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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


まぁだだよぉ
●序章
 その日、ゴーストネットOFFのHPでチャットを楽しんでいたメンバーの所へ、招かねざる客が入室してきた。

マスター:ユウヤが入室しました。いらっしゃいませ。
 ユウヤ:ねぇ、かくれんぼしよう?
   雫:君は誰?
 ユウヤ:ボクはユウヤ。ねぇ、かくれんぼをしようよ。
   雫:いきなりどうしたの? 誰かの知り合い?
 ユウヤ:ボクが隠れるから、みんな、ボクを見つけてね。場所は……

 勝手に流れていくログ。それを瀬名雫は無言で見つめた。他にも参加者はいたが、固唾をのんで見守っているように会話はない。
『ユウヤ』が指定してきた場所は、ゴミの集積所だった。大型の粗大ゴミが置かれている場所。

 ユウヤ:それじゃボク、待ってるからね。

 入室者のメンバーから『ユウヤ』が消える。ROMの人数も0になっている。
 それを確認した雫は、手早く打ち込む。

   雫:誰か、行く?

●本文
 真名神慶悟はディスプレイの前に座り、難しい顔でそれをにらみながら本日12杯目のアイスコーヒーを手にとった。
 先日の依頼で手に入れた『飲み放題券』それを思う存分に使い、暑さをしのいで居た時、そのチャットが目に入った。
 それまで参加していた訳ではなく、画面をうつした瞬間に飛び込んできた

   雫:誰か、行く?

 の文字。
 それを見て慶悟は立ち上がる。雫はいつもの席にいるはずだった。
 グラスを手に移動すると、勘は間違いなく、雫が座っていた。
「何があった?」
「……あ、真名神さん」
 後ろからいきなり声をかけられて雫は一瞬肩をビクッと奮わせたが、慶悟の姿を見て安心した方に息をついた。
「おおまかな話はチャットのログを見せて貰った」
「うん……あたしがわかる事って言ったらそれくらいなんだよねー。結局、チャットの中の会話しか情報がないわけだし……」
「そうか」
 顎を摘んで考え込むようにうつむく。
 それに雫はポンっと手をうった。
「真名神さん、お願い出来ないかな?」
 雫の声が耳に入っていないかのように、未だ考え込むような姿勢のままの慶悟に雫は続ける。
「また、飲み放題券出して貰うから☆」
「引き受けよう」
 ……聞こえたらしい。

(招かれざる客、か…だが、見つけて貰う事を求めている、と見るべきか。鬼を名乗らず隠れ子を称するはよんどころなき理由の為か。…行くとするか)
 そう考えていた矢先にふってわいたような雫の『飲み放題券』の話に、慶悟は速攻で頷いた。今日使い切ってしまえばもう券はない。これから楽しみがなくなってしまうが、この仕事をこなせばまた次の楽しみが出来る。
 グラスを持ったままドリンクコーナーへ向かうとそれを軽くすすぎ、13杯目はアイスティーを選んで飲み干した。

 ゴミ集積所までの地図はプリントアウトして貰った。
(現世に迷うは人の陰…目に映る姿も、目に見えぬ姿も、いずれも然り、か…)
 すでに『ユウヤ』はこの世にいない者として見ていた。それは霊能者として勘が告げている。
 太陽が照りつける中、慶悟はこれまた暑苦しそうなゴミ集積所の前に立った。
 置かれているのは粗大ゴミ。その為悪臭は少ないが、やはり臭う物は臭う。
 一応話を通しておくか、と慶悟は集積所の管理者を捜し、話をする。
「はぁ……」
 管理者はいまいちよくわかっていない様子だったが、霊能者の話、というせいなのだろうか、断られる事はなかった。
「かくれんぼ、だったな……」
 すぅっと息を吸い込むと、慶悟はよく通る低い声で集積所中に響き渡るように叫んだ。
「もういいかい?」
 管理者は不審な表情で慶悟を見たが、至って真面目な慶悟の顔に、そのまま事務所に引っ込んでいった。

 ── もぉーいいよぉー ──

 不意に幼い男の子の声が聞こえた。
 声が帰ってきた方向で居場所を探ろうと思っていたが、金属が多い為か、反響してしまって聞こえづらい。
 居場所をおおまかにでも特定する事が出来ず、息を吐きながら足元のネジを蹴飛ばす。
 仕方がないので霊視を始める
「……」
 霊視を始めてしばらくすると、慶悟は目をつむって目頭を軽くもむ。
 物がこれだけ廃棄されているせいか、霊が入り乱れ、雑音が多い。
「なかなか手強いな。こちらも本気を出してかかるとしようか…。我が内の理に依りて来たれ…急々…」
 式神を召喚。赤い小鳥が集積所の上を散っていく。
 その間にも慶悟は霊視を続けながら集積所の中を進んでいく。
 スクラップ同然になった大型家電。それは物言わぬ屍と化して横たわっている。
 稀に魂の核が出来ているものもあったが、空虚な目で慶悟を見つめるだけで、何も語らない。
 全てを浄化して歩きたい気分になるが、これから何が起こるかわからない為、力を無駄遣いはできない。
 すまない、と気持ちを込めた瞳で見つつ『ユウヤ』を捜す。

