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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ピンク★サバト

□■オープニング■□

 ある日草間興信所を訪れた男性は、至極真面目な顔でこんなことを告げた。
「うちの妻が、『ザバッと』とか何とかいうのに行っているらしいのです」
「――――――は? 何ですって?」
 武彦が訊き返したのも無理はない。
「ですから、『ザバッと』に……」
「その『ザバッと』……というのは?」
「何かの音でしょうか?」
「………………」
 お話にならない。
「あのですね……」
「とにかく、水曜と金曜の晩に家を抜け出していくのですよ。私はもう心配で心配で」
「水曜と金曜の晩?」
 その言葉に、武彦は気づいた。
「――もしかして、『サバト』ですか」
「ああ! そう、そうですっ。『ザバッと』じゃなかったですね。失礼しました」
 男性はせわしなく頭を下げる。
「人から聞きかじった話でしたから、間違って覚えていたようです」
「奥さんがサバトへ出かけている、と?」
「いえ、私が妻の不審な行動を教えたら、それなんじゃないかと。それで私、妻に訊いてみたのです。そしたら……」
「そしたら?」
「見事にごまかされました」
 男性は涙目になっている。
「それでもやっぱり気になりますから、家を出る妻を尾行してみました。そしたら妻は途中で子供と待ち合わせをしていたようで」
「子供?!」
「ええ。でもその子供が私の存在に気づいたらしく、そのあとすぐ巻かれてしまいました。あとで妻に訊いてみると、『白い子供が赤い子供を殺した瞬間に幻想が始まるのよ』と、わけのわからないことを言うのです」
「うーむ……」
 武彦は腕組みをして考える。
「お願いしますっ。どうか妻をそれに行かせないようにして下さい! もしくは……何をしているのか知るだけでも構いませんからっ」



□■視点⇒鳴神・時雨(なるかみ・しぐれ)■□

「――というわけだ。まぁ子供が関わっている以上そう妖しいものではないと思うが……調査の方よろしく頼む」
 草間は長い説明を終えると、集まった皆を見回した。俺たちは当然頷く。
(サバト……か)
 聞き覚えのある言葉だった。
 回し蹴り? 快傑?
 いや、どちらも違う気がする。
(確か――)
 俺は自分の記憶を深くたどっていき、やがて答えに行き着いた。
(悪魔崇拝、だったな)
 雄山羊の頭部の偶像を崇め、妖しげな物を鍋で煮こみ、その周りで乱交したりするやつだ。
(なるほど)
 自分の妻がそんなものに参加しているかもしれないと思えば、誰だって気になるのだろう。
(――ただ)
 あれは幻覚の産物だと思っていたが……?
 皆はそれを知らないのだろうか。
 そう思って見回すと。
「あの、1ついいですか?」
 ちょうど海原・みなも(うなばら・みなも)が口を開いた。
 草間がそれを受ける。
「何だ?」
「サバトって、魔女さんたちがやっているアレですよね。変わった趣味だとは思いますけど、浮気してるわけじゃないんだし、あたしは問題ないと思うんですが……」
(!)
 本当に幻覚ならば、そうかもしれない。だがそうでない場合は、(確かに浮気ではないが)問題がないとは言えないのではないだろうか。
 草間は頷くと。
「そうだな。とりあえずはその人が本当にサバトに行っているのか、もし違うのなら何をしているのか。それを調べたうえで、問題がないようならとめる必要はないだろう」
 もっともなことを言った。それにシュライン・エマがつけたす。
「そもそもサバトなんじゃないかというのも、ただの予想だものね」
 そう。
(まずは調査だ)
 ということで、効率よく調べるために仕事を分担することにする。
 俺はサイコメトリーのために奥方と接触するという羽柴・戒那(はしば・かいな)に付き合うことにした。女だけでは奥方に余計な心配や疑いをかけかねないからだ。
 それ以外の4人――シュラインと御影・璃瑠花(みかげ・るりか)は、旦那が見たという子供から調査を進め、みなもと藤田・エリゴネ(ふじた・えりごね)は、大胆にも奥方に一緒に連れて行ってくれるよう頼んでみるという。
 それが叶っても叶わなくても、サバト(とりあえずはそう呼んでおくことにする)当日――明日は皆であとをつけてみることにした。



