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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


まぁだだよぉ
●序章
 その日、ゴーストネットOFFのHPでチャットを楽しんでいたメンバーの所へ、招かねざる客が入室してきた。

マスター:ユウヤが入室しました。いらっしゃいませ。
 ユウヤ:ねぇ、かくれんぼしよう?
   雫:君は誰?
 ユウヤ:ボクはユウヤ。ねぇ、かくれんぼをしようよ。
   雫:いきなりどうしたの? 誰かの知り合い?
 ユウヤ:ボクが隠れるから、みんな、ボクを見つけてね。場所は……

 勝手に流れていくログ。それを瀬名雫は無言で見つめた。他にも参加者はいたが、固唾をのんで見守っているように会話はない。
『ユウヤ』が指定してきた場所は、ゴミの集積所だった。大型の粗大ゴミが置かれている場所。

 ユウヤ:それじゃボク、待ってるからね。

 入室者のメンバーから『ユウヤ』が消える。ROMの人数も0になっている。
 それを確認した雫は、手早く打ち込む。

   雫:誰か、行く?

●本文
  朔羅:一方的な会話だな
   雫:そ、そうだね(^_^;
  朔羅:しかし興味がないわけではない。行ってみるか
   雫:
  唯為:朔羅一人で行かせるわけにはいかないな
  朔羅:頼んでませんよ?
  唯為:俺も興味がある
  朔羅:……

 憮然とした顔で十桐朔羅はディスプレイをにらんでいた。
(隠れんぼは本来鬼は一人。それをわざわざネットで不特定多数の人に呼びかけるという事は、そうしなければならぬ理由があるのだろう)
 思いながら粗大ゴミ集積場の地図をプリントアウトする。
(場所が粗大ゴミ集積場というのも気になる)
「準備はできたか?」
 呼びかけられて朔羅は一瞬嫌な顔を作るが、すぐに表情を戻す。
 一方朔羅にあからさまに嫌な顔をされた沙倉唯為だが、全然気にしていない様子だ。
 唯為は銀色の瞳に不審の色を乗せて朔羅を見る。
「明らかに怪しいお誘いだな」
 言われなくてもわかっている事。朔羅は返答しない。
「一方的に話をすすめてさっさと退散とは、余程育ちが良いと見える。ユウヤという名前の相手が何を考えているかわからん以上、朔羅、お前を一人でいかせる訳にはいかん。お人好しも度が過ぎるとただの馬鹿だぞ」
「……ほっといくれ」
 馬鹿、という言葉にかちんときつつ、しかしそれ以上は何もいわない。
 来るな、と言っても着いてくるのはわかっている。ならば無駄な言い争いはしない方がいい。
「まずは相手の真意を探る事から始めんとな」
 ご丁寧に趣味の良い場所を指定してくるくらいだ、そこに何かある筈だ、と唯為は続ける。
「幸い便利な世の中だ。ネットを使用して、その指定の場所のゴミ集積場の情報を集めるか」
「それじゃ貴方はそうしてくれ。私は周辺の聞き込みをする」
「わかった。なにかあったらすぐに呼べ」
「……前向きに検討するよ」

 唯為はパソコンの前に座り直すと、ゴミ集積場の名前を検索窓に入力する。
 いくつかのヒットがあり、関係なさそうな物を目でザッと省く。
 その中に新聞記事を載せている場所があり、それにひかれた。
「何か事件でもあったのか……?」

【本当に隠れんぼ? またもや粗大ゴミにて子供が死亡?】

 そう書かれた見出し。
 見ていくと、その粗大ゴミ集積場の近くの公園で隠れんぼをしていた男の子が一人、行方不明になっている、という。
 名前を杉沢祐哉(すぎさわ・ゆうや)。
「すぎさわ……ユウヤ……」
 唯為は下唇をそっと人差し指でなぞる。そのまま記事を読み続ける。
 公園の中で隠れんぼをしていたのに、どうしてゴミ集積場が疑われたか、と言えば、その公園のいっかくに粗大ゴミ置き場があったからだ。
 業者にお金を払い、持っていって貰う為に一時置いておく場所。
 そこおいてあった粗大ゴミ類が、事件直後になくなっていたため、集積場で大規模な捜索が行われたが、ついに見つける事が出来ず、何か事件に巻き込まれたのかもしれない、という事で捜査本部は縮小しつつもまだ捜査は続いているらしい。
 唯為はその事件の記録をプリントアウトすると立ち上がった。

