コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


家に住むもの【解決編】


------<オープニング>--------------------------------------


 岩崎によってもたらされた密室殺人事件を解決すべく、草間武彦は南家を訪れた。
 被害者は南修司、62歳。鈍器で殴られたかして、頭蓋骨が陥没していた。殺人現場は鍵が閉められており密室だったという。修司は資産家で、金目当ての犯行であると思われているが、末期ガンで死期が近いことを全員が知っていた。
 調査の結果、妻の菊恵、次男の勝、長女和恵とその子供美恵にはアリバイがあり、遠方に住む長男博士にも犯行を行った可能性は低かった。
 南家には、3体の大きな妖怪がおり、1人は座敷童子で、美恵とよく一緒に遊んでいるらしい。もう一体は白蛇で、今まで眠っていた。最後に常に水を欲しがっている毛むくじゃらの妖怪がおり、これのせいで、南家は水気が少ない。
 和恵は家の中に妖怪がいることを容認しており、恐れもしていない。美恵は描こうとしていたコップに活けた花を毛むくじゃらの妖怪に取られていた。
 ヘルパーの貫田は書斎の掃除もしており、彼女しか合鍵を持っていなかった。だが、一番初めに部屋の入ったのは勝で、指紋は事件当時に付いたと考えられている分以外はほとんど残っていなかった。


 犯人は、3匹の妖怪なのか、菊恵と勝の共犯なのか、和恵なのか。
 動機は資産以外のところにあるのか。妖怪を我が物にするために犯行を行ったのか。
 凶器はカボチャか氷か。


「さてと、いい加減話してもらおうか。」
 草間の瞳がきらりと光った。
「犯人が分かったのか?!」
 喜びのあまり岩崎が草間に飛びついた。
「今からそれを聞きに行くんだろ。行くぞ。」
 草間の考えていたこととは……。


●家族構成は以下の通りです。(括弧の中身は年齢です。)

        修司(62) ┬ 菊恵(60)
博士(38)┬洋子(38) 勝(34)─智子(32) 和恵(33)┬邦彦(34)
   武士(14)                    美恵(8)


------------------------------------


●草間の考えていたことって?

 草間武彦は岩崎に頼んで居間に人を全員集めた。海原・みなも(うなばら・みなも)とシュライン・エマも空いているソファへと腰を下ろす。
「ここで事件を少し整理してみようか。」
 芝居がかった草間の様子に、全員が神妙な顔をしている。
「修司さんは余命幾ばくもないのに、何かで殴られて殺された。だが、全員にアリバイがある。俺たちも個人的に調べて、犯人を探していたんだが……。」
 草間はちらりとみなもとシュラインを見やった。
「犯人説は3つ。1つ、菊恵・勝の共犯説。2つ和恵。そして、3つ目が自殺だ。」
 それぞれ名前を呼ばれた人がびくっと身体を強張らせる。最後の言葉には、みなもとシュラインがはっと顔を上げた。
「抗癌剤や体調の不調で気が弱くなっていたってことも考えられますしね。」
「そうよね。ふと思ったのだけど、皆が自分の死を心待ちにしてる状態って、待たれてる本人としてはどんな気分なんだろう。」
 みなもとシュラインの何気なく零した科白に、全員が肩を落として顔を伏せる。
「でも、家族仲が特別悪かったわけじゃないものね。」
 シュラインが慌てて場を取り成した。
「これから犯行が可能かどうかを調べようと思うんで、手伝ってもらえないかな。」
 草間は南家の面々を見回した。



「菊恵さん・勝さん共犯説では、凶器は夕食のカボチャです。カボチャで殴りつけて修司さん殺し、毀れたカボチャを2人で回収して、料理として証拠隠滅したんです。菊恵さんは勝さんがリビングにいたといいましたけど、和恵さんが席を外している間は、お互いしかアリバイを保証する人はいませんからね。」
 みなもが自分の推理を説明した。
「和恵さんは美恵ちゃんの様子を見に行っていていなかったんですよね。どれくらい席を外していたんですか?」
「夕食を作っている最中でしたので、大して時間はかけてないと思います。多分、10分とか15分とかそれくらいだったと。」
 和恵がびくびくとそう答える。美恵にその証明をしてもらうにも、彼女は幼すぎて時間間隔など分からないだろう。
「10分で書斎まで行って修司さんを殺して帰って来れるかしら?」
「あのう……。」
 現場検証をしている背中に、菊恵が恐る恐る声をかけてくる。
「カボチャは一番先に料理してしまっていたんですけど……。」
「……つまり?」
 みなもが困惑げにシュラインを見上げた。
「和恵さんが席を外す前にカボチャは鍋の中にあったってことになるの?」
「はい。」
「……あっさり解決してしまいました。凶器がなければ、犯行は無理です。それに、10分では、鍵の開閉、特に閉めるのが出来ないと思うのですが。」
「鍵と言えば、貫田さんが合鍵を管理しているんじゃないか。彼女は怪しくないのか?」
 勝が勢いよくヘルパーの貫田を振り返った。貫田はのんびりと目を見張った。



●貫田さんって?

