コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談・PCゲームノベル>


殺虫衝動『影の擬態』


■序■

 御国将がメールを受け取ったのは、某月某日。
 そう言えば、昨日もワイドショーは殺人事件の報道に時間を割いていた。ここのところ立て続けに起きている殺人事件は、いよいよ世間の人々にとっても深刻な問題となりつつあるようだ。
 全く、世間は始動に時間がかかる。
 だが一度問題になってしまえば後はずるずると解決まで一直線だ。時事を動かすには、まず世論。
 将とコンタクトを取ろうとしているのは、件のメールの差出人だけではなかった。埼玉県警の嘉島刑事もだ。最近、よく電話をかけてくる。彼は知りたがっているだけの様子だった。

 ムシは、一体、何なのだ。

 将はあの日から影を恐れている。時折ちょろりと視界をかすめる蟲にも、いちいち飛び上がりそうだ。
 とりあえず、三下が一番危ないか。ムシを見せてはならない。いや、編集長もか。彼女もなかなかストレスを抱えていそうだ。
 びくびくしながら1日また1日と食い潰していく――それもまた、大きなストレスに繋がる。
 解決しなければ。自分のためにも、世間のためにも。
 ことの真相を知る者とともに。いや、その力にすがりたい。

 ムシを、殺せ。

 メールに記されていた待ち合わせ場所は、つい最近傷害事件があった現場のすぐ近くだった。


■月の白に、天道の黄■

 太陽は、黄色と白で描くべきものなのだ。そう、使う色は月とそう変わらない。
 いや――御母衣今朝美の場合、太陽と月を描くために絵の具を絞り出す必要はなかった。真新しい筆を空へと伸ばし、するうりと円を描いてみれば――見よ、紙に姿を描くための色が、たちまち穂先に載っている。
 太陽からは、眩い白と黄色が採れる。月からは、静かな白と灰色が。
 今朝美は時を忘れたかのような森の中のアトリエで、太陽と月を描いた。瞬く間に、その作品は描き上がった。
 ――やはり、誰かのために描く絵は出来あがるのも早い。いい色も出る。
 今朝美は目を細めて、出来上がった作品を見つめた。出来栄えには満足していた。
 そう、それはひとのために描いた絵だった。

 ぶうん、

 開け放した窓から、1匹の黒いカミキリムシがアトリエの中に迷いこんできた。カミキリムシは今朝美が着ている白と青の和服にとまった。
 今朝美はそれを振り落とそうとはせず、黙ってそっと見守った。ゆらゆらと触角を動かしながら――カミキリムシもまたじっと静かにしている。
 これが、自然にあるべき『黒』。
 だが今朝美は先月、この世を捻じ曲げる『黒』を見た。
 色と自然を愛し、それらとともに生きる道を選んだ今朝美にとって、あの色の存在はとても哀しいことだった。怒りや恐れなどは感じない。むしろ憐れんでいる。色が殺されていく東京の街も、その殺戮の末に生まれてしまったあの『黒』も、今朝美は等しく憐れんだ。
 たった今完成した月と太陽の絵は、そんな『黒』にとり憑かれた一人の男のために描いたもの。
「今日は何曜日か――貴方はご存知ですか?」
 東京に行こう、と思い立った。しかし今日が土曜や日曜であれば、あの男に会うことは出来ない。今朝美は彼の自宅を知らなかった。
 今朝美は微笑み、めずらしくおどけて、袖にとまったカミキリムシに曜日を尋ねた。彼は時を手懐けてしまった男だった。今が何年何月何日で、何曜日なのか――あまりに些細なことなので、今朝美はいつでも把握していないのである。
 しかしそれは、カミキリムシも同様だ。
 知らんよ、とでも言いたげに、カミキリムシはぶうんと飛び立った。
 そして入ってきた窓から外に出て、もう戻ってくることはなかった。


