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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


口裂け女からのお願い

●オープニング
「へぇー。何だか凄いというか、面白そうというか、本当かな、という微妙な書き込みだねっ♪」
 いつものように、雫が掲示板をチェックしていると、興味を惹かれた書き込みがあった。
『私は口裂け女です。毎年、この時期になると人を驚かしているのですが、ここ数年スランプです。
 誰も驚いてくれないのです。
 最近はもっと怖い話があったりして、怖さに対する耐性が普通の人にできたのかも‥‥。
 それとも、もしかして、私、舐められてるΣ( ̄□ ̄;)!?
 そんなこんなで、再び人に驚かれるよう、誰か私の仕事を手伝って頂けないでしょうか?』
「口裂け女って、マスクしていて、『私、きれい?』と聞く妖怪だよね‥‥」
 まぁ、最近では滅多に聞かない話だ。
 ゴーストネットでも、余りにも古すぎて誰にも相手にされない。
「誰か手伝ってくれないかな? 何だか可哀想‥‥」
 雫は、その場にいた知人達にお願いしたのであった。

●口裂け女とホラー映画
「口裂け女? 最近あまり聞かないねえ」
 教えられた掲示板の書き込みを見て、藤井葛は興味をひいて、呟いた。
「そうなの? みあおは‥‥そんな昔の話自体知らないから」
 海原みあおが、何気なく呟いた言葉が、何だかグサリと胸に刺さった。
 ちょっと世代差を感じつつ、自分はまだ22だし、お肌の曲がり角はまだまだ先なんだ!と、何とか立ち直る。
「‥‥ま、まあ、最近はゲームでもゾンビがわらわら襲ってきたり何でもありだからね。ただ驚かすだけだとちょっと地味なのかもしれないな」
 ふと、思う、葛。
(「っていうか、口裂け女って逃げようとするとものすごい勢いで走ってきて殺されるっていう話を聞いたんだけど‥‥。あれはデマなのか?」)
 カタカタとキーボードを叩き、『口裂け女』をキーワードに検索してみる。
「殺すのはともかく、ものすごいスピードで追いかけるだけでも違うと思うんだが」
「え?」
 独り言が言葉になって出てしまったらしい。みあおが不思議そうに葛を見る。
「あぁ、口裂け女について、俺の認識が不安になったから調べているところだ」
 苦笑して説明すると、みおもは納得して「みあもも知りたい!」と、ディスプレイを一緒になって覗く。
 丁度、『おばけ図鑑』という、子供向けのサイトが検索に引っかかり、そのページを開いてみる。
 口裂け女――1970年代末から80年代初頭にかけ、日本全国に現れたお化け。大きなマスクをしており、「私、きれい?」と尋ねてくる。
 どのように答えても、そのマスクを外して、耳まで裂けた口を見せる。そして、逃げても驚異的な速度で追いかけてくる。手には 包丁、ナイフ、斧、かみそりなどの刃物を持って襲うと言うが、一般的には鎌で落ち着いているようだ。
 他にも色々とあったが、極個人的な見解だったり、面白がって適当に話をつけているのばかりだったので、無視する。
「葛の言った通りだったねー」
「うむ、そうだったな。‥‥まぁ、今ちょうど暇だし手伝うか」
 簡単に、口裂け女が書いた記事にレスをつける。
「とりあえず、ここに来るように‥‥と。場所も書いて‥‥」
 後は口裂け女が来るのを待つだけだ。
 その間に、みなもは近くのレンタルビデオショップに駆け込む。
「口裂け女も大変なんだなぁ。うん、みあおもがんばるっ!」
 まずは本人が口裂け女自体を知らなければならないし、他の幽霊の脅かし方も研究した方がいいだろう。手ごろなDVDソフトを見繕う。これならネットカフェのパソコンで見る事ができるだろう。
 みあおが戻ると、席には葛の他に女性が一人いた。腰まである黒髪に、赤いコート。口には大きなマスク。先程見たおばけ図鑑に載っていた外見と同じ、二十代の女性だ。
「みあお、こちらが当の『口裂け女』さんだ」
「は、はじめましてっ。口裂け女の紺夕真(コン・ユウマ)と申します!」
 緊張したかのように、女性は自己紹介すると、ぺこり、と、お辞儀した。みあもも、丁寧に自分も名乗って、お辞儀をする。
「さて、どうする?」
 面白そうに二人を見て、葛はみあもが借りてきたDVDのラベルを眺める。
「まず、これをクリアするの!」
「『14日の木曜日』に、『エゴイスト』‥‥ホラー映画の定番だな」
「こんなのもあるよっ!」
「‥‥『山羊たちの沈黙』‥‥これは、サイコ・ホラーだ」
「じゃぁ、これは?」
「『Ghost 〜あの世の恋人〜』‥‥あ、これ。俺、好きなんだ‥‥って、これは恋愛映画!」
 そんなやり取りをしている二人の様子に、口裂け女の夕真は不安そうに見る。
 その様子に気づき、みあおが逃げられる(?)前に、慌てて「じゃぁ、見よう!」と、DVDをパソコンのトレイに入れた。
「あの‥‥こんな事して、よくなるのですか?」
「力押しだな」
「ま、多少は強引に押し切ろうっ! 沢山見て、研究するの‥‥って怖がらないでね。お化けが怖がったら引退だよ」
 ディスプレイに映し出された恐ろしい形相をしたお化けを見て、逃げ腰になった夕真の腕を引っ張る、みあも。
 次々とDVDを見続けて、逃げる夕真を取り押さえて無理矢理見せるが、その顔は恐怖で満ちていた。
「やれやれ。まぁ‥‥暇潰しにはなるな」