 一方ゴミ集積場の近くについた朔羅は、ただ闇雲に集積場で捜しても仕方ない、と辺りに聞き込みを始めた。
 目に付いたのは丁度ゴミ捨て場を掃除に来ていた近所の主婦と思われる人だった。
「すみません」
 朔羅の声に振り返った女性は、固まった。
 月の光をそのまま糸にしたような銀…よりも白に近い絹糸のような髪。前髪から覗く瞳は髪と反して黒。この世のものとは思えない美貌の主に遭遇し、女性の精神はどこか彼方にすっとんでいってしまったようだ。
「あの、ちょっとお聞きしたい事が……」
 さすがの朔羅も少し困ったように声をかけると、ようやく『禁断の美青年と愛の逃避行』という妄想から戻ってきた女性は無言のまま頷いた。
「この辺りで『ユウヤ』という名前に聞き覚えがないですが?」
 その言葉を聞いた瞬間、女性の表情は曇った。
(何か知ってるな……)
「杉沢さんちの祐哉くんの事でしょ……、可哀想よね……」
 はぁ、とため息混じりに女性は話し始める。
 それは同時刻に唯為が調べ上げたものと同じで。
「まだ見つかってないのよね……。杉沢さんの奥さん、夜全然眠れてないみたいで、この間ゴミ捨てで逢ったら、目の下にすごいくまができてて……」
 自分にも同じ歳の子がいて、たまたまその日は一緒に遊んでなかったんだが、と女性はどんどん話を続けていく。
 朔羅はそう言えばこの手の女性は話が長かったな、と他人事のように思いつつ、頭の中ではまるで別の事を考えていた。
 事件があったのは半月くらい前。もし本当に粗大ゴミの中に隠れて窒息死でもしているのなら、すでに息はない。何故半月も経ってからメッセージを送ってきたのだろうか。
「どうもありがとうございました」
 すでに『ユウヤ』とは別の話で盛り上がっている女性に情けをかけず、スパッときって捨てると名残惜しそうな視線もばっさり切り捨て歩き出した。

「遅かったな」
 集積場につくと、すでに唯為が立っていた。
「本当に来たのか……」
 大仰にため息をつくが、蛙の面になんとやら。唯為はなにも聞こえなかったかのようにプリントアウトしてきた紙を朔羅に見せた。
「ま、ここに載ってるくらいの事は、朔羅でも調べられただろうけどな」
 でも俺の方が先に来たから勝ちだな、と訳のわからない独り言には耳を傾けず、朔羅は入り口からゴミの山を見つめた。
 この中から見つけ出すのは大変である。しかしここまで首を突っ込んで何もしないわけにはいかない。
 じぃっとゴミの山を見つめる朔羅の眼前に、唯為はひょいっと顔を覗かせる。
「何を悩んでるんだ?」
「いや……この場合『もういいかい』と言った方がいいのかどうか……」
 真顔の朔羅の言葉に、唯為ははじかれたように爆笑した。
 やばい、ツボに入ったとかなんとか言いながら呼吸困難になりそうなくらい大笑いしている。
 それを横目に朔羅は憮然とした表情で集積場の中に入っていった。
 中に入ると右手に事務所が見えた。
 朔羅はそこで管理人に話をして許可を貰う。勝手に動いているのが見つかって後でとやかく言われるのは面倒だ。
 事務所から出てくると、ようやく笑いがおさまったのか、唯為が立っていた。そしておもむろにゴミ山の方を向くと息を吸い込む。
「もういいかぁい?」
 よく通る低い声が響き渡る。
 唯為は勿論返事などないと思っていた。
 が、返答があった。

