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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


幻想の国から〜『ピーターパン』

●ことの始まり

 月刊アトラスの読者投稿ページ宛ての手紙には、最近ポルターガイスト現象に関する投稿が増えていた。
 ポルターガイストと言われてたいていの者が一番に想像するのはおそらく、室内現象だろう。
 誰も居ない部屋で鳴るピアノ、勝手にスイッチがつくテレビ、ひとりでに動く机。
 だがしかし、投稿によるとそれらを発見したのは外で、それも半径数キロ範囲という広範囲だ。
 ふわふわと浮かぶゴミ袋を見たとか、浮かぶ植木鉢だとか、浮かぶ石だとか・・・・・目撃情報は色々あるが、共通点が一つ。
 全て、普段から外に置かれている物ばかりだ。
 しかし時間に共通点はなく、探るならばこの広範囲を延々と張り込むことになるわけで・・・・・・。
 数十枚に及ぶ手紙に目を通した麗香は、椅子に座り直して自分の仕事を再開した。
 こういう張り込みには人海戦術が一番手っ取り早い。

 さて、今日は誰がこの編集部に顔を見せてくれるだろうか?


●濡れ衣

 本日から夏休み。ああ、これから一ヶ月とちょっとの間はだらけた生活を送れる。
 クーラーの効いたこの部屋は、外の暑さが嘘のような快適温度。やはり夏は家でうだうだしてるほうが気が楽だ。
「朝幸ーーーっ! 手ぇ貸してくれ〜〜〜っ」
 突如響き渡った、穏やかな時間をぶち壊す聞きなれた奴の情けない声に、葛西朝幸は大きな溜息をついた。
「で、どういうこと?」
 やってきたのは腐れ縁の友人神島聖と、朝幸の知らない顔――エスメラルダ時乃という名の女性。
 不機嫌そのものの口調で聞いているにも関わらず、聖はまったくこちらの様子に気付いていないようで、大袈裟な泣き真似で事の次第を話し始めた。


 時間は遡って今日の昼頃。暇潰しも兼ねて、聖はアトラスの編集部に顔を出していた。
 ちょうどその時同じようにアトラスに顔を出していたのが占い師のエスメラルダ時乃。
 二つの顔ぶれを目に止めた麗香は、さっと十数枚の手紙を二人に差し出した。
「ねえ、これ、調査してみる気はない?」
 言われて、二人は差し出された葉書に目を通す。
「そうですね・・・・・・。ポルターガイストは強力な電磁波や振動等が原因である事も多いです。ですが、そればかりでないのもまた確か。もしなにか原因があるなら、被害になる前に収めた方がよさそうですね」
「別に俺もかまわへんで。どーせ暇やし」
 そんなやりとりを経て、半分成り行きもあって、二人は一緒に調査を始めることになったのだ。
 まずはポルターガイストが起こる範囲内に向かった。そこで最初にやったことは、時乃の占いだった。
 もともと占い師である時乃は、まず占いでその原因を探ってみたかったのだ。
「どうやー?」
 頃合を見計らって声をかけると、時乃は五枚のカードをピッと聖の前に見せた。
「まずは現状――世界の正位置。おそらく彼は人間社会をよく知らない・・・独自の世界観で動いてると思うの。
 障害は愚者の逆位置――きっと犯人は自分のしてることに気付いていないわ。愚者というのは無鉄砲な風来坊も指すから、探すのは苦労するかもしれないわね。
 このまま行けば――星の逆位置。ポルターガイストだけじゃない、非現実な現状が広がって行く・・・。
 それを打破するのは――正義の正位置。なんとか捕まえて、人間社会の常識を教えてやらなきゃいけないってことね」
 最後の一枚については特に触れず、時乃はサッとカードを片付けた。
「無自覚かー、一番厄介っちゃー厄介なパターンやな」
 ふわりと、近場の石が宙に浮く。
「神島さん?」
「浮かせるだけなら俺でも――人間でもできる。もし人間が自分でも知らずにこの現象を起こしてるんやとしたら・・・ちと、面倒なことになるかもしれへんな」
 シリアスに話していたその時だった。
「犯人みーっけっ!」
 飛び込んできた少女がビシリと聖を指差した。
「待て、誤解や!」
 聖は慌てて首を横に振ったが、少女はまったく引く様子を見せなかった。
「だって今見たもん。石浮かせてたでしょ!」
「いやまあ、そりゃあ確かに今のは俺やけど」
 二人のやりとりに、時乃はわずかに眉根を寄せて・・・呆れたような様子だった。
「みあおクン、本当に彼だったのかい?」
 少し遅れて、穏やかな笑顔の青年が少女に問いかけた。
 みあおと呼ばれた少女は自信満々に頷く。
「だから、それは誤解やて」
「・・・・・・とりあえず、今あなたが石を浮かせていたのは事実ですよね?」
 男と一緒に歩いてきた黒髪の少女静かなの問いかけに、聖は素直にその事実を認めた。
「だけど、一連の事件には無関係なんやって。俺らかてその事件追ってるんや。なあ、時乃もなんか言ってくれへんか?」
 それまで静かに事の成り行きを見守っていた時乃が、ゆっくりと口を開く。
「彼の言うことは事実です。あなた方も犯人を探していたのでしょう? きちんと調べていけば必ず真犯人は見つかります」
 時乃の言葉に、やってきた三人は困惑気味に顔を見合わせた。
「俺の名前は神島聖。アトラスの碇麗香に頼まれたんや。どうしても信用できないなら彼女に直に聞いてみい」
「ん〜・・・・わかった!」
 しばらく考え込んでいたみあおが元気な声をあげた。
「すぐにばれる嘘をつくとも思えませんしね・・・わかりました。犯人呼ばわりしてしまってすみませんでした」
 本当にすまないと思っていないのか、もしくは信じていないのか。どこか淡々とした口調で黒髪の少女が深々と頭を下げた。


