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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:那須高原の死闘  〜吸血奇譚〜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

 草原を風が渡る。
 血の匂いを含んだ風。
 那須高原。
 風光明媚なこの地は、幾度か激戦の舞台になった。
 進取の陣営と旧守の陣営の間に。
 狩るものと護るものの間に。
 因縁の地と評すれば、やや語弊があるだろうか。
「だとしても、こう騒がしいのはご勘弁願いたいものですね」
 女性が告げた。
 金色の髪が狂風に踊っている。
「我らの同志にならぬというのか?」
 スリーピースに身を包んだ男が言う。
「かつてお前を逐い、倒したのは人間ではないか」
「それでも、私は人間が好きですから」
「どうあっても?」
「はい。どうあっても」
 玉ちゃんと自称する美女が笑顔を浮かべた。
「そうか。では滅びるがよい」
「その言葉。そっくりそのままお返ししましょう」
 辛辣な台詞が応酬される。
 次の瞬間。
 交錯する美女と男。
 速い。
 普通の人間であれば、影すらも視認できなかっただろう。
「くぁっ!?」
 悲鳴を発した玉ちゃんが、二度三度と地面をバウンドし立木に叩きつけられた。
 肋骨の折れる音が響く。
「遅いな‥‥力の大半を失ったお前など、所詮この程度か」
 むしろ哀れむような口調。
 男が近寄ってくる。
 もったいぶった死神のように。
 その手が振り上がり‥‥振り下ろされなかった。
 轟く銃声。
 撃ち抜かれた肩を押さえて飛びさがる男。
「ハンターからのガードだったはずだが。とんでもない大物が釣れたな」
 飄々とした声が風に流れる。
 サングラスをかけた青年が、玉ちゃんを護るように現れていた。
「サトルさん‥‥」
「よ。立てるかい? 玉ちゃん」
「ありがとうございます‥‥」
「礼は危地を越えてからの方が良いと思うぜ」
「すっかり囲まれてますね‥‥」
 よろよろと玉ちゃんが立ちあがる。
 サトルと呼ばれた青年がにやりと笑った。
「ひとりあたま二〇。余裕だろ?」
「ええ。余裕ですね‥‥相手にとって」
「草間のバカと警視庁に救援を求めたさ。到着まであと三〇分ってところだ」
「それまで保てば良いですけど‥‥」
「弱気は禁物。いくぜ」
 青年がサングラスを投げ捨て、
「はい」
 美女の両手に青白い炎が灯った。
「殺れ」
 スリーピースの男が命を下す。
 怪鳥のような声を発し、獣人と戦乙女と術者どもが草むらから飛び出した。





※吸血奇譚です。
※バトルシナリオです。
 敗北すると、玉ちゃんとサトルが死亡します。
 推理の要素はないです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。


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那須高原の死闘

 なぜ、人と魔は共存できぬのであろう。
 魔にとって、人は餌でしかないから?
 人にとって、魔は脅威だから?
 本当にこのふたつが相容れぬものだとしたら、自分の存在は何なのだろう。
 と、斎悠也は思う。
 魔族の父と人間の母をもったハーフデーモン。
 協調の証?
 それとも、呪われた「あいのこ」?
 そうかもしれない。
 人間同士ですら、ハーフは忌まれ嫌われる。
 まして、人と魔の間に生まれた子など‥‥。
 魔族にもなりきれず。
 人間に徹することもできず。
「俺は、サトルさんに会うまで一人でした。二一年生きて、初めて見つけた同胞です。死なせません。絶対に」
 倒れ伏す男に語りかける。
 那須高原。
 連絡を受けた怪奇探偵の仲間たちのなかで、彼だけがいちはやく戦場に到達していた。
 むろん理由がある。
 魔族の特殊能力である転移術。
 斎自身が嫌っている魔族のチカラ。
 だが、友を救うためなら使用を躊躇う理由はなかった。
 たとえ、魔の眷属だということを他人に知られたとしても。
「しっかりしてください‥‥」
 二一歳年長の、だが若者にしか見えない男の身体を抱き。
「俺のチカラをお分けします」
 口づけ。
 大学生ホストは男色家ではない。
 こうして魔力を分け与えているのだ。
「ばかやろう‥‥」
 弱々しい声が鼓膜を打つ。
「命の恩人に、それはないでしょう?」
 青ざめた顔で微笑する斎。
 魔力とは、魔族の根元的なエネルギーだ。
 それを他人に分け与えたりしたら。
「自分の寿命を縮ませてまで‥‥」
「俺たちは長命種じゃないですか‥‥一〇年や二〇年‥‥どうってことありませんよ」
「ばかやろう‥‥」
 ふたたび言って、サトルが立ちあがる。
 足取りに不安定なところはない。
「だが、いまは玉ちゃんだ。俺がやられちまった分、彼女に負担がかかっている」
 駆ける。
「判ってます」
 金色の瞳を輝かせ、斎が続いた。


