまたお会いさせてくださいと……」
 ファルナは近くの短冊に自分のものをそっと結んで、その前で微笑みを作ってみせる。
 大丈夫。たとえあえなくても、いつもあの人はこの胸の中にいるのだから。

「ほほぅ」
 
 笹の中でまろん伯爵は、腕を組み、大きく息を飲み込んだ。
「なんだっけ……裕介聞いたことあるよーな」
 ファルナの方をじっくりと見つめ、その思念にあるものをじっくりと掴もうとする。もやもやとしたイメージの中から、黒い学らんを着た牛乳瓶の底のような分厚い眼鏡をかけたヨロヨロの男が浮かんできた。
「……ろまんじゃない……」
 激しく汗をあくまろん。
 けれど、それがお望みとあれば仕方がないのだ。
 ろまん帝国のろまんを攫うまろん伯爵殿下としては、認めないわけにはいかないのだ。
「せーのっっ」
 まろんはステッキを振るった。

 ぼんっ☆


●七夕の再会

「はぁ……」
 重いため息をつくファルナ。心配そうに眺める亜真知。そして広場の人だかりの中に、他の二人を見つけて、目をこらし余所見をしていた慶吾達の足元に、突然どどどどどっと大きな衝撃音が響いた。
 そして辺り一面に真っ白な煙がたちのぼる。
「な、何だっ!?」
 笹の枝を手にし、符を一枚ちぎろうとする慶吾の視界に見えてきたのは、青い着物をつけた男。
 ……日本の着物ではなかった。
 牽牛。
 その単語が頭に浮かんだ。
 青い牽牛姿の着物をつけた、黒髪の青年は地面に墜落したダメージで、ぴくぴくと頭を地面に押し付け震えている。
「……な、なんだっっ!! このひどい落下の仕方は!」
 そして訳のわからない憤りを口にしながら、体勢を整えなおす。
「裕介さんっ!!」
 ファルナが叫んだ。
 その振り向いた男の姿。よろよろのよれよれで、頼りなさと意気地のなさと根性のなさが、瞬間で見抜けるダメな感じ。
 間違いない。その姿は木下・裕介。その人だった。
「……キミは……キミがぼくを呼んだんだね?」
 起き上がりながら、裕介はファルナに告げた。
 ファルナのエメラルドの美しい瞳が瞬間涙をたたえて、震えだす。
「……今、私、お祈りしたの……です。裕介さんに……会いたいって……」
「その願い……聞こえたよ」
 裕介は微笑む。そして飛びついてくるファルナをしっかりと抱きかかえ、その頭を撫でた。

「……絶対違う」
 慶吾は笹を上段に構えながら、低い声で呟いた。
「あの裕介ならばそんなことは言わん。……偽者、尋常に覚悟しろ」
 亜真知も裕介のことはよくわからないが、慶吾に並んだ。
「……邪悪な妖気を感じますわ……お覚悟なさい」

「……ふふ。ボクは裕介だよ、ね? ファルナ♪」
 裕介は腕に抱いたファルナに囁いた。
 ファルナはその愛しい人の姿を黙って見上げる。
「お似合いの二人になろう、ね♪」
 裕介はウインクを決めると、手のひらにステッキを出現させた。そしてそれをゆっくりと手首で振る。

 ぼんっ☆

「きゃっ」
 小さくファルナが悲鳴をたてる。彼女の着ていた浴衣から、するすると帯が解け、襟元が開かれていく。
 そして空から降ってきた桃色の衣装に彼女の体はすっぽりと納まった。それは、緋色の織姫の装束。
「ほら、僕ら。お似合いの牽牛と織姫だ。お台場の誰よりも、すごく似合ってると思うな……ふふ」
「ゆーす……けさん?」
 ファルナはうっとりと裕介を見上げる。
 ずっとずっと、ずっと会いたかった人だ。
 この分厚い眼鏡の下にとても優しい笑顔があること……ファルナだけは知っている。
 もうそれだけでも満足で……、ひたすら幸せな気持ちになれるのだ。

●大騒動
「気づけ、ファルナ!! どう見たって違うっっ!! あいつはこんなんじゃなかった!!」
 慶吾の叫び声がお台場に響いている。
 その声に、距離をとりながら歩いていた葵と葛も気がついた。
「いたみたいっ!」
「そうらしいね。さあ行こうっ」
 そっと葛の手を取って、葵は走り出した。
 葵はその手を振り解き、「一人で走れるっ」と彼と競争するかのように駆け出した。

