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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


まぁだだよぉ
●序章
 その日、ゴーストネットOFFのHPでチャットを楽しんでいたメンバーの所へ、招かねざる客が入室してきた。

マスター:ユウヤが入室しました。いらっしゃいませ。
 ユウヤ:ねぇ、かくれんぼしよう?
   雫:君は誰?
 ユウヤ:ボクはユウヤ。ねぇ、かくれんぼをしようよ。
   雫:いきなりどうしたの? 誰かの知り合い?
 ユウヤ:ボクが隠れるから、みんな、ボクを見つけてね。場所は……

 勝手に流れていくログ。それを瀬名雫は無言で見つめた。他にも参加者はいたが、固唾をのんで見守っているように会話はない。
『ユウヤ』が指定してきた場所は、ゴミの集積所だった。大型の粗大ゴミが置かれている場所。

 ユウヤ:それじゃボク、待ってるからね。

 入室者のメンバーから『ユウヤ』が消える。ROMの人数も0になっている。
 それを確認した雫は、手早く打ち込む。

   雫:誰か、行く?

●本文
 ミリア:いくイクいク〜〜〜〜(>▽<)ノ
 ミラー:……
   雫:見てきてくれる? よろしくね☆

「カクレンボ…隠れた対象物を見つけ出すのが目的、なのですね。…ターゲットは『ユウヤ』」
「かクレんぼかくレンぼ♪ うシ! お望ミ通りユウヤを見つけテやろうジャないカ☆」
「行くのですか、ミリア?」
 金色の瞳にじっと見つめられて、ミリア・Sは勢いよく頷いた。その赤い瞳が好奇心に輝いている。
 それにミラー・Fは無言で見つめ返し、小さく頷いた。同行の意だ。
 電子生命体であるミリアは、今現在ノートパソコンの液晶の中にその姿をうつしていた。
 外見年齢16歳くらい。とびきりの美少女だ。茶色の緩やかなウェーブがかかった長い髪。実態を持つ事は可能だが、現実世界で長時間行動するにはある程度の充電が必要な為、出来る限りは自分の居場所−電脳世界−で活動している。
 大してミラーはAIである。峰崎蘇芳に作られたAIプログラム。外見年齢は18歳程。金色の瞳に黒い髪。どこか不思議な雰囲気を醸し出しているのは、その外見を覆うサイバードールのせいだけではない。
 自由奔放・わがままし放題のミリアについていけるのは彼と生みの親だけである。
「ゴミ捨テ場かァ…ユウヤも捨てられたのカナ? 人間は沢山モノを捨てるカラねェ。勿体無いオバケが出テクるゾ?」
 ミラーの手の中にあるノートパソコンの中から、歌うような声音でミリアが喋っている。
「さてさてドコダ、出てコーイ! …ってゆーか、そういやユウヤってどンな子なンだロ? ま、行けバ何とかナル♪ 行くぞミラー出動ダ☆」
「判った」
 ゴミ集積所の場所はすぐにわかる。
(ユウヤのデータを検索シテみヨ♪)
 チャットの履歴から発信源を探ってみる。しかしそれは徒労に終わった。
 それは突然現れて、突然消えていた。痕跡はチャットに残るばかりで、他には何もない。ただ、思念だけが読みとれた。
『…もういいよぉ…』
 という変声期前の男の子の声。
(人間ナノかナ…)
 一方ミラーもユウヤ、に関する検索を別にかけていた。
(粗大ゴミは隠れるのには最適な場所。主にこれは子供がする遊びですが…『ユウヤ』は子供なのでしょうか?)
 ネットの海を意識が飛び回る。
(おや……?)
 ひっかかったのはとある事件だった。
 行方不明になった男の子の事件。名前は杉沢祐哉(すぎさわ・ゆうや)。
 公園で隠れんぼをしているうちに行方不明になり、その公園にあった粗大ゴミがなくなっている事から、その中に隠れたのではないか、とゴミ集積所を捜索したが見つからず、別の事件に巻き込まれたのかもしれない、という事で未だ未解決になっているものだった。
(これと何か関係があるんですかね……)
『ミラーもココに来タんダネ♪』
『ユウヤ、というのはこの子供の事でしょうか』
『ん〜、よくわかンないケド。こノ子の可能性ガ高いカモしれないネ。とりあエず、行っテみようカ?』
『そうですね』
 ミリアの言葉に現実世界へと戻ってくる。
「それジャ、Let's Go!」
 実体化したミリアが、嬉しそうに拳を振り上げた。