 ── ここだよぉ ──

 反響した声。見つけて貰いたがっているのはすぐにわかる。
「すぐに見つけてやる! 待っていろ」
 安心させるような、それでいて鬼ごっこの鬼のような挑戦的な口調で言うと、誰かが嬉しそうに笑った空気を感じた。
「……あの……」
 不意に声をかけられて慶悟は振り返る。気配からして霊ではない事はわかった。
 そこに立っていたのはTシャツにジーンズ、という軽装の女性だった。
「何か?」
「……あの」
 もじもじしていてなかなか言い出さないもどかしさに少々いらいらしつつ、しかし慶悟は何かを感じて無理に聞き出す事はしなかった。
 しばらくの沈黙の後、女性は思いきったように口を開く。
「父から聞いたんですけど、何でもここで誰かを捜す、と」
(そうか、管理人の娘だったか)
 慶悟は納得しつつ女性を見つめ返した。
「一ヶ月位前なんですけど、ここである男の子が行方不明になったんです」
「…」
「友達を近くでかくれんぼをしていて…ここに隠れたらしいんです。結局男の子は見つからず、どこか違う場所で事件に巻き込まれたんじゃないか、って話になったんですが」
 女性の話を聞きながら慶悟はテレビでやっていたニュースを思い出した。
 それはちらっと見ただけのものだったが、断片的に記憶に残っていた。
 ゴミ置き場付近で遊んでいた子供が行方不明になったきり、消息不明だ、というもの。
 解決した、というニュースは聞いていない。
「話を聞いて、その子のことが浮かんで……」
 複雑な表情で女性はゴミの山を見つめる。
「わざわざ伝えに来てくれたのか。ありがとう」
 にっこりと慶悟が微笑むと、女性は頬を赤らめつつ帰っていった。
「さて……」
 時折脳裏の直接響くように聞こえる「もういいよ」の声。
 早急に見つけてやらないとな、と慶悟は呟いて戻ってきた式神を手の上に載せる。
 静かに目をつむると式神のビジョンが浮かぶ。
 それは大型冷蔵庫だった。その中に胎児のように眠る少年の姿。
 生きているのか? と一瞬思ったが、生気は感じられない。その冷蔵庫は崩れたベッドやエアコン、他の大型家電の下敷きになっていて容易に取り出せる位置にはなかった。
 そこに別の式神が戻ってきた。これは子供が遊んでいた、という近くを探らせていたものだ。
 見えたのは粗大ゴミの置く場所と公園のようないっかく一緒になったような場所だった。
 多分そこで置いてあった冷蔵庫に隠れた少年が、そのまま運ばれていき、その上粗大ゴミが崩れるかなんかして下の方に隠されてしまったのではないか。
 管理人の話によれば、経費削減とかなんとかでゴミをスクラップにはすぐにせず、ある程度ためてリサイクル出来そうなものは専門の業者に任せ、その他を順番にスクラップにしていく、という事だった。
 そして式神が見せたビジョンの辺りは、来週早々スクラップにされる区域のものだった。
「ちっ」
 慶悟は舌打ちをして走りだした。
 耳には期待と……しかしどこか不安を含んだような声音で「もういいよー」と聞こえる。
「すまんがゴミを動かして欲しい」
 事務所に飛び込んだ慶悟は、開口一番にこう叫ぶと、口早に場所を指定して有無を言わせぬ内に現場へと向かって走り始めた。
 走ってどうこうなるものではない。しかし。いつまでも一人閉じこめられたままにさせておくのは忍びなかった。
 思い出すのは遙か昔。まだ家が健在だった頃。姉と二人でたった3度、かくれんぼをした事があった。2度はレーダーでもついているかのようにすぐに自分を見つけてくれる姉がその日に限りって途中で祖父に呼ばれ、連れて行かれてしまった。
 いつまで経っても見つけて貰えない。期待は不安へとかわり。夜もかなり更けた頃、ようやく見つけて貰えた時には、泣くまいとこらえた瞳が充血で真っ赤になっていた。
「すぐに見つけてやる」
 すでに手遅れだった。手をさしのべてやらねばならない子供はすでにこの世になく。亡骸だけが眠っている。
 だが確かに助けを求めて来ていた。
 自分はここにいるのだと叫んでいた。
 式神に案内された場所につくと、慶悟は自力でどかせる範囲のゴミを退け始め、式神にも手伝わせる。物体に干渉させる力を与える事は、常に霊力を放出している事で。それは体力を消耗する事だったのだが、やめることはなかった。
 そしてあらかたどかした所へ、クレーン車に乗った管理人が来る。
 慶悟の指示の元、ゴミがどけられていく。
 20分ほどその作業を繰り返した所で、冷蔵庫が姿を現した。
「パール持ってきてくれ!」
 さびついた冷蔵庫の扉は、ひっぱっただけでは開ける事が出来ない。
 管理人は慶悟の迫力に、転がるようにクレーン車を降りると、工具を取りに走った。
「もうすぐだ。もうすぐ見つけてやるぞ」
 すでに慶悟の体に力は残っていなかった。精も根も尽き果てた、というのはこの事か、と実感出来る位の虚脱感が体を覆っていたが、それでも動いていた。
 霊能者としても思いでも、報酬への思いでもない。それは純粋に助けたい、という気持ち。
 よろよろしながら走ってきた管理人から工具を受け取ると、慶悟は中を傷つけないように気を付けながらこじあける。
 瞬間。
 中から男の子が嬉しそうに飛び出してきた。
 それを見て慶悟は言う。
「見つけた」
 男の子は照れくさそうに、しかし極上の笑みを浮かべて言う。
「見つかっちゃった」
 そして小さく呟く。
「ありがとう……お兄ちゃん……」
 ぎゅっと慶悟にしがみついてきた小さな体を抱きしめてやり、そっと声をかける。
「子供はそろそろ休む時間だ……ゆっくり眠れ。次の世の為に……」
 男の子は小さく頷いて、目に涙をたっぷりためたまま笑う。
 そしてその姿は空気にとけて消えた。
「け、警察に連絡した方が、い、いいんですが?」
 初めて死体をみたんだろうと思われる管理人は、冷蔵庫の中で丸まったままの姿で固まっている男の子の亡骸を見て、腰を抜かし、呂律がまわらなくなっている。
「ああ、頼む」
 そっけなく言うと、慶悟は亡骸をそっと冷蔵庫から出し、地面に横たえた。
 梅雨に入り、暑さと湿度ですでにとけかけていてもおかしくない亡骸は、しかし男の子の姿を保っていた。
 その辺の理由は科学やなんやらで色々証明する事ができるのだろうが、慶悟には判らない事で。ただ、男の子の思いが自分の姿を残しておいたのだろう、と思う。
「静かに……ゆっくり……体をのばして眠れよ」
 言うと慶悟は遠くに聞こえるけたたましいサイレンを聞きつつ、その場を後にした。
 救うべき霊はもういない。だからここには用はない。
 慶悟は胸ポケットからタバコを取り出してくわえると、真相を待つ雫の元へと歩き始めた。

