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クロール【調査編】
*
白い。
薄暗い室内から、ふと窓を覗いた草間はその明度差に思わず目を閉じた。陽がだんだんと高くなるにつれて、閉じられた窓越しにでさえ蝉の声が耳につくようになる。
「夏だな…」
背後を甲斐甲斐しく動き回る零に、神妙にそう言い放った草間はすぐに足下へと視線を落とした。
「現実逃避ですか?お兄さん」
零は足を止め、俯きながら窓の傍へ立っている草間の方へ向き直り、軽く首を傾げた。
「……。そうだな。そうかもしれんな…」
現実逃避もしたくなる。
期限は、依頼人の言う通りであるならば、今日を含めてたった3日しかないのだ。
依頼内容は護衛。
依頼人、青柳・治人(あおやぎ・はると)に迫る死から彼を護ること。――今朝一番に電話を鳴らした依頼だった。
「お友達は皆さん亡くなられたのですね」
テーブルを拭きながら零が顔を上げた。
「ああ。彼を含めて一緒に海へ出掛けた4人のうち既に3人が死亡している。残りは彼だけだな…。最後の1人になって、ようやく事態の深刻さに気付いたらしい」
「本当にそのお出かけが原因なのでしょうか?」
お出かけ、という零の口ぶりに微かに苦笑しながら草間は続けた。
「死亡したうちの2人、室井・雅直(むろい・まさなお)、木崎・洋平(きざき・ようへい)は青柳の大学の同級生だ。だが、もう1人。木崎の従兄弟にあたる森下・学(もりした・まなぶ)とは青柳も室井もそれまでに全く面識が無かったそうなんだ。繋がりを求めるとすればそれしかない。皆同じ死因だからな…」
依頼人の震える声を思い出し、草間は苦虫を噛み潰したように顔をしかめる。
――胃から…、大量の塩水が。
むろん、経口摂取したもので無い事は明らかである。
一体何から、どうやって彼を警護すればいいと言うのか。
海へ向かったのが8月9日。木崎が13日に、森下が17日、そして室井が昨日21日、いずれも朝に死亡が確認されている。この等差数列に従うならば、青柳は25日の朝に死亡している所を発見されるという事になるだろう…。
時計を見上げた草間は、これから訪問するという依頼人の事を思い、強くこめかみを押さえた。
* *
カラン、と音を立ててグラスの中の氷が跳ねた。
陽は間もなく天の上辺へと差し掛かろうかという時刻。上昇を続ける外気温と己の体温との境も曖昧になり、妙に空気との一体感を感じることが出来るだろう。
ここ草間興信所では、何故か室内に居ながらにしてその一体感を楽しむ事が出来た。
ついさっき、冷房器具が煙りを吐き出して後、一向に動かなくなったからである。窓を開けていても空気に流れは起こらず、奥から出して来た扇風機もただ熱い空気をかき混ぜるだけだった。
「絶対に、何か憑いてますわね」
出された麦茶の氷もみるみる溶ける室温に、持参の扇子で軽く一仰ぎすると草壁・さくら(くさかべ・)はにっこりと微笑んだ。
「そういう冗談嫌いだわ」
グラスを乗せたお盆を手に満面の笑みを張り付けて、シュライン・エマ(・)もお返しとばかりににっこりと微笑んだ。
「あら、冗談ではありませんわ」あらためてさくらは小首を傾げてみる。
「ええっ!何か付いていますか?!」
すぐそこで繰り広げられている笑顔の応酬そこのけで、海原・みなも(うなばら・)はきょろきょろと自分の背中の辺りを気にしてみる。
「あ、ほら糸くずが付いていました」
隣でくるりと振り返ったみなもの背から、水無瀬・麟凰(みなせ・りんおう)は白い糸屑を取ってやった。
「ありがとうございます」
みなもがちょこっと頭を下げてお礼を言うと麟凰は柔らかく微笑んで首を振った。
ぽたぽたと水滴の垂れるグラスを両手ではさみながら、砂山・優姫(さやま・ゆうき)は何となくのどかなそのやり取りを遠い目でぼんやりと眺めていた。
皆、敢えて明るく振る舞っている。
…既に三人の命が失われているのだ。依頼人が扉を叩く音を合図に、この和やかな空気は失われてしまうだろう。
「どうかした?」
「いえ…」
口元に笑みを浮かべ顔を覗き込むシュラインに、優姫は軽く首を振る。
依頼人到着の10分前であった。
* * *
青柳は背が高かった。
シュラインに案内されたソファへ腰掛けると、折られた足が所在無げに揺れるのが目立った。出された麦茶を一口、口へ含むと彼は皆の方へと向き直る。
