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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


まぁだだよぉ
●序章
 その日、ゴーストネットOFFのHPでチャットを楽しんでいたメンバーの所へ、招かねざる客が入室してきた。

マスター:ユウヤが入室しました。いらっしゃいませ。
 ユウヤ:ねぇ、かくれんぼしよう?
   雫:君は誰?
 ユウヤ:ボクはユウヤ。ねぇ、かくれんぼをしようよ。
   雫:いきなりどうしたの? 誰かの知り合い?
 ユウヤ:ボクが隠れるから、みんな、ボクを見つけてね。場所は……

 勝手に流れていくログ。それを瀬名雫は無言で見つめた。他にも参加者はいたが、固唾をのんで見守っているように会話はない。
『ユウヤ』が指定してきた場所は、ゴミの集積所だった。大型の粗大ゴミが置かれている場所。

 ユウヤ:それじゃボク、待ってるからね。

 入室者のメンバーから『ユウヤ』が消える。ROMの人数も0になっている。
 それを確認した雫は、手早く打ち込む。

   雫:誰か、行く?

●本文
 今朝美:これは一体……?

 突然の来訪者に戸惑い、御母衣今朝美はそううつ。初めてチャットを楽しんでいた矢先の出来事だった。

   雫:ああ、あのね。なんかさっきの子が隠れんぼして見つけて欲しい、     って事なんだよねー
 今朝美:隠れんぼ、ですか……
   雫:うん。もし気になるなら行ってみて来てくれるかな? 地図は検索     すればすぐに出せると思うから。
 今朝美:わかりました……気になるので行ってみます。

 人工色には喩える事が出来ないような、自然な青の色を纏った瞳が輝く。
 外見年齢は二十代。しかし実際年齢は途方もない数字になっている。どこか浮世離れした雰囲気。白銀のまっすぐな長い髪がかかる服は狩衣のような物で。
 外見の雰囲気、顔、名前の音からしても女性に間違われる事が多いが、れっきとした男性である。
 なにせ熊を素手で倒した経験があるのだから。とても想像出来ないが。
「何か臭いますね……」
「何か臭いんですか?」
 独り言に返答があり、今朝美は「あ」と小さく声を出した。
 振り返ると、今朝美とは又違った光彩を放つ青い瞳が不思議そうに見ていた。
 視線の主は東雲天紫。血はつながっていないが、前世の因縁、とかで魂の兄妹らしい。天紫もそれを違和感なく受け止め、今朝美を兄と呼び、慕っている。
 本職が巫女である彼女は、やはり巫女装束を身に纏っていて、二人が並ぶと平安絵巻の一場面のようである。
「……なにも臭いませんけど……」
 ひくひく鼻を動かして天紫が匂いの元を探すが、どこからもかわった匂いを感じなかった。
 今朝美をそれを否定するように首を振りつつパソコンのディスプレイを指さした。
 退室してないチャット画面には、先ほどのログが残ったままで。
 今朝美に促されるまま天紫は問題の箇所を黙読する。
「……兄様がいかれるんですか?」
「もしこれが自然霊や、ツクモのようなものの呼びかけならば、私が応えてあげないと」
 今朝美の実は自然を見守る精霊の一人。たとえこれが人間の霊だとしても、人間だとて自然の一部。求める声には応じたい。
「行きましょう」
 歩き出した今朝美を止める事は出来ない。小さく息を落としつつ、天紫は今朝美の後に従った。

