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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


口裂け女からのお願い

●オープニング
「へぇー。何だか凄いというか、面白そうというか、本当かな、という微妙な書き込みだねっ♪」
 いつものように、雫が掲示板をチェックしていると、興味を惹かれた書き込みがあった。
『私は口裂け女です。毎年、この時期になると人を驚かしているのですが、ここ数年スランプです。
 誰も驚いてくれないのです。
 最近はもっと怖い話があったりして、怖さに対する耐性が普通の人にできたのかも‥‥。
 それとも、もしかして、私、舐められてるΣ( ̄□ ̄;)!?
 そんなこんなで、再び人に驚かれるよう、誰か私の仕事を手伝って頂けないでしょうか?』
「口裂け女って、マスクしていて、『私、きれい?』と聞く妖怪だよね‥‥」
 まぁ、最近では滅多に聞かない話だ。
 ゴーストネットでも、余りにも古すぎて誰にも相手にされない。
「誰か手伝ってくれないかな? 何だか可哀想‥‥」
 雫は、その場にいた知人達にお願いしたのであった。

●口裂け女と改造人間
「お待たせしました!」
 元気よく、一人の女性が待ち合わせに指定した喫茶店に飛び込んできた。
 腰まで届く長い黒髪の、二十代の女性。この季節に赤いコートを着ており、口には大きなマスク。昔、噂になった通りの外見だ。
 鳴神時雨と村上涼が、ゴーストネットの書き込みを見つけ、待ち合わせに指定していた時間より、やや遅れている。
「はじめまして。私、口裂け女の紺夕真(コン・ユウマ)と申します」
 時雨と涼の二人も、各々自己紹介をした。
「‥‥っつーかマジモノなのこれは」
 と、半信半疑で待っていた涼。大学の方は、既に卒業に必要な単位を取っているので、今は就職活動に専念中。その合間を縫って来ているのだから、ちゃんと面白いものでないと、承知しない。
「とりあえず、己が口避け女とか言うものである証拠とか提示してもらわないと、信じてやんないわよ。私は」
 冷たい視線で見ると、夕真は、マスクをこっそり取り払い、耳まで裂けた口を見せてくれた。
「‥‥わかったわ。わかったから、とにかくその口をしまってよ」
 すぐさま、距離を置いて離れる、涼。
「怖いのか?」
「怖くないわよ! 嫌なだけ!」
 時雨にからかわれると、涼はむきになって叫んだ。
「まぁ、どちらでも構わん‥‥。確かに、『口裂け女』‥‥成る程、でどの組織の改造人間なんだ?」
 がっしりした体格の中年男が、そう言いながら詰め寄れば、誰でも逃げたがると思う。
 顎鬚を撫でつけながら時雨が夕真に迫ると、彼女は逃げ腰になって、涼に助けを求めた。
「だから、こっちに来ないでってば。‥‥時雨のおっさんもそこまでにしておかないと、警察呼ばれるよ?」
 ここはごく普通の喫茶店である。異様な雰囲気を感じ取ってか、店員が通報しようかしまいかと悩んでいるのが見えた。
「‥‥とにかく、私は改造人間とかじゃないですから」
「‥‥何? 改造人間ではないのか。紛らわしい名だな」
「‥‥どうして紛らわしいのよ」
 呆れて涼が呟くと、「最後に『女』とついてるからだ!」と、胸を張って言い返されてしまった。
 溜息を吐く、女性二人。
「で能力は何だ? ふむ、口が耳まで裂けている、か‥‥」
「口裂け女ですから」
「‥‥で他には? ‥‥何大きいだけ!? ‥‥溶解液を吐いてみたり殺人超音波を発したり、怪しげな緑の毒液なんか吐く事も出来んのか!?」
「走るのは得意ですけど‥‥って、そんな事できるわけじゃないですか!」
 夕真は泣き崩れるが、時雨は全く気にしない。それどころか、拳を震わせて怒ってるようだ。
「‥‥基本的な設計コンセプトが理解出来ん」
「‥‥その『基本』って何よ? ‥‥あ、やっぱいい。何だか聞いてもしょうがないような気がするから」
「口が大きいのが怖いのならカバの方が怖い気がするが」
 やはり、時雨は涼のツッコミを聞いていないようだった。
 当の口裂け女の方はと言うと――さめざめと泣いていた。

