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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


続・十二支捕獲作戦!?

<オープニング>
 普通ならば意思を持って動く事などない、人形が動き、そして逃げ出してしまった──。
 騒動の渦中にある桜ノ杜神社の巫女、陽子は来訪者を認めると嬉しそうに微笑んだ。
「あの…従兄が作った人形は、ちょっと特殊で…生きているように動いたりするんです…。追いついてその手で捕まえれば人形に戻るらしいんですが、中々すばやくて…」
 溜息を吐きながら、少女は木製の板を持ってくる。
 そこには十二支の動物を模した人形が、ぽつぽつと並んでいた。
「…時間が経つにつれて、同じ種族の動物を操ったりとか、台座から距離をおいても平気になったりして、かなり厄介な能力を身に付けていくみたいなので、放置して置く訳にもいかないんです」
 知らせを聞いてやってきた、九尾桐伯、海原みなも、榊船亜真知の三人の協力のお陰で、その日の内に捕獲できたのは、子・丑・寅・卯・辰・巳・午の7匹。
 残りは、未・申・酉・戌・亥…の5匹。
 夜明けを待って、第二ラウンドが始まった。



<第二ラウンド・開始>
 AM6:30。
「おはようございます〜」
 引き続き12支達の捕獲を買って出てくれた三人に、陽子は巫女服姿のまま元気良く朝の挨拶をして来た。
 境内、そして長い階段に塵一つ無かった所を見ると朝の掃除は終わったのだろう。早寝早起きが癖になっている人間は朝が強い。
 学生であるみなもと、元々そう言うものとは違う次元に居る亜真知も元気だった。ここ数日の間じめじめとした夏の暑い日々が続いている分、神域独特の涼しい空気に触れて更に力が漲っているような節もある。
 一方、ほんの微かにだが元気が無いように見えるのは九尾。バーテンダーという職業柄か、夜は得意だが朝は少し苦手なのかもしれない。
「これ、あとで皆さんで……」
 大きなバスケットをみなもが手渡し、陽子がお礼を言って受け取れば、亜真知が黒髪を揺らして進みでる。
「引き続き人払いの結界を張っておりますから、ここに部外者が入り込む心配はありませんわ」
 あとは捕まえるだけと続けると、九尾も思案顔で頷き、
「とりあえず残りの十二支と方角は分かっているんです。各自でそれぞれ捕まえた後、協力して捕獲という線でどうですか?」
「あ、じゃぁ、あたし犬さん頑張ります!」
 はい!と元気に挙手するみなもに軽く微笑みを浮かべ、ならば、と九尾がアルミ缶の容器を手渡した。
「……なんですの?それ」
 きょとんとする亜真知に、九尾は事も無げに説明する。
「カプサイシン入りの、痴漢撃退用スプレーですよ。人間よりも犬は嗅覚が発達していますからね……」
 クククク……と、それはそれは楽しそうに黒い笑みを浮かべる九尾に、みなもは思わず受け取ったスプレー容器を取り落としそうになるが、辛うじてその衝動を抑えた。
(しょ、しょうがないよね。捕まえなきゃならないんだし……)
 無理やり自分を納得させつつも、唐辛子の主成分であるカプサイシンのスプレーを浴びせた際の反応を思うと少々気の毒に思えてくる。
「みなもさんが、犬ですから…。ではわたくしは、酉さんのお相手を致しますわ」
「なら、私はすばしっこい申にしますか。周囲には幸い樹木も豊富ですし……この糸で生け捕りにしてきますよ」
 決定、と三人が頷く所へ先程、みなもから預かったバスケットを置いてきた陽子が戻って来る。
「あの〜なにかわたしもお手伝いする事……」
 ありませんか、と続けるよりも早く、
「いえ、結構ですよ。私たちにお任せください」
 あくまで表面上はにこやかに告げるのは、九尾。
「そうですわ、陽子さんは台座を守っていてくださいな」
 やや焦ったような口調なのは、亜真知。
「ここは、あたしたちに任せて、無事終わった後の、お茶の支度をお願いしますっ」
 そして、微妙に引きつった顔でみなもが締めくくった。
(お気持ちは嬉しいですが、捕獲用の罠に引っかかってしまわれそうですしね…──)
(力を使って仕掛けをしているところを見られては、正体がバレますわっ)
(羊や猪と格闘する所なんて、見られたくないし…)
 三者三様の思惑が渦巻き、結局役立たず要員な陽子は大人しく建物へと戻っていった。