 少しずつ。
 少しずつ追いつめられてゆく。
 荒い呼吸を吐きながら、玉ちゃんは戦乙女と亜人の混成部隊を見つめた。
 全力で戦い続けて、倒した数は五体。
 彼女の戦闘力を考えれば、これはほとんど戦果をあげていないといって良いほどだ。
「ちゃんと指揮統率された敵と戦うのは‥‥骨が折れます‥‥」
 呟く。
 纏った戦装束は破れ、綻び、防具としての役を果たさない。
 もはや新しい防具を「作り出す」余力は、なかった。
 身体の各所から血が吹き出し、立っていることも容易ではない。
「もう‥‥ダメかもしれませんね‥‥さようならです。私の可愛い櫻姫‥‥」
 幾百年の時を経て再会した妹分に別れを告げる。
 軽く目を閉じた玉ちゃんの目前に魔力の槍が迫り、
「姉さまを死なせたりするものですか」
 流麗の声が響く。
 瞬間。
 何処からか現れる金色の狐。
 一投足で槍を弾く。
「櫻姫‥‥」
「お待たせいたしました。姉さま」
 さっと人間の姿に変わる妖狐。
 草壁さくらという。
 流れるような金髪が月光を照り返す。
「‥‥意外と‥‥速かったですね‥‥」
 弱々しく冗談を飛ばす玉ちゃん。
 そして、そのままがっくりと膝をつく。
 蓄積されたダメージと安堵で、緊張の糸が切れたのだろう。
 助け起ながら、さくらが、
「サトルさまと合流します。あちらには悠也さまが行っていますから」
 と、言った。
 通常の移動手段しか持たない興信所メンバーのうち、さくらが最も速く戦場に到着したのには、むろん理由がある。
 栃木県にはいると同時に本来の姿に戻り、全力疾走したのだ。
 伝説にすら名を残す妖狐の速駆けである。
 高速移動形態とったさくらは、わずか数分で那須高原にたどり着いた。
 人前で変化術を用いることには躊躇いがあったものの、この場合は一刻一秒を争う。
 迷っている時間はなかった。
 まあ、栃木県にまたひとつ妖狐伝説がプラスされるかもしれないが、それは後日の悩みとしておくしかない。
「じきに、ほかのお仲間が到着します」
「わかりました‥‥」
 玉ちゃんを抱えて大きく跳ぶさくら。
 斎と、魔力を回復したサトルのもとへ。
 これで四人。
 戦力は一気に倍になった。
 とはいえ、相変わらず不利は覆っていない。
 敵の数はまだ圧倒的に多いし、玉ちゃんのダメージもいきなり回復というわけにはいかないからだ。
 だが、
「ここから先は‥‥」
「一歩たりとも通しません!!」
 斎とさくらが構える。
 闇に踊る狐火。
 乱れ舞う紅の蝶。
 不退転の決意で敵を翻弄する。
 もちろん、戦力差からいって殲滅など不可能だ。
 あくまで牽制と時間稼ぎが目的である。
 超人的な能力を持つ二人だが、それに溺れるほど愚かではない。
 突出しては各個撃破の対象になるだけ。
 それを充分以上に心得ている。
 敵もまた超人なのだから。
 たとえば、さくらや玉ちゃんのような妖狐は、カテゴリとしては亜人に属する。
 ワーウルフやキャットピープルと同じである。
 斎やサトルなどのハーフデーモンは、ヴァンパイアロードと同じ闇の眷属だ。
 そして純血でない分、能力では大きく水を空けられているだろう。
 ふたりで協力して、なんとかドラキュラと互角に戦えるかどうか、というところである。
 だからこそ、勝つためではなく負けないための戦術で戦う。
 それしか、ないのだ。
 次々と撃墜される紅の蝶。
 やったのは、おそらく七条燕だ。
「ふふ‥‥まだまだ符はたくさんありますよ‥‥」
 降り注ぐ攻撃のなか。
 無数の傷を負いながら、斎が凄絶な微笑を浮かべた。