「まず、崎浜の海へ旅行したということだけれど、その日程を教えて貰えるかしら?」
今は席を外している草間に代わって、ホスト役はシュラインが務めた。
「日程は8月9日から10日の予定でした。小さいけれど小綺麗な旅館に泊まって。魚料理がおいしかったですね」
緊張感の少ない青柳の言葉に思わずさくらは笑みを漏らした。先天的に楽天家なのだろうか。
「海と言っても一日中泳いでいた訳ではないですよね。どのように過ごされたのですか?」
麟凰が尋ねた。
彼は、二日間を過ごす間に青柳達が必ず何かに関わっているはずだと考えていた。
「森下君…木崎の従兄弟ですけど、彼が昔、崎浜に住んでいたと言うので案内してもらって、小さい名所を訪れました。もともと特に目的のあった旅行ではありませんでした。木崎が従兄弟に会う、と言うので俺と室井がそれに便乗したという形です」
便乗して、何らかの渦に巻き込まれたのだ。そう考えて優姫は静かに目を瞑った。こういうのも巡り合わせと言うのだろうか。
「その名所とはどういった場所なのでしょうか?」
ざっと地図を見る限りでは崎浜は海岸があるだけの小さい町である。優姫の質問に青柳は微かにはにかみ、口を開いた。
「いえ、名所と言っても大々的に宣伝されているような名所というほどの物ではないみたいです。森下君と木崎が小さい頃に気に入っていた場所を、案内してもらいました」
「だから『小さい』名所なんですね」
さくらの言葉に、ハンカチで汗を拭きながら青柳がうなづいた。
みなもは手元の地図に、青柳の話すその時宿泊した宿と『名所』(これは宿を起点としたおおまかな位置であったが)とをチェックした。
「青柳さん。今回の件に関して、何も心当たりはないのですか?」
「いいえ。全く思い付きません」
青柳からはみなもの予想通りの答えが帰って来た。もしはっきりと後ろ暗いところがあるのならば、もう少し早い段階で焦っている筈だと、みなもは思っていた。
本人達が意識していない何かがあるのだろうか。
「何か壊されたり、とか、怪我されたり、とかなかったのでしょうか?」
優姫は念のためにと、もう一度みなもの言った『心当たり』について詳しく質問した。
例えば報復としての呪い。
あらゆる可能性を考えなければならない。
「いえ、別段何もなく、順調な旅行だったと思います」
青柳は首を振った。
その後、細かいやり取りが済み、ひとまず青柳に引き取って貰う事になった。
「あの、これ…気休めかもしれませんが」
麟凰はあらかじめ持参してきていた手製の護符を差し出した。相手が何であるかは分からないが、邪な者からは身を守れるだろう。
「ありがとう」
青柳は素直にそれを受け取ると大事そうに鞄へと仕舞った。
「あの…お願いしておきましたが、皆さんの写真をお借りできませんか?」
さくらがそう言うと、忘れていた、という顔をして青柳は護符を仕舞った鞄から4人が写った写真を取り出した。両手でそれを受け取るとさくらは目を凝らした。4人の顔が良く、写っている。
「森下君が写った物はこれだけなんです」
「はい、大丈夫です。お借りいたしますね。ありがとうございます」
さくらはそう礼を言い大事そうに自分の前へと写真を置いた。
「もし、何か思い出すような事があればここへ…」
シュラインは携帯のメールアドレスをメモした用紙を青柳へ渡す。
「分かりました。それではよろしくお願いします」
立ち上がると青柳は皆に頭を下げた。
青柳の去り際、非常事態だと心に言い聞かせて優姫はテレパスの能力を解放した。
「あ」
途端、小さく優姫は声を上げた。
青柳の中は真っ暗だった。
* * * *
興信所では出発前にシュラインによって、これまでの経緯確認と調査予定の確認が行われた。
「まず先に亡くなった三人」
木崎・洋平(きざき・ようへい)
8月13日午前9時頃に死亡を確認。
死因は塩化ナトリウム過剰摂取による中毒死。
森下・学(もりした・まなぶ)
8月17日午前7時頃に死亡を確認。
死因は塩化ナトリウム過剰摂取による中毒死。
室井・雅直(むろい・まさなお)
8月21日午前10時頃に死亡を確認。
死因は塩化ナトリウム過剰摂取による中毒死。
「三人共、変死扱いだが、森下の日記には死期を悟ったような記述があったため、自殺の可能性も考えられているそうだ」
「皆さん、溺死じゃないんですね…」
てっきり海水で溺死したものだと思っていたみなもが呟いた。そんなみなもに一つうなづいて、草間が説明を続ける。
