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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


最後の電話

::オープニング::

「電話、ですか」
断って火を付けた煙草を唇から離して、草間は問い返す。
「はい」
答えるのは20代のやや大人し気な女。
「最初は、もう1ヶ月くらい前です。仕事から帰って、慌てて電話を取ったら男の声が言ったんです」

『やあ、遅かったね。僕は今からそっちに行くよ』

「間違い電話だと思って、そのままにしていました。そうしたら、それから1週間後にまた電話が掛かって……」

『ほんの少し、近付いたよ。待っておいで』

全然知らない声だと女は言う。
人と待ち合わせた覚えはなく、誰かを招いた記憶もない。
それから1週間後、再び電話が入った。

『君は待っていてくれるだろうね。また少し、近付いたよ』

女は少し気味が悪くなった。
何度も間違い電話が掛かる筈がない。
毎週土曜に掛かる電話。
女は婚約者に相談し、電話に出て貰ったのだと言う。
しかし、婚約者が出ると電話はすぐに切れてしまう。
何も言わず、無言のまま。
ところが、電話は何度も掛かってくる。
ひっきりなしに、最初は1時間に1回。
それから30分に1回。
15分に1回。
5分に1回になって、最後には呼び出し音が止まらなくなった。
そこで仕方なく女が電話に出ると、酷く怒った男の声が言う。

『君は随分酷い女だ。君みたいな女は一度懲らしめてやらなくちゃ。良いかい、僕はもう半分君に近付いたよ』

「本当に、全然覚えがないんです。私、今まで男の方とおつき合いした事がなくて……、婚約者ともお見合いで出逢いました。ですから、誰かに恨まれたりするような覚えもなくて……」
ストーカーの仕業ではないかと言う婚約者の言葉に、今日興信所を尋ねたのだと言う。
「今日は土曜日ですが、電話はどうなりました?」
草間が尋ねると、女は溜息を付いた。
「ええ、こちらへ来る前に」
電話の男はこう言った。

『遠い道程だ。でももうすぐ君の処へ辿り着くよ。ああ、楽しみだなぁ。君も楽しみだろう……?』

「実は私、再来週に結婚するんです。でもこのままじゃ安心して結婚出来ません。どうか、調べて貰えませんか」

疲れた様子で額に手をやる女。
その手の薬指には、銀色の指輪が輝いている。
「分かりました」
煙草を灰皿に押しつけて、草間は答える。
「調べてみましょう。大丈夫、うちには優秀な助手が沢山いますからね」


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「その優秀な助手に、わたくしも加えて頂けますでしょうか?」
草間にすがるように、女が僅かに笑みを零した時、そんな声が上がった。
草間は視線を動かして、その声の主を確認する。
「やぁ……、また今日は随分凄い格好だね?」
雑多な応接間には不似合いな、なんとも夏向きなアラビアンな踊り子風の衣装を纏うのは、海原みその。
手には何やらナイロン袋を持っている。
「女性の方が殿方の関係で困っているとお聞きしては黙ってはおれません」
みそのはにこりと笑った。
言ってる事はとても協力的だが、顔は好奇心が先に立っているように見える。
「折角幸せなのに酷い話ですね、できる限りのことをしたいと思います」
みそのの後ろから、ひょっこり顔を出すのは瀬田茅依子。
呪術マニアの曽祖父の影響でエクソシストの真似事を始めたら意外にも才能が開花したと言う、何とも不思議な少女だ。
「女性の依頼で結婚式前と言う大切な時期だから、そうだな、女性陣に頼むとしよう」
男相手では話せない事も、女相手なら話しやすいだろう。
そこへ、さっきまで何やら冷蔵庫に張り紙をしていたシュライン・エマが紅茶を運んできた。
その後ろを、ケーキの皿を持ってついて来るのは神崎美桜。。
「普通のストーカーと言う感じはしませんね」
気の毒そうに首を傾げて、美桜は女に皿を一つ渡した。
「回数的にあと2週間で辿りつく……って事かしら?」
紅茶を差し出しながらシュラインが言う。
その紅茶を受け取り、それぞれに回しながら答えるのは茅依子。
「でも、どう来れば何週間もかけて来るのかな。何週間もかけないと来れない……?」
「日本ではよく“部屋に憑く”とか“物に憑く”と言いますものね。一度、電話を見た方が良いかも知れませんね」
茅依子の言葉に頷きつつ、みそのは言う。
「悪いけどあっちの部屋の人も起こして来てくれる?」
「あ、はい」
シュラインに言われて、美桜はいそいそと応接室を出る。
まだ誰かいたのか、と草間は盆に残った紅茶とケーキを見る。と、暫くして一人の男が大儀そうに姿を現した。
「恐怖を煽り、返事をすると引きずり込む怪異の類に似てる気がする」
欠伸をかみ殺しながらそう言うのは、ライ・ベーゼ。
そう言えばソファで居眠りをしていたか……。
「怪異、ですか」
ライに紅茶とケーキを差し出しながら、美桜は顔を曇らせた。
再来週には結婚式を迎えようと言う大事な時期に、そんな恐ろしい事に巻き込まれてしまった女性を気の毒に思っているらしい。
「私、亮一兄さんにもお手伝いして貰えるようお願いしてみます」
亮一兄さんとは、立派すぎるほど立派な退魔師にして、可愛い美桜の頼みはどうしても断る事が出来ない従兄弟・都築亮一だ。
その言葉に、草間は頷く。
「少し情報が少なすぎる気がしませんか?もう少し込み入った事を聞いても?」
茅依子に言われて、依頼人は慌てて姿勢を正した。