 轟音。
 突進する単車。
 襲い来る術をものともせず。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
 エンジンオンを掻き消すほどの唸りをあげた守崎啓斗が、一直線に敵陣を突破し、ヴァンパイアロードめがけて突っ込む。
 特攻か?
 こうるさげに、無造作に受け止めるドラキャラ。
 二五〇CCの排気量を持つ『カタナ』を。
 とてつもない膂力だった。
「‥‥また小僧か‥‥浅はかなことを」
「浅はかなのは、てめぇだ!!」
 座席から上空へと飛んだ啓斗が、何かを投げつけた。
 ドラキュラにではない。
 もしそうであれば、易々と回避されていたことだろう。
 彼が狙ったのは、乗ってきた『カタナ』だ。
 狙いは燃料タンク。
 投げつけたのは炸裂玉。
 一瞬の身もだえの後、バイクが大爆発を起こす。
 ドラキャラと周囲の亜人を巻き込んで。
 草間武彦やシュライン・エマが見たら卒倒しそうな光景だった。
 貴重な社用車を爆弾として利用するとは。
「シュラ姐には‥‥あとで説教されるだろうな‥‥」
 爆風を利用して大きくうしろに跳んだ啓斗が、やや暗然と考える。
 だが、説教を受けたとしてもこれでヴァンパイアロードを倒せたなら採算は大きな黒字だ。
「やったか‥‥」
 油断なく忍者刀を構え、呟く。
「ああ‥‥見事にやってくれたな。小僧」
 声は背後から聞こえた。
 無言のまま、啓斗が振り向きざまの一撃を放つ。
 がっと握られる刀身。
「ばかな‥‥」
 呻き。
 刃には神社で貰った若水が振りかけてある。
 闇を断つ聖水だ。
 どうして握ることができる!?
「伝説に惑わされたか? 我らは太古の昔よりこの惑星にある。なぜ、たかだか数千年の歴史しかもたぬ『新興宗教』のホーリーアイテムなど恐れねばならぬ?」
 ドラキュラが嘲笑した。
 キリスト教も仏教も日本神道も、このモンスターは新興宗教の一言で切り捨てたのだ。
「くそっ!」
 不安定な体勢のまま回し蹴りを放つ啓斗。
 瞬間。
「ぐあ!?」
 腹部に走る衝撃。
 肋骨の折れる音。
 右手からこぼれ落ちる刀。
 少年が膝から崩れる。
「この程度でダウンとは、あまり失望させてくれるなよ。小僧」
 茶色い髪を鷲掴みにされ、引きずり起こされる。
「ぐ‥‥」
「我が眷属に加えてやろうか?」
「だれが‥‥てめぇの‥‥仲間なんかになるかよ‥‥」
「くくく‥‥小僧の意志など問題ではないがな」
 ヴァンパイアロードが口を大きく開く。
 異様に肥大化した犬歯が、ぬらりと輝いた。
 吸血だ。
 これによって、ヴァンパイアは味方を増やすのだ。
 牙が啓斗の首筋に迫る。
「や‥‥めろ‥‥」
 最後の抵抗を試みる少年。
 むろん、効果などなかった。
 ダメか‥‥。
 絶望の黒い染みが全身を蚕食してゆく。
 弟や親しい人々に心の中で別れを告げる。
 だが、救いの手は意外な方向から差しのべられた。
 巨大な体躯がヴァンパイアロードに襲いかかり引き倒す。
 ワーウルフだ。
 しかも、とても生きているようには見えない。
 おそらくバイクの爆発に巻き込まれて死んだ亜人だろう。
 だが、なぜそんなものが動いて自分を助けるのだ?
 疑問を胸中に抱いたまま、飛び退がる啓斗。
 着地と同時に骨折の痛みが襲い、ふたたび倒れそうになる。
 だが、またしても少年は地面と接吻せずに済んだ。
「まったく‥‥無茶ばっかりして」
 抱き留める手。
 鼓膜を揺らす優しさを含んだ皮肉な声。
「シュラ姐‥‥」
「壊したバイクの代金は、働いて返してもらうからね」
 シュラインが言う。
「わかったよ‥‥」
 啓斗が苦笑を浮かべた。
 激戦の渦中にあって、ずいぶん日常的な話だ、と。


