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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


まぁだだよぉ
●序章
 その日、ゴーストネットOFFのHPでチャットを楽しんでいたメンバーの所へ、招かねざる客が入室してきた。

マスター:ユウヤが入室しました。いらっしゃいませ。
 ユウヤ:ねぇ、かくれんぼしよう?
   雫:君は誰?
 ユウヤ:ボクはユウヤ。ねぇ、かくれんぼをしようよ。
   雫:いきなりどうしたの? 誰かの知り合い?
 ユウヤ:ボクが隠れるから、みんな、ボクを見つけてね。場所は……

 勝手に流れていくログ。それを瀬名雫は無言で見つめた。他にも参加者はいたが、固唾をのんで見守っているように会話はない。
『ユウヤ』が指定してきた場所は、ゴミの集積所だった。大型の粗大ゴミが置かれている場所。

 ユウヤ:それじゃボク、待ってるからね。

 入室者のメンバーから『ユウヤ』が消える。ROMの人数も0になっている。
 それを確認した雫は、手早く打ち込む。

   雫:誰か、行く?

●本文
 こまこ:こまこ《ちゃっと》できるようになったんだよぉ〜♪
   雫:キーボードうてるようになったんだ^^ すごいねぇ
 こまこ:えっへん☆

 雫とチャットを楽しんでいる時に、その言葉は割り込んできた。
 他にもメンバーがいたが、突然の出来事に怖がっているようだった。

 こまこ:はいはいは〜いっ、こまこいっちゃうよ〜☆
   雫:駒子ちゃん大丈夫?
 こまこ:うん♪ ポンちゃんも一緒だし☆
   雫:ポンちゃん?
 こまこ:ポンちゃんはこまこの《みかた》なんだよぉ〜☆ それじゃいって     くるねぇ〜
マスター:こまこは退室しました。またのお越しをお待ちしております。

「駒ちゃ〜ん、桐伯さんから頂いた西瓜が切れ……あら」
 前に九尾桐伯が持ってきてくれた西瓜。しっかり冷えていたので駒子と食べよう、と西瓜を切って戻ってきた寒河江深雪の目にうつったのはポンちゃんを連れて飛んでいく駒子の姿。くまのぬいぐるみに入った犬の霊は、すっかり駒子の従属霊を化している。
「ポンちゃんまで連れていっちゃって……どこにいったのかしら……」
 嘆息しつつまだついたままのパソコンの画面を覗き込んだ。
 そこにはこれまでのチャットのログが残されており、深雪は目を通していく。
 と、そこに電話がかかってきた。
「もしもし?」
『もしもし。九尾です』
「あ、この前は西瓜ありがとうございました」
『いえいえ。喜んで頂ければそれで……ああ、えっと用件なんですが。駒子ちゃんいますか?』
「駒ちゃんなら今ポンちゃんを連れて出かけていきましたよ」
『そうですか……今PC画面見られます?』
 と桐伯は今深雪が見ていたチャットの画面の話を始める。
 桐伯はチャットに参加していた訳ではなく、たまたま誰かいるかと思い覗いた時に、それを見かけたという。
『駒子ちゃんが参加していて、行く、と言っていたので……』
「民間の粗大ゴミ収集業者が管理してる土地ね……大丈夫かしら……駒ちゃん……」
『一応心配なので私も行ってみます』
「あ、私も行きます!」
『場所わかりますか?』
「え、あ……はい。大丈夫です」
 深雪は思い出した。以前ここをニュースのレポートで訪れた事を。
 確かあれは行方不明になった少年の捜索だったはず……。あの事件はまだ解決していない。結局そこからは見つからず、何か別の事件に巻き込まれた可能性がある、と言う事捜査が進められているはずだった。
「まさか……」
 その子供が『ユウヤ君』?
 桐伯との電話をきった後、色々準備をし、軽く上着をひっかけて深雪は足早にそこへと向かった。

「ここ、ですね……」
 深雪より先についていた桐伯は、ぐるっとゴミ集積所を見渡していた。
(考えられる可能性は……かくれんぼして遊んでいて、何かに閉じこめられ息絶えた子供の霊の仕業か……。粗大ゴミの冷蔵庫の中に隠れて窒息してしまい、そのまま運ばれて来て、そのままになっている子が遺体を見つけて欲しい、と)
 もう一つの可能性としては、誘拐事件などでトランク詰めですてられている、という事。
 そういえば少し前に報道番組で深雪がここに来ていたという事を桐伯も思い出した。
「前者の可能性大、ですね……」
「……すみませーん。……はぁはぁ……遅くなりました」
 頬を上気させて肩で息をつきながら走ってきた深雪。それに軽く笑みを浮かべてから桐伯はゴミ集積所を見つめ直した。
「色々準備をしていたら遅くなってしまって……」
 深雪は『ユウヤ』が死んでいるとは思いたくなかった。
 もしかしたら大きなロッカーの下で動けない状態で、古いパソコンなどを使って接続していたとしたら……と。メッセージを受け取れるように携帯電話と大きな懐中電灯。後は毛布や保温ポットに暖かい蜂蜜入りの紅茶を用意してきた。
 心の中ではこれらの物が無駄にならない事を祈っていた。
 子供が行方不明になったのは1ヶ月くらい前の事。
 世界のニュースなどをみていると、遭難して助かったり色々している。
 それを考えれば、生きていない、という事はない。ほとんどそれは願いだった。
「ここの管理人さんがいると思うので、話を通してから捜しましょう」
「はい」