 地図を片手に探したその場所は、存外迷うことなく見つかった。
 分かり易い位置にあったのか、風が教えてくれたのか。その両方であったのかもしれない。
「ここ、ですか」
 見上げた天紫の瞳が悲しみの色に染まる。
 まだ使えそうな物達が積み上げられた、いわばお墓のような場所。
 無機質な物にも霊は宿る。しかしそれは長く愛用され、かわいがられた物。ここにいる大半の物には何も宿っては居ない。
「まずは、ユウヤ、という者を捜す事ですね」
 静かな声で言われて、天紫は視線を今朝美に戻した。
 二人は管理人室を訪れ、少々探し物がしたいので、と告げる。
 御伽草子から抜け出して来たような二人の出で立ちに、管理人は呆然となり、詳しい事を聞かずに許可をくれた。
「……この格好では動きづらかったようですね……。『ユウヤ』を捜すのは天紫にお任せします」
「……はぁ、仕方ありませんね……」
 兄様は綺麗好きですからね……と半ばぼやきつつ天紫は愛鳥の白鷹・明洸丸とともに歩き出す。この鷹は今朝美から貰ったものであり、今ではかけがえのない相棒である。
「明洸丸、上からなにか不審なものがあるか探して来て」
 明洸丸は一度首を巡らせると、天紫の言葉に応え、飛び立つ。
 それを見上げてから、天紫は他の動物を探す。
 隠れているなら空から見つける事は不可能かもしれない。しかし天紫は動物と会話が出来る。それを活かし、ネズミやカラスから話を聞こう、という事だった。
 一方今朝美は何故かキャンバスを取り出し、真新しい絵筆を対象物へ向けていた。
 そして何かを巻き取るように絵筆を回すと、そこには対象物と同じ色がつく。
 それで真っ白なキャンパスへと何かを描いていく。それは頭で考えて描いているのではなく、何かに突き動かされるように無心だった。
 今朝美がなにやら描き始めた頃、天紫は一匹のネズミを見つけた。
 ネズミは天紫の姿を見て一瞬逃げようとしたが、きびすを返して近寄ってくる。
 それは天紫が特別ななにかをした訳ではなく、その雰囲気によるものだろう。
 野生の動物は警戒心が強い。しかし天紫にはそれをなくさせ、傍によってみたい、と思わせるものがあった。
「ネズミさん、ちょっとお聞きしたい事があるんですが」
 天紫が語りかけると、ネズミはそれに応えるように首を傾げる。
「『ユウヤ』という名前に聞き覚えがないですか?」
<それってニンゲンのオトコのコ?>
 喋る、と言うより耳に直接聞こえてくる音。
 それははっきりとした言葉ではないが、天紫には何を言っているのかがわかる。
「どんなものなのかまではわからないんですが……隠れんぼをしているんです」
<あ、それじゃニンゲンのオトコのコだ。シってるよ。ずーっとムこうのヤマのレイゾウコのナカにいるコだよ。ほら、キこえるでしょ?>
 言って後ろ足だけで立ち上がり、髭と耳をピンとのばしてネズミが何かに耳を傾ける。
 その様子に天紫も耳を澄ませてみる。

