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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


彼方と此方の狭間に。

0 【星漆姫】
 
 走り去った娘‥‥‥篠宮夜宵の背中を見送ると、星漆姫は首が胴体
から離れた骸の頭をゆっくりと取り上げる。
 その辺りはもう、漆黒の闇の中に包まれて、誰も彼女とその遺体を
見る事は出来ない。
『斯くも哀れな娘御よ‥‥‥宵闇が総てを戻してくれる。未だ、貴女
の死すべき時ではありません故。運命は正転しなければなりません。
戯れに星を欺く事はは許されざる事ですから。さあ、私と行きましょ
う。静かなる闇の中へ』

 ず‥‥‥ずずずっっ‥‥‥‥‥‥

 地面を紅く染める血が、大地から湧き出すように一つの固まりを成
すと、じわじわと傷口から体の中へと入っていく。
 そしてそこから一滴の血も無くなると、刎ねられた頭がゆっくりと
胴体に近付いて‥‥‥‥‥‥ゆっくりと癒着していく。
 魂無き器は、虚ろな瞳に口を半開きにして立ち上がると、歩き始め
た星漆姫の後をついていく。
『蜻蛉、いますか?』
『‥‥‥お呼びでしょうか。我が君』
 闇の中に浮かび上がる薄緑色の人影。
『誠に親馬鹿なお願いで申し訳無いのですが、あの仔の行動の補助を
お願いします。魂だけは奪われぬよう』
『仰せのままに』
 そして、再びそこには漆黒の闇へと変わり、星漆姫は物言わぬ骸を
つれて何処へか歩いて行く。
 その闇の晴れた後には、いつもと変わりない街の風景。
 まるでそこで人が殺されたなどと言う事は嘘であったかのようにい
つもと、変わらない、そんな風景で。
 時だけが流れていく‥‥‥。

T 【宣戦布告】
 その、流れる時を気ににしつつ、篠宮夜宵が向かった先は、ゴース
トネットOFF。
 どこぞのネットカフェや漫画喫茶でもよさそうな物だが、何かの
磁力でもあるのか、必然的にその場所にはそうゆう事件を調べようと
言う者が集まり、結果。
 様々なデータがパソコンの中に蓄積されていく。
 つくなりパソコンの前に向かい、指示された"占い師"と"明道舘"そ
してついでに"明道晶啓"をGooglaに掛けて調べてみる。

[宗教法人 晶啓会明道館
 設立 1997年   代表  明道 晶啓
 住所 東京都 狛江市 岩戸中央 4−3−21
 
 祈祷・占い・厄祓い・人生相談など承っております

ご連絡は○×△−521−8981
    myodou@syokeiйnet.ne.jp    まで]


 ご丁寧な事にごてごてとその宗教法人の物と思われる建物の写真や
明道晶啓の写真なんかも載っている。
 明道は30代後半ぐらいの脂ぎった坊主で、写真から見るにかなり
筋肉質のようだ。頭は剃髪しているのか‥‥‥男性ホルモン過剰で、
禿げている様にも見える。
 見れば見るほど憎たらしい顔だ。
 この宗教法人の紹介には電話番号もしっかりと掲載されている。
 ‥‥‥さて。
 能力‥‥‥それだけが武器じゃありませんから。
「明道晶啓‥‥‥あなたは絶対に許さない! その罪、一身を持って
購って貰うわ」
 唇を噛み締めたまま支払いを済ませて表に出ると、人気を嫌って公
園に入ってベンチに腰を下ろした。
 別に疲れたとかそう言うどうでも言う理由ではない。
 大体疲れるとはしていない訳だし。
 携帯電話を取り出すと、ある番号に発信する。

 ‥‥‥プルルル プルルル プルルル‥‥‥。

『もしもし、明道館です。どのような御用件でしょうか?』
 電話の声は若い男の声で。
 恐らく明道晶啓ではないだろう。明道館‥‥‥の上の人ですから。
「館長はいらっしゃいますか? 黒の、言っていただければ判ると思
います」
『少々お待ちください』
 その男は、電話を取ると帰るなり部屋に閉じこもっている明道の寝
室の内線の番号を押していた。
『‥‥‥なんだ。具合が悪いんだ。危急の用事でなかったら繋ぐな』
「黒野さん、と言う女性から電話なのですが‥‥‥切りますか?」
『‥‥‥‥‥‥黒野‥‥‥‥‥‥‥‥‥くろの‥‥‥それはどの位の
年齢の女の声かわかるか?』
「多分、高校生と言ったところだと思いますが」
『‥‥‥‥‥‥娘の方か‥‥‥‥‥‥くっくっくっ。いいだろう、部
屋に繋げ』
 呪印がぎっしりと書き込まれた薄絹をベッドの上に置くと、着てい
るシャツを脱ぎ捨てて、バスタオルを肩に掛ける。
 ボディービルダーのような体が露になる。とても宗教家とは思えぬ
筋肉の固まり。
 娘さんと逢引だ。
 精々小奇麗にしていかねば失礼に当たると言う物だろう。
 下卑た笑いを明道は浮かべて、寝室の隣にあるシャワーに目をやっ
た。さて、どんなお誘いがあるのやら。
 