≪犬も歩けば、水に当たる≫
「ん…と。これで大丈夫、かな」
 手水舎で、みなもが水面に手を触れながら小さく何かを確認するように呟いた。
 みなもがくるりと軽い動作でターンをすると、その体が光を反射してきらりと光を放つ。
「あ。ちょっと腕だけは念入りにしておこうかな…」
 思い出したように口を開くと、その繊手を振り上げる。すると、ふよふよと小さな水の珠がみなもに招かれるように空を漂ってきた。
 それは、差し伸べたみなもの手に触れると柔らかく弾け、そのまま空気に同化するかのように消えていった。
「よしっ。早速犬さんを探しに行こうっと」
 明るく宣言するみなもの体は先程からきらきらと小さな光に包まれている。それは、分子間の密度を縮めたいわば、水の鎧だった。
 カプサイシン入りのスプレー缶を一つ手にし、みなもは西北西に向かおうとした──が。
「………うそーっ!」
 みなもはそれを見るなり泣きそうになってしまった。
 なぜなら、目の前にいたのは捕まえなければならない戌に操られたと思われる、犬達が居たからだ。
 それも、くりくりとした黒目と、太くて短い手足の……非常に愛らしい子犬達なのだ。
「た、戦えないよ〜」
 ちまちまちまちま、と愛らしいその姿で駆け寄ってくるなり、果敢に小さな牙をみなもに向かってつきたててくる姿はあまりにも愛らしく、どうしても戦闘意欲というか手荒な真似をしようとする気力が萎えてしまう。
 数十匹の子犬にどうしようもなく押し倒されて、しりもちをついたみなもがどうしようとスプレー缶を手の中で転がしていた時、不意に彼女の体──正確にはその周りの水の鎧にだが──に小さな牙を突き立てていた子犬の一匹の体が膨れ上がると、一気に成犬化して噛み付こうとしてきた。
「わ!きゃぁっ!」
 ぶしゅるるるるるーっ!!!
 咄嗟に左腕を盾にして、腕に噛み付いて離れない犬の鼻先に思いっきりスプレーの先端を向けて噴射する。
 キャイン、というよりギャン!という悲鳴を上げてもがく犬に向け、みなもは体に纏っていた水を網のように差し向けた。
「……はぁ、な、なんとかなった…のかな」
 次第に本来の姿に戻っていく戌の本体を、ぺたんと座り込んだままみなもは見守っていた。



