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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原>


噂を追って【4】
●オープニング【0】
「んっ……んん〜。ふう……平穏だよねぇ」
 6月も終わりに近付いたある日の放課後。『情報研究会』部室に居た会長の鏡綾女は、思いっきり背伸びをした後でそう言った。
 綾女が言うように、この2、3カ月の冬美原は特に大きな事件も起こらず平穏そのものだった。少なくとも、表面的には。
「平穏でいいと思うけどなあ」
 綾女の言葉を聞いた副会長の和泉純が苦笑いを浮かべた。
「……危ないことに綾女さんが関わらないで済むし」
「ん、何か言ったぁ?」
 どうやら純の後のつぶやきは、綾女の耳には届いていなかったようである。
「でもね」
 綾女は表情を引き締めて、皆の方に向き直った。
「事件が起こってないからって、調べることがなくなった訳じゃないんだよね。でしょ?」
 確かにそれはそうだ。冬美原に謎はまだまだ山積みになっているのだから。
「ということでぇ……」
 綾女がにんまりと微笑んだ。あ、何か嫌な予感。
「調べてきてね☆」
 ああ、やっぱり。はいはい、調べてきましょうとも――。

●待ち合わせ【7B】
「いやあ、あの地震は大きかったなあ」
「ほんとほんと。ま、死亡者もなかったし、建物が壊れた訳でもなし、よかったんじゃないか?」
「そうだなあ。特に被害がなくてよかったよ、本当に」
 夕方の冬美原駅構内――行き交う人々の間から、そのような会話が漏れ聞こえていた。今からほんの1、2時間前、冬美原には震度4程度の地震が発生していたのである。
(へぇ……結構大きな地震だったんだ? そういや、電車がちょっと遅れてたっけな。その影響かな?)
 人々の会話に聞き耳を立てていた少年――御崎光夜はそんなことを考えていた。ちなみに光夜、冬美原には30分ほど前に着いたばかりである。当然、地震には遭遇していなかった。
「あれ?」
 そこではたと思い立った。自分より先に、冬美原に来ていた奴のことを。
「うわぁ……ちょうど地震に遭ってるんじゃないかぁ?」
 苦笑いを浮かべる光夜。いや、苦笑いと言うよりは、可哀想だなという感情が見え隠れしていた。
「遭ってて悪かったな」
 その時、光夜の背後から低い声が聞こえた。いつの間に背後に立っていたというのだろう。
「うわっ、北斗! 変なとこから出んなよっ!」
 振り返る光夜。そこに居たのは友だち――という表現が正しいかどうかの判断はさておいて――の守崎北斗であった。
「俺にしてみれば普通の出方だ」
 きっぱり言い切る北斗。まあ、忍者の北斗にしてみれば普通であるのかもしれないが……一般的に普通かどうかは定かではない。
「時間に遅れといて、威張んなよな! 30分も待ったぞ〜!」
「だから……電話でも言ったろ。俺あんま時間きっちりっての苦手だし」
 怒る光夜に対し、ぶつくさと文句を言う北斗。
「先に冬美原来てたのそっちだろ。どうやったら遅れんだよ、北斗。車じゃあるまいし」
「うっ……」
 言葉に詰まる北斗。この場合、光夜の言い分の方に正当性があるように思える。
「……たく、電話かけてきたのはどっちだよ。俺から、付き合えなんて言ってないぞ」
「何だよ、文句あるのかよ」
 ちなみに、約束を取り付けるために携帯電話で連絡を取り合ってはいたのだが、その時のやり取りも今と似たような物である。平たく言えば、どこか喧嘩腰っぽい雰囲気で。
「もう、行くぞ! ぷらぷら新市街の方へ歩いていって、例の物を探してみるとすっか」
「『紅い布』だよな?」
 歩き出そうとした北斗に、光夜が確認するように言った。
 『紅い布』――それは新市街の方で流れている、『近頃ガードレールに紅いリボンが巻き付けられてるの見かける』という噂のことだった。
 北斗からその話を聞いた光夜が、それを調べるべく先に冬美原を訪れていた北斗と約束を取り付けたのであった。
「それ調べんだろ? ほら、行くぞ」
 北斗はさらっと答えると、西口の方へ歩き出した。
「おい、待てよ北斗!」
 光夜は慌てて北斗の後を追いかけた。

