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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


幻想の国から〜『ピーターパン』

●ことの始まり

 月刊アトラスの読者投稿ページ宛ての手紙には、最近ポルターガイスト現象に関する投稿が増えていた。
 ポルターガイストと言われてたいていの者が一番に想像するのはおそらく、室内現象だろう。
 誰も居ない部屋で鳴るピアノ、勝手にスイッチがつくテレビ、ひとりでに動く机。
 だがしかし、投稿によるとそれらを発見したのは外で、それも半径数キロ範囲という広範囲だ。
 ふわふわと浮かぶゴミ袋を見たとか、浮かぶ植木鉢だとか、浮かぶ石だとか・・・・・目撃情報は色々あるが、共通点が一つ。
 全て、普段から外に置かれている物ばかりだ。
 しかし時間に共通点はなく、探るならばこの広範囲を延々と張り込むことになるわけで・・・・・・。
 数十枚に及ぶ手紙に目を通した麗香は、椅子に座り直して自分の仕事を再開した。
 こういう張り込みには人海戦術が一番手っ取り早い。

 さて、今日は誰がこの編集部に顔を見せてくれるだろうか?


●調査グループ結成。

 ノックの音に応えて三下が扉を開けると、その先に居たのは一人の男。
「やあ、こんにちわ」
 軽く片手を上げて挨拶してきた男の名は久遠樹。時折この事務所を訪れる、すでに馴染みの人物だ。
 中に招き入れられて応接ソファーに腰をかけた樹は、
「はい、これ。頼まれてた物を持って来たよ」
 にっこりと笑って、樹は持っていた紙袋を差し出した。
「どうもありがとうございます」
 受け取った袋には三下が以前から頼んでいた薬のほかに、良い匂いを漂わせるオレンジタルトが入っていた。
「これは?」
「ああ、お土産」
 言いながらオレンジタルトをテーブルの上に出した時。
「うっわー、美味しそうっ♪」
 後ろから可愛らしい女の子の声があがった。
 樹が降り返ると、二人連れ立ってこちらに向かってくる少女の姿。
 銀髪の少女が海原みあお、黒髪の少女が榊船亜真知。やはりこの二人も、時々この編集部に遊びに来ている――樹と顔を合わせたのは初めてだが。
「ねえねえ、みあおも貰ってもいい?」
「はい。そちらのお嬢さんもどうぞ」
 みあおにタルトを手渡し、それから亜真知にも一つ差し出す。
「ありがとうございます」
 亜真知は優雅に礼をしてそのタルトを受け取った。
 和やかな談笑が始まろうかと言うその時、麗香がひょっこり口を挟んできた。
「キミたち。暇だったらこれ、調査してみない?」
 バンッと勢いよく、数十枚の葉書を机に落とす。
 三人の視線が一斉にその葉書に集まった。
「おもしろそーう、やるやるっ♪」
「まあ、面白そうですね。わたくしも参加しますわ」
「そうですね、案外面白そうだし、私も参加しましょう」
 こうして、居合せた三人は屋外ポルターガイストを求めて外に出かけていった。


●犯人発見?