 ── もういいよー ──

 それは耳に直接響いてくるような声で、どこから声がしたのかは特定出来ない。
 しかしその声を聞いて朔羅は走り出した。
 和装だと言うのに見事な走りっぷりで、汚れる事などかまっていないようだった。
 唯為はやれやれ、と肩をすくめると、唯為は事務所に入って何かを借り受けた後、朔羅を追った。
 言葉には力がある。言霊使いの朔羅には、どこから声が出ているのかわかったのかもしれない。
「ここだ……」
 そこは集積場の奥の方に位置する場所で。スクラップにする工場にも近い場所だった。
「もういいかい?」
 今度は朔羅が確かめるように言う。

 ── もういいよぉ ──

 返事はあった。
「奥の方だ……上のゴミをどかさないと……」
「おいおい、手でこんなでかいゴミをどかすつもりか?」
 傍にあったエアコンの残骸を持ち上げようとした朔羅に、唯為はあきれた声。
 その右手の指先では鍵をくるくる回している。
「?」
 無表情に見返した朔羅に、唯為は悪戯っ子のように笑う。
 そして近くにあったフォークリフトにエンジンをかける。
「これでどかした方がはやいだろ?」
 事務所で借りていたのはこれの鍵だった。
 唯為はフォークリフトを動かすと、ゴミをどかしていく。
 それは長年それを使ってきたベテランのようで、まさかこの間テレビで見ただけとは思えない運転だった。
 かなり奥まで片付けた頃、冷蔵庫が顔を出した。
「それだ」
 言われて唯為はそれをそっと持ち上げ、朔羅の前においた。
 おかれた冷蔵庫に駆け寄り、ドアを開けようとしたが開かない。
 唯為はフォークリフトから飛び降りると、朔羅と一緒にそれを開く。
 二人がかりでやっと、鈍い音をたてながらドアが開いた。
「……見つかっちゃった」
 中から出てきたのは男の子。嬉しそうに、しかし少し照れくさそうに笑っている。
「見つけた」
 無表情の中にも微かな笑みが宿る。
 言われて男の子は更に笑う。
「…見つけてくれて、ありがとう…」
 小さな身体を抱き寄せた。朔羅は抱きしめたまま男の子の耳元で言う。
「安らかにお眠り」
 男の子の瞳から涙がこぼれた。
 そしてそのまま、空気にとけて消えた。
 残された冷蔵庫の中には腐乱していてもおかしくはない時期なのに、そのままの姿をした男の子が、身体を小さく丸めていた。

 その後管理人から話を聞くと、その冷蔵庫があった辺りは、来週早々スクラップにされる場所だったらしい。
 自分を見つけて欲しくてメッセージを送ってきたのかもしれない。
 警察のサイレンが遠くに聞こえる中、二人は集積場を後にした。

●終章
「何をしているんだ?」
 着物の汚れを払っている朔羅の姿を見て唯為は首を傾げる。
「……」
「ああ、そのまま帰ったらお世話係がうるさいんだったな」
 にやりと笑った唯為の表情は、含みがある。
「俺の家で洗わせようか? 帰る頃には乾いてるぞ?」
「結構」
「遠慮するなよ。俺と朔羅の仲じゃないか」
「……」
 無視する事に決めたらしく、なんなら俺が洗濯してやろうか、中身ごと、などと言いながらついてくる唯為に一瞥もくれず、ただひたすらに家路を辿った。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0579/十桐・朔羅/男/23/言霊使い/つづきり・さくら】
【0733/沙倉・唯為/男/27/妖狩り/さくら・ゆい】

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■         ライター通信          ■
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 初めましてこんにちは☆ 夜来聖です♪
 今回は私の依頼を選んで下さりまして、ありがとうございます。
 HP拝見させて頂きました〜。うお、絵が上手い……、ああああああああって感じでしたが(笑)(わけわからん)
 二人の雰囲気がうまく出ていればいいなぁ、と思いますが、もし何かあったらバシッと言ってやって下さいませ。
 それではまたの機会にお目にかかれる事を楽しみにしています。