「くそぅ……ダメか。正気に戻らないか……」
 慶吾は額の汗を拭うと、笹を手にとり、そのうちの一枚をぷちりとむしった。
「ならば仕方ない……。攻撃をしかける……【禁呪】の符「火」!!」
 彼が手にする火の符。
 裕介はファルナを抱きしめたまま、薄ら笑いを浮かべた。
「簡単にはやられないよぉ♪ 男と男の戦い……悪の魅力……これも十分……」
 無言で放られる火の柱。術者の手を離れた符は、炎の龍と変化した。裕介とファルナ目掛けて牙をむき、襲いかかる。
「ろまんだっ!!」
 裕介は叫んで、地面高く飛び上がった。炎の龍を纏いながら、攻撃をぎりぎりでかわし逃げていく。
 しかし、空の上で、彼はステッキを強く放った。
「炎には水っ!」
 ステッキの先から噴水のように水が降りかかる。
 どしゃぶりのようにそれは地上にいる人々の服を濡らす。あちこちで悲鳴があがった。
「裕介さん……」
 腕の中でファルナが不安そうに呟いた。
「気にしないで。みんなを片付けたら、僕ら二人だけの愛の楽園に行こう……」
 裕介は優しく答える。
「……」
 ファルナは小さく頷いた。

「やーん、濡れちゃったぁ……」
 被害にさっそく当たったのは葛。お気に入りの朝顔の浴衣がざっくりと濡れ、皮膚にはりつき、かなり居心地が悪い姿となってしまった。
 そのうえ、濡れた浴衣というものは、非常に厄介なものである。
 それに気がついたのは、近くにいる葵が視線に困ってるのに気がついたからかもしれなかった。
「……!」
 肌にはりつき、下着の線も肌の色すらも露わになっている自らの姿。
「やぁ……なにこれぇ……っ」
「どうぞ……」
 葵は仕方なくジャケットを脱ぐと、彼女にかぶせた。
「これで少しは目のやり場に困らなくなるから……」
「……ありがとう」
「しかし、悪戯っ子のようだね……噂に聞いたのだと子供の姿をしていると聞いた気もするんだけど……」
 葵はのんびりと呟き、それじゃと指をぽきぽきと鳴らした。
「……何かできるの?」
「色男、金と力はなかりけりと言うけど……少しはね」
 濡れた緑色の髪をそっと振り、彼は手のひらを下に向けた。コンクリートの床に広がる水の雫たち。
 これはまろんが発生させたものだが、彼にも動かせる。
「いけぇ。水の龍、彼女を濡らした仕返しだっっ!!」
 下に向けた手のひらが大きく上空に向けられた。床一面水たまりの中から透明な龍が現れ、みるみる空を上っていく。
 そしてファルナを抱えた裕介の下へと体当たり攻撃を仕掛けた。
「なんだと!!」
 ステッキを構える裕介。
 けれど、そうではなかった。
 龍は彼の側に来ると、突如、水の檻と変化して、ファルナごと裕介を包み込む。
 さらにその周囲には、慶吾の使役する十二の神将達が迫りつつあった。
「くぅぅっ」
「裕介さんっっ」
 空中の水の檻の中、ステッキを握り締めて震えるまろん。
「大丈夫……」
 まろんはファルナを片腕にして、ステッキを大きく振り回した。
 小さな爆発音が響き、水の檻が破壊される。けれど、その刹那、十二神将のひとつに、腕の中からファルナを奪還された。
「!」
「裕介さんっ」
 手を伸ばし叫ぶファルナ。
 まろんのろまんはさらに燃えた。
「……本人達の望むべくではなく引き裂かれていく恋人達……なんてろまんだ。ふふふふふふふふっっ。ちょっと怒っちゃったなぁぁぁ!!!!」
 
 十二神将たちの攻撃を次々と交わし、さらに地上からは水の銃で狙い撃ちする葵の攻撃からも器用に避けつつ、裕介は七夕笹の中に飛び込んだ。
 そしてメリメリとそのうちの一本を高く掲げ、それを振り回して、神将たちを追い払おうとする。
「……なんてばか力だ……」
 慶吾は舌打ちし、足元から狙えないかと駆け出していく。
「大丈夫でしたか?」
 亜真知が戻ってきたファルナに優しく話しかけた。織姫の衣装のままで、ファルナはため息をつきながら頷く。
「あの方はやはり……」
「やはり?」
「ふふふふふ。可愛い。お人形さんのような美しい方がもうひとり!!どうやってアタックするべきかなぁぁっ!」
 裕介は叫び、笹を振り回しながらファルナと亜真知の方向に向かって近づいてきた。
「……!」
 亜真知は咄嗟にファルナの前に出た。
「……おいたはいけませんわよ。……騒動霊様」
「騒動霊じゃないっ。立派な色情霊だっ! あんなのと一緒にするなぁっっ!!」
 叫ぶ裕介。どう違うのかは他の者には誰ひとりわからない。
「……今度は巫女さまを攫ってあげようっ!!」
 迫ってきた慶吾と葵を笹ほうきで掃くようになぎ払ってから、裕介はその笹を突然手放すと、亜真知の方向に向かって飛び掛ってきた。
「……させません……もう」
 亜真知の表情には明らかな怒りが浮かんでいた。
「理力変換っ!!!」
「へっ」
 ずきん。
 裕介の変身が突然解けた。
 ころんと黒タキシードの少年の元の姿に戻る。
「……ボクの能力が」
「こちらのものですわ」
 亜真知は小さく笑い、そしてまろんの持つ能力を変換して作った、巨大な光の柱を手に取った。
「な、なにっっ!!」
「お覚悟くださいませっっ!!」
 その柱を手にし、駆け出す亜真知。大きく振りかぶり、下から上にかっ飛ばす!!。
 だが。
 その背後で、涙をぽろぽろこぼしながら、叫ぶファルナの声が響いた。
「あなたは裕介さんなんかじゃありませんーーーーーーーんっっっっ」
 同時に、離れた場所にいた彼女の使役するゴーレム「ファルファ」が空を舞い、亜真知の光のバットと同時にその体を大きく突き飛ばす。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ」