 三人を見送ってすぐにその場を離れた二人は――そのまま、ここ、葛西家にやってきたのだ。
「しょーがないなー。じゃ、お代は特大かき氷とスイカな」
 渋々と言った様子で立ち上がった朝幸を見て、聖がほっと安心したような表情を浮かべた。

●ポルターガイスト、始動

 聖が結界を張り、朝幸がそこで意識を集中する。もともと風を操る能力を持つ朝幸だが、聖の結界のなかでは普段よりもさらに鋭敏に空気の微妙な振動を感じることが出来るのだ。
「あれ・・・かなあ」
 見つけたそれに、朝幸は半ば茫然と声をあげた。
 なんの前触れもなく唐突に、ふわりと地面から浮きあがる物体。しかもその物体はただ風に流されるだけで意思を持って動くような気配はない。
 ますますもってわけがわからない。
「見つけたんか?」
「どこ?」
 二人に問われて、朝幸はサッと方角を指差した。
「あれか・・・・しっかし、ほんま、どうなってるんやろなあ」
「いくら無自覚とはいえ・・・・・普通、もう少し動いたりするものだけれど」
 ホンッキで、ただふわふわと浮いているだけのそれに、三人は顔を見合わせた。
「とにかく、そこまで行ってみましょう」
 時乃の提案を却下する理由はなく、三人は浮かぶ物体に向かって移動を始めた。


●水で落ちる浮遊物

 現場となった公園には、六人の人物が居た。
 全員、麗香からこの現象の調査を依頼されていた者たちだ。
「浮いとるなあ・・・・・・」
 聖が、ただぷかぷかと浮かぶだけのそれを見つめて茫然と呟いた。
 聖だけではない、その場に居合せた全員――朝幸、時乃、エマ、慶悟、汐耶――の共通の感想だ。
 あまりにも意味なく浮いているだけなものだから、かえって気分を削がれてしまったのだ。
「とにかく、原因を探さないことにはね」
 エマはそう言って、とりあえず周囲に視線を向けた。
 続いて、他の面子も何か変わったものがないか視線を巡らせる。
 ――ふわり。
「え?」
 さっきまで浮いていた石より少し重い、砂場の忘れ物らしいバケツがゆっくりと空に上がって行く。
 次々と、物が浮いて行く。最初は軽い物、そして次第に重い物へ。
 なんの前触れもなく起こった静かな――騒がしい霊という名には相応しくないポルターガイスト現象。
「どうしましょうか」
 周囲に原因らしき異変は見つからず。
 普通は困る場面だろうが、時乃の問いは冷静で、あまり困っているようには聞こえなかった。
「とりあえず、放っては置けないでしょう?」
 汐耶は答えて、すでに十数となった物体――小石とか、空缶とか、子供用シャベルとか・・・――を見上げた。
「原因がわからなきゃどうしようもないって気もするけどね」
 たしかに朝幸の言う通り、仮に今ここでこの現象を収めても、原因を取り除かなければまた同じ事が起こる。
 その時。
 強い風に煽られて、バケツがくるりと回転した。
 中に入りっぱなしになっていた水がバシャリと落ちる。
 バケツの下で浮いていたシャベルや熊手が、水を浴びた途端、唐突に浮力を失った。
「は?」
「なんだ?」
「水?」
「えーと・・・水をかければ良いのかしら?」
 エマはとりあえず落ちてきたバケツに水を入れ、他の物体にもかけてみる。
 するとやはり、水のかかった物体は唐突に浮力を失って落ちた。
 全員が一斉に顔を見合わせ、頷いた。
「原因究明も大事やけど・・・」
「とりあえずこの場を収めるか」
 聖と慶悟の言葉に、全員はテキパキと動き出した。