 場所は変わって、怪しげ大爆発な洋館。時雨が何となく「いい場所ではないか」と、目をつけていた館である。何において『いい場所』なのかは、これから行われる事についてだろう。
 この洋館は無人で、幽霊が出るだの、中に入ると絵に殺されてしまうだの、なかなかいわく有り気な噂がたっているせいで人が寄り付かない。
「という訳でだな。『〜女』と、悪の組織の怪人な名なのだから、相応な能力をつけようではないか!」
「私は怪人じゃありませーんっ!」
 ジタバタと暴れる夕真を引き摺って、時雨は洋館の一室に消えた。
 その様子を「じゃ、頑張って」と、涼は途中コンビニで買った雑誌とお菓子とジュースを取り出しながら見送った。
 1時間後。
「早かったじゃない」
 再び現れた時雨と夕真の姿を見て、涼は言った。
「むぅ‥‥この女が嫌がって暴れるから、そんなに大した能力はつけれんかったんでな」
 とても残念そうに呟くが、「とりあえず、殺人超音波機能は取り付けたぞ」と、顔を輝かせた。
「どんなのよ?」
 時雨がつついて急かすと、夕真は嫌々ながら口をゆっくりと開いた。
 重低音な不快にする声が、その喉から漏れ出る。
「――それ、ただの音痴だと思うんだけど」
「気にするな」
 きぱっと、簡単に答える、時雨。
「あと、フラッシュ機能」
「あ、目が光った。これは夜道に便利ね」
「そして、改造の極み、『変身機能』だっ!」
 時雨は誇らしげに言うと、「ほら、やってみろ」と、夕真に命令した。
 何だか気恥ずかしげに、とある言葉を発すると、夕真の身体が光り、結構お色気抜群な露出度過激な衣装となった。
「しくしくしく」
「それ、レースクィーン」
 容赦ない涼のツッコミがまたしても飛んだ。
 ふと、気づく、涼。
「おっさん‥‥何だか悪の組織のボスみたいだね」

●バイトする口裂け女
「っていうかねー要するに出方にオリジナリティがないわけよ」
 怖さを増すどころか、ただの変態さんになったような気がしないでもないが、とりあえず下地となるべく能力は手に入ったと思われる。
「古来の幽霊とか化けモンの基本みたいな出方して今時誰が驚いてくれるかっつーの」
 あとは演出と言うか、出方を変えるべきだろう。
「ここは一発真っ当にバイトしてみるとか」
「だからって、ファーストフードでバイトだなんて‥‥」
 涼に連れられた先は、店長が知り合いだという、マックウェルバーガー。既にピンクの制服に着せ替えられ、準備万端だ。
「だが‥‥似合わんな」
 時雨が呟いた。確かに、大きなマスクをした女がレジに立ってては異様だ。
「いいの。普通に制服とか着て笑顔でいらっしゃいませとか言うしかないんだから」
「『しかない』と言い切ったな‥‥」
「絶対驚くしそれなら。少なくとも私なら!」
「驚いてないではないか」
 とりあえず、時雨を瞬速のエルボーで沈没させ、涼は「ほらほら、さっさとやる!」と、夕真に言った。
「ねーね、今日は何食べようか?」
 丁度、学校帰りの女子高生が店内に入ってきた。それを見て、涼はマスクを外させて、笑顔を見せるようにと、夕真をつつく。
「いらっしゃいませ! 店内でお召し上がりでしょうか?」
「あ、はい。えーっと‥‥えっ?」
 耳まで大きく裂けた夕真の笑顔を見て、女子高生二人組みは悲鳴を上げて、真っ先に逃げて行った。
「ほら、やればできるじゃない」
「何か違うような気がするのですが‥‥」
 気にしない、と、夕真の肩を叩く、涼。
 だが、営業妨害だと店長に叱られ、店を追い出されてしまった。
「ちっ。これは一発技にしか使えないわね」
「というか、バイトするんだったら履歴書とか身分証明書が必要ではないのか‥‥?」
 一応、時雨が尋ねると、持ってない、と夕真は首を横に振った。