■約束■

 今朝美は運良く、火曜の東京に行くことが出来た。相変わらず空の色も太陽の色も死にかけていた。この過酷な世界の中で、人々は何の不自由も感じずに暮らしているように見えた。
 今朝美はふと思い立ち、遠回りをして白王社ビルに向かうことにした。
 先月、『黒』にとり憑かれた男を捜すのを手伝ってくれた紫陽花を見るためだった。
 紫陽花の花は見頃も過ぎていたが、元気そうだった。この家の主は花好きのようだ。紫陽花がすこし汚れているのは、死んだ空の煽りを受けたからに過ぎない。
「……彼は、元気ですか? その後変わりはありませんか?」
 今朝美は微笑み、紫陽花に尋ねた。精を呼び出すことはしなかった。花も終わるこの紫陽花は、きっと今時期疲れているだろうから。
 紫陽花は、あのときもいまも、あの男を心配していた。あの男が時折足を止めて、咲き誇る花を見てくれていたからだ。


 40分ほど街をそぞろ歩いてから、今朝美は月刊アトラス編集部に入った。
 この編集部はいつでも忙しそうだ。ぴりぴりしている麗香や走り回っている三下、つまらなさそうな顔でパソコンに向かっている御国将。彼らは死んだ街で生きている。これがいつもと変わらない光景なのだ。
「……あんたか」
 今朝美がデスクに近づくと、将がハッとしたように顔を上げた。言葉はそっけないものだったが、その眠たげな目はどこか安堵したような素振りを見せていた。
 正直な人間だ。ただ不器用だから、その正直な気持ちを表情に出すことが出来ないだけなのだろう。
「お変わりはありませんか?」
 紫陽花にしたものと同じ質問を、今度は本人に投げかける。
「大人しくしてる」
 うっすらとした苦笑を浮かべて将は答えた。大丈夫だと言わんばかりであった。
「それは何よりです」
今朝美が笑っているのは、安心したからだ。将が安堵していたのと同じように、今朝美も胸を撫で下ろしている。
 というのも、ふたりが同時に目を落とした将の影は、影であったからだった。
あの歪な事件からちょうどひと月経った。麗香も将の家族も、彼の数日間の失踪はそろそろ許し始めていたし、月刊アトラスの新刊も出版されている。同時に、以前と変わらぬ日常に戻ったことだ――ストレスも悪い具合に溜まっているかもしれない。
が、彼の影を見る限り、将はまだストレスを手懐けている様子だった。
「……影に怯えてはいけませんよ。向き合い、共に生きていかねばなりません」
 将の影を見下ろしたまま、今朝美は呟くようにして呼びかけた。
 将は「ああ」と呻き声のような返事を返す。どうやら――今朝美が危惧していた通り、将はまだ影を恐れているようだった。
 共存への道は遠いか。まあ、無理もない。
 『黒』は歪みそのものだ。この男は、慣れるよりも正す方が向いているのかもしれない。その手伝いをするのも、悪くはない――今朝美は、どうにか割り切った。
「しかし、いいところに来てくれた」
 将は溜息混じりに話を切り出した。
「何か、ネットで動きでも?」
「あんたは山の中で変わらない毎日を過ごしているんだろうが、『下界』は慌しい。動いてるさ。一瞬でも止まろうとはしないんだ」
 今朝美が時を手玉にとって、不変の日常を送っていることに、将は気づいているのかもしれない。皮肉っぽい笑みを浮かべて、彼はパソコンと向かい合った。
「今、ムシ関連の噂の中に『平』っていう人間の話が持ち上がってる」
「『たいら』……?」
「平本人は多分どこにも出てきてないようだが、メールアドレスはあちこちに流れててな。手当たり次第にメールを送ったら、返信があった」
 将はメーラーを起動し、問題のメールを開いた。

  差出人:平
  件名:待っている

  ウラガ君へ。
  興味を持ってくれて嬉しい。本日21時、鳩見公園で会おう。

「ほう……」
「受け取ったのは昨日――とは言っても、夜中の2時だ。今日の夜9時……どう思う?」
「悪戯である可能性は?」
「鳩見公園は最近物騒でな。少し前から通り魔が出てる。今朝は死体が出た。そんなとこをわざわざ指定してるから――」
 将の言葉は、携帯の着信音に遮られた。
 将は面倒臭そうな顔(いや、いつもそんな顔なのだが)で携帯を取り出したが、ディスプレイに表示された名前を見て、出る気になったようだった。今朝美に軽く目配せすると、彼は席を立ち、普段は誰も居ない応接間に入っていった。彼は周囲が五月蝿いと電話に集中できないらしい。彼自身の声も非常にぶっきらぼうなので、相手から聞き返されるのも煩わしいのだそうだ。自分がハキハキ話す努力をしたら済むことなのではと、よく尤もな突っ込みをされるらしい。
 将の背中を見送って、今朝美はパソコンの画面に目を移した。
 平――。
 見たこともない『色』だ。


