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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


まぁだだよぉ
●序章
 その日、ゴーストネットOFFのHPでチャットを楽しんでいたメンバーの所へ、招かねざる客が入室してきた。

マスター:ユウヤが入室しました。いらっしゃいませ。
 ユウヤ:ねぇ、かくれんぼしよう?
   雫:君は誰?
 ユウヤ:ボクはユウヤ。ねぇ、かくれんぼをしようよ。
   雫:いきなりどうしたの? 誰かの知り合い?
 ユウヤ:ボクが隠れるから、みんな、ボクを見つけてね。場所は……

 勝手に流れていくログ。それを瀬名雫は無言で見つめた。他にも参加者はいたが、固唾をのんで見守っているように会話はない。
『ユウヤ』が指定してきた場所は、ゴミの集積所だった。大型の粗大ゴミが置かれている場所。

 ユウヤ:それじゃボク、待ってるからね。

 入室者のメンバーから『ユウヤ』が消える。ROMの人数も0になっている。
 それを確認した雫は、手早く打ち込む。

   雫:誰か、行く?

●本文
  一葉:うちいくわ
  榎真:一葉さん行くなら大丈夫か……
  一葉:何いうてんねん、榎真も行くにきまっとるやろ
  榎真:ええ!?
  一葉:…なんか文句あるん?
  榎真:……ないです……
   雫:二人がいってくれるなら安心かな♪ よろしくね☆
  一葉:まかしとき☆
  榎真:……はぁ……

 なんでこんな事になっちゃったんだろう……と自宅からゴミ集積所まで向かう道中、直弘榎真は項垂れつつぼやく。
 どうにも獅王一葉には頭があがらない。理由はわからない。否、わかっているが口には出せない。
 サイコメトリ以外さしたる力を持たない一葉に対抗する事は容易い事だが、一応外見があれでも女性だ。手荒な真似はしたくない。
 ドン!
 考え事しながら歩いていると、不意に洗濯板……もとい、誰かにあたった。
「何今でも借金苦に逃げ出しそうな顔してあるいとんねん」
「あ、一葉さん……。ごめんなさい」
 謝ったのはぶつかった事。決して肋骨が痛かった、とは言ってはいけない。後が怖い。
 しかし借金苦に逃げ出そう……とはもう少し違う考えはないのだろうか。考え込む深みにはまっていると、今度は後頭部に衝撃が走った。
「っつ……」
 勿論飛んできたのは一葉のハリセン。ご丁寧に『榎真専用』まで書かれている。しかも人の後頭部をハリセンでしばいておきながら、涼しい顔で一葉は言う。
「何ぼーっとしとんねん。はよいくで?」
「…はい…」
 結局このパターンか…と肩を落としつつ榎真は前を歩く一葉の後に従う。今回は一葉のハリセンが分散する相手がいない。うかつな事を言えばあれが飛んでくる。しかし無意識に発せられる言葉までは自分でも保証出来ない。
「んで、榎真はどう考えてるねん?」
「え?」
「あの『ユウヤ』って子の事や」
 言われてああ、と返事をしてから目線を左の方へ向け、頬をかく。
「よくある怪談のパターンだと、かくれんぼしてた子供が粗大ゴミの中の冷蔵庫に入っちまってそんででられず…ってヤツかな。でもどっちかって言うと、そういう類よりもツクモかなぁって気がするけど……」
「どっちやと思う?」
「俺の予想は大体当たんねぇ…」
「頼りにならないやっちゃなぁ」
「そういう一葉さんはどうなんだよ」
 むぅ、と少々むくれた顔で言うと、一葉はこともなげに言った。
「捜せばわかる事やろ」
「……」
 二の句が継げなかった。