 これから行くと連絡を入れてから、2人で依頼人の家へと向かった。場所も電話番号ももちろん草間から聞いたのだ。
 俺たちの作戦はこんな感じだ。
 まず俺が"旦那の会社での友人"を装って訪ね、羽柴を奥方に紹介する。
 そして。
「旦那を驚かせるために、この手紙を奥さんから旦那に渡してほしい」
 そう言って奥方にこちらで用意してきた封筒を手渡す。封筒の中身は俺が持ってきた小型の発信機で、明日出かける前の奥方につけてほしいというメモも同封してある。
(発信機などなくても)
 見失いはしないだろうが、あるにこしたことはない。
(もちろん)
 羽柴はその封筒を手渡す時に、奥方をサイコメトリーしてみる予定だ。
 目的の住所をたどると、閑静な住宅街の一角にある立派な一戸建ての家の前についた。
「ほぅ……結構裕福な家庭のようだな」
 門から覗ける庭がよく整備されていたので、ついそんな声をもらした。それだけじゃなく、キレイに花をつけている植物たちからも、奥方の性格が窺える。
「しかも妻はしっかり者らしい」
 羽柴は何故か苦笑しながら告げた。
 インターホンを鳴らすと、すぐに奥方が玄関から顔を出す。
「お待ちしておりました。どうぞお入り下さい」
 笑顔の優しい女性だった。
「むさ苦しいところですが……」
 日本人特有の表現とともに通されたのは、少しもむさ苦しい所などないよく片付けられたリビングだ。
(!)
 そのリビングに足を踏み入れた時、俺は微かな匂いを感じた。先に用意されていた茶や菓子だろうか? その割には匂いが弱すぎる気もするが……。
「――それで、私にご用事というのは……?」
 もてなしを終えて奥方は、自分はソファには座らず床に膝をついたまま訊ねた。
「その前に、どうぞソファに座って下さい。話はそれからです」
 羽柴が困ったように告げると、奥方はやっとソファに座り直した。そしてもう一度こちらを見る。俺と羽柴は目を合わせてから、今度は俺が口を開いた。
「実はあいつに渡してほしい物がある」
 "あいつ"というのはもちろん旦那のことだ。
「あら、私からですか?」
「あいつを驚かせるのが目的だからな」
 すると奥方は「まあ」と笑って。
「それくらいならおやすいご用ですわ。一体どんな物ですか?」
 問われて封筒を取り出したのは、予定どおり羽柴の方だ。やや緊張した面持ちなのは、指先に神経を集中させているからだろう。
「――これです」
 テーブルの上に、封筒を滑らせ……手を出した奥方の指先に、多分触れた。
(?)
 その瞬間、妙な表情をした羽柴が気にかかる。
「封筒、ですか。主人に渡せばわかるんですね?」
「え、ええ。――ところで、キレイな指輪ですね。結婚指輪ですか?」
(触り損ねたのか?)
 もう一度触れようとする羽柴の意図を悟った。
 奥方はその不自然さに気づかず、少し顔を赤らめて。
「そうです。主人がデザインしたオリジナルなんですよ。世界に1つしかないんです」
「それは凄い」
 さらに持ち上げてみる。
「近くで見せていただけますか?」
「ええ、構いませんよ」
 指輪を外そうとしたので、羽柴はつけ加えた。
「あ、つけたままで。奥さんの指にいちばん合うように作られたものでしょうから、奥さんの指も一緒でなければ価値が半減してしまいますよ」
「まあ……お口がお上手ですのね」
 嬉しそうな表情を浮かべて、奥方は今度は羽柴に手ごと差し出した。羽柴は奥方の手をとり、指輪を眺める振りをしている。
(…………?)
 やはり表情が、曖昧なまま。
 奥方の前だからと、取り繕っているようには見えない。
(まさか何も見えないのか?)
 考えて、ハッとした。
(見えるわけがないのか?)
 俺が最初に思ったとおり、それが"幻覚"ならば。奥方の目は実際にそれを見たわけではない。幻覚は脳裏で生まれるものだからだ。
(その記憶に)
 残るはずはない?
「……あの?」
 手を取ったまま動かない羽柴を、奥方が不思議そうに覗きこんだ。羽柴はハッと気づいて。
「あ、申し訳ない。あまりに素敵なデザインなので見惚れてしまって」
(相変わらず、ごまかすのがうまいな)
 ごまかされたことに気づかない奥方は、恥ずかしそうにしながら手を引っこめた。
「私もこの指輪、気に入っているんです。主人は、子供ができたら今度は同じデザインのブレスレッドを贈ろうと言ってくれているんですが……」
「そういえば、子供の話は聞かないな」
 友人らしい受け答えをしておく。子供の話を聞いていないのは事実であるし、それはつまり2人の間には子供がいないことを示していた。
「なかなか、叶わないようです。かといって被妊治療もなんだか怖くって」
(被妊治療か……)
 そんなふうに人の手を加えてまで生まれてくる子供が、本当に幸せであるのかは誰にもわからない。成功するとも限らないのだ。
(それならば)
「そうだな。自然に任せておくのがいいだろう。どこかが悪いわけではないのなら、焦らずともそのうち叶うさ」
 励ますだけの方がいい。
 すると奥方は少し微笑んで。
「そうですよね。のんびり授かるのを、待ちたいと思いますわ」