●犯人検挙

 今回ポルターガイスト現象の調査依頼を受けた九人全員が、小さな公園に集っていた。
 そしてその真中に、乾いた笑みを浮かべている少年――結城=茜。
「お前のせいで、お前のせいで俺はぁ〜〜〜〜」
「いたたたたた・・・いたいってばっ」
 聖の容赦ないほっぺたびろーん攻撃に、結城が情けない声をあげる。
「事の次第を教えてくれないかしら?」
 時乃が聖を抑え、エマが問いかけると、結城は頬をさすりながら怨めしげに聖を眺めた。
「最近暇だったから、空の散歩を楽しもうかなって思い立ってさあ」
「空の散歩、ですか?」
 結城が取り出したのは小さな巾着袋。なぜ空の散歩とそれが結びつくのかわからなくて、一行は疑問の表情を浮かべた。
「今度はどっから持って来たの?」
 以前別件で結城に会ったことがあり、結城が本のつくも神で、本の中の物質を現実に持ち出せることを知っているみあおは、巾着を指差して興味津々の表情を見せた。
「ピーターパンの空飛ぶ粉っ!」
 自慢げに胸を張って、そしてすぐに申し訳なさそうに見を縮こませた。
「なんか、袋に穴があいてたらしくてさあ・・・・・・・」
「粉が、落ちたんですね」
 汐耶が、大きな溜息をついた。
「物体は動こうとする意志がないから、浮かぶだけだったというわけか」
 樹の出した結論に、結城はこくりと頷いた。
「あんたが気紛れに空の散歩をした時に粉が零れて――だから、時間も場所も不規則だったわけだな」
「あああぁぁ・・・ごめんなさいっ。オレも落としてたの気付いてなくて」
 朝幸が、にっこりと笑顔を浮かべた。だが、額に青筋が立っている辺り・・・・かえってその笑顔が恐い。
「ま、過ぎたことはしょうがない。ただ、後始末は自分でやるべきだよね」
 スッと、水の入ったバケツを指差した。
 粉の効力で浮いているわけだから・・・・粉を落とせば当然浮力は消える。


 結局、その日浮いていた物体は全部で数十個。それらは、事件の犯人であった少年プラス気の向いた数名で片付けることになった。
 後日―― 一行は、無事事件解決と事のあらましを麗香に知らせ、このポルターガイスト現象は一件落着となったのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名     |性別|年齢|職業
1576|久遠樹     |男 |22|薬師
0305|エスメラルダ時乃|女 |25|占星術師
1294|葛西朝幸    |男 |16|高校生
1295|神島聖     |男 |21|セールスマン
0086|シュライン・エマ|女 |26|翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0389|真名神慶悟   |男 |20|陰陽師
1593|榊船亜真知   |女 |999 |超高次元生命体
1449|綾和泉汐耶   |女 |23|司書
1415|海原みあお   |女 |13|小学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 今回は大人数だったせいか、初めましての方が多くて少し嬉しかったです。
 この話は楽しんでいただけたでしょうか?
 皆さんがいろいろと楽しいプレイングをくれたので、書いてるこちらも楽しかったです♪

 エセな関西弁ですみません・・・・・。
 イメージ壊してないかちょっとどきどきですが、がんばってみました(^^;