●終章
「そっか……」
 淡々と語る慶悟の話を聞き終えた後、雫は膝の上に重ねた手を見つめながら呟く。
「こういうの聞くとさ、あたしってば好奇心だけで、ホント役にたたないなぁ、って思うんだよね」
 自分と同じ位の歳で、能力を持っている人は沢山いる。
「気にするな。己の力のなさを悔やむより、力のない自分がどこまで、何をやれるか、と考える方が建設的だ。それに瀬名はすでに色々な力を持っているだろう?」
「力?」
「人を引きつける力。人をまとめる力。他にも色々ある。それはどれも素晴らしいものだ。自分を卑下するな」
「……ありがとうございます」
 ぺこっと頭を下げて、潤んだ瞳をモニターに向けると、チャットの画面にかわり、『ユウヤ』が入室してきたことを告げた。

  ユウヤ:ありがとう

 一言だけ残して退室メッセージが残される。
 瞬きした瞳から涙がこぼれる。
 慶悟はそれを見て笑むと、カフェを後にした。
 ポケットにはしっかり『のみ放題券』が入っていた……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師/まながみ・けいご】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来聖です☆
 今回は久々のパラレルに挑戦♪
 いかがだったでしょうか?
 勝手に昔お姉さんとかくれんぼした事にしちゃいましたが。
 ほぼ私の中の真名神さん(謎)で書かせて頂いちゃいました。
 イメージと違っていたら文句言ってくださいね。
 それではまたの機会にお目にかかれる事を楽しみにしています。