「――で、何が見えたんだ?」
 近くの公園を歩きながら、俺は口を開いた。サイコメトリーするたびに、捉えどころのない表情をしていた羽柴が気になっていたからだ。
 羽柴は羽柴自身戸惑っているようで。
「それが……よくわからなかった。まるで奥さん自身は何も見ていないようだ」
 そう答えた。
「やはり」
 俺は呟く。
(俺の予想は当たっていたのか)
「やはり? 予想していたのか?」
 俺は頷いてから。
「サバトなんてものは、大体が集団による催眠状態からの幻覚だ。幻覚ならば、実際にその目で見ていてもそこに本人の明確な意識はないんだ、それがサイコメトリーで探れるほど鮮明な記憶として残るということはないだろう」
「そうか――」
 一度は納得したように頷いた羽柴だが、すぐに顔を上げた。
「理屈はわかるが、奥さんは子供と落ち合う所までばっちり見られているんだぞ。その部分すら見えないというのは……」
 おかしいと、表情が告げている。
 だがそれに答えを出すことは簡単だった。
「つまりその時点で既に"幻覚の中"、ということなんじゃないのか?」
「!」
(夢遊病患者のように)
 幻覚の中で、ふらふらと歩いていたのだろう。
(事実)
「宗教儀式には、麻薬めいた薬物がつき物だ。マヤやアステカの幻覚サボテンみたいにな。――実際、部屋が少し匂っていたぞ。何の匂いかはわからなかったが」
「ホントに?」
 それが薬物の匂いであり、奥方がそれを家で使っていたと考えれば、子供に会っている時点で幻覚の中にあるということは容易にわかる。
(もう1つは)
「それと、子供については異常な反応は見られなかったな」
 俺は続けた。
 話の流れが自然"子供"の方へいったけれど、奥方が何かに反応したふうな様子はなかったのだ。
「子供を殺して始まる妄想――少なくとも、自分の子供ではないのか」
 羽柴は呟く。
 最初から幻覚上の言葉で、意味などなかった?
 とりあえずは本当に"サバト"らしいということはわかったが、まだ謎は残っていた。