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥。

「あなたが明道晶啓、ですか」
『ふん。どうやって調べたかは知らんが、貴様先程の黒の仔か?』
「御明察、ですね。さて、あなた‥‥‥本当は私の魂が欲しくて、襲
って来たのでしょう? 私としてもあなたに奪われた友人の魂を返し
て欲しいのです。そこで、なのですが。私と戦いませんか?」
『ほほう。これはこれは。大した自信ですな。もし私が勝ったら、そ
の魂貰い受けるが、いいのかな?』
「お出来になるのならば。その代わり指定の場所に友人の魂を御持参
いただきます。よろしいですか?」
『‥‥‥‥‥‥いいだろう。美味そうな魂だが、あんたのそれに比べ
たらステーキとたくあん位の差があるからな。ふははははっ』
「場所は直ぐにメールします。では!」
 怒りのあまり、吐き捨てるように通話を切った。
 何と言う比喩を行う男なんでしょうか!
 汚らわしく思い、自らの携帯ですら投げ捨てたい心境に駈られる。
 しかしながら、携帯に当たっても仕方の無い話ではある。
「場所は‥‥‥新砂の廃工場にしましょうか」
 江東区新砂。
 夢の島も程近い、所謂工場地帯で夜にも頻繁に車通りはある事はあ
る。だが、その殆どが周りの工場関係で、その廃工場の方には一切用
事無き故に全くと言って良いほどトラックはこない。
 工場作業員の車も然り、だ。
 この工場は夜宵の父親の会社と関りがあり、小さい頃に工場見学し
た事がある所だ。
 その後、バブル崩壊の煽りを食って工場閉鎖したままになっている。
 告知する前に‥‥‥仕掛けをしておきましょうか。
 どうせ、向うも正攻法で来るつもりなど無いのでしょうから。

U【決闘】
 人の居ない、深夜の廃工場。
 かつての人々の夢の後は、風雨に晒され、昔の面影を思い浮かべる
事も出来ぬ程に成っていた。
 持ち出す事が出来る物は総て運び出されており、がらんとした空間
は錆びを纏った鉄骨と相俟って、何かの生物の腹の中を思わせる。
 無論の事、の場所には既に照明などと言う物は無い。いや、在るに
はあるのだが、既に死んでいるので無いと言って間違いは無い。
 辺りの工場の灯りも、建物の中に入ってしまうと殆ど届く事も無く。
この場所を支配しているのは間違いなく、闇である。
 そして、夜宵は既に仕掛けを完了していた。
 後はその時間にあの男が来るのを待つだけである。
 それから怒りを抱いて待つ事、数十分。
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥遠くから響く金属的な唸り声。
 光が闇を切り裂いて、エグゾ−ストが空気を震わしながら、ハーレ
ー・ダビットソンがその場所を目指して突っ込んでくる。
「娘っ、来てやったぞ! どこだっ!!」
 随分と真正面から来たものですね。余裕‥‥‥と言う訳ですか。
「私なら建物の中にいます。さあ‥‥‥勇気があるならば、どうぞ」
 建物の中から響くその声に、鼻を鳴らして一つ笑い飛ばす明道。
「勇気か‥‥‥ふん。生意気な小娘が」
 そう言って、皮ジャンをハーレーの上に投げ置くと、呪印の書かれ
た薄絹を身に纏い‥‥‥そして、明道の姿が消えて無くなる。
『闇を使うただの術者と見縊っていたが、星漆姫の仔とあらばそうも
行くまい。先程は術を正確にぶつけてきたな。殺気を垂れ流していた
という訳だろう。ならば、これはどうだ娘!』
 そう工場の入り口でのたまってから。
 明道の殺気も一切消えて無くなる。
「只の馬鹿では無いと言う事ですか。ですが、その余裕。何時まで保
つことが出来ますか」
 手元のリモコンのボタンを一つ、押した。
 構内に響き渡るのはモーツアルトの鎮魂曲‥‥‥神が愛した天才の
断章の調べ。
『気配を読み取れぬようにすると言う訳か。小賢しい! 不意打ちを
食らって先程は苦杯を舐めたが、今度はそうはいかぬと言う事思い知
らせてやろう』
 ‥‥‥あまり賢くは無い、ようですね。
 今度は別のボタンを押す夜宵。
『台風十八‥‥‥心の気‥‥カルで、今夜半東京‥‥‥域に‥‥‥』
 突然流れ出したラジオの音に、反射的に動きを見せる明道。
『そこかっ!』
 その拳から発せられた波動の力は据えられたラジオ、天井に置かれ
たそれに向かって飛んでいく。
 だが、当たったそれから発せられたのは人間への命中音ではなく、
何かの破砕音で。
『おおおおおっ!!』
 紙一重で落ちてくるそれ‥‥‥死んだ照明をかわす明道。
 しかし、床に激突した瞬間、それはガラスを周囲に撒き散らした!
『無駄だ、娘よ。金剛法にて硬化した身体にこのような物、毛ほどに
も感じぬわっ!!』
 叫んだところで、夜宵が返事をする訳も無く。
 すっかりとイラつきながら再び歩き出す。
 すると。