「まっくらやみでかっくれんぼ〜ごみてば〜っでかっくれんぼ〜♪」
 駒子はポンちゃんを従えて空を飛んでいた。
「ねぇぽんちゃん。ごみすてするところにふつ〜のにんげんやど〜ぶつがいる…んかなぁ? いんた〜ねっとにまで《しねんは》をおくってくるんだから〜ねんきがはいった《おにんぎょ〜》や《ぬいぐるみ》がおうちやもちぬしのとこにかえりたがってるのかもね」
 駒子の言葉にクマのぬいぐるみは首を傾げる。
 自分と同じような境遇だったらかなしいなぁ、とポンちゃんはぼーっと考える。
「ここだねぇ〜」
 上空からゴミ集積所を見下ろし、ぐるっと眺める。
 広さは100坪、と言ったところだろうか。小さな事務所にクレーン車などがおいてある車庫らしき建物。そして山積みされた粗大ゴミ達。
「ね、ぽんちゃん。こまこといっしょに《しねんは》おっかけてみよ〜ねぇ」
 すいっと降下すると、駒子は粗大ゴミの中を泳ぐように抜けていく。
「……あれ?」
 ついてこないポンちゃんに気が付きゴミの山から出てみると、エアコンにぶつかってもがいているポンちゃんの姿が目に入った。
「あれれ? あ、そっかぁ。そのなかにはいってるからかべぬけできないんだっけ。んっとね、じゃあいまだけ《それ》ぬいじゃいなよっ☆ そんでいっしょに《こえ》にみみをかたむけてね♪」
「……駒ちゃ〜ん」
「あ、みーちゃんだ〜」
 深雪の声が聞こえて駒子は止まる。
「やっと見つけた〜。桐伯さん、こっちですー」
「良かった、見つかりましたね」
「いっしょだったんだ☆ いまね、こまこぽんちゃんといっしょに《しねんは》おいかけてくるから、くまのぬいぐるみもってて☆」
「え?」
 きょとんと返答した瞬間に、ぽとっと手の上にぬいぐるみが落ちてくる。
 慌ててそれを落とさないように抱えると、駒子の姿はゴミの中に消えてしまった。
「この辺は駒子ちゃん達に任せて、私達は別の場所を捜しましょう」
「はい」
 返事をしてから深雪はぎゅっと胸元を握った。
 それに桐伯が疑問の瞳を向けると、ああ、と深雪は悲しそうに笑む。
「生きてればいいな、って……そう思ったら……」
「そうですね」
 答えた桐伯にはわかっていた。もう『ユウヤ』が生存して居ない事。
 先ほどから空間把握能力を活かして生命の鼓動を探っているが、自分と深雪の鼓動。それから小動物の鼓動しか感じられない。

 ── もういいよぉー ──

 不意に声が聞こえて二人はハッとなって顔あげ、辺りを見回した。
 しかし場所は特定できない。様々な金属によって反響してしまっている為だ。
「すぐに見つけるわよ〜」
 つとめて明るく深雪が返すと、それに呼応するかのようにもう一度聞こえた。

 ── もういいよぉー ──

 心なしか少し嬉しそうに感じる声。
「本当にすぐ見つけてあげないと、ですね」
 言われて深雪は強く頷いた。

「ゆーくんどこぉ〜?」
 駒子と霊体になったポンちゃん−今は犬の姿をしている−がくるくると粗大ゴミの中を泳ぎ回る。
「《しねんは》はたしにこっちからきてるよね? ぽんちゃん」
「うん。もういいよぉ、って声聞こえるよ」
 振り返った駒子にポンちゃんが答える。
「んじゃあ」
 と言って駒子は息を吸い込む。
「《もぉいいかぁい》?」

 ── もういいよぉ ──

 声の波動を探り、駒子は一点を指さす。
「あっちだ☆」
 再び粗大ゴミの海を泳ぎ始めると、駒子は一台の冷蔵庫の前にたどり着いた。
「おお〜い?」
 呼びかけるが返事はない。
「《ここ》からだしてあげないとだめなのかなぁ。…みーちゃんたちよんでこないと」
 すいっと上昇してゴミの海から抜ける。
 とそこにはすでに深雪達の姿があった。
「みーちゃんみーちゃん。ゆーくんいたよぉ〜。こまこよんだんだけどでてこないの」
「結構奥なんですか?」
 桐伯の問いに駒子は頷く。
「こういうときって《きんきゅう》だからいいんだよね?」
「そうね……。一刻も早く助けてあげたいし……」
「駒子ちゃん、いきますか?」
「うん☆」
 桐伯の指先から糸が踊る。鋼の糸が粗大ゴミを化した金属片をすっぱりと切断していく。
 それを駒子の力で一カ所にまとめ、散らかさないようにする。
 深雪も手に持てるゴミをどかす。
「もうすぐ見つけるからね」
 と呟きながら。