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依頼人から聞き出した情報以下の通りだが、依頼人が帰った後、美桜に呼び出された都築亮一を加えた6人と草間は依頼人に降りかかった災難が一体何なのか検討が付かず、頭を抱えていた。

まず、依頼人は中高大と女子校に通い、卒業後はこれまた女性ばかりの下着会社に就職。本人が男性を苦手としている事もあり、親しい男性と言えば父親くらいのもので、交際したり交流する男性はいない。
婚約者は草間に言った通りお見合いで、お見合い後の交際期間は2ヶ月。
相手は中より上程度の企業に勤めるサラリーマン。引っ込み思案な性格上、女性と縁がなく婚期を逃し、気が付けば30代を過ぎてしまったと言う、少々頼りない雰囲気があるが、極普通の男らしい。
依頼人の家は自宅から1時間程の女性専用マンション、大学を卒業と同時に入居し、結婚後は引き払う事になっている。
電話は依頼人個人のもの。携帯電話は持っていない。

話の雰囲気から、依頼人の性格はとても温厚で男に恨まれたりするような人ではないと判断出来る。
また、箱入り娘の感が強く、どちらかと言うと世間知らず、男だけではなく女からも、恨みを買うような人物ではない。
そんな依頼人に、何故妙な電話が掛かるようになったのか……。
「変ね、名前は一度も呼んでないのよね。本来はやはり別の人にあてての電話なんじゃないかと思うの」
「依頼人の女性には全く関係なくても男には何かしら理由や事情があると言う場合もあります」
シュラインの言葉を否定したのは、亮一。
ついさっき到着したばかりで、額の汗を拭いつつ美桜の入れた麦茶を飲んでいる。
「無差別、と言う可能性もあるが?」
「でも、依頼人の婚約者が出たらすごく怒ったって言ってましたよね。まさか、依頼人の婚約者なんて事は?有り得ませんか?」
ライの言葉に、依頼人の言葉を思い出しつつ、茅依子が答える。
「婚約者ですか……?婚約者の知り合いと言う可能性もありますね。婚約者の方を影ながら慕っていた女性がいたのでしょうか?」
手に持ったナイロン袋を弄びつつ、みその。
「あの、さっきから気になってたんですが、その袋何ですか?何か生臭い気が……」
美桜に言われて、みそのははたと自分の手のナイロン袋を見た。
「まあ、すっかり忘れていました。お土産の鰆です。あっさりとしておいしいんですよ。氷を入れてあるので、まだ大丈夫です」
袋を差し出された草間は、どうも、と短く礼を言ってそれを冷蔵庫に仕舞った。
「で、どう調査を進めるつもりかな?」
「そうね……」
短い溜息をついて、シュラインが全員を見回した。
「取り敢えずは、依頼人の部屋に行ってみないとね」
「呪術的な事なら、部屋に何か形跡があるかも知れませんよね。それから、私は一応婚約者についても調べてみたいです」
茅依子に頷きつつ、みそのも口を開く。
「わたくしはやはり、電話を見てみたいと思います」
「私は依頼人の代わりに電話に出てみたいわね。返事があるかどうかは別として、色々聞いてみたいわ」
「その電話、私も出てみたいです。声を聞けば、相手の感情を読み取る事が出来ますから、何か分かるかも知れません」
美桜の安全圏内での調査に頷きつつ、亮一が答える。
「俺は直接依頼人に会っていませんからね、やはり一度会って、ここ1ヶ月の間にでも何か些細な事がなかったか話を伺いたいですね」
「それで、君はどうする?」
草間は何やら考え込んでいる様子のライに尋ねる。
「オレは「土曜」「道程」という言葉が非常に気になるな。法則に従って出現してるのなら、それを反故する方法もあるはずだ。その方法を調べてみみようか」
因みに、ライの場合は依頼人を助けたいと言う思いよりも自分の知的好奇心を満たしたいと言う思いの方が少々強い。
ぶつくさ文句を言っていた使い魔の鴉をストーカー対策用として見張りに送り出した事が辛うじて協力的と言ったところか。
「それじゃ、早速明日から調査を開始しましょ。依頼人には明日自宅に伺うと伝えてあるから」
シュラインの言葉に、全員が頷いた。