     ★

 翌日、夜。
 海原と藤田、そして羽柴は、既に指定された場所へと向かっている。2人は堂々と、羽柴はこっそりと様子を窺うためだ。
 一方俺とシュライン、璃瑠花は、奥方を自宅から尾行するために家の近くに潜んでいた。
(奥方が2人に指定した場所)
 それは旦那が、子供と待ち合わせをしている奥方を見た場所と一致していたことから、その場所へ向かうことは間違いなかった。だが念には念を入れて、だ。向かう途中に何もないとも限らない。万が一ロストしても、受信機を持っているので心配ない。
 俺は2人に目配せをしてから、重力制御を使って空中に舞い上がった。適当な高度をとり、下からは見えないようにする(もっとも暗いため、もともと見えにくいのだが)。
 上空では視力と聴力を最大にして、下の様子を逃さず捉える。
「――あ、出てきましたわ!」
 璃瑠花の声が聴こえた。
 玄関のドアが開き、奥方が光を背に登場する。旦那が追いかけて出てきたが、奥方はまったく話を聞いていないようだ。とめようとする手を振り払っている。そのままふらふらと、待ち合わせ場所の方へ向かって歩きだした。旦那は呆然と見送っている。
「行くわよ、璃瑠花ちゃん!」
「はいっ」
 手を繋いで、2人が行動を開始したのがわかった。俺も移動を開始する。
 俺たちの厳重警戒とは裏腹に、奥方は途中どこにも寄らず真っ直ぐに例の場所へと向かった。そして先に来て待っていた2人と合流する。
 俺は3人の会話も聴き取ってみる。
「こんばんは!」
「約束どおり来ましたわよ、奥さん」
「……ふふ、もうすぐ迎えが来ますわ」
(――何だ?)
 奥方の様子が昨日とはまるで違うように見える。少なくともあんな笑い方をするような人ではなかったはずだが……。
(あれも香油のせいか?)
「何を話していますの?」
 璃瑠花の声が聴こえた。
「もうすぐ迎えが来るんですって。きっと例の子供のことね」
 シュラインがそれに答えている。そういえばシュラインも、かなり耳がいいのだった。
 シュラインたちよりも3人に近い位置に、隠れている羽柴の姿も見える。あの位置なら、普通に会話が聞き取れているだろう。
 やがて俺は、3人の元へ近づいてくる影を捉えた。
 ズームアップ。
(――確かに子供だな)
 見えにくいのは、子供が黒い服を着ているからだ。下にいる面々には、かなり近づかなければよく見えないだろう。
「……どうだった? 璃瑠花ちゃん」
「見えませんでしたわ〜」
 子供が3人に近づいてその陰に隠れたため、シュラインと璃瑠花には見えなくなったようだ。
(そういえば)
 この子供が璃瑠花の知っている子供かもしれないと、言っていたな。
 それを思い出す。
 子供は海原と藤田を交互に見てから、奥方に顔を向けた。
「――何だ? この2人は」
「一緒にアルバイトをしたいそうなので、香油を渡して連れてきたんです」
「その割には、その瞳。お前たち、香油を塗っていないだろう? 誰の差し金だ」
(!)
 意外にも、バレるのは早かった。
 2人は確かに香油を塗っていない。それは草間がとめたからだ。調査とはいえ、危険なものかもしれないから塗るなと。それでも匂いだけはするように2人とも工夫していたはずだった。
「どうしましたの? シュライン様」
「あ、ごめん璃瑠花ちゃん」
 聴こえているシュラインも動揺しているようだ。
「いいえ。何かあったのですか?」
「2人が香油を塗っていないことがバレたわ」
「まあっ」
(あの2人はどうでる?)
 子供が2人に何かするようなら、すぐにでも駆けつけよう。と、地上に戻る構えをしておく。
「誰の差し金だなんて……酷いですわ。アルバイトをしたいのは本当ですの。ただ初めてだから怖くて……。今日だけはこのままではいけませんか?」
(さすがだな)
 藤田は動じずに受け流した。それに海原が続ける。
「あ、あたしも、次からはちゃんと塗りますからっ」
 子供は「うむぅ」と唸ってから。
「……仕方がないのだ。今日だけはそのままで許そう」
 どうやら大人の勝ちのようだ。
 そうして4人が向かったのは、なんと昨日俺たちもいた公園だった。てっきりどこかの建物に行くと思っていただけに、少し拍子抜けする。
(どういうことだ……?)
 4人はそのまま公園の奥の茂みへと入っていった。
(上からは……植えこみや木が邪魔で見えない)
 仕方なく俺は、地上へと戻った。
 俺に気づいた羽柴が手招きをしている。
 俺はそちらへ近づいていって、羽柴が指差した方向に視線を投げた。
 途端に固まった。
(……何だこれは……)
 茂みの中には大人たちがゴロゴロと転がっていたのだ。男女問わず。奥方は既にその中に混じっていて、海原と藤田が呆然と立ち尽くしているのが見えた。
「――あ! やっぱりソロモン様でしたのねっ」
 違う場所から見ていた璃瑠花の声がした。
「一体何をしていらっしゃるの?!」
 璃瑠花はそう言いながら、茂みの中へ現れる。
 ソロモンと呼ばれた子供はまったく驚かず。
「やっぱりまだ人がいたのか。そんなことだろうと思ったのだよ。――君はこの前僕を手伝ってくれた子だね? また手伝ってくれるのかね」
 璃瑠花に続いてシュラインも出たきた。それを見て羽柴も、俺も出ることにする。
「おや、次から次へと。皆さんごきげんよう」
「キミは一体何をしているんだ?」
 羽柴がソロモンのペースに巻きこまれぬよう声を挟む。ソロモンはフッと笑って。