 15分ほどの作業の後、その冷蔵庫は姿を現した。
「これ? 駒ちゃん」
「うん。ぽんちゃんがみててくれたから。ごくろうさま、ぽんちゃん☆」
 近寄った桐伯が扉を引っ張ってみるが、さび付いていて開ける事が出来ない。
 仕方なく中の人を傷つけないように糸で切断。
 すると、中から体を丸めた男の子が姿を現した。そして笑う。
「見つかっちゃった」
「ユウヤくん見つけた」
 目頭を熱くしながら深雪が言うと、ユウヤは照れくさそうに笑う。
「ユウヤくん、喉渇いてない?」
「すっごい渇いてる!」
 尋ねると身を乗り出すようにして深雪に言う。それに深雪は微笑んで持ってきたポットから紅茶を注いでユウヤに渡す。
「あったかぁい……」
 嬉しそうに笑いユウヤはそれを飲む。
「……ありがとう」
 深雪にそれを返したユウヤの姿が段々と薄れる。
「ユウヤくん!」
 抱きしめようとした深雪の肩を桐伯が押さえる。
「見つけてくれてありがとう。紅茶、美味しかった……」
 言ったユウヤの姿は、空気にとけて消えた。
 残ったのは未だ冷蔵庫の中で体を丸めている男の子の遺体。
 本来ならすでに腐乱していてもおかしくない気候なのに、その姿は生前のそれとかわりなかった。

 その後管理人に話を聞くと、ユウヤがいた周辺のゴミは来週早々スクラップにされるところだった、という事だった。
「だから早く見つけて貰いたかったんですね……」
 桐伯の呟くような声に深雪は頷いた。
 近くの粗大ゴミ置き場は、公園のいっかくにあった。そこに捨てられていた冷蔵庫に入ったまま、業者に運ばれていった、というのが予測だった。
 ユウヤの遺体は両親に引き取られていった。
 涙ながらに両親は二人に礼を言い、何度も頭を下げて帰った。深雪はそれをやるせない気持ちで見ていた。
 もっと早く見つけてあげられていれば……すでに手遅れだったとは言え、思う気持ちはおさえられない。
 自分の事がそうなったら、と未だいない我が子で想像して胸が痛む。
「…」
 ふと軽く手を握ってくれた桐伯の、その手の温かさを感じて深雪はその顔を見上げた。
 寂しげな表情を浮かべ、ただ去っていった両親の後ろ姿の残映を見つめ続けているその顔に、深雪は少し安心したように瞳を閉じた。
「……ぽんちゃん、さきにおうちかえってようか?」
 小声で話す駒子に、ぬいぐるみに戻ったポンちゃんは小さく頷く。
 そして気を利かせるように駒子達はそっと空へと浮かんだ。

●終章
「スイカあたたかくなっちゃったわね」
 そのままで飛び出した為、テーブルの上で汗をかいているスイカの姿に駒子は悲しげな顔をする。
「冷やしてから食べた方が美味しいですよ」
「そうですね……すぐに冷やしてきます」
「え?」
 桐伯に言われて立ち上がった深雪。それに桐伯は疑問符を投げるが返答はなかった。
「…折角一緒に食べましょう、って誘ったのに申し訳ないわよね」
 キッチンに立った深雪の髪が一瞬で真っ白になる。
 瞬間、先ほどまで生ぬるい気を放っていたスイカが、カキーンと音がするくらいに冷える。
「……お待たせしました」
「すごい冷えてますね……」
 あまりに冷えように驚いた桐伯に、深雪はあはははは、と笑って誤魔化す。
 それ以上なかった突っ込みに胸をなで下ろしつつスイカを取り皿にうつす。
「いただきまぁ〜す☆」
 カキン。
「……みーちゃん《すいか》かたい……」
「あ! ……はううううう」
 まさか今度は電子レンジであたためるわけにもいかず、スイカがとけるまでしばらく会話を楽しんだ……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0174/寒河江深雪/女/22/アナウンサー(お天気レポート担当)/さがえ・みゆき】
【0291/寒河江駒子/女/218/座敷童子/さがえ・こまこ】
【0332/九尾桐伯/男/27/バーテンダー/きゅうび・とうはく】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来聖です☆
 久しぶりのパラレルいかがだったでしょうか?
 桐伯さんは単独誰かと一緒、という依頼で、深雪さんのプレイングに名前が載っていたので一緒にさせていただきました。
 桐伯さんのプレイングを見た瞬間、笑ってしまいました(笑)
 私が考えていたそのものを見事あてられていて。まぁ単純明快な話ではあったんですが、そのものずばりには感服いたしました。
 深雪さんの力は、すでに桐伯さんにばれてしまっているのかわからなかったので、夜来の中ではばれてない方向でとらせていただきました。
 駒子ちゃんは相変わらず可愛くて、書いていてとても楽しいです☆ ポンちゃんも大事にしてくれているみたいで嬉しいです♪
 それではまたの機会にお会いできることを楽しみにしています。