 二人にとってゴミ集積所を探し当てるのは造作でもない事だった。
 たどり着くと、ミラーは事務所に向かい管理人に話を通した。
 チャットでの会話など信じて貰える話ではないが、例の事件の再調査、という名目を出すと、疑われる事はなかった。
 そして粗大ゴミの山を目の前にしたミラーは、熱感知システムを使用して捜索。自分らに有害になりそうな危険物のサーチして排除しつつ捜す。
 実体化しているとはいえ、抗生物質が希薄なミリアは質量が軽い為、ゴミ山をポンポン飛び回る。
「もォーいいカァイ?」
 山のてっぺんで叫んだその声に、返答があった。

 ── もういいよぉー ──

「ミリア」
「音声の方角、判っタ?」
「……ある程度の方角までしか。音の反響が多すぎる」
「そっカァー。そっチニ行っテみよウ♪」
 ミラーから方角を聞くと、水の上を舞い踊る精霊がごとき仕草でミリアはゴミを足場に飛び跳ねていく。
 その下の方をミラーが走っている。
「こノ辺?」
 立ち止まったミリアにミラーが頷く。
「……生体反応は感じられないですね」
「そっかァ」
 どこにイルのかナぁ〜? とミリアはゴミの間を覗き込む。
「むグっ。助けテ〜〜」
 すっぽりと顔がはまってしまい抜けなくなってしまったようで、ミリアの足がもがいているのが見えた。
 ミラーは跳躍するとミリアの近くに降り立ち、粗大ゴミをどかす。
「ありガと☆」
「気を付けて」
 無表情にそう言ってミラーは下におりる。それにミリアは「わかっタ♪」と脳天気な声で返事をして、再び捜し始めた。
 瞬間。
 いくら軽いミリアであっても、跳んだり跳ねたりしているうちに多少の負荷が折り重なっている粗大ゴミにかかる。その為粗大ゴミは音をたてて崩れ始めた。
「きゃアァァァァァ」
 着地した足元が無くなった為、あわてて別の場所へ足をついたがバランスを崩した。
 ミラーは再び跳躍し、崩れ落ちる粗大ゴミを上手く足場にしつつミリアに近づき、抱き上げる。
 そしてお姫様だっこのまま地上におりた。
「ふゥ。助かっタ」
 だから気を付けて、と言ったじゃないですか、という目でミラーがミリアを見るが、ミリアは知らん顔で腕の中からおりる。
 それにミラーはため息を落としたが、何も言う事はなかった。
 二人は別々の人物に別々の意図によって作られた者。しかし二人は父親や制作者の意図とはかけ離れ、電脳世界はもとより、現実世界でも恋人同士で仲が良い。
 ひとえにミラーがミリアの性格に惚れた上に許している事が大きいだろう。
 故にミリアが自由奔放になりすぎるのも致し方ない事なのかもしれない。
「すーっカリ崩れチャッタね」
「そうですね……元に戻しますか」
「そうダネ。戻した方ガいいカモ」
 言われてミラーは記憶していた通りにゴミを戻し始める。
 そして下の方にあった冷蔵庫を持ち上げた瞬間、ミラーの行動がとまった。
「ン? どうしタノ?」
「これは……この型番の冷蔵庫にしては重量がありすぎます」
 言ったミラーの耳に声が響いた。