■決断と決行■

 将は5分ほどしてから戻ってきた。電話の相手は埼玉県警の嘉島――殺人課の刑事だそうだ。将の記事を見て『ムシ』に興味を持ち、密かに動いているのだという。
将の顔はどうにも複雑そうで、曇っているようにも見て取れた。
「どうかしましたか?」
「ああ。会いたいって言ってきた――今夜、な。電話ではもう何度か話してるんだが、会ったことはないんだ」
 翳る将の顔を見て、仕方のない人だ、と今朝美は微笑んだ。
「会うか会わないか……迷っていらしたのですね」
「もしこれが、その……伝染病みたいなものだったら――」
「今頃麗香さんも三下さんも皆『黒』に憑かれていることでしょう」
 今朝美の微笑みに、将は何かを言いかけていた。
 確かに。
 だが、見る限りでは、将のものの他には誰の影も揺らめいてはいない。


 嘉島刑事とは、21時までという約束で会うことになった。場所は、鳩見公園近くの喫茶店だ。
 今朝美は将と別れ、先に公園に行くことにした。
 人気の無い鳩見公園、午後8時30分。
 住宅地とはまだ離れているここは、喫茶店やブティックが集まった閑静な商店街だった。午後8時にもなると店は閉まり始め、静けさを帯びてくる。9時にはすっかり静まりかえるのが常だった。
 ともすれば、将よりも先に平と邂逅することになるかもしれない。今朝美はそれでも構わなかったし、むしろ望むところだった。ムシに関わっている以上、あの歪んだ『黒』を持っている可能性は高く、さらに何か『黒』について知っているということも考えられる。『黒』についてどう思っているのか――或いはどういった接し方をしているのか――今朝美は、興味があった。
 鎮まりかえった夜の公園の中、今朝美はおもむろに袖から筆を取り出すと、広場の隅に植わっていたクヌギの木の色を採った。
 水彩紙を取り出し、さらさらと若いクヌギを描く。
 淡い光を纏って現れたクヌギの精は、いつかの紫陽花の精と同じく、少しばかり汚れていた。
「黒い蟲について何か知りませんか?」
 単刀直入に、今朝美は尋ねた。
 街で息づく木々は、大概若い。このクヌギも例に漏れず、少年の姿をしていた。汚れたクヌギは目をこすり、あくび混じりに答えた。
『あんなの、虫なもんか』
「ええ、わかっていますよ」
『今朝も人を食べてたよ』
「……」
 今朝美は広場の片隅に目を移した。
 公園の一角は警察のテープで封印が施されていた。死体があった場所にはまだマーキングが残っており、地面は血を吸っている。
『え、ちょっと待ってよ。行く気? ヤバいよ、あれは自然のものじゃないんだから、あんたじゃ……』
「心配には及びません。ちゃんと対策はありますから」
 現場へと向かおうとする今朝美を、精霊は慌ててとめようとした。しかし今朝美の微笑みに、安堵したのか信用したのか――肩をすくめて言葉を切ると、くるりと宙返りをした。
 ぽん、と少年の姿は消えた。
「おやすみなさい。起こしてしまってすみませんでしたね」
 クヌギに頭を下げてから、今朝美は黄色のテープに近づいた。
 蟲は自然のものではない。
 クヌギが言った通りだ。あれは、この公園の広場の時計や噴水と同じ――人のもの。
 今朝美は色を採ろうとして、ひたと筆を止めた。