「死亡を確認したのはいずれも同居の家族で、朝起きてこないのを不審に思った所、というパターンだ。3人共実家にいたので発見が早かったがこれが一人暮らしだったら死後2、3日で発見、ということになっていたかもしれん」
草間は皆に断ってから煙草に火をつけ、一息に吸い込んだ煙を勢い良く吐き出した。
「死亡推定時刻は詳しく分かりますか?」
頬に手を当て、難しい顔をした麟凰が慎重に尋ねた。もし時間的なポイントがあるとすれば発見された朝よりも死亡した夜中こそが重要だと考えた。
「死亡時刻はおおよそ午前2時〜7時までの間だとされている。いずれの件も直接の死因は肺水腫による呼吸及び心機能停止だ。だが、今回の事件では死亡時刻よりも塩が身体に入った時刻こそ重要だろうな」
たしかにそうである。
「それは、分からないんですね…」
麟凰の問いに草間はうなづいた。
「成人男子の胃の容量は約2Pと言われているが、死亡した3人の胃や腸等の消化管から、ゆうに3キロを超える塩が発見されている。依頼人は『塩水』と言っていたが、実際には大量の塩分が血管やリンパ管から吸い上げた水分や血液に軽く浸っていた、といったところかな。臓器の各所にはうっ血が見られたそうだよ。」
3キロ、と小さく口の中でシュラインはくり返した。3キロと言えばかなりの量である。それは徐々に現れたのだろうか? それとも一気に現れたのだろうか?
「嘔吐の跡もあって、口までの器官も塩に冒されていたそうだ」
さくらはそっと、目蓋を触ってみた。
「塩化ナトリウムのヒト推定致死量は約0.5〜5g/kgだ。成人男子の平均体重が70kgとすると約35g〜350gが致死量に相当する」
「あの…家族の方かどなたかに助けを求めることはできなかったのでしょうか?」
優姫が顔を上げる。
「まず、深夜だったという点が大きい。隣で寝ているのでもなければ、他者からは異常に気付けないだろうな」
草間は顔を天井に向けながら続けた。
「多量の塩が身体に入ると、細胞内液の移動を誘発する。もちろん脳細胞も脱水するから中枢神経系に障害が出る。これによりめまい、痙攣、頭痛、そして時に昏睡を引き起こす。熱も出るが、どうだろう。意識が朦朧としているだろうからな。助けを呼べたかどうか」
しん、と静まり帰った室内に草間が手元で弄るジッポの金属音だけが響いた。先程までの室内の熱気がどこかへ消え失せてしまったかのように、さくらはそっと身震いした。
* * * * *
興信所を出て、行き先は皆海岸であった。
駅から海岸までの道筋を4人は歩いていた。今ここにいないみなもだけは、電車ではなく別のルートを使うと言って出発している。
シュラインがスキャナでコピーした4人が写った写真を見ながら優姫が口を開いた。
「この右から2番目の方が、森下さん、ですね」
「そうよ」
自らも写真を取り出し、シュラインが答える。
「確か、生家がこの近くとか…」
何やら大荷物で両手の塞がっているさくらがシュラインの写真を横から覗きながらうなづいた。
「住所は一応お聞きしていますわ」
「今回の件に何か関わりがあるんでしょうか…」
麟凰の呟きに、分からない、といった顔でさくらは首を振った。
「どうでしょうね」
優姫の視界に入って来る松林の向こうは海水浴場なのだろうか。明るい声が聞こえていた。
今回の調査は時間が切迫している。シュラインの提案により各々手分けして情報収拾当たることになっていた。
全員今日はこの地で宿を取る事になっている。青柳達が宿泊したという宿である。情報交換と夕食の為に7時に一旦落ち合うことになった。宿の場所はみなもにも伝えてある。
調査については各々で考えていたが、とりあえずは青柳の言った名所を二手に分かれて調べる事にした。 青柳の言った場所は二つ。
優姫が駅で手に取ったパンフレットにも小さく説明されている。『乙龍の寝所』、もう一つは『乙姫の水場』という。どちらも海岸からは少し離れている。
「乙姫って、あの龍宮城に出てくる乙姫でしょうか?」
パンフレットの字面を眺めながら麟凰が問う。
「さあ。天より落ちてきた姫、落つ姫が転じて乙姫になったようですね」
優姫が説明を目で追いながら答えた。
「乙龍、も、落つ龍、みたいね、ふうん」
シュラインもうなづいた。
「何か関わりがあるのでしょうか…」
そう言うさくらの言葉には、誰も答えられなかった。
* * * * * *