 とりあえず外にやって来た三人は、まずはオーソドックスに聞き込みから始めようとポルターガイストが起こっているという範囲に向かって歩いていた。
 が、その途中。
 塀を挟んだ向こう側に、ぷかぷかと呑気に浮かぶ拳大の石を発見した。
 瞬間、
「みっけーーーっ!」
 みあおが明るい叫び声を上げ、速攻走り出した。
「みあお様、もうちょっと慎重に動いた方が・・・」
 亜真知は一応注意を促してみたが、みあおが止まる気配はない。
「一人で行かせるわけにもいかないし、追いかけようか」
 穏やかな笑顔で言われて、亜真知は苦笑した。
 みあおに数秒遅れて辿り着いたポルターガイスト発生地点には、二つの人影があった。
 一人は整った顔立ちの男性。もう一人はどこか神秘的雰囲気の漂う女性。
「犯人みーっけっ!」
 みあおはびしりと男を指差して断言した。
「待て、誤解や!」
 男は慌てた様子で首を横に振ったが、みあおはまったく引く様子を見せなかった。
「だって今見たもん。石浮かせてたでしょ!」
「いやまあ、そりゃあ確かに今のは俺やけど」
 二人のやりとりに、女性はわずかに眉根を寄せて・・・呆れたような様子だった。
「みあおクン、本当に彼だったのかい?」
 こっそりと白衣の裏ポケットに手を忍ばせつつ、穏やかな笑顔はそのままに樹が問う。
 みあおは自信満々に頷いた。
「だから、それは誤解やて」
「・・・・・・とりあえず、今あなたが石を浮かせていたのは事実ですよね?」
 静かな亜真知の問いかけに、男は素直にその事実を認めた。そして焦った様子で言葉を続ける。
「だけど、一連の事件には無関係なんやって。俺らかてその事件追ってるんや。なあ、時乃もなんか言ってくれへんか?」
 それまで静かに事の成り行きを見守っていた女性が、ゆっくりと口を開く。
「彼の言うことは事実です。あなた方も犯人を探していたのでしょう? きちんと調べていけば必ず真犯人は見つかります」
 女性の言葉に、三人は困惑気味に顔を見合わせた。
「俺の名前は神島聖。アトラスの碇麗香に頼まれたんや。どうしても信用できないなら彼女に直に聞いてみい」
「ん〜・・・・わかった!」
 しばらく考え込んでいたみあおが元気な声をあげた。
「すぐにばれる嘘をつくとも思えませんしね・・・わかりました。犯人呼ばわりしてしまってすみませんでした」
 本当にすまないと思っていないのか、もしくは信じていないのか。どこか淡々とした口調で亜真知が深々と頭を下げた。
「そうと決まれば、さっさと真犯人を探しに行きましょうか」
 くいと眼鏡に手をかけて、樹はにこりと笑って告げた。


●再会&初めまして

 とりあえずということで聞き込みを続けていた一行。
「・・・空飛ぶ人間?」
 その最中で、亜真知が唐突に呟き声を漏らした。
「え?」
「どうしたんだい?」
 残る二人が一斉に亜真知に注目する。
「先ほどから上空からのモニターを続けていたんですけど・・・・空飛ぶ人間が今、あちらの方に・・・。今まで知られていた範囲からは少し外れていますが」
「どんな人物だったかはわかるかい?」
「蒼い髪と、金の瞳の――十三か四くらいの少年でした」
 樹の問いに亜真知が答えた瞬間、みあおが驚いたように目を丸くした。
「・・・知り合い?」
 亜真知が不思議そうにみあおに振り向くと、みあおはこくこくと頷いた。
「うん、知ってる。本の九十九神で、結城って言う子!」
「ではその方に会いに行ってみましょう」
 さっきまで続けていた聞き込みでは新しい事実はほとんど見つからなかった。藁にもすがるとはまさにこのことだが、手掛かりになる可能性があるならば行ってみるほうが良いだろう。
「みあおクン、彼の居そうな場所は知っているか?」
 大きく頷いたみあおは、すぐさま二人の前に立って歩き出した。
 そこは、現象の範囲に入っている地区で、シャッターが閉まったままの小さな本屋だった。
 みあおはぐるりと裏口に回って、
「結城ー。いるー?」
 遠慮もなしに声をかける。
 ガチャリと、中から扉が開かれた。顔を見せたのは、亜真知が言った容姿そのままの少年。
「あれ? えーと、この前の・・・海原みあお、だっけ?」
 そこに、樹が横から会話に加わった。
「最近ここらで起こっているポルターガイストについて調べているんだけど・・・・」
「あなたが空を飛んでいるのを見つけて、もしかして何か知らないかと思って話を聞きに来たんです」
 亜真知が付け足して告げる。結城はしばらく考えこんで、それから何かに気付いたらしく、ハッと顔色を悪くした。
「ポルターガイスト・・・てさ、もしかして、こー・・・ふわふわ浮かぶだけだったりする?」
 三人はほぼ同時に、頷いて答えた。
 途端、結城は慌てて自分のポケットを探った。
「あああああ・・・・・・・・・やっぱり・・・・・。多分それ、オレ・・・・」
 ガックリと肩を落とす結城。
 詳しい事情はあとで聞くことにして、一行は濡れ衣を着せられてしまった神島聖の元に向かうことにした。
 