●情報収集、と思いたい【8】
 噂が新市街で流れているのは分かっているが、その具体的な場所がよく分からない。まずは情報収集が必要だろう。
「それにしてもガードレールに紅い布ねぇ、やっぱ何かの呪いか何かかな」
 きょろきょろと辺りを見回す光夜。何かを探している風ではある。
「さあなあ。でも紅っつたら目立つよな? 何かの目印か何かか?」
 本人は気付いているのかいないのか、光夜と同じような台詞回しを北斗は使っていた。
「さあなあ。あんまり嫌なヤツじゃないといいんだけど……」
 光夜はなおもきょろきょろと辺りを見回していた。後ろ髪の銀色の一房が、その度に揺れていた。
「あ、ゲーセン見っけ」
 と言いニカッと笑ったかと思うと、光夜はゲームセンターに向かって駆け出していた。小学生らしい光景ではあるのだが……。
「あ、おいっ! 噂調べに行くんじゃなかったのかよっ!」
 追いかける北斗。しかし、光夜は目的を忘れてはいなかった。ゲームセンターに入った光夜は、いくつかゲームを楽しみつつも、同年代らしき少年を捕まえて、件の噂について話を聞いていた。
 そうしているうちに、どの辺りという具体的な情報が転がり込んできたのである。
「どうだ、見たろ?」
 得意げに北斗に言い放つ光夜。北斗はぶすっとした表情をしていた。
「……まあな。場所も分かったんだから、今度こそ行くぞ」
「あ、ちょっと待った。新しいゲーム出てんだなぁ……あれ1ゲームやってからな」
 そう言ったが早いか、光夜は新しいゲーム台へと向かっていった。

●意外な展開【9】
 さて、ゲームセンターを後にした2人は、聞き出した具体的な場所へ向かった。位置的には新市街の中程。バスで最寄りの場所まで行き、徒歩で移動していた。
「この辺りだろ?」
 周囲を見回す光夜。聞いた場所は、おおよそ今居る辺りであった。
「この辺りだよな」
 同じように周囲を見回す北斗。と、見付かった。ガードレールに巻かれた紅いリボンが。
「おい、あったぞ」
 北斗は光夜に知らせると、リボンの方へ駆け出した。そしてリボンのそばまで来ると、しげしげとそれを見つめた。
「……普通のリボンだよなあ。ぱっと見て、文字や刺繍がある訳でもなし」
「別に変な雰囲気も感じねーぜ? 嫌な感じもないし……どう見ても普通だよなぁ」
 視点は異なるが、光夜も北斗と同様の意見であった。普通のリボンのようなので、北斗はガードレールからリボンを外して調べてみた。
「普通だよなあ」
「普通じゃねーの?」
 本当に、正真正銘普通の市販の紅いリボンだった。首を傾げる2人。
「目印か?」
「だったら他にもあんのかな、北斗」
「いっちょ、調べてみるか?」
 リボンを巻き付けた犯人の目的が分からなくなった2人は、周辺を調べてみることにした。すると、別の場所にも同じ紅いリボンが見付かった。
「あ、あっちにもあるぞ!」
「追うぞ、光夜!」
 リボンを追ってゆく2人。そして角を2度ほど曲がった時だ。先を走っていた北斗が、急に足を止めた。後を追った光夜が北斗にぶつかった。
「うわっぷ! 何だよ北斗、急に止まんな……!」
「……おい、見ろ」
 すっと前方を指差す北斗。光夜はひょいと顔を出して前方を見た。
「何だあれ!?」
 驚きの声を発する光夜。目の前では、老婆がせっせとガードレールに紅いリボンを巻き付けていたのである。
 気配に気付いたのだろう、リボンを巻き付ける手を止めた老婆が2人の方に振り返った。その時、思いもよらないことが起こった。何と老婆が、ぼろぼろと泣き出したのだ。
「お……お……洋〜っ!! よかった、生きてたんだねぇ……」
 思わず顔を見合わせる2人。もちろん2人とも洋などという名前ではない。誰かと勘違いしているのだろうか。
「お婆ちゃん!!」
 2人が状況を飲み込めなくなり始めていた時、そこに高校生らしい少女が姿を見せた。少女は老婆に駆け寄ると、2人に対して頭を下げた。
「すみません、お婆ちゃんがご迷惑をおかけしたようで……」