<コンビならぬ、トリオプレー?>
「後は、猪と羊……といった所ですか」
 どうやら、犬を捕獲した様子のみなもが草を掻き分けて駆け寄ってくるのを視界の隅に捕らえた九尾が一人ごちる。
「九尾さん!お猿さんはもう終わったんで…ッ…──きゃぁぁぁ〜っ!!!」
「……あ」
 ふと、九尾が何かに気がついて声をかけようとしたが一足遅く、みなもの悲鳴が響き渡った。
 ビィィィ───ン!!!
「な、な、な、な、なんなんですか〜っ!!」
 金属性の甲高い音と共に、物凄いスピードでみなもの足首を何かが捕らえたと思った瞬間、彼女は逆さに吊り上げられていた。
「……悲しい事故です」
「さも自分はやってないような顔をしてないで、早く助けてくださいーっ!!」
 涼しい顔でさらりとのたまった九尾に、世界が逆転中のみなもが、ショートパンツの裾を抑えながらツッコんだ。
「はいはいただいま。お姫様」
 くすくすと底の見えない笑みを浮かべながら、ワイヤートラップと化した鋼糸を調節しゆっくりとみなもを降ろしてやる。頭から落ちるようなことが無いように支えるための手を貸す事も忘れない。
「……もぉ。実は狙ってたんじゃないんですか?九尾さん」
 やっと逆さまの世界から解放されたみなもは、ぷりぷりと怒りながら九尾を軽く睨む。驚きにバクバクと脈打つ心臓を宥め、乱れた髪を手櫛で整える仕草は何やら幼く可愛らしい。
「とんでもございません。私がそんな事をするような人間と思われていたとは、心外ですね」
 全く堪えた様子の無い相手に、むぅーっと頬を膨らませたみなもが何か言おうと口を開いた時、それは来た。
「……来ましたか」
「水の壁で自滅させます、あたしの方に追い込んでくださいっ」
 できますよね!と続けて若干怒りの名残があるままみなもが境内の方へと駆けて行く。またトラップにかかっては堪らないという所なのだろう。
「…ご期待に添えるよう、頑張りますか」
 おどけた様子で、お辞儀をしてみなもを見送った後、九尾は鋼糸を取り出し地響きを立ててやってくるそれに向き直った。
「ブフーッ!!」
 木をなぎ倒し藪を踏み倒し、鼻息も荒く現れたのは金色に輝く大猪。九尾のしかけたワイヤートラップを見事な直角ターンで避け、九尾が作り上げたトラップで自らに落ちかかってくる枝を物ともせずに直進して来る。
「牡丹鍋が美味しい季節は、まだですしねぇ」
 ぽつりと悠長なことを言いながら、九尾は敵愾心剥き出しの猪の前を誘うように走り出す。そうして、この茂みを抜ければみなもの待つ境内といった所で、鋼糸を頭上の枝に巻きつけると木の上に飛び上がる。
「きなさいっ!!」
 ガッツガッツと大地を踏みつけながら、視界から消えた九尾に構う事無く真っ直ぐと直進した猪は、そのままコース上にいたみなもへと突進した。
「…先程の悲鳴はなんですの?…って、あら」
 みなもの悲鳴を聞きつけてやってきたらしい亜真知が、ひょっこりと顔を出して呑気な声を上げるが、みなもの前に張られた透明度を極限まで高めた水の壁に目やると、ぱん、と両手を合わせて音を鳴らし早口で言葉を発する。
「……金剛」
───ズ・ゴォォーン!!!
 かなり、いい音がした。
 もう少しでみなもに衝突するといった距離で、奇妙な体制で固まった猪がずるずると崩れ落ちる。
 衝突する寸前に、みなもの張った水の壁に亜真知が瞬間的に、高度を金剛石クラスにまで高める呪をかけたのだ。いきり立った勢いのまま衝突すれば慣性もかかってかなりの衝撃だったろう。
「自滅、ですわね」
 やれやれと言った調子で肩を竦めてみせた亜真知の視線の先では、水の壁を網のように変化させて猪を捉えるみなもがいる。
「さて、最後の最後は羊ですか。……あれは……瞳孔が横に三日月状になっているんですよね…」
 無事騒ぎが収まったのを見計らって、九尾が二人に近寄りながら憂鬱そうに呟いた。ゆるやかにウェーブを描いた髪がその端正な横顔に落ちかかって、なかなか悩ましげな絵になる光景である。
「……?何かあるんですか?九尾さん」
「………いえ。気分的に嫌な気が」
 たっぷり間を置いてから、ぽつりと言われた言葉にみなもは、『九尾さんでも生理的に嫌なものがあるんだ…』なんて意外な人間臭さに妙に関心してしまった。
「……羊の位置、わかりましたわ!」
 不意に顔を上げた、亜真知がぱたぱたと境内を駆け出していく。
 その方向は建物の方角──それも、本殿ではなく陽子達が生活している方である。
「本物の台座の位置がバレたとでもおっしゃるのっ?」
 ありえませんわ、と駆ける様子に九尾もみなもも慌てて追いかける。
 はたして、三人がたどり着いた先、いつもの縁側では。
「あ、みなさん、おかえりなさい〜。そうそう、見てくださいよ〜、この子。迷子さんみたいなんですよ〜」
 ほんわ〜っと気の抜けるような口調で、縁側に腰掛けていた陽子は皆に自らの手からもしゃもしゃとキャベツやニンジンを頬張っている生き物を指し示した。
「………わたくし、こういうのを何と言うか存じておりますわ」
 柳眉をひくり、とつりあげた亜真知がポツリと告げれば、他の二人も軽く頷く。
 そして、異口同音に口をついたのは、
「──天然」
 の一言だった。