:::::

翌日。
茅依子と亮一は依頼人と共にマンション近くの喫茶店に居た。
あとの4人は依頼人のマンションを調査している。
と言うのも、亮一が直接依頼人に会って話しを聞きたいと言い、茅依子が念の為に婚約者も調べたいと言ったからで、4人がそれぞれマンションと電話を見てみたいと言ったからだ。
「昨日はお会いできませんでしたが、お手伝いさせて頂く事になりました、都築と言います」
新たな男の出現に少々戸惑っているらしい女に、亮一は人当たりの良い笑みを浮かべて言った。
「よろしくお願いします」
女は頭を下げて、亮一の隣でアイスティーを飲む茅依子に眼を向けた。
「あなたは学生さんよね?迷惑だったんじゃないかしら?」
折角の夏休みをフイにして仕舞うのではないかと、女は案じたようだ。
「大丈夫、心配しないで下さい」
ストローから唇を離して、茅依子は笑う。
そんな事よりも、人の恋路を邪魔する輩に踵落としの一つでも見舞ってやりたいと思っている。
「早速ですが少しお話を伺って構いませんか?」
言って、亮一は一口コーヒーを飲んだ。
「まず、ここ1ヶ月で何かありませんでしたか?どんな些細な事でも」
女は首を傾げて記憶をたぐり寄せる。
「特にこれと言って……ただ、結婚後は仕事を辞めるので、その引継で少々はもめる事がありました」
「もめる事?」
茅依子が尋ねる。
「本当に些細な事なんです。私が担当していた仕事を、誰に引き継いで貰うかと言う事で……すぐに解決しました」
「他には?婚約者の家の方と何かあったとか?」
「婚約者やその家の皆さんともとても上手くいっています」
女の答えに、茅依子と亮一は顔を見合わせる。
平凡を顔に書いたような女に、何故こんな災難が降りかかったのか、全く想像もつかない。
「こんな事を聞いては失礼かも知れませんが、結婚に反対される方は?」
亮一の質問に、隣で茅依子が頷く。
依頼人か、婚約者のどちらかに、結婚を面白く思っていない人物がいるのではないだろうか。
「本当に思い当たらないんです。私の両親も祖父母も、相手の両親や親戚の方も、とっても喜んでいて……」
「婚約者の方は今回の事を何て言ってるんですか?」
茅依子は婚約者を少し疑っているのだが、可能性は限りなく薄そうだ。しかし、念の為に聞いてみる。
「ストーカーの仕業だろうと言っています。最近は顔を見知っていなくても一方的に思いを寄せてくる方がいると言って、心配してくれています。あまり気持が悪いようなら自分の家へ来るようにと言ってくれているんですが、私も引っ越しの準備をしなくちゃいけませんし、電話自体は土曜だけなので断ったんです」
「うーん…………」
全く、突破口らしいものが掴めない。
茅依子は長い溜息をついた。
と、その時、亮一の携帯が鳴った。
「失礼」
断って、亮一は電話に出る。
周囲の迷惑にならないようやや声を抑え気味にしているが、どうやら相手は美桜らしい。
何か進展があったようで、亮一は何度か頷きながら話を聞いている。
「お尋ねしますが、」
数分後、電話を終えた亮一は女に言った。
「ここ2ヶ月……いや、3ヶ月程で不幸があるませんでしたか?親しい人、親しくない人、問わず」
女は頬に手を当てて暫く考えて、はっと顔を上げた。
「あの、1度しか会った事のない方なんですが、2ヶ月くらい前に亡くなっています」
「それは?」
「実は私、3回お見合いをしていまして……、2度目の方が、自殺なさったと聞いたんです」
女の言葉に、亮一は大きく頷いた。
「それですね」
そして、訳が分からない女と茅依子にさっきの電話の内容を話した。
4人の調査の結果、部屋や電話自体には全く異常がなかったらしい。