 二人は事務所にいたここの管理人に話を通すと、捜し始める。
 と言ってもただっぴろい敷地内に山積みにされた粗大ゴミ。この中から見つけるのは至難の業である。
 一葉はぐるっと辺りを見回してから榎真の方を向いた。
「ただ無闇やたらにサイコメトリして行っても、力を無駄に消耗するだけやしなぁ……。榎真は何か感じひん?」
「ん……」
 榎真は少し考えるように眉根を寄せ、それから顔をあげた。
「かくれんぼしてるんだったよな……」
 その言葉に「そうか」と一葉はポンと手を打つと、すぅっと息を吸い込んだ。
「もぉーーいーかぁぁぁぁぁい」
 一葉の声に管理人は驚いた顔で覗き込んできた。しかしそれをあっさり無視して耳を傾ける。

 ── もういいよぉ ──

 金属に反射されて、どこから来ているのか判別出来なかったが、確かに返答があった。
「返事あったな」
 低く言った一葉に榎真は頷いた。
「今捜したるからまっててみぃ!」
 挑戦的な一葉の物言いに、風が笑った気がした。
「管理人が何か知ってるかもしれないな……聞いてみるか…」
 言って榎真は事務所に向けて歩き出す。
 一葉はもう一度辺りを見回してから、榎真の後を追った。
 事務所につくと、榎真が簡潔に質問していく。
 それに管理人は戸惑いながら話を始めた。
 1ヶ月程前に近くの公園で子供が行方不明になった、という事。そこに置かれている粗大ゴミがなくなっていた事から、ここの集積所も捜査の手が入ったが見つからず、結局別の事件に巻き込まれた可能性がある、という事でここでの捜査は終わったらしい。
「近くの公園ってどの辺や?」
 言うと管理人は町内地図をコピーして公園のある場所に赤丸をつけた。
「ここです」
「行ってみるか」
 一葉の視線に榎真は頷いた。

 公園はすぐ近くにあった。
 そして公園のいっかくに粗大ゴミ置き場がある。
「あない所にあったら危ないやないの……」
 もっともだ、という榎真は小さく頷くと、ここは一葉の出番だな、と一歩身をひく。
「粗大ゴミの場所が見えるって言うたら……あの滑り台やな」
 小走りに滑り台に近づくと、一葉は目をつむってそれに触れた。
 流れ込んでくる『滑り台』の記憶。
 それは様々子供が遊んでいる姿。
 そこからさらに意識をこらして目的の画像をさぐっていく。
 瞬間。飛び込んできたのは滑り台の前に集まっている子供達。
 じゃんけんでもしているようだが、記憶がふるい為か声までは聞こえない。
 そして負けた子が滑り台に手をつけるようにして顔を隠し、数を数え始めたようだった。
 その中、男の子が一人、きょろきょろと辺りを見回しながら隠れる所を捜しているようにしていた。
 見守っていると、その男の子は粗大ゴミ置き場にあった冷蔵庫に身を潜めた。
 一葉は過去の記憶を見ているだけだと言うのに、思わず声をあげそうになった。
「そこに隠れちゃあかん!」と。
 不意に画像が途切れて目の前が真っ暗になる。
 しばらく目をつむっていた後、ゆっくりを開け、走り出した。
 急に走り出した一葉を見て、榎真もすぐに走り出す。
 サイコメトリで何かをみて、それを伝える間もなく走り出す、という事は一葉はまだ見たりないのだ。何かを。
 何回か一緒にこういった事をやってきている榎真は、無理に一葉に声をかけて引き留める事はしなかった。
 後できちんと教えてくれるのをわかっているから。
 ゴミ集積所についた一葉が触った物はゴミを運ぶトラックだった。
 複数トラックはあったが、直感で一台を選んで触れる。
 流れてきたのはゴミを回収する時の映像。それは先ほどの公園で見た物の続きのようだった。
 公園で回収されたゴミがここに持ってこられ、荷台から降ろされる。映像ではその冷蔵庫はかなり上の方にあった。
 しかしバランスを崩して崩れ落ち、他のゴミの間へと雪崩れるように落ちていき、最後には奥の方に潜ってしまった。
 そのゴミの感じをよく頭に叩き込んでおく。
 サイコメトリからさめた一葉は、再び無言で走り出した。
 記憶が薄れてしまわないうちに捜さないと。
 しかしトラックが見た記憶からはすでに何日も経過している。ゴミの配置もかなりかわっているだろう。
 それでも同じ場所におかれていて、表面に出ていたゴミを頼りにさがす。
「ここや……」
 かなり形はかわっていれども、見た記憶のゴミが散乱している。
 そこでようやく一葉は榎真を振り返った。
「あんな……」
 一葉は見た記憶を順序立てて簡潔に話す。
 それを黙って聞き、聞き終えた榎真は一葉の一歩前へと進み出た。
「このゴミの山は俺が崩す」
「頼んだで」
 風を操る力。榎真は上手に風を使うと、一葉の指示通りゴミをどかしたり切断したりしていく。勿論無許可だが今はそんな事を言っている場合ではない。
 時折耳に聞こえてくる声。