●口裂け女とゴーストハウス
「次は実践かな?」
 足腰立たなくなった夕真を、葛と二人がかりで引き摺ってみあおが目指す先は、最近池袋にできたお化け屋敷。
「とりあえず、自信をつけるためにも、程ほど怖がりそうなところで経験をつけるんだよ」
「あ、ここ、知ってる。近代技術の粋を生かせて、よりリアルに恐怖を体験できる噂のゴーストハウスじゃねぇか」
「ちょちょちょちょちょちょっと待ってください! それって、『程ほど』ではなくて、かなり怖いんじゃぁ!?」
 嫌がる夕真を強引に連行し、二人はゴーストハウスの中に入る。
「結構人気だから、一度は来てみたかったんだよな」
「みあおもーっ♪」
 結局、単に自分が来たかっただけではないか、と思ったが、それを口に出すとこの暗闇の中を放っておかれそうなので心の中にしまう、口裂け女であった。

 頭に釘を生やしたモンスターが、三人に襲いかかって来る。
「きゃーきゃーきゃーっ!」
「うるさい」
 立ち並ぶ棺桶の列から、次々とミイラが姿を現す。
「いやーっ! 助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! おうちに帰るーっ!」
「やかましい」
 アクションが起こるごとに叫ぶ夕真を、その都度頭を殴って黙らせるのは、葛。
 みあおの霊羽で霊気と存在感を水増ししているので、リアルな恐怖が尚更増しているはずなのだが、葛は平然と意識を半ば失っている夕真を引き摺っている。
「‥‥それにしても、葛、凄いね」
「そうか? 度胸の違いじゃないのか?」
 いや、きっと夕真の方が一般的な反応なのだろう。霊羽の効力で通常の倍程度に恐怖を感じるはずなのだから。
 それにしても、今までこんな使い方をした事がなかったが、結構うまくいっているようだ。遠くに聞こえる他の客の悲鳴が、それを示している。
 ちょっとだけ同情するが、これも夕真の為なのだ。
「今度はこっちが驚かす番だよ。‥‥って、生きてる?」
 みあおが尋ねると、夕真は弱々しく「何とか‥‥」と、答えた。
「みあおの霊羽による増強が切れるまでに、ちゃっちゃとやっちゃおう!」
 そう、それまでに、この口裂け女に自信をつけさせなければ。元気よく、へたり込んでいる夕真を立ち上がらせた。
「あと、普通に出るのもインパクトがないなぁ。もっとアクロバティックに出現しないとな」
 ふと思いついて、ゴーストハウスの備品を身軽に飛び回る、葛。
「さ、やってみろ」
 みあおは、「これならみんな、驚くね」と、笑顔を見せているが、夕真はぷるぷると、頭を横に何度も振る。
「そんなの、できません! 人間業じゃないです!」
「いや、夕真は人間じゃないだろ」
 当たり前のツッコミにめげず、それでも夕真はやりたがらない。
 仕方なく、一番高い備品の上に登らせ、自分もその隣に立つ。
「ここから飛び降りるだけでも充分インパクトあるだろう。やや派手さに欠けるが、仕方ない」
 丁度、折り良く一組のアベックが通りがかった。
「ほら」
「だ、だめです。高くて足が震えてしまって‥‥」
 葛の身体にしがみつく夕真を、呆れて見る。溜息を吐くと、問答無用で蹴り落とした。
「きゃぁぁぁぁぁぁーっ!」
 ペシャッ。
 軽い音と共に、顔面から床に激突する、夕真。
「た、たずけて‥‥」
 救いを求めて、アベックに顔を上げて手を伸ばすが、夕真の顔からマスクが外れていた。血塗れの口裂け女が救いを求める手を伸べても、恐怖には違いない。
 アベックは、絶大な叫び声をあげると、互いを押しのけながら逃げて行った。
「一応、成功かな?」
 隠れていたみあおが、ひょこっと顔を出した。