 プルルルル、プルルルル、プルルルル‥‥‥。

 直ぐに電話とわかる着信音に設定された携帯が闇の中で突然青白く
光り着信を伝える。
『なんだ‥‥‥取れというのか? ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ぐおおおお
おっ!!』
 闇にてカモフラージュされたそこは床の板が外されている。
 前には何がしかの工作機械がはめ込まれていたのだろうか。2m×
2m程度の落ち込みがぽっかりと口を開けていた。
 体勢を崩して、腰から落ちたようだ。衝撃に一瞬呼吸が止まる。
 何とか、受身を取って骨折のような事態は免れたが‥‥‥。
 『お‥‥‥のれ‥‥‥‥‥人を虚仮にするか‥‥‥なんだ?』
 液体の感触と独特の臭気。
 雨水などではなく、嗅ぎ慣れたその臭い。
『こ、これはガソリンっ!?』
 飛び上がって立ち上がると、慌てて穴の中から飛び出そうとする。
 闇に紛れ見えないが、隅の方に置かれたリモコン式の照明器具。
 電球が割られていて、フィラメントがガソリンの中に漬けられてい
た。
 衝撃音を確認した夜宵は躊躇無く、そのボタンを押す!
 赤熱、そして発火!!
『ギ、ギャアああああアッ!?』
 黒の色彩に対する防護の呪印をした"微かなる薄絹"は炎には耐性が
全く無いのか、一瞬にしてその灰燼に帰していた。
 火事場の馬鹿力とでも言おうか、明道は穴の中か両腕の力だけで這
い出すと、転がりまわって身体についた火を消そうとする。
 しかし、普通に火だけ回っているのであれば兎も角として、たっぷ
りとその身にガソリンを浴びているのである。
 その炎が消える頃には転がる事も出来ずにただ、大の字に寝転がる
だけであった。
 ‥‥‥‥‥‥勝負は決しましたか。
 ところどころ黒く焼け残った着衣の、ズボンのポケットがあったと
思われる所、腰の右のところになにやら光り輝く物が落ちている。
 あれが、魂?
 しかしながら、随分とぞんざいな運び方をされた物だ。
 実際は、魂のすり抜けられない布袋に入っていたのであるが、そん
な物はとっくに燃えて判らなくなっている。
 近くに落ちていたさび付いた鋼鉄のナットを明道の頭に投げ付ける。
いくら死んだ振りをしていたと言え、意識があれば反応せずにいられ
ぬ威力があろう。
「死にましたか。しかしそれも自業自得。地獄で今まで殺した人々の
魂に贖罪なさい」
 冷然と言い放つ夜宵。その瞳には一切の同情の光など無い。
 一歩一歩、警戒を解く事無くその男、明道晶啓に近付いていく。
 そして、腰元の魂を拾おうとしたその時!
『ぅおのレぇええぇェえッっ! 小娘の分際でっっ!!』
 大地の底から響き渡るような声を発したかと思うと、明道の赤黒く
火傷したボロボロの皮膚は不規則に盛り上がって膨張し、そして、水
泡が弾け飛んで、中から膿が吹き出してきた。
 ベキベキと骨の砕ける音、せり出してくる下顎。溢れる涎。
 骨格自体が徐々に人間のそれでは無くなり、悪夢に登場するような
不気味な、不規則、不調和、不対称の化物と化していた。
『我が創造主ニ与えラれたこの力‥‥‥よモヤ使う事があろうトは。
小娘よっ、アの世で後悔しロっ!!』
「‥‥‥哀れなものですね。それがあなたの欲望の果ての姿とは。人
にあらざる物に成り果てて、何に執着すると言うのですか!」
 真っ直ぐに動揺する事も無く、夜宵は明道だった生き物に視線を向
ける。明らかに動揺した様子で逆に"それ"は叫びを挙げた。
『そ、ソんな瞳で俺ヲ見るナああアッ!!』
 立ち向かってくるそれに、闇の力を向ける。
 人の精神を破壊する、悪夢の力。
 しかし、常軌を逸した精神状態なのだろう。錯乱したまま、"それ"
は指だったところから長い棘のような物を伸ばして、夜宵の胸を貫こ
うとする!