簡単にじゃんけんで組を分けると、さくらと麟凰は『乙龍の寝所』と呼ばれる泉へと向かった。
地図で見たところ、どちらの場所も遊泳できる海岸からはかなり離れている。歩きで30分くらいだろうか。しかも泉へ向かう山道は舗装もされておらず、足場が悪い。青柳が言ったように泳いで少し、と言うには不自然な遠さだ。
青柳様ではなく、誰か別の方が何らかの目的で訪れたと見ても良いかもしれませんね。
坂道を登りながらさくらはそう、考えていた。
「あの、その荷物持ちましょうか?」
さくらが両手に抱える荷物を目にして、麟凰が軽く首を傾げた。年令で言えばさくらのほうが年上であることはあきらかだが、やはり自分が手伝う事だろう。そう思ったのだ。
「まあ。ありがとうございます」
麟凰の申し出にさくらは明るく微笑み「それでは」と、片手に持っていた包みを差し出した。
もう片方の手に持っている荷物の方が重そうに見えたが、とりあえず麟凰は差し出された荷物を手にした。
道は途中で下りに転じ、道なりに進むと間もなく大きい岩が見えた。
それは奇妙な泉だった。
地表から高さ僅か10cm程だけ顔を出している大岩を、何かが半球状に丸く穿った後に水が溜まっている。
そう、見えた。
岩から水が湧いているというのもおかしな話である。
麟凰が覗き込むと深さはそれほどもない。50cmくらいだろうか。ちょうど半径50cmの球体が半分岩に窪んだ後のような形になっている。
澄んだ水にそっと手を入れると冷たい水が炎天下を歩きつめて火照った身体に心地良かった。
「この水飲めるのかな…」
右手から落ちる雫が木漏れ日を受けて輝く様を眺めながら、麟凰が小さく呟いた。さくらの荷物を岩の縁に置いた麟凰は今度は両手で水をすくってみた。
「さて、どうでしょうか」
麟凰の呟きを耳にしたさくらは手を口元に当て、心持ちおかしそうな顔でそう答えると、飲んでみるように促した。
さくらの様子に軽く首を捻りながらも、麟凰は両手にすくった水をしばし見つめたあとで一口だけ口にした。
「うん、美味しいです」
感想をさくらに告げると、さくらは小さく目を見開いた。
「本当ですか?」
「本当ですよ?」
麟凰は軽く手招きした。さくらも荷物を足下に置くと水をすくって口にする。
「まあ!」
さくらの驚きように、麟凰も驚いた。
「どうかしたのですか?」
恐る恐る尋ねてみると、さくらは案内のパンフレットを指差した。
「この岩にどうして水が溜まっているのか、分かりますか?」
さくらは柔らかい声でそう、麟凰に尋ねた。
「雨水、ですか?」
この水を飲んだ後ではそう、思うだろう。さくらは首を振りながら続けた。
「この場所は海面よりも低い場所にあるそうです。岩には随所にあるひび割れから、地下に入った海水が沸き出している、という説明がされています」
麟凰は首を捻った。
「では窪みの底よりも低く土を掘ればそこにも海水が湧く、という事になるんですか?」
「いいえ、この岩はとても地中深くまで埋まっていて、どこかで直接海水と接しているのだそうです」
岩の中のなんらかの経路を通って海水が湧き出ている、というのである。だが。
「でも、この水は真水ですね」
「そうなのです」
先に説明を読んでいたさくらが、何故驚いたのか。
麟凰はさくらと顔を見合わせた。
* * * * * *
さくらと分かれた麟凰はぐるりと『寝所』と呼ばれる岩の周りをまわって様子を調べたがどこにもおかしな物は見つけられなかった。
青柳の話では青柳達4人は確かにここへ来ている。ここへ来て、この水を飲んでいるという。その時、水は果たして海水だったのか、それとも先程さくらと麟凰が口にしたように真水だったのか。
もう一度辺りを見回して、麟凰はそっとその手にはめられた白い手袋を外した。
麟凰は唾を飲む。
――何の記憶を読むか。
さすがに岩自身の記憶を読む事は躊躇われた。奇妙なくぼみを持つこの岩にはきっと何かの手がかかっているに違い無かった。
麟凰はしばらく考えて、岩より少し高い位置に生える立派な松に手を掛けた。ここからなら良く岩が見える。軽く息を吐くと目を閉じ、ゆっくりと力を開放していった。
松に触れた手を通して、記憶が流れ込んでくる。求めるものはごく最近の記憶。
慎重に、しかし一瞬見覚えのある顔が映ったかとおもうと、すぐに麟凰は闇に奔流されてしまった。
「いけない…」
そう呟くと麟凰はその場に倒れこんだ。
月明かりに、男が立っていた。