●犯人検挙

 今回ポルターガイスト現象の調査依頼を受けた九人全員が、小さな公園に集っていた。
 そしてその真中に、乾いた笑みを浮かべている少年――結城=茜。
「お前のせいで、お前のせいで俺はぁ〜〜〜〜」
「いたたたたた・・・いたいってばっ」
 聖の容赦ないほっぺたびろーん攻撃に、結城が情けない声をあげる。
「事の次第を教えてくれないかしら?」
 時乃が聖を抑え、エマが問いかけると、結城は頬をさすりながら怨めしげに聖を眺めた。
「最近暇だったから、空の散歩を楽しもうかなって思い立ってさあ」
「空の散歩、ですか?」
 結城が取り出したのは小さな巾着袋。なぜ空の散歩とそれが結びつくのかわからなくて、一行は疑問の表情を浮かべた。
「今度はどっから持って来たの?」
 以前別件で結城に会ったことがあり、結城が本のつくも神で、本の中の物質を現実に持ち出せることを知っているみあおは、巾着を指差して興味津々の表情を見せた。
「ピーターパンの空飛ぶ粉っ!」
 自慢げに胸を張って、そしてすぐに申し訳なさそうに見を縮こませた。
「なんか、袋に穴があいてたらしくてさあ・・・・・・・」
「粉が、落ちたんですね」
 汐耶が、大きな溜息をついた。
「物体は動こうとする意志がないから、浮かぶだけだったというわけか」
 樹の出した結論に、結城はこくりと頷いた。
「あんたが気紛れに空の散歩をした時に粉が零れて――だから、時間も場所も不規則だったわけだな」
「あああぁぁ・・・ごめんなさいっ。オレも落としてたの気付いてなくて」
 朝幸が、にっこりと笑顔を浮かべた。だが、額に青筋が立っている辺り・・・・かえってその笑顔が恐い。
「ま、過ぎたことはしょうがない。ただ、後始末は自分でやるべきだよね」
 スッと、水の入ったバケツを指差した。
 粉の効力で浮いているわけだから・・・・粉を落とせば当然浮力は消える。


 結局、その日浮いていた物体は全部で数十個。それらは、事件の犯人であった少年プラス気の向いた数名で片付けることになった。
 後日―― 一行は、無事事件解決と事のあらましを麗香に知らせ、このポルターガイスト現象は一件落着となったのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名     |性別|年齢|職業
1576|久遠樹     |男 |22|薬師
0305|エスメラルダ時乃|女 |25|占星術師
1294|葛西朝幸    |男 |16|高校生
1295|神島聖     |男 |21|セールスマン
0086|シュライン・エマ|女 |26|翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0389|真名神慶悟   |男 |20|陰陽師
1593|榊船亜真知   |女 |999 |超高次元生命体
1449|綾和泉汐耶   |女 |23|司書
1415|海原みあお   |女 |13|小学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 今回は大人数だったせいか、初めましての方が多くて少し嬉しかったです。
 この話は楽しんでいただけたでしょうか?
 皆さんがいろいろと楽しいプレイングをくれたので、書いてるこちらも楽しかったです♪

 タルトのプレゼント、ありがとうございました。
 おかげさまで、最初の導入のシーンはほのぼのしてるなあと、和みながら書かせていただきました。