●夏が来る【10】
 それから約1時間後、2人はファミレス『金澤亭』に居た。テーブルの上には注文したと思われる、ほうれん草を練り込んだ緑色の冷製パスタが2つ置かれていた。どちらもまだ手がついていない。
「何つーか……よく分からない事件だったよな」
 口を開いたのは北斗の方だった。頷く光夜。
「俺、そんなに洋ってヤツに似てんのかな。どう思う北斗?」
「俺、顔知らねーもん」
 何故このような会話が交わされているのか。それは、あの時やってきた老婆の孫娘から聞いた話が原因であった。
 老婆には洋という名の弟が居たのだが、戦時中の空襲で悲しいかな亡くしてしまったのである。それだけならよくある戦争の悲劇なのだが、ここにある事情が絡んでいた。
 老婆は、空襲があった時にはぐれても、弟がちゃんと逃げられるように、目印をつけて逃げるからと弟に約束していたのだ。
 だがしかし、実際に空襲が起こってみると、そんなことが出来るはずもなかった。途中までは何とか目印をつけることが出来たものの、逃げ惑う人々に巻き込まれて約束を果たすことが出来なかったのだ。
 途中で途切れてしまった目印。それゆえ、弟が生きて姉である老婆に会うことは出来なかった。
 それから60年近くが経った現在。老婆に痴呆の症状が見られるようになった。その結果、何の因果か老婆は戦時中の約束を思い出してしまい、時折あのような行動を取るようになったということである。今の老婆の中では、弟はまだ生きているのだから。
「夏……近いよなあ」
「近いしなぁ」
 北斗と光夜は窓の外を眺め、しみじみとつぶやいた。
 そして、夏はまた巡ってくる――。

●アサギテレビニュース【11A】
 その夜のアサギテレビニュースにて。
「本日午後3時21分頃に発生した地震についてのニュースです。冬美原では震度4を記録しましたが、周辺都市では揺れの観測はありませんでした。これは昨年の7月に発生した地震と同様の現象で、現在専門家による分析が行われております」
 それから地震のニュースは被害報告に移り、数名の怪我人は出たものの、火災などは発生しなかったということであった。
「では次のニュースです。本日午後9時頃、冬美原駅前で麻薬を販売していた男が逮捕されました。男は新種の麻薬を売り捌こうと……」

【噂を追って【4】 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
  / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト 】
【 0249 / 志神・みかね(しがみ・みかね)
                    / 女 / 15 / 学生 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0442 / 美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)
                   / 女 / 23 / モデル 】
【 0461 / 宮小路・皇騎(みやこうじ・こうき)
        / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師) 】
【 0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと)
                   / 男 / 17 / 高校生 】
【 0576 / 南宮寺・天音(なんぐうじ・あまね)
           / 女 / 16 / ギャンブラー(高校生) 】
【 1270 / 御崎・光夜(みさき・こうや)
              / 男 / 12 / 小学生(陰陽師) 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
/ 女 / 中学生? / 超高位次元生命体:アマチ・・・神さま!? 】


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■         ライター通信          ■
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・冬美原へようこそ。
・『東京怪談ウェブゲーム 界鏡線・冬美原』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全33場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・まず最初に、今回皆様のお手元に届くのが大変遅れてしまったことを深くお詫びいたします。本当に申し訳ありませんでした。
・さて、ちょっと特殊な依頼である『噂を追って』シリーズも第4回です。今回のお話で、冬美原で隠れていたいくつかの謎が解決に向かっていたり、表に出てきていたりします。一応、高原が念頭に置いていた展開もいくつかあったんですが、どうやらそれらを外れてまた違った展開に向かった模様です。これがやはりプレイングの妙と言うのでしょうか。
・今回のお話で、冬美原はまたターニングポイントを迎えました。この先冬美原は、どのように転がってゆくのでしょう。その流れを決めるのは、もちろんプレイングです。
・ちなみに今回、流れが変わってきたために情報封鎖はかけません。
・御崎光夜さん、初めましてですね。北斗さんとのやり取りは、何となく絵が浮かびますね。プレイング読んでそう思いました。ゲーセンの下り、高原は本文のように捉えたんですけれど、いかがだったでしょうか? 結末は少々せつない物でしたが。それから、OMCイラストをイメージの参考にさせていただきました。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。