 かさこそ――

 聞き覚えのある渇いた音がしたのだ。
 それは、茂みから聞こえてきていた。


■無慈悲な牙■

 かさこそかさこそ、かさかさかさかさ、
「来るな」
 かさかさかさ、
「くそっ……くそっ、来てほしくなかった」
 若い男の声が、かさこそという音の向こう側から届く。
「……平さんですか?」
「なんで来たんだ」
 今朝美の問いにも、男の声は答えない。
 茂みの中から、ただひたすらに呪詛を絞り出すだけだ。かさこそという薄気味の悪い音とともに。
 来やがった何で来たんだ来なければいいと思ってたのに何で来たんだ何であいつの言う通りになったんだ来ちまいやがってああ、ああ、ああ、来やがったな!
 今朝美は持っていた真新しい筆を捨てると、袖に手を入れた。
 それと同時に、茂みを切り裂いて、1匹の蟲が飛び出してきた。66対の脚を持つ蜂だ。尻から飛び出した針は、ささくれ立っている。蜘蛛のような顎と、9つの複眼。血管が飛び出した翅は、かさこそと音を立てていた。
 スズメバチやミツバチと、断じて比べてはならない。蜂たちは確かに、武器を持っている上に気が荒い。だが、意味もなく襲うことはないのだ。自然には、必ず意味がある。
 しかし、この蜂は――
 耳障りな音で羽ばたきながら、蜂はその場で静止した。ぎょとぎょとと慌しく首を傾げ、今朝美をねめつけていた。その間も、66対の脚はかさこそと蠢き続けている。
「お、おまえはちがう……ちがうじゃないか……何で来たんだ、ちがうのに……!!」
 蟲に憑かれた男が、絞り出すようにして毒づいた。
 途端、蜂が針を向けて突進してきた。

「御母衣!」

 駆け寄ってくる影と、声には気づいた。
 だが振り返っている暇はない。
 今朝美は白と黄が載った筆を取り出し、蜂に塗りつけようとした。この白と黄は、太陽を描いたときの余りもの。森の中で採った陽の色だ。ほんの少しだけでも、この黒を鎮めることは出来るはず――いつか、将の蟲に安らぎを与えたときのように。
 しかし、蜂の動きは速かった。ぶぇんと低い唸りを上げて、今朝美の筆を素早くかわした。
 ささくれた針が、今朝美に向けられ――

「ウラガ! 御母衣を助けろ!!」

 蜂が突進するのを、突如現れた影が食い止めた。
 影はぎらぎらと赤く輝く複眼を持った百足の形をしていた。異様なあぎとが蜂の頭に食らいつき、ばりばりと咬み砕く。蜂の脚が落ち、翅が破れた。だが蜂もまた必死に抵抗した。百足の腹に、針がずぶりとめり込んだ。。う、という低い声と共に、少し離れたところで誰かが倒れた。
「御国さん……!」
 今朝美は素早く手を伸ばし、蜂の背に筆を走らせた。
 眩く暖かい光が蜂を包んだ。蜂はもがき苦しみ、その拍子に、針が百足の身体からずぼりと抜けた。
 蜂は消えるはずだった。今朝美が使役した『色』によって鎮まり、影へと戻るはずだった――それなのに、苛立つ百足がとどめを刺した。ぐわッとあぎとを開いて、瀕死の蜂に再び咬みついたのだ。そのまま無慈悲に、ばりばりとすべてを咬み砕いた。茂みから呻き声のようなものが上がった。
 蜂の破片は地面に落ち――蜂は影になり――音もなく、茂みの中へと帰っていった。
 