 まろん伯爵は、お空の星へと消えた。
 ……当分、戻れそうにもない遠くの地へと。

●エピローグ
 まろんが去った後、七夕会場は折れた笹や、ちぎれた葉や飾り、短冊などで、見るも無残な状況になっていた。
 一般の集まっていた人々も何かが起こっていたことだけはわかって、なんとなく片付けを手伝ってくれていた。
 先ほどまでのことは夢なのか、現実なのか、誰にも説明はつかないけれど。その余韻を楽しむかのように。
「それにしても、結構暴れてくれたねぇ……つまんないな。近くにきたらぶっとばしてやろうと思ってたのに」
「女の子はそんなことしちゃいけないよ。ふふ」
 後片付けを手伝う葛の頭を、葵は撫でながら微笑む。
「気安く触んないでって……」
 ぶうたれながらも、最初に会ったときよりは、葵のことは嫌いでないかもしれない。

「あら……ファルナ様……? ファルナ様」
 亜真知の呼ぶ声が響く。
 先ほどまで一緒にいたのに、彼女の姿が見えなくなってしまったのだ。
「どうした?」
 慶吾が駆け寄ってくる。亜真知の話を聞き、二人は手分けをして笹の周りを探し始めた。
 すると、倒れた笹の側で、織姫の衣装のまま立ち尽くしている彼女の姿を二人はほどなく見つけた。
 その手には短冊が一枚。
 彼女自身がその手で書いた「裕介さんに会いたい」の文字。
「ファルナ様……」
 亜真知が微笑みながらそっと近づく。
 ファルナは緑色の瞳に涙を浮かべ、小さく微笑んだ。
「……またお会いできますよね。今度は本物の……」
「会えるのがいいことなのかどうかわからんが……」
 苦笑を浮かべる慶吾。
「ええ、大丈夫ですわ」
 亜真知はファルナを抱きしめた。
「はい……ありがとうございます……」
 
 そして、お台場の夜は更けていく。
 七夕の夜の不思議を、皆が忘れないうちに。夢の世界へといざなうために。

「ファルナ、浴衣見つけたぞ」
 慶吾が笹の中から、ファルナの着ていた浴衣を差し出した。
「ありがとうございますっ」
 そういえば彼女がつけていたのはずっと、まろんが魔法で出した装束だった。
 受け取ろうと笹の間から彼女が抜け出した時。

 ぼん☆

 小さな爆発音が響いた。
「きゃあああああああっっっっっ!!!」
 この、ひときわ大きな悲鳴がお台場の騒動の、締めくくりとなった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 0158 ファルナ・新宮 女性 16 ゴーレムテイマー
 0389 真名神・慶吾 男性 20 陰陽師
 1072 相生・葵 男性 22 ホスト
 1312 藤井・葛 女性 22 学生
 1593 榊船・亜真知 女性 999 超高位次元生命体:アマチ……神さま!?
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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、鈴猫です。お待たせいたしました。
 星の夜にろまんを探して まろん伯爵のシリーズの第二話になります。

 とりとめのない話になってしまったような気も。
 皆様にご満足いただけるお話であればよいのですが。
 
 榊原・亜真知さま
 始めまして。お会いできて光栄です。
 アマテラスの神様……!!! 設定を呼んで思わず姿勢を正してしまいました。
 きっと、本気になればまろんなんて存在ごと消せてしまうのではないかと思いますが、お手柔らかにしていただきましたです。
 理力変換ですが、このような能力でよろしかったでしょうか。勘違いしてるんじゃないかと少々心配……(汗)
 OMCのイラスト、参考させていただいてます。とても可愛らしくて、お人形さんのようで、こんな巫女さんがいたらいいなぁとろまんにひたってしまいました。

 それではまた他の依頼でもお会いできることを祈って。PCさまのご活躍これからも応援させていただきます。
 ご参加まことにありがとうございました。

                                  鈴猫 拝