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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


幻想の国から〜『ピーターパン』

●ことの始まり

 月刊アトラスの読者投稿ページ宛ての手紙には、最近ポルターガイスト現象に関する投稿が増えていた。
 ポルターガイストと言われてたいていの者が一番に想像するのはおそらく、室内現象だろう。
 誰も居ない部屋で鳴るピアノ、勝手にスイッチがつくテレビ、ひとりでに動く机。
 だがしかし、投稿によるとそれらを発見したのは外で、それも半径数キロ範囲という広範囲だ。
 ふわふわと浮かぶゴミ袋を見たとか、浮かぶ植木鉢だとか、浮かぶ石だとか・・・・・目撃情報は色々あるが、共通点が一つ。
 全て、普段から外に置かれている物ばかりだ。
 しかし時間に共通点はなく、探るならばこの広範囲を延々と張り込むことになるわけで・・・・・・。
 数十枚に及ぶ手紙に目を通した麗香は、椅子に座り直して自分の仕事を再開した。
 こういう張り込みには人海戦術が一番手っ取り早い。

 さて、今日は誰がこの編集部に顔を見せてくれるだろうか?


●調査グループ結成。

「こんにちわ」
 落ちついた声とともにガチャリと扉が開かれた。
「あら、こんにちわ」
 入ってきた見知った声に、エマはくるりと入り口側に振り返った。
 はたしてそこには予想通りの人物――綾和泉汐耶が、数冊の本を持って立っていた。そしてその後ろには、その倍以上の本を持って控えている真名神慶悟。
「あれ、エマ?」
 ひょいと顔を覗かせて、慶悟は意外そうな顔をした。
 エマはエマで、意外な二人連れに少々戸惑いの表情を見せたが、
「さっきビルの入口で会って、荷物を少し持ってくれたのよ。二人とも、知り合いだったの?」
 続いた汐耶の答えにすぐ納得した。
「まあね」
 汐耶の問いには簡単に答えて、エマは先ほど麗香から見せられた葉書を手に取った。
 もともとは翻訳の仕事の用でこちらに来たはずのエマだったが、何故かいつのまにかこの調査をすることが決まっていたのだ。
「ああ、そうそう。二人とも、都合さえ良かったら、これ、一緒に調べてみない?」
 本を下ろした二人の前に、手紙を差し出す。
 文章を読んでいるんだろう数秒の間ののち、汐耶は了解の意を示して頷いた。
「ええ、今日は特に予定もないし、構いませんよ」
 慶悟はさらに数枚の手紙に目を通してから、
「屋外の騒霊現象か・・・・・・変わった話だが、頻繁にあっては巷間も落ち着いていられないか。見物がてら調べさせて貰おう」
 気楽な口調で答えた。


●ポルターガイスト、始動

 調査を始めた三人はまず聞き込みをし、エマと汐耶の二人は詳しい発生地点と時間を地図に書きこむ作業をしていた。
 その傍らで一人のんびり一服している慶悟――端から見ればサボっているようにしか見えないが、実は式神を使って周囲の警戒をしていた。
 二人もそれを知っているので、慶悟の態度には触れずに黙々と作業を続けていた。
「やっぱり、ダメね」
 時間も、起こる場所も、その時その日によってバラバラ。
「いえ、ちょっと待って」
 地図の方を汐耶に任せ、葉書と聞き込みのメモを読み返していたエマがふいに声をあげた。
「何か見つけた?」
 汐耶の問いに、エマはコクリと頷いた。
「確かに場所や時間に共通性は見られないけど・・・・」
 浮いた物と、浮いた高さと、浮いている時間には法則性が見つけられた。
 どうやらより軽い物の方がより高くまで浮くらしく、重さに関係なく同じくらいの時間浮いているようだった。また、ふわりふわりとゆっくり落ちてくる物が多いのだが、何故か雨が降ると浮力を失って急に落ちてくるらしい。
 ただ結局――
「歩きまわって探すしかないことは変わらないみたいね」
「ええ」
 その時だった。
「動いたぞ」
 慶悟の声に、二人がハッと顔を上げた。
「どこ?」
「今から案内する」
 二人は手早く地図を片し、一行はポルターガイストが起こったという場所に向かった。