「何って、ただの実験だよ。サバト実験」
「実験?!」
 皆の声が揃った。
 ソロモンは頷くと。
「僕は西洋魔術に傾倒していてね。各種魔法書の研究はもちろん、それに付随する書物の研究にも余念がないわけだ。だが僕は書かれてあることをそのまま信じるのは好かないのでね、ちゃんと実験して確かめようとしているのだよ」
「だからって、他人に迷惑をかけるようなこと、していいと思ってるの?」
 もっともな言葉を、シュラインが発した。
 しかしソロモンはさも心外だという顔をする。
「迷惑なんかかけていないのだ。この実験に協力してくれている人たち――ここに転がっている人たちは、皆自分の意思で協力してくれている」
「なるほど、だから"アルバイト"なのね」
 藤田が呆れたように頷いた。
 俺は倒れて何やらうごめいている奴らを見下ろしながら。
「それで? こいつらは幻覚の中でサバトの真っ最中なのか?」
 ソロモンに向かって問った。
 ソロモンは何故か残念そうな表情を浮かべて。
「どうやらそうらしいね。様々な書物に詳細なサバトの様子が描かれてはいたけれど……僕の実験の結果によれば、それらは香油が引き起こす幻覚に他ならない、ということになるのだ。まぁ妖術使を拷問にかけて無理やり引き出した告白なんてそんなものかもしれないがね。僕としては、そうして拷問にかけられた妖術使たちがどんな告白をしたところで、最後には殺されてしまうのが可哀相でならないな」
「!」
 意外だった。言葉遣いはどこか偉そうではあるけれど、この子供。優しい一面も持っているようだ。
 何となく、辺りが静まり返る。
 それをソロモン自身が破った。
「ところで、君たちは何のためにここに来たんだね?」
「実はその方の旦那さんが、奥さんが夜に家を抜け出すことを心配していて……」
 近くにいた海原が、奥方を指差して答えた。
「おやおや。家族にはちゃんと伝えるように言ってあるのだがね。もしかしてこの前つけてきていた怪しい人は旦那だったのかな? ……まぁいい。それは僕が責任を持って旦那に伝えておこう。彼も来たければ来ればいいのだし」
 どうやら問題は、ソロモンよりも奥方の方にあったらしい。
 ソロモンが旦那を説得してくれると言うのなら、今回の依頼はこれで終了だろう。
 シュラインもそう思ったようで、それを口にした。
「じゃあとりあえずこれで、一件落着、かしら?」
 しかしそれを羽柴がとめる。
「待った。1つキミに訊きたいことがある」
 皆の視線が1つに集中。
「何かね?」
「『白い子供が赤い子供を殺した瞬間に幻想が始まる』というのは、どういう意味だ?」
(そういえば、その問題もあったな)
「この"子供"は、あなたのことなの?」
 シュラインが続けると、ソロモンは笑って。
「違う違う。それは魔法書の一節なのだ。"人が魔法にかかりやすくなるのは、精神や意志力の弱まる瞬間――つまり白い子供が赤い子供を殺した瞬間だ"ってね」
「答えになっていませんわ」
 璃瑠花が鋭いつっこみをした。
 ソロモンはまだ笑いながら。
「もちろん続きはあるのだ。白い子供は白いリンパ液、赤い子供は赤い血――つまり、"貧血"することを意味しているのだよ」










                            (了)

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    登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号/    PC名   / 性別 / 年齢 /   職業   】
【 0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26 /
             翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【 1252 / 海原・みなも   / 女性 / 13 /  中学生   】
【 1493 / 藤田・エリゴネ  / 女性 / 73 /  無 職   】
【 0121 / 羽柴・戒那    / 女性 / 35 / 大学助教授  】
【 1323 / 鳴神・時雨    / 男性 / 32 /
               あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】
【 1316 / 御影・瑠璃花   / 女  / 11 / お嬢様・モデル】



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          ライター通信          
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 こんにちは^^ 子供NPC大好き(笑)伊塚和水です。
 大変お待たせいたしました_(._.)_
 時間がかかった割にあまり凝ったことができなかったのが残念ですが……皆さんのサバトの解釈がそれぞれで面白かったので、それを少しでも活かそうと頑張ってみました。どうでしょうか。
 ちなみに私のサバトの解釈は、澁澤龍彦氏のエッセイを参考にしてあります。
 それでは、またお会いできることを願って……。

 伊塚和水 拝