「今度はティッシュ配りよ!」
「‥‥貴様の知り合いは、かなり寛容なのだな」
 またしても、涼のつてで少々怪しくてもバイトさせてくれるので、様々なバイトをしながら人を驚かす。
 まずはウェイトレス。
 水をテーブルに運んだだけで、悲鳴と叫びが交じり合う修羅場と化し、一斉に客に逃げられ、店長に叩き出されてしまった。
 次に新聞配り。
 早朝に人家のポストに新聞を入れまわっても、誰も見てくれないので、ただの徒労に終わった。
 警備員。
 夜のビルを巡回しても――以下同文。
 ホラーハウス。
 逆に店の者にしつこく誘われ、これでは意味がないのでこちらから逃げ出した。
 そして、ティッシュ配り。
 結果、現在、不審者として警察に追われている。
「はぁ、はぁ‥‥しつこいわね」
「そりゃ、そうだろ。凶悪な犯罪が多い今、向こうも必死だろう」
「まだ追いかけてきてますね」
「それよりも‥‥はぁ、はぁっ‥‥何であんたたち、そんなに‥‥余裕‥‥なのよっ!」
 日頃の運動不足がたたったのか、とっくに息切れして走るのが辛そうな、涼。
 時雨と夕真は顔を見合わせると、「改造人間だからな」「口裂け女は走るのが得意なんですよ」と、素で真顔で答えた。
「じゃぁっ、私を担いでさっさと、振りほどきなさいよ!」
 仕方なく、時雨が乱暴に涼を肩に担ぐと、一気に追っ手から距離を離した。

●口裂け女の決心
 余裕で警察から逃れ、人気ない川原まで来ると、落ち着く。
「まぁ‥‥今日は本当に‥‥ありがとうございました?」
 語尾が疑問形な気持ちはわかる。
 とにかく、礼を述べる、夕真。
「まぁ、自信がつけばいいのよ。私も面白かったし」
「それが本音か。新たな改造手術が必要ならば、また声をかけるといい」
 二人の言葉に苦笑する。
「これで、何とか‥‥特撮の道に進めそうですわ」
「「おぃ」」
 時雨と涼のツッコミを無視して、腕時計を見る、夕真。
「あ、いけない。他の方達と待ち合わせしていますので、これで失礼しますね」
 駆け去る夕真の後姿を、これでよかったのだろうかと見送る二人。でも、これでよかったのだろう。面白かったから。
 とりあえず、特撮番組に夕真が出たら、録画して笑いのタネにしてやろうと、決めた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0381 / 村上・涼 / 女 / 22 / 学生】
【1323 / 鳴神・時雨 / 男 / 32 / あやかし荘無償補修員(野良改造人間)】

【1312 / 藤井・葛 / 女 / 22 / 学生】
【1415 / 海原・みあお / 女 / 13 / 小学生】
【0523 / 花房・翠 / 男 / 20 / フリージャーナリスト】
【1021 / 冴木・紫 / 女 / 21 / フリーライター】


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■         ライター通信          ■
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 この、『口裂け女からのお願い』は、時系列3シーンに分かれています。
 村上様、鳴神様のお二人は、その真ん中の2シーン目となっております。
 何だか違う道へ進みそうな口裂け女となりました。ライトなノリの文章ですが、如何でしたでしょうか?

 それでは、またの皆様のご参加、お待ちしております。