●口裂け女とエトセトラ
「私、きれい?」
 キキーッ!
 べしゃっ。
「いやぁぁぁぁっ!」
 突然道路に飛び出したら、そして、丁度車が走っていたなら、轢かれるのは必須だ。
 運転手は慌てて車から飛び降りて、夕真を助けるべく近寄るが、スプラッタな口裂け女を見て、悲鳴を上げて逃げて行った。
「‥‥轢き逃げになっちゃうのかな?」
 電柱柱の影から、みおあが姿を現す。
 噂にならないよう、地域をばらけさせて行動しているのだが、成功しているのかどうなのやら。
「大丈夫か?」
 今度は本気で心配して、葛が夕真に近寄ると、五体満足で立ち上がった。
「再生能力だけには自信がありますから」
「何か違うだろうが」
 さっと、得意そうに言う夕真に、葛は鋭くツッコミを入れる。

 こんな調子でやっているのだが、何とか夕真は自信をもったようだ。
「何とか、これで口裂け女として生活していく自信がついたと思います」
「いや、生活できるのか?」
 当然の質問をするが、夕真は無視した。
「本当に大丈夫なの?」
 心配そうにみあおが聞くが、「これなら、妖怪組合に認められて、ちゃんとした仕事ができるようになりますよ」と、微笑んだ。
「でも、何か違うと思うんだけど‥‥」
「そうですか? 他にも手伝って下さる方がいらっしゃいますから‥‥その方達の協力で、更に磨きをかけます!」
 携帯で自分の書き込みのレスを確認して、夕真が答えた。今時の妖怪は近代製品を使いこなしているようだ。
「それでは、お待たせするわけにもいきませんので!」
 二人に深々と礼をすると、夕真は走り去って行った。
「これで、よかったのだろうか‥‥?」
「まぁ、少しは自信もってくれたみたいだから‥‥ね」
「他にも物好きがいたんだなぁ‥‥」
 夕真の後姿を遠い目で追いかけながら、二人は呟く。
「あ、また轢かれた」
「でも、またちゃんと驚いてもらってるようですよ」
 何だか芸風が違うような気がしたが、あまり気にしない事にした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1312 / 藤井・葛 / 女 / 22 / 学生】
【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】

【0381 / 村上・涼 / 女 / 22 / 学生】
【0523 / 花房・翠 / 男 / 20 / フリージャーナリスト】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】
【1323 / 鳴神・時雨 / 男 / 32 / あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】


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■         ライター通信          ■
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 この、『口裂け女からのお願い』は、時系列3シーンに分かれています。
 藤井様、海原様のお二人は、その最初の1シーンです。
 ライトな文章で進めましたが、如何でしたか?

 それでは、またの皆様のご参加、お待ちしております。