 啓斗に遅れること数分。
 シュライン、武神一樹、巫聖羅が到着した。
 これで八名。
 数の上ではまだまだ敵に及ばないものの、全戦力が揃った。
「‥‥兵力を逐次投入してしまった。まずい戦いだな」
 調停者という異名を持つ武神が不敵に笑う。
「ここから逆転すれば良いだけだよ」
 冷然と戦場を見つめたまま、聖羅が言った。
 死者の数が、すなわち彼女の戦力である。
 反魂屋。
 それが聖羅の異称であった。
 さきほどヴァンパイアロードに組み付いたワーウルフも、彼女が操っていたのだ。
「なるほど‥‥アンデッドテイマーか。面白い芸だな」
「そりゃどうも」
 起きあがったドラキャラを睨みつける聖羅。
 頬を冷たい汗が伝う。
 なぜかワーウルフゾンビは動きを止めてしまっていた。
「不思議か? 小娘」
「説明してくれるってわけ? 親切な事ね」
「ふふ‥‥貴様の支配力を我が支配力が上回っている。ただそれだけのことだが、滅多に見られる光景ではなかろう」
「べつに見たいとも思わないわね」
 聖羅の軽口は、だが欺瞞だった。
 深刻な恐怖のようなものを、いま彼女は感じている。
 触れてはいけない領域に踏み込んでしまったような、そんな感覚だ。
「灰は灰に。塵は塵に」
 ドラキュラの言葉に応じて、無害な土塊と化すアンデッドウォーリアたち。
「その呪文は‥‥」
「キリスト教徒たちが好んで使う呪法だ。我が使えてもおかしくはあるまい」
 それだけ研究を重ねてきた、ということなのだろう。
「じゃあ、これはどうかしら?」
 シュラインが麻酔銃を撃つ。
 ただし、入っている薬剤は麻酔薬ではなく血清だ。
 札幌で手に入れたハンターたちの薬である。
 敵を倒すために、ぺつの敵の技術を利用する。
 浅ましいことだととは思うが、そもそも共闘とはそういうことだ。
「さっそく戦訓を取り入れたか‥‥頭の切れる娘だ」
 針をかわして大きく飛びさがるヴァンパイアロード。
 一見しただけで危険さに気がついたのだ。
 もちろん、シュラインは追撃しなかった。
「一樹さん」
 仲間に声をかける。
 軽く頷いた調停者が斎やさくらと合流をはかった。
 ほとんど遭遇戦ていって良いこの戦いに戦略的な意味は少ない。
 少なくとも敵にとっては。
 玉ちゃんさえ安全圏に置くことができれば、敵がここに留まる理由もなくなるのだ。
 このあたりの戦略眼はさすが調停者、というところだろう。
「一樹さま。助かります‥‥」
「そろそろ援軍が欲しいところでした」
 さくらと斎があえぐように言った。
 仲間が到着するまで、ずっと戦い続けていたのである。
 疲労しない方がおかしい。
 玉ちゃんと啓斗が骨折の重傷。サトルとさくらと斎は無数の軽傷を負っているが、まだ戦闘力が尽きたわけではない。無傷なのがシュラインと聖羅と武神。
 あまり戦況は良くないが、敵もダメージが大きい。
 数十メートルの距離をおいて対峙するヴァンパイアロードの軍勢は、もう亜人が数人と術者が一〇名程ずつ残っているだけだ。
 半数の損害を出しているということである。
 まともな戦略眼をもつものなら、退きどきだということが判るだろう。
 このまま戦っても双方ともに損害が増すばかりだ。
「‥‥物理魔法を使わないのね」
 シュラインが言う。
 むしろ確認に近い口調だった。
 ヴァンパイアロードは答えない。
 何かと饒舌なこのモンスターが口を閉ざしたことで、青い瞳の美女は解答を得た。
「リンクを張り続けないと使えないわけね」
 結局、古来からの血による束縛。ウィルスによる支配に違いはないということだ。
「お山の大将になりたいだけじゃない」
 言葉は辛辣を極める。
「小娘に‥‥我が一族の苦しみが」