■始まり■

 今朝美は茂みの中を覗きこんだ。
 汚れたTシャツを着た男がひとり、血を吐いてのびていた。その身体の下には影がある。とりあえず生きてはいるようだが、事情は聞けそうもない。
今朝美は振り向いた。御国将が、呻きながら立ち上がっているところだった。彼の足元に影はなく、代わりに、傍らに巨大な百足が寄り添っていた。
「ウラガ……?」
 今朝美は首を傾げた。
 将は口元をぐいと拭った。その手の甲に、血がついていた。
「こいつの名前だ。またでかくなりやがって」
 将はべしりと百足の頭を叩いた。将の蟲はぎちぎちとそこに佇んでいる。その赤い目は禍禍しいものだったが、どこか空虚でもあった。以前今朝美が見たときのように、露骨な苛立ちや敵意はなかった。
「……まるで、精霊のようです」
 将にとっては、この蟲は精霊なのかもしれない。ある意味、自分のようだ――今朝美はそう考えて、微笑ましくなった。
 今朝美は3枚の絵を取り出すと、将に手渡した。
 太陽の絵、
 月の絵、
 そして――穏やかな表情の碇麗香のポートレートだ。
「差し上げます」
「いいのか?」
 将は素直に驚いていた。今朝美の絵は、今や巷でかなりの評判だ。売買はしないことからその希少価値も高い。それを3枚も受け取ったのだから、さすがのこの男も面食らうだろう。
 しかも、ぼんやりと輝きを帯びているようにも見えるその絵に、将が目を落とした途端――ウラガと名付けられた蟲は、ひゅるひゅると小さくなり、ざぶりと将の影に潜りこんだ。慌てて逃げたようにも見て取れた。
「……やはり、自然とは相容れない存在なのでしょうか……」
 今朝美は、自然の色を将のみならず蟲にも理解してほしかった。しかし、結果はこれだ。残念でたまらず、彼は溜息をついた。
 気を取り直し、微笑みを将に向ける。
「月と太陽は、貴方と共にあります。3枚目の絵は、ご本人に差し上げてください。今日渡そうかと思ったのですが、忙しそうでしたからね」
「喜ぶかどうかはわからんが、渡しとこう。……すまないな。世話になってばかりだ」
「いいのです。貴方は少し自然を知っているし、知ろうとしていますから」
 紫陽花の精のことを話そうと思った。
 だが、この男なら自分で気がつくかもしれない。
 そう思って、今朝美は言わないことにした。



 今朝美は、あの日から何日経ったか数えていなかった。
 「ある日」、今朝美のアトリエに手紙が届いた。彼と『下界』が連絡を取るには、未だにこれしか方法がない。この時代でも、彼のもとには如何なる電波も届かないのだから。
 差出人は御国将。消印は東京の真ん中。


  御母衣へ。
  この間も世話になった。有難う。
  絵は、ちゃんと編集長に渡しておいた。
  珍しく照れてたぞ。
  それで、昨日なんだが、平からこんなメールが届いた。

  >差出人:平
  >件名:ようこそ

  >ウラガ君へ。
  >きみのムシを見た。それと、お仲間も。
  >頼りになる友人をお持ちのようだな。
  >彼とも会いたいものだ。今度は、直接。
  >だがとにかく、我々はきみを受け入れる準備を終え、
  >きみは我々と目的をともにする権利を勝ち取った。
  >おめでとう。『殺虫倶楽部』にようこそ。

  向こうは高みの見物を決め込んでいたようだな。
  俺は変わらず取材を続けるつもりだ。
  そうだ、俺に接触してきた埼玉県警の刑事も消えちまった。
  俺は疫病神かもな。


 最後に、「いつ届くのか、ちゃんと届くのか不安だ」というようなことが書かれていた。今朝美は苦笑いをした。配達員には確かに苦労させている。
 しかし――何の弱音も吐かず、仕事熱心なままであるところを見ると、将は蟲とうまく付き合っているようだ。
 今も東京で殖え続けているであろう『黒』と、平という存在が気がかりであったが――今朝美はひとまず安心して、キャンバスの前に戻った。
 キャンバスに、黒いカミキリムシがとまっていた。




□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

【1662/御母衣・今朝美/男/999/本業:画家 副業:化粧師】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
               ライター通信
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

 モロクっちです。お待たせ致しました。
 御母衣さま、続編への早速のご参加有難うございます! 『殺虫衝動』第2話をお届けします。今回は、『平』との接触、そして将との再会でした。
 ぎすぎすした話であるはずですが、御母衣様を主人公にすると、どこか静かで綺麗な雰囲気になる気がします。わたしも水彩絵を描いているせいか、御母衣様はとてもイメージが掴みやすいのです。先日納品したシチュエーションノベルも、ご一緒のPC様とともにご満足頂ける描写であったなら、とても幸せです。
『殺虫衝動』は第3回の受注をそろそろ始める予定です。ご都合がよろしければどうぞ。
 それと、前回整理番号を間違えてしまいました。失礼致しました。

では、またお会いできる日を願っております。