 ── もういいよぉ ──

 それは期待と不安に満ちた声。
「そこや!」
 見えてきた冷蔵庫の一部。榎真は風にのせて冷蔵庫を丁寧にそこから取り出し、すばやく崩れないように他のゴミで補填する。
 転がるように冷蔵庫に近づくと、一葉はそれを開けようとしたがさび付いている為かびくともしない。
「どいて」
 榎真の静かな声に一葉は一歩後ろに下がった。
 すると音もなく冷蔵庫の扉が切断され、中なら男の子が顔を出した。
「……見つけた」
「あーあ、見つかっちゃった」
 残念そうに。しかし心底嬉しそうに男の子は笑った。
「今度はもっと上手に隠れないとなー……」
 ブツブツ言っていた男の子がにこっと笑って二人を見た。
「ありがとうおにーさん達」
「うちはおねーさんや」
 即座に否定されて男の子は目を見開いてから、再び笑った。
「それじゃ、おにーさんおねーさん? ありがとう」
 男の子の姿は徐々に薄れ、空気の中にとけた。
「……疑問符にしていきおったな……」
 悔しそうに呟いた一葉の声は、どことなく寂しそうだった。

●終章
 その後、管理人から話を聞くと、男の子がいた場所は来週早々スクラップにされる、という事だった。
「そのせいか……」
「せやなぁ……ちゃんと死体見つけて欲しかったんやろな」
 男の子が消えた後に残された冷蔵庫には、すでに腐乱でしていたもおかしくない気候だったのにもかかわらず、ほぞ生前の姿をとどめていた。
 警察の事情聴取に両親の感謝の言葉。
 当初事件の犯人はないか、と疑われたりもしたが、チャットのログが残っていた事や雫なども証言もあり信用して貰えた。
「なんでうちらがいたいけな子供殺さなあかんの。失礼極まりないわ」
「それは一葉さんがきっと犯罪をおかしそうな……」
 バチコーン!
 盛大に乾いた音が響き渡る。
 榎真は後頭部をおさえてかがみこんだ。
「ちょっとした冗談だったのに……」
「趣味悪い冗談はやめとき。全く……」
 文句を言いつつ先を歩く一葉の姿を見て榎真は笑う。
 口や態度ががさつでも、面倒見の良いところを見越してあの子はチャットに参加してきたのかもしれないな、と思いながら。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 【0115/獅王一葉/女/20/大学生/しおう・かずは】
 【0231/直弘榎真/男/18/日本古来からの天狗・高校生/なおひろ・かざね】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来聖です☆
 お久しぶりです〜〜〜♪
 二人の参加を見た瞬間、すぐに組ませてしまいました(^_^;
 久々に書いていて楽しかったです。
 最後、雫とのシーンをいれようと思ったんですが、まとまりが良かったのでそのままにしてしまいました。
 内容的に長く書く物ではなかったので、今まで程に長くはないですが、キャラクターに対する愛情はたっぷりです(笑)
 それではまたの機会にお目にかかれる事を楽しみにしています。