●水で落ちる浮遊物

 現場となった公園には、六人の人物が居た。
 全員、麗香からこの現象の調査を依頼されていた者たちだ。
「浮いとるなあ・・・・・・」
 聖が、ただぷかぷかと浮かぶだけのそれを見つめて茫然と呟いた。
 聖だけではない、その場に居合せた全員――朝幸、時乃、エマ、慶悟、汐耶――の共通の感想だ。
 あまりにも意味なく浮いているだけなものだから、かえって気分を削がれてしまったのだ。
「とにかく、原因を探さないことにはね」
 エマはそう言って、とりあえず周囲に視線を向けた。
 続いて、他の面子も何か変わったものがないか視線を巡らせる。
 ――ふわり。
「え?」
 さっきまで浮いていた石より少し重い、砂場の忘れ物らしいバケツがゆっくりと空に上がって行く。
 次々と、物が浮いて行く。最初は軽い物、そして次第に重い物へ。
 なんの前触れもなく起こった静かな――騒がしい霊という名には相応しくないポルターガイスト現象。
「どうしましょうか」
 周囲に原因らしき異変は見つからず。
 普通は困る場面だろうが、時乃の問いは冷静で、あまり困っているようには聞こえなかった。
「とりあえず、放っては置けないでしょう?」
 汐耶は答えて、すでに十数となった物体――小石とか、空缶とか、子供用シャベルとか・・・――を見上げた。
「原因がわからなきゃどうしようもないって気もするけどね」
 たしかに朝幸の言う通り、仮に今ここでこの現象を収めても、原因を取り除かなければまた同じ事が起こる。
 その時。
 強い風に煽られて、バケツがくるりと回転した。
 中に入りっぱなしになっていた水がバシャリと落ちる。
 バケツの下で浮いていたシャベルや熊手が、水を浴びた途端、唐突に浮力を失った。
「は?」
「なんだ?」
「水?」
「えーと・・・水をかければ良いのかしら?」
 エマはとりあえず落ちてきたバケツに水を入れ、他の物体にもかけてみる。
 するとやはり、水のかかった物体は唐突に浮力を失って落ちた。
 全員が一斉に顔を見合わせ、頷いた。
「原因究明も大事やけど・・・」
「とりあえずこの場を収めるか」
 聖と慶悟の言葉に、全員はテキパキと動き出した。


●犯人検挙

 今回ポルターガイスト現象の調査依頼を受けた九人全員が、小さな公園に集っていた。
 そしてその真中に、乾いた笑みを浮かべている少年――結城=茜。
「お前のせいで、お前のせいで俺はぁ〜〜〜〜」
「いたたたたた・・・いたいってばっ」
 聖の容赦ないほっぺたびろーん攻撃に、結城が情けない声をあげる。
「事の次第を教えてくれないかしら?」
 時乃が聖を抑え、エマが問いかけると、結城は頬をさすりながら怨めしげに聖を眺めた。
「最近暇だったから、空の散歩を楽しもうかなって思い立ってさあ」
「空の散歩、ですか?」
 結城が取り出したのは小さな巾着袋。なぜ空の散歩とそれが結びつくのかわからなくて、一行は疑問の表情を浮かべた。
「今度はどっから持って来たの?」
 以前別件で結城に会ったことがあり、結城が本のつくも神で、本の中の物質を現実に持ち出せることを知っているみあおは、巾着を指差して興味津々の表情を見せた。
「ピーターパンの空飛ぶ粉っ!」
 自慢げに胸を張って、そしてすぐに申し訳なさそうに見を縮こませた。
「なんか、袋に穴があいてたらしくてさあ・・・・・・・」
「粉が、落ちたんですね」
 汐耶が、大きな溜息をついた。
「物体は動こうとする意志がないから、浮かぶだけだったというわけか」
 樹の出した結論に、結城はこくりと頷いた。
「あんたが気紛れに空の散歩をした時に粉が零れて――だから、時間も場所も不規則だったわけだな」
「あああぁぁ・・・ごめんなさいっ。オレも落としてたの気付いてなくて」
 朝幸が、にっこりと笑顔を浮かべた。だが、額に青筋が立っている辺り・・・・かえってその笑顔が恐い。
「ま、過ぎたことはしょうがない。ただ、後始末は自分でやるべきだよね」
 スッと、水の入ったバケツを指差した。
 粉の効力で浮いているわけだから・・・・粉を落とせば当然浮力は消える。


 結局、その日浮いていた物体は全部で数十個。それらは、事件の犯人であった少年プラス気の向いた数名で片付けることになった。
 後日―― 一行は、無事事件解決と事のあらましを麗香に知らせ、このポルターガイスト現象は一件落着となったのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名     |性別|年齢|職業
1576|久遠樹     |男 |22|薬師
0305|エスメラルダ時乃|女 |25|占星術師
1294|葛西朝幸    |男 |16|高校生
1295|神島聖     |男 |21|セールスマン
0086|シュライン・エマ|女 |26|翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0389|真名神慶悟   |男 |20|陰陽師
1593|榊船亜真知   |女 |999 |超高次元生命体
1449|綾和泉汐耶   |女 |23|司書
1415|海原みあお   |女 |13|小学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、日向 葵です。
 今回は大人数だったせいか、初めましての方が多くて少し嬉しかったです。
 この話は楽しんでいただけたでしょうか?
 皆さんがいろいろと楽しいプレイングをくれたので、書いてるこちらも楽しかったです♪

 エマさんと同じように本関係のお仕事ということ、友人同士だということを念頭において書いていたら、なんだか妙に気の合う二人になりました。
 二人が作業している横で、慶悟さんは独り寂しく見張り番・・・・(汗)
 二人の会話は書いていて楽しかったですv