浴衣姿で両手に大事そうに盃を持っている。
泉に浮かんだ半月を揺らし、男は盃で泉から水を汲み上げた。
盃の中にも半月が映っていた。
麟凰は松になっていた。じっとその場に佇んだまま男の行動を見守る。
ふと、自分の傍に誰かが居ることに気付いた。
意識を集中する。
子供だった。
男に意識を戻すと、彼の手にしているものが盃ではなく、大きめの貝殻であることに気付く。
男は大きく息を吐くと、貝に汲んだ水を一息で口に含んだ。
含んで、だが飲み込みはしない。
がさっと、足下で僅かに小さく音がした。
先程の子供がいなくなっていた。
男は再び貝を抱えると水を口に含んだまま、元来た道を歩き出した。
松は男がどこへ向かうのか知っていた。
龍が塩を預ける場所を印す為に歩いていったのだ。
口に含んだ水はその、印。
麟凰が目を覚ますと辺りは少し暗くなっていた。
軽く頭を振って、傍らに落ちていた手袋をはめた。
松が見ていた男の持っていた貝殻。
ほんの一瞬だけ垣間見えた青柳達のグループ、その4人の誰かが持っていなかったか。
付いた土を払って立ち上がると、麟凰は一旦宿へと戻ることにした。
* * * * * * *
宿に着いた一向はひとまず湯を使い、さっぱりした身体で夕飯の膳についた。
夕食に出された魚介類は青柳の言っていた通り新鮮で旨く、皆は舌鼓を打って楽しんだ。暗黙の了解ででもあるかのように、夕食が終わるまで誰も事件の事を口に出来なかった。あまりにも不可解な情報が多かったためだ。
夕食後の片付けと布団の準備の為に、一旦庭へ涼みに降りた一行はようやく今日一日の事について各自の情報を交換する事になった。
それぞれの情報を繋ぎ、なんとなくだが事件の全容が見えかけて来たところに、シュラインの携帯が鳴った。着信は草間からだった。
「…ええ。はい。…え?ええ、そう。分かったわ」
皆の見守る前でシュラインは電話を切ると、草間の言った言葉を復唱し始めた。
「『まさか繋がるとは。
悔いは無い。
しかし室井君と青柳君にはすまない事をした。
何か道は しかし 倉』」
シュラインが言葉を切ると皆を見渡した。
「森下君の部屋から見つかった、書き置きの文面らしいわ」
夏の日は長い。
まだ明るさの残る空に目を凝らすとうっすらと近付く闇に、遠くいくつかの星が微かにまたたいているのが見えた。
後編へ続く
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 シュライン・エマ 女 26
翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト】
【0134 草壁・さくら 女 999
骨董屋『櫻月堂』店員】
【0495 砂山・優姫 女 17 高校生】
【1147 水無瀬・麟凰 男 14 無職】
【1252 海原・みなも 女 13 中学生】
※整理番号順に並べさせていただきました。
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■ ライター通信 ■
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お待たせいたしました。
PC名で失礼いたします。
海原さん初めまして。
砂山さん、水無瀬さん再びお目にかかれて嬉しく思います。
シュラインさん、草壁さんいつもご参加ありがとうございます。
皆様この度はご参加ありがとうございました。
今回の組分けはサイコロで行いました。
設定や画像、他の方の依頼等参考に
勝手に想像を膨らませた所が多々あると思います。
違和感や、イメージではないなどの御意見、
また御感想などありましたらよろしくお願いします。
後編の受付ですが
開始は8月 5日(火)0時より
〆切は8月11日(月)23時
を予定しておりますのでゆっくりと解決方法をお考え下さい。
尚、手に入れた情報は全て宿にて情報交換の際に
各人に伝えられているものとします。
個別箇所が多いのですが、よろしければ一読なさって
後編のプレイングへ大いに活用してください。
尚、時間の進み方が当初の予定より遅くなってます。
後編は24日の朝旅館からとなります。
それでは、またお逢いできますことを祈って。
トキノ
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