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<東京怪談ノベル(シングル)>


夏のヤキイモと放浪の魔術師

シェラン・ギリアムは日本の魔術を研究するべく来日していた。
とはいっても…、旅の途中で全財産を使い果たし、研究どころでなく餓死する寸前のところ、お人好し過ぎる高校生が彼を拾い、そのまま高校生の家で居候としている。密かに魔法の護符をキャッチセールスで売る日々…全く売れないまま、数ヶ月が経とうとしていた…。

夏のある日…。
蝉が鳴くなか、シェランはあやかし荘に向かっていた。あのアパートは魔術研究にうってつけな所であるし、楽しい友達がいる。ちょっとばかし遊びに行く気分で向かっていたのだが。
あやかし荘の庭で、高揚のない秋の風物詩が聞こえた。
「焼き芋―、いしや〜きいも〜」
「こんな時期にヤキイモですか?季節はずれも良いところです」
半年以上も日本で暮らしている彼にとって、日本の行事はほぼ熟知している。焼き芋を売る時期は寒くなる秋の終わりのはずだ。
もう一つ声がする…
「もう食べられないですぅ〜」
聞き覚えのある、気の弱い声…
「“サンシタ”?」
声の元に走っていく。
あやかし荘の庭では、石焼き芋屋台車があり、三下忠雄が、店の親父に無理矢理焼き芋を無理矢理買わせ、そのあげくその場で食べさせられているではないか!しかも、石焼き芋の屋台には達筆な字で…
《焼き芋教 〜焼き芋の温かさで幸せに!〜》
と書かれていたりする。
「これが噂に聞く“ヤキイモ教”!無理矢理焼き芋を買わせ食べさせる極悪非道なカルト集団!」
何処で訊いたんだ何処で?
あやかし荘自体が、奇妙奇天烈摩訶不思議な所とは謂え、白昼堂々庭で焼き芋を売る事自体おかしい。
さらに、それが謎のカルトの移動事務所がきている。あやかし荘に誰もいないのか?
「流石、あやかし荘。何時来ても楽しい所です☆」
彼は玄関先で様子を見守りながら笑っていた。
―隠れて笑ってる場合じゃないだろ!完全に三下は目を白黒させ、焼き芋で窒息死寸前なのだから。
「そうですね…『アトラス記者、焼き芋の食べ過ぎで窒息死』という悲しくも楽しいな記事が読めると思ったのですがねぇ。っと…ジョークはこれぐらいにして、サンシタは私の友達!必ず助けなくてはなりません!」
シェランは駆け出した。そして高揚のない焼き芋の歌を歌う親父の前に立ちはだかった。
三下の腕には袋に詰まった焼き芋がある。口の中も黄色い物体が見えている。
「あんたもどうですかぁ〜」
親父は焼き芋一杯の袋をシェランに押しつけてきた。
「私は要りません!其れよりこのままでは“サンシタ”が死んでしまいます!」
しかし、ちゃっかり芋を受け取っている魔術師。
確かに三下は死にかけだ。
「それはね〜彼すごい不幸でしょ〜?だから丹精を込めて作った焼き芋の温かさで〜“幸せ”になって頂こうとしたまでですがね〜」
「其れで“幸せ”=“あの世”に?其れは間違ってますよ!彼はいつか必ず幸せが訪れるはずです!」
「イヤ無いですよ〜皆そう言ってますし、有名な話ですよ〜」
「有るんです――――――ッ!」
シェランは焼きたての焼き芋が入っている袋を高く掲げ…
「必殺イモビーム!」
と、訳の分からない言葉を発して親父に力一杯叩きつけた。
クリーンヒットで親父の顔面に当たり、スローモーションで焼き芋が砕けていく…
「ああ、愛しの焼き芋がぁ〜!」
親父は焼き芋の痛さ(熱さ)よりも粗末にされた悲しみのあまり、泣きながら落ちた焼き芋のかけらをかき集めていた。その悲しみの声も高揚がない。
「今ですサンシタ!」
シェランは三下の手を掴んで、あやかし荘の中に入っていった。

ぺんぺん草の間。
何とか生き延びることが出来た三下。
「た、助かりました〜シェランさん。ありがとうございます!」
「いえ、友人は助けることが当然ですよ♪」
泣きながら、感謝の言葉を述べる三下にシェランは爽やかな笑顔で答える。
「しかしサンシタ、今後こんな事がないようにどうですか?コレを」
ウェストバックの中から妖しいタリスマンを出してきた。
「コレは何ですか?」
怖ず怖ずと訊ねる三下。
「コレが有れば家内安全、無病息災、交通安全と万能な護符です☆特別に“サンシタ”価格で5万円の所6万5千円で!」
「そ、其れって高くないですかぁ!」
「え、そうですか?安いはずですよ?5万円に“−1万5千円引いてます”し!」
ソフトな笑顔で迫るシェラン。因みに“ ”の部分は正確には“1万5千円足してます”となる。
言葉というモノは怖い。
「僕そんなにお金無いですよ〜」
「まさか!雑誌記者なら其れ相応のお給料を貰っているはずですよ?」
「そ…それが…」
「はい?」
「さっきの焼き芋屋さんにお給料殆どとられて…いまはこれっぽっち」
「な、なんと!」
三下がガマ口を開き、そこに入っていたのは、500円玉1つだけ。
流石のシェランも衝撃を受けた。
「これからどうやって生活して行かなきゃならないんですかぁ〜うわぁ〜ん」
情けない声で泣く三下。
「いえ、…ではお気をつけて下さいねサンシタ…」
ゆっくりとその場から離れようとするシェランだが…
「助けて下さいよ〜、シェランさん!友達は助けるのは当然って!」
弱々しい声をあげながらシェランの足にくみつく三下。
「そんなぁ!其れは其れ、此は此!私もお金、持ってませんよ――――――!」
振り解いて、そのまま逃げ出すシェラン。
「シェランさーん!」
「焼き芋―!」
あやかし荘で悲しげな叫び声がこだまする中、シェランは何事も無かったようにあやかし荘を去っていった。

教訓1:食べ物は粗末にしない
教訓2:シェランが何かを取り出したら注意しよう(ぉぃ

End

ライター通信:
滝照直樹です。こんにちは。
今回シチュエーションノベル初執筆でした。
どうもありがとうございます。