「身元ははっきりしているんじゃないの?」
 シュラインが心配そうに尋ねた。
「世話女房のような雰囲気だけど? えーと……独身ですか?」
「あらあら。いえいえ。」
 貫田は穏やかな姿勢を崩さない。一気に疑いの眼差しの濃くなった空気の中でも、平常のままだった。
「でも、合鍵を渡されるほど信用されてたんじゃないんですか?」
 どうしてこんなに険悪なムードになってしまうのか、みなもの方が驚いた。
「そういえば、私たちは貫田さんがいつからこの家に来てるのか知らないわ。」
「……そういえばそうね。」
 南家の面々はしきりに首を傾げている。貫田はぽやぽやとそんな人々を眺めていた。
「私は以前、修司さんに助けていただいた狸です。」
「…………えっ?!!」
 全員で驚愕の声を上げる。信じられない言葉に岩崎は意識が遠くなった。
「ぬきた……たぬき、か。」
「本当に妖怪屋敷ね……。」
 草間とシュラインが同時に溜息をついた。
「修司さんは、私の正体に気付いても、何も言わず世話をさせてくださったのです。よくしていただいた菊恵さん方にも感謝しています。でも、正体がばれたからには去らなければなりませんね。」
 貫田は寂しそうに微笑んだ。あまりのことに呆然としていて、彼女の言葉を聞いているものはいなかった。



 ようやく固まった空気が崩壊して、シュラインは我に返った。
「私は和恵さんが怪しいのだと思うのだけど。」
 シュラインの推理へと移る。
「凶器は大きめの氷。鈍器の代りになるし、氷なら溶ければ毛むくじゃらの妖怪が水を持ち去って、凶器は残らないわ。その妖怪の存在を知っていた和恵さんが怪しいと思うの。それに、和恵さんは美恵ちゃんが花を描いていたと言い切っていたけど、実際に絵はなかったし。それって、実際には絵を描いているところを見に行ってなかったってことよね。」
「花の絵がないですって?!」
 驚いた和恵が美恵を振り返る。美恵は怯えたように身体を縮こまらせた。
「またあの子と遊んでいたのね。」
「ごめんなさい、ママ!」
 美恵は半泣きになって謝っている。
「あの子? あの座敷童子のことですか?」
「知っているのですか?」
 みなもの問いに和恵が目を見開く。
「美恵ちゃんともよく遊んでいるのよね?」
 シュラインが頭を撫でてやると、美恵は和恵を窺いながらも頷いた。



●花はどこへ行ったの?

「あれは欲しいって言われたからあげたの。」
 美恵が恐る恐る口を開いた。
「毛むくじゃらの奴に花が取られたんだったわよね?」
「そう。だから、絵はあの子にあげたの。代わりに。」
 どうやら、美恵は、毛むくじゃらの妖怪に花を奪われたので、代わりに花の絵を座敷童子にあげたようだ。
「だったら花はどこに行ったのかしら? 毛むくじゃらの奴は水だけが欲しかったんでしょ?」
 それならば、持っていくのはコップだけでいいはずだ。
「家の敷地内とかに落ちてないかしらね。」
「部屋中見て回りましたけど、なかったですよね。」
 みなもも首を傾げている。美恵はそれを遮った。
「花は食べられちゃったって。」
「誰に?」
「蛇さんに。お腹が空いてたんだって。食べられちゃったみたい。」
「……座敷童子さんとお話が出来るのですか?」
 美恵の様子からそう結論付けて、みなもが美恵を覗き込む。
「うん。美恵しか見えないの。だから、ママがダメって怒るの。」
「わけも分からずに、そんなものと関わりを持たないで欲しかっただけですわ。」
 和恵が恥ずかしそうに言う。外でこんな話をされたら、確かに何を言われるか分かったものではなかった。
「じゃあこういうことか。空腹で水を求めている毛むくじゃらの妖怪がコップの水を奪ったときに一緒に花も盗ってしまった。でも、花は座敷童子が欲しがっていた。座敷童子は怒って毛むくじゃらの妖怪を追いかけて、揉み合いにでもなったと。で、その現場に白蛇が鉢合わせて、花を食べてしまったってことか。」
 草間が完結にまとめてみる。想像したらすごい状況だ。妖怪大戦みたいだなと、ぼんやり思ってみたりした。
「白蛇の奴は寝てたんじゃなかったのか?!」
 岩崎が喚く。妖怪が話に上るたびに、目を見開いて喚いている。まるで妖怪アレルギーのようだ。
「なんで花を食べるために目覚めたりするんだ! 非常識だろ!!」
「結局、実際に絵は描いていたってことね。」
 シュラインが岩崎を無視して、結論を導き出した。



