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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>




「あたしも力をつけたい」
 それは夕食を終えた後の一言、茶を飲み和んでいた彼女へ、
 みそのへ、みそのは、
「……唐突ですね」
 湯飲みをとんと置く。そして瞳で聞こう、何の為と、
 だけどみなもの返す瞳は純粋だった。全ての問いの答えを表していた。言っても聞かない。みそのの選択、最初に浮かんだのは拒否である、だけど、十二分な沈黙の後、
「特別ですよ」
 その言葉をもって、彼女を誘う。


◇◆◇


 みなもにとっては、それは至極自然な事であり。果てがあるのならば、そしてその先を垣間見えるのなら、踏みとどまるはずもない。だから闇の中を全て解り歩いていくみそのに付いていく間も、胸を高鳴らせ、足を弾ませていた。
 だけど、不安はゆっくりと募る。
 静かに降る雪のように、純白は心の陽を覆い隠していき、やがて全てを埋めて。
 言うなれば砂時計の最後の一さじ、その時になってやっと、
「あの」
 みなもは何処に行くのかと尋ねた、刹那、
 闇が拓けるその前に、
 その場所を把握するよりも前に、
 驚愕する前に、声を出す前に、
 つまりそれは、何もかも許さずに―――
「畏れない事です、みなも」
 何者でもあり、何者でもある言葉を聞いたのは、後、
 無形の混沌が、声として彼女に伝えた、後、
 自身の変質に気付いた、後、

 嗚呼その身は

 ここが海で、蒼よりも暗く、月が見ている、場所だという事、知り得ても、
 事実に関係を持てぬ侭―――
 みなもは、我が身で鳴いた。
「おぉぉおっぉぉぉっぉっ!!」


◇◆◇

 それは人魚であるみなもと、
 古の龍との甘美な交わり

◇◆◇


 辛うじて保たれた顔は泣いている。海の蒼に透明な涙がそそがれる。苦悶だ
 尾びれは最早魚のそれでなく、世界を股にかけそうな程に、雄大にて。背の筋にそって棘が出た。腕の下に、ひれ、嗚呼、
 これは、私では無い。私であるが、私では無い。みなもは自分が何処に居るか探す、そうすれば、
 今泣いてるのが、私だ、
 何故泣いてるのか、理由は、
 竜が。
 途端に、海へ沈む。
 一つと一つが二つにならず、又一つになる事。だがそれは融合には遠く、責められて、自身を消失する感覚、だけど、必ずそこに居る。痛めつけられてる訳では無い、寧ろ竜は己を抱く。なのに、なのに、
 この嫌悪は、悲鳴は、許して、何故、これは、
 侵されている。
 圧倒的な力に、心が。
 身体が震えた、波打つ海が割れる。再び鳴いた、月光が揺れる。
「ああ、」
 そして、
 深く、堕ちる。


◇◆◇

 この世で最も高きは
 何者でもあり、何者でも無い物か

◇◆◇


 みそのは、戯れていた。
 それは快楽である。雌雄の性交よりも崇高で、且つ本能的な、それは。
 今やもう何処かへ消えた肉に、そして供にある心に奔るのは、甘い雷であり、現の夢であり。嗚呼、万の言葉を持ってもこの時は、誰にも、
(是一つ)
 微笑みながら、かけがえの無い物を。優しさにも似たいたぶりを、言葉を退けて会話しながら、この方と、
 そうしながら、みなもは、
 海面を見上げた。
 みなもは、どうだろう。
 わたくしとて、此処まで来るには長い時を――最初の頃は泣いてしまいました
 だけどあの子は下手したら、食われて、残るのは、
 化け物――

 冷静だった。
 妹が、そうなるとしても、何故か。
 みそのは戸惑わない。

(心中で望んでいる)
 、
(巫女を蹴落とす為)

 それはみそのであり、あの方であり、そして、そのどちらでも無い、言葉。
 だからみそのは視線を下げた。
 そして再び、交わりを。光も闇も遠ざけて、音も塞ぎ、香りは払い、視覚物も底へ沈めて。さぁ、
 そう、やって、
 踊る、彼女の前に、
 現れた。

 化け物だ。
 そして、
 みなもだ。

 海の底に漂う水竜は、みなもの果てを越えている。だが、
 それはみなもである。
 みなもはみそのを睨む。それは、怒りながら、笑いながら、そして、悲しみながら。
 みそのである混沌は、沈黙した。唯、みつめあう。
 やがて閃光程度の刹那、
 みなもと竜は分離した。
 裸体の彼女は海面へと上がっていく、中で、
 人魚へとその身を変えたのは、生きる為の、中で、
 それを見上げるみそのと竜は、会話する。
 竜は言った。

「そなたの名を呼んでいた」

 みそのは再び見上げて、畏れる事なかれと言って、
 再び、交わりを始めて。


◇◆◇


「どうしたのですかみなも、ぼうっとしてるようですが」
 貝の味噌汁をすすりながら、心の波動を取るみその、みなもはちょっと慌てた、
「夢をみたんだけど」
「どのような?」
「……それが思い出せなくて」
 みなもはそう言って、おひたしを口に運ぶ。みそのは微笑む。「気にしない事ですね、夢は夢、意味も無い」
 少し納得出来ないみなもであったが、どうやら、その言葉に従った。
 それは、
 もう一つの理由があって、そっちの方が、大事な事。
 みなも、

 それは朝食を終えた後の一言、
「あたしも力をつけたい」
 みそのの、選択は、


◇◆◇


 海辺にあげられた身体を、月の光が優しく包む。
 茫然自失のみなも、その瞳は虚ろであり、唇は緩く、締まらず、
 だけど、
 唇が僅かに歪んだ。
 それは感情である。
 ……微笑み―――

 対しあう者との紡ぎは