『‥‥‥天上に在る弓張月は、闇に輝く命線への刃‥‥‥』

 耳元で響く、女性の声。星漆姫のそれ、では無い。
 だが、知らぬうちに夜宵の右手には湾曲した薄っすらと緑に輝く白
銀の刃が握られていて、その棘を受け止めていた。
「こ、これは?」
『惑う暇は有りませぬ。想うがままに揮いなさい』
 何かに突き動かされるように、棘の圧力を利用して柄に力を込める
と、それを力点に後ろに飛んだ。
"地上が闇に包まれし時、天にある運命を人は識る。我知れり。汝が
命運、ここに尽きん事!"
 薄らと瞼の裏に浮かぶ黒髪の女性がそう誰かに叫んでいるのが見て
とれた。いや、今この瞬間、同じ台詞を夜宵は言っていたのだ。
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥輪廻の向うの‥‥‥縁。
 星漆姫の声が、耳の奥に蘇る。
 前世の記憶は、完全と言わぬまでもかなり明確に残っている。
 と、するともっと昔の‥‥‥今の女性の容姿から言って、ギリシャ
・ローマ時代‥‥‥いや、それよりも昔?
『ぐギォガぐアァッッ!!』
 最早、人のそれでは無い言葉を発して、"それ"は夜宵に幾筋もの触
手を振り下ろしてきた。
「見苦しい! 闇に還りなさい!!」
 気合一閃、振り下ろされた刃は触手を切り裂いて"それ"の胴体をも
両断していた。瞬間、その切口が真っ黒に‥‥‥闇の中に細胞の一つ
一つが粒子となって飲み込まれて行く。
 そして、漆黒の闇がそこに残り。
 闇の固まりとして残った"それ"も、周りの闇と同化し‥‥‥消えた。
 ただ、そこにあるのは一つの魂だけで。
 何時の間にか手に持った刀は消え失せていた。
 だが、そんな事はどうでもいいんです!
 大急ぎで床の辺りに浮いている魂を拾い上げる。
「間に合ってください‥‥‥お願い!!」
 走り出そうとした夜宵を、"闇"がすっぽりと包み込む。
 そして‥‥‥‥‥‥。

V【此方と彼方の狭間に】
 夜宵ちゃんっ、私先に帰るよっ!!
 漆黒の闇の中、友は笑顔で手を振って光の差す方へ走っていく。
 そして、その光に包まれて、消えた。
 だが、それは彼方の世界ではなく、此方の世界だと夜宵は何故だか
判らないが、そう確信していた。
 安堵感に包まれていると、後ろに人の気配を感じる。
 誰?
 いや、わかっています。あの人‥‥‥ですね。
 そして、頭の中に微かに響くしっとりとした、声。

 ふふ。
 "あの時"のあなたの姿を見たようですね。
 ですが、私との縁は輪廻の廻る中で幾度もあり、そして何度もの別
離を迎えながら来ました。
 あの姿はその中の一つでしかありません。
 今のあなたの名前は夜宵、と言う名前のようですね。
 良い名前です。
 夜宵、あなたは闇の‥‥‥そう黒の色彩を今の世に体現する者とし
て、様々な苦難を乗り越えねばならぬでしょう。
 その身体にある限り、力の総てを振るうことは自らを再び輪廻の中
へ落す事となってしまいます。
 不死不滅を与える事は出来ます。
 しかしながら、いつの世にある時もあなたはそれを拒んできました
ね。
 今の世の総てを捨てて、黒としての使命のみを果たしていくのは、
些かつまらぬ事に過ぎる、と。
 夜宵、私はあなたを愛しています。
 何時の世でも、誰の仔として生まれようとも。
 本当に苦しい時、私を求めなさい。
 何時でも私はあなたのそばにおりますから。