 2人の推理が行き詰まり、場には沈黙が落ちていた。煙草を吸おうとして取り出した草間だったが、依頼された身分として相応しくないことに気付いて元に戻した。
「ことごとく犯人説が否定されているな。最後に自殺説はどうだ?」
「氷に向かって椅子からダイブして殺人に見せかけた、とかですか?」
 みなもは自分で言いながら、その滑稽な姿に失笑しかける。
「妖怪たちに自殺を手伝ってもらってことはないかしら?」
 シュラインは、自分でも無理なことを言っているな、という自覚があった。しかし、これ以上何も考え付かない。
 困惑したように溜息が漏れた。



●結局犯人は誰?

「ふと思ったんだが、美恵の花の絵はどこに行ったんだ?」
「だから座敷童子にあげたって言ってたじゃないの。」
「でも、その絵がふらふらと動いているところは見たことがないだろう?」
「……それはそうね。何かあるの?」
 紙が宙に浮いたまま移動しているのを見たら、岩崎など卒倒するだろうなとシュラインは思った。
「もしかしたら、こっちの世界とあっちの世界を繋ぐ境界線みたいなものがあるんじゃないか?」
「どういう意味だ? 草間。」
 聞きたくないと顔を顰めながら、岩崎が尋ねる。
「絵を座敷童子が貰うと、あっちの世界のものになってこっちの世界にいる俺たちには見えなくなるんじゃないかと思うんだ。だから、もしかしたら盗られた花も、誰かが手に入れた時点で存在が希薄になる。」
「待ってください。もしかしたら、境界があるのではなくて、あちらの人がこちらの世界に実体化するのかもしれません。そして、手にしたものと一緒に消えてしまうんです。」
 みなもが目を輝かせて、ぱんと手を打った。
「もしそうならば、白蛇が実体化して花を盗ったってことよね。」
「そして、こちらの世界の物理法則に従っているとしたら……たまたま、その下に修司さんがいたとしたら?」
 はっと息を呑む音が聞こえてくる。
「でも、証拠がありません。あくまでも可能性でしかないですね。」
 みなもは残念そうに、南家の面々を振り返った。彼らは一様に呆然としている。
「ど、どうしたんですか?」
 驚いて声をかけると、勝が呟いた。
「……そうか。そんなことも昔あったな……。」
「あのときは本当に驚いたものね。博士兄さんはあれから絶対に家を出て行ってやるって決めていたし。」
「かなり危険視していたのに、いままですっかり忘れていたわね。」
「何のこと?」
 次々と語られる言葉に、シュラインが痺れを切らして口を挟んだ。
「かつて同じようなことがあったんですよ。白蛇が上空から落ちてくるっていう事件が。そのときは辛うじて被害はなかったんですが、人の上に落ちたら大変だって冷や汗かいた覚えがあったんです。」
「ということは、白蛇が犯人ということになるな。」
 極めて冷静に草間は導き出される結論を述べた。
「……そういうことなの??」
「それが真実ですか?!」
 シュラインとみなもは素っ頓狂な声を上げた。こんな解決があっていいものだろうか。
「やっぱり俺の言ったとおり、妖怪たちが結託してたんじゃないか!!」
「結託とはちょっと違うがな。」
 岩崎の推理が当たっていたことがなんだか釈然としない草間だった。



 南修司殺人事件は公には病死と発表された。
 岩崎が無謀にも頑張ったようだが、白蛇を逮捕することは出来なかった。
 公的には迷宮入りとして幕を閉じたのだった。


 *END*


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも) / 女 / 13歳 / 中学生】
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
(受注順で並んでいます。)

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

こんにちは、龍牙 凌です。
この依頼に参加していただき、本当にありがとうございます。
納期ぎりぎりになってしまい、申し訳ありませんでした。
さて、この事件はかなり難しかったようで、みなさん泣いていましたね。
貫田さん→ぬきた→たぬき、と分かられると面白かったと思います。
結局は白蛇が犯人ということで、岩崎が正解だったということになりますね。
いろいろと不備もあったかと思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またの機会にお会いしましょう。