 ── もういいよぉ ──

 それは確かに男の子の声だった。反響していてどこから聞こえるのかわからないが。
「場所、教えて貰えますか?」
<いいよ>
 くるっと背中を向けると、ネズミは天紫の前を走り出した。
 巫女装束に身を包んだ天紫では、全力疾走、という訳にはいかないが、そこは普段から着慣れている服。走る、という行為には支障はない。
「え? あ、あれ??」
 ネズミに案内されてたどり着いた場所で、今朝美がキャンバスを広げて何かを描いていた。
「兄、様?」
 呼びかけた天紫の声に返答はない。真剣に絵に取り組んでいるようだ。
「!?」
 それを覗き込んで天紫は声にならない声をあげた。
 そこには冷蔵庫の中でじっと誰かを待っている子供の姿が描かれていたからだ。
 深い深い闇の中、じっと誰かを待っている姿。
「……よしっ……おや、天紫」
 できあがり、集中がとけた今朝美は自分の絵に見入っている天紫の姿を見て瞬きをする。
「どうかしましたか……これは……」
 そこでようやく自分がとりつかれたかのように描いていた絵に気が付く。
<このオクにユウヤはイるよ>
 そうとだけ告げると、ネズミは去っていった。
「ありがとうネズミさん」
 礼を言ってから天紫はゴミ山を仰いだ。
 頭上には明洸丸が旋回している。ここを見つけていたのだろうか。
 ゴミの量はとても二人でどかせる量ではない。しかし。
 二人にはそれが出来るだけの能力(ちから)があった。
 今朝美は自然の力を、天紫は月の力を借りてゴミをどかしていく。
 淡い光に包まれた二人。端から見たら不思議な光景この上ない。
 勝手に崩れていくゴミの山。しかしそれは危なくないように周りに整頓され、並べられる。
 全て片付けられた頃、冷蔵庫が顔をだし、二人の前にふわりとおろされた。
 今朝美は冷蔵庫に近寄りドアを開けようとするが動かない。すっかり錆び付いているようだった。
 今度は中身に気を付けつつ思い切り開く。
 すると、鈍い音がしてドアが開いた。
 完全に開いたその中には、男の子が丸まるようにして入っていて、二人を見て照れたように笑う。
「見つかっちゃった」
 すでに魂だけの存在になっている、という事は二人には一目でわかる。しかしそれを感じさせず、天紫は笑って言った。
「見つけましたよ〜」
「んー、ここなら見つからないと思ったんだけどなぁ。ネズミさんばらしちゃうんだもんなぁ」
 とぼやく姿は心底嬉しそうで。
「お姉さんは動物さんと仲良しだから、教えてくれるんですよ」
「そうなんだ! 今度僕にも動物さんの言葉教えてね!!」
「ええ」
 微笑んだ天紫の前でユウヤはゆっくりとその姿を空気の中にとかしていった。
「ありがとう、おねーさん、おにーさん……」
 嬉しそうに、でも少し悲しそうな笑顔でユウヤは完全に消えた。
「兄様……」
「彼は自然の中にかえっていったんですね……」
 哀しそうに今朝美を見上げた天紫に、そう言って微笑んだ。
 冷蔵庫の中には、腐乱していてもおかしくない時期だというのに、そのままの姿をした男の子が、身体を丸めて隠れていた。

 その後管理人から話を聞くと、その冷蔵庫が入ったあたりは来週早々スクラップにされる場所だったのだと言う。
 自分の姿がなくなる前に男の子は「自分」を見つけて貰いたかったのかもしれない。
 警察への連絡は管理人に任せ、二人は集積所を後にした。
 もう、男の子の声は聞こえない。

●終章
「兄様、この絵、どうするんですか……?」
 集積所で描かれた絵。それは丁寧に布にくるまれていたのだが、天紫がふれた途端にその布ははらりと床に落ちた。
 拾いあげて絵にかけようとした天紫の手が止まる。
 そこに描かれていたものは、集積所で見たそれとは全然違っていた。
 みなと隠れんぼをしていて、見つかってしまった男の子の絵。
 その顔はとても嬉しそうで、見ている天紫にも笑みが浮かんだ。
「兄様、これは……」
 どこにしまっておきますか? と尋ねに言った天紫は、再び微笑む。
 自然の力を思い切り使って絵を仕上げ、その上力を使ってゴミをどかした為か、今朝美は仕事着のまま眠っていた。
 その安らかな寝顔を見、天紫はそっと上掛けをかけると、今朝美の家を後にした。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1662/御母衣・今朝美/男/999/本業:画家 副業:化粧師/みほろ・けさみ】
【1671/東雲・天紫/女/21/巫女/しののめ・てんし】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、こんにちは。夜来聖です☆
 神秘的なお二人だったので、うまくかけていると嬉しいのですが……。何か違っているところとかあったら遠慮無く言ってくださいね。今後頑張ります☆
 この話はパラレルになっています。他の人はまたちょっと違った経緯を辿っていたりするので、気が向いたら読んでやって下さいませ。
 それではまたの機会にお目にかかれる事を楽しみにしています。