 闇に浮かぶ、自分。
 そして目の前には‥‥‥年齢は判らないが、漆黒の黒髪を膝の高さ
まで伸ばし、黒い幾重もの布を纏った女性が立っていた。
 そして、夜宵の事をぎゅっと抱きしめてゆっくりと離すと、自らの
首に掛けていた黒い針水晶のティアドロップの形をしたペンダントを
夜宵の首にかける。
 ふと、脳裏に一つの事が蘇った。
 何時の世だったか忘れたが、一度このペンダントが欲しいとダダを
捏ねて母を困らせた事があった事を。
 優しい微笑み。
 ああ、そうです。この人も私の‥‥‥。
「お‥‥‥母様?」

---------------------------------------------------【エピローグ】
「夜宵、やぁよぉいっっ!!」
 見ると、友‥‥‥そう、神崎一葉(かんざき・かずは)が顔を覗き
こんでいる。
「どうしたの、どっかぐあいでも悪いの?」
「えっ‥‥‥ええっ?」
「夜宵、どうしたのよっ。しっかりしてよおっ!!」
 心配そうな友の首の辺りを見るが、傷らしい物は全く見当たらない。
「あなたこそ、大丈夫ですか?」
「はあっ? 夜宵が壊れたよぉっ。どーしよー!!」
「いや、あの‥‥‥ですね」
 白昼夢だったのだろうか。
 だったとしたら、あまりにリアルに過ぎて気持ち悪い。
 そういえば‥‥‥。
 首の辺りに手をやると‥‥‥ペンダント、そう貰ったティアドロッ
プのそれと思われる手触りがあった。
 大体、うちを出てきた時には着けていなかった物だ。
 間違いありません、現実‥‥‥だったのですね。
 目の前の友の無事に、思わず双眸から滴が零れ落ちる。
「だ、だいじょぶ? どうしたのっっ。ねえ、夜宵っっ!!」
「何でもございません。大丈夫ですわ」
「だいじょぶじゃないよぉ。ねえ、その辺のカフェでも寄ろうよ。何
かあったんでしょ? 話聞いたげる!」
 ありました、けれど。
 あなたにその話をする訳には参りませんしね。
「あ、そうだ夜宵。私、焼いもじゃないよっっ!!」
「ええっ?」
 あの時、ガソリンで一緒に焼いた事、覚えてらっしゃるのでしょう
か。
 思わず口許が引きつってしまう。
「何のことですか?」
「はあ? 私何も言ってないし。やっぱ夜宵、おかしいよおっ!!」
 両肩を掴んでゆさゆさと身体を前後にふるって来る一葉。
 そう。
 この日常。
 永遠に続く日々なんかありましたら、あの"翠"さんみたく色々退屈
で酔狂な事しないとも限りませんしね。
 有限な時ですから、精一杯生きたいのではないですか。
 いつの間にか、どんよりとした雲は晴れて。
 夕焼けが終わり、薄闇が空を覆いはじめていた。
-------------------------------------------------------<Fin>-

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       登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1005/ 篠宮・夜宵 / 女 / 17 / 高校生
  (しのみや・やよい)

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              ライター通信       
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 お買い上げ有難うございます。
 あゆきいぬです。
 今回はお一人用と言う事で、ああっと言う間にお買い上げいただけ
まして、少々吃驚しております。
 と、言いますか、募集の指定の時、色彩の黒の指定シナリオ出して
おきながら、闇もしくは黒の能力またはその色が身体的特徴のどっか
にあると指定を忘れてしまっていました。
 都合良く篠宮さんに取って頂いて、実はほっとしております(笑)。
 まあ、性格的にそう無いとは思いますが、あんまり普段から頼って
も力を貸してくれません。
 まあ、NPCが活躍して事件解決! なんてシナリオは書きたくな
いですし、篠宮さんとしてもつまらないでしょうから、あまり心配す
る事も無いんでしょうけれど。

 それでは、今回はお買い上げくださいまして有難うございます。
 またの御買い上げを心からお願いいたしまして、閉店させていただ
きます。
 重ねて、ありがとうございました。