<エンディング>
「はい、こちらみなもさんから頂きました、クッキーと、天然水で淹れたお茶です〜。どうぞ〜」
 おいしいですよ〜と言いながら、色とりどりのドライフルーツと一緒に飾りつけたクッキーの皿を置いて陽子が微笑む。
「……最後のアレでどっと疲れた気がいたしますわ」
「ええっと、シナモンとかハーブ入りの作ってきましたから。疲れを取るのにいいといいますし」
 湯のみを持って、ややげっそりとした様子の亜真知にみなもがフォローになっているんだか微妙な事を言って、自作のクッキーを勧める。
(ピンク色の羊なんてどこからどうみても怪しいと思うんだけど…)
 なんで疑わないかな〜なんて、みなもが内心思いつつクッキーを齧っていると、遠い目をした九尾がボソリと囁いた。
「……ああいう方も、いらっしゃらないと困る場面もあるのですよ」
 それはどういう場面ですか!とつっこみたい気持ちと理性が格闘するみなもに知ってか知らずか、陽子はのほほんと一同を見つめた。
「みなさんのお陰で、無事十二支も大人しくなりました。どうやら満足するだけ動いたようで、あとは簡単にお払いすれば大丈夫みたいです〜」
「もう、あの台座を落としたりしないでくださいよ」
 ありがとうございますと、頭を下げる陽子に苦笑しながら九尾が答え、あわあわと「気をつけます〜」と信用なら無い返事にひとしきり笑った後、すぃと亜真知が立ち上がる。
「陽子さん、……御不浄お借りしますわね」
 不思議そうにする陽子に当り障りのない理由を告げた後、そのまま教えられたトイレとは逆の方角へと歩いていく。
「……お久しぶりですわ」
 社務所を出て、境内にとやって来た亜真知がそう声をかけると、サワリ…と風もないのに注連縄を巻かれた立派な桜の大樹が枝をそよがせた。
 今は花も散ってしまったそれに、亜真知は楽しげに話し掛ける。
「座所をお騒がせして、申し訳ありませんでしたわ。……でも、もう終わりましたわ、御安心くださいな」
 ここに第三者が居れば、亜真知が独り言を言っているようにしか見えないだろう。だが、彼女には人の耳には聞えぬ音で紡がれる思惟がしっかりと伝わっていた。
「いいえ、そんな事はよろしいんですの。貴女の末裔の手助けが出来て嬉しいですわ」
 礼は要らないと、笑う亜真知にならば…と思ったのか、神木が梢を揺らす。
 ふわり。
 柔らかな気配が一瞬宙空に漂ったかと思えば、亜真知の手の平に小さな桜の花弁が出現した──今の時期では決して手に入る事のないそれ。
「まぁ……。ありがとう、サクヤ姫」
 すいとあえかな芳香に目を伏せて、可憐な贈り物の主に礼を言うと、亜真知はゆっくりと社務所へと戻っていった。

<終わり>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0332 / 九尾 桐伯 / 男 / 27  / バーテンダー】
【1252 / 海原みなも / 女 / 13  / 中学生】
【1593 / 榊船亜真知 / 女 / 999 / 超高位次元生命体:アマチ…神さま!?】

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■         ライター通信          ■
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またまた大変遅くなりました、へっぽこライター聖都つかさです。(切腹)
前回に引き続きの、ご参加、ありがとうございました!
正直、前回のメンバーさんが全員協力していただけると思っても見ませんでしたので(その辺はオープニングに現れておりましたが)存外の喜びに浸っております。
ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら良いのですが…。

今回も、個別文の部分があります。≪≫でくくられたところが各キャラクターさんの体験した事になっています。のでよろしければご覧下さいませね。
割とプレイングが重なるところも御座いましたので、ラストで協力させるシーンを描いてみたりしました。
……それにしても内容が薄い割に、長々としたお話ですね(大汗)。私はキャラさんたちの掛け合い漫才みたいなのが好きなのでついつい遊んでしまうのですよね。
多分、このスタイルはずっと変わらないとは思うのですが。

それでは、参加いただきありがとうございました。感想等頂ければ幸いです。
またお会いできましたら、よろしくお願いいたします。

聖都 つかさ 拝


以下、各PL様への私信です

【九尾 桐伯 様】
いつもお世話になっております!!!
引き続き九尾さんに力を貸して頂いて陽子も喜んでいる事でしょう。
今回のトラップネタ、楽しく描かせて頂きました。
最近、黒さに磨きがかかっていませんか?(笑)……って調子に乗ってしまう私にも責任がっ。
ますますの活躍、楽しみにしております。

【海原 みなも 様】
今回もお世話になりました!!(平伏)
何やら、今回はみなもさんの女の子らしさを強調するという隠れたテーマ(笑)を実行すべく使命感に燃えたため妙な目にばかり会っているような気がいたしますが……はい。実は好きです。女の子を描くの(暴露)。
夏といえば海、海と言えば人魚姫なみなもさん、夏娘という事で、涼しげな魅力を振り撒いてばりばり活躍してくださいませ。ではでは。

【榊船 亜真知 様】
引き続きのご参加ありがとうございます〜!!
他の皆さんに正体を隠しつつ、という制約を持たせる事でみなもさんとのコンビプレーの実現となりました。
いかがでしたでしょうか…?
ラスト、祭神に挨拶という事でしたので、締めくくりに使わせていただきました〜。
ここの祭神様は、意外とポピュラーな桜の女神だったりします……ありがちですね(笑)。
ではでは、ありがとうございました〜!!