 ── もういいよぉ ──

 それはミリアにも聞こえたようだった。
「おろシテ」
 頷きミラーは冷蔵庫をおろした。そして錆び付いて固くなったドアを中身に気を付けながらこじあける。
 すると、中から男の子が出てきた。
「見つかっちゃった」
 照れたように笑う男の子。
 確かに目の前にいる男の子はちゃんと動いているのだが、ミラーは生体反応を感じる事が出来なかった。
「見つけたゾ〜♪ カクレンボはあたしの勝チだネ☆」
「負けちゃったぁ。おねーちゃん達強いね」
「勿論ダ☆ これでもカクレンボのミリアちゃんと一世ヲ風靡しタもんダ☆」
 いつそんなものを風靡したんだろうか、とミラーは思ったが口には出さなかった。
「カクレンバだったラいくらデモつき合うゾ♪」
 にこにこと言われ、男の子は嬉しそうに、でも少し悲しそうに笑った。
「ありがとう。……見つけてくれてすごく嬉しかった……本当にありがとう……」
 涙混じりに笑った男の子の笑顔は、空気の中にとけて消えた。
「消えちゃっタ……」
 寂しそうに呟いたらミリアの肩にミラーがそっと手を乗せる。
 冷蔵庫の中に残っていたのは男の子の遺体だけ。
 腐乱していてもおかしくない気候であったのにもかかわらず、原型をとどめていた。
「ここからは警察にお任せするのが一番ですね」
「ん〜、そうダネ」
 管理人から警察に連絡して貰い、ミリア達は集積所を後にした。
 事情聴取とか色々聞かれるのが面倒だった為、ゴミが崩れてきた中から発見した事にしてくれ、と。
 その時聞いた話によれば、その冷蔵庫があった辺りは来週早々スクラップにされるはずの場所だった、という。
 その為なのだろうか、男の子は自分の存在が完全に消える前に捜して欲しくてチャットに入り込んできたのかもしれない。
「まだマだカクレンボしてあげテモよかっタのにナ」
「またいつか出来ますよ。人間は輪廻転生するらしいですから」
 魂が再び別の生を繰り返す。それは未だ解明されないものだが、本当にあるのだとすれば、プログラムである彼らがこの世から消える前に、もう一度逢えるかもしれない。
「……アタシのおうちやミラーの身体もそのうちポイって捨てらレチゃうのカナ? アタシたちのパパたちハ簡単にソウいうコトしないとは思うケド…そうサレる子って、結構…いるんダネ」
 粗大ゴミの中にはパソコンもいくつか混ざっていた。
 飽食で物があふれている時代。
 次々出てくるパソコンなどは、半年もすればすでに型落ちになる。
 それを追い求めるように買っていけば、壊れてもいない物がゴミとなる。
 少し切ない気持ちになってミリアは空を見上げた。

●終章
「ミラー! カクレンボするノダ☆」
 ディスプレイから指先をミラーへつきつける。
「え?」
 きょとんとなったミラーにミリアは続けて言い放つ。
「鬼はミラーだ☆ あたしヲ早ク見つけテネ♪」
 勝手に言ってプログラムの海へと潜っていく。
 ミラーはため息をつくと、サイバードールの身体を離れ、電脳世界へと入っていく。
 居場所はすぐにわかる。でもすぐに見つけると癇癪を起こすから見つけない。しかしいつまでも見つけないでいるとやはり怒り出す。
 その辺の頃合いを見計らって捜すのだ。
 それは結構骨の折れる事だったが、ミラーはそれでも楽しかった。
 自分と時間を共有する者がいる。それが愛しい人ならば尚更嬉しいものだ。
 朽ちる事のない身体と心を持ち、幾何学模様のように並ぶ数字の海を泳いでいく。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1177/ミリア・S/女/1/電子生命体/−・えす】
【1632/ミラー・F/男/1/AI/−・えふ】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、初めまして。夜来聖です♪
 今回は私の依頼を選んでくださいまして、誠にありがとうございます。
 イラストお二方の拝見させて頂きました〜。
 ミリアちゃん可愛いし、背中の羽がめっさツボで(笑)
 ミラーくんは格好いい〜♪ なんか美男美女、って感じですね。
 初めて書かせて頂いた、と言う事でイメージが違っていたりするかもしれないので、そういう時はばしっと言ってやって下さいませ。今後の糧にさせて頂きます。
 話的にそんなに長文になるものではなかったですが、愛情はこもってます(笑)
 それではまたの機会にお目にかかれる事を楽しみにしています。