「判るわけないわよ。私は人間だもの。でもね、人間じゃない友達もたくさんいるわ」
 シュラインの言葉に、さくら、斎、玉ちゃん、サトルが背筋を伸ばす。
「もちろん、人間の友もいる」
 横に並んだ武神が言った。
 啓斗と聖羅が頷く。
 人と魔族は共存できる。
 双方が歩み寄り、互いに敬意をもてば。
 それは可能なことなのだ。
 だが、戦い続ける限り憎しみの連鎖は断ち切れない。
「もうやめろ。ヴァンパイアロード」
「武神一樹‥‥調停者の一族よ。貴様らはいつもそうだ。いつもしたり顔で介入し、自分だけが正しいように振る舞う」
「‥‥‥‥」
「超越者気取りでな。だが、貴様らの調停など日和見だ。中途半端に双方を妥協させ、結果として関係者全員に不満を抱かせている」
「‥‥言いたいことは、それだけか?」
「怒ったか? 我の力を封じるか? お得意の封印術で」
「布留部由良由良布留部‥‥」
 もはやヴァンパイアロードの軽口に戯言に付き合うことなく、武神が詠唱を開始する。
 力を頼むものは、最終的に力しか信用しない。
 条理をもって解いても無益な相手というものが存在するのだ。
「十種の神法か。だがそれも無駄だ」
 ドラキュラの両眼が紅く光り、彼を束縛しようとする結界を吹き散らす。
 これで慌てるようであれば、武神にも可愛げがあるだろう。
 しかし、調停者はそれほど純粋でもウブでもなかった。
 吸血鬼が護り手たちの能力を研究してきたことは判っている。
 武神の能力についても対抗策を講じていても不思議ではない。
 だからこそ、
「やはり、これの出番か」
 落ち着き払って懐から何かを取り出す。
 敵の知らない道具。
『十種の神宝』だ。
 と、ヴァンパイアロードが動いた。
 後方に向かって。
 逃げを打ったのだ。彼の軍勢もまた、整然と退却を始める。
「くっ!」
 すぐさま聖羅が追撃態勢を取る。
 が、
「やめるんだ‥‥聖羅」
 その肩を啓斗が掴んだ。
「追っても逆撃を受けるだけだ‥‥」
「そうね。玉ちゃんを守り切れただけでもよしとしなきゃ」
 シュラインも頷いている。
「セ・ラ・ゲール」
 吹き抜ける風に乗ってドラキュラの声が響き渡った。
 あるものはぞっとしたように首をすくめ。
 あるものは暗然と頭を振る。
「これは戦争だ、ですか‥‥」
 フランス語の知識のある斎が、ぽつりと呟いた。
 月が、冷たい光を地上に投げかけている。











                         終わり


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0173/ 武神・一樹    /男  / 30 / 骨董屋『櫻月堂』店主
  (たけがみ・かずき)
1087/ 巫・聖羅     /女  / 17 / 高校生 反魂屋
  (かんなぎ・せいら)
0134/ 草壁・さくら   /女  /999 / 骨董屋『櫻月堂』店員
  (くさかべ・さくら)
0164/ 斎・悠也     /男  / 21 / 大学生 ホスト
  (いつき・ゆうや)
0554/ 守崎・啓斗    /男  / 17 / 高校生
  (もりさき・けいと)

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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
「那須高原の死闘」お届けいたします。
これで、吸血奇譚の前哨戦は終わりです。
本格的な戦いは、よりスリリングで危険なものになる予定です。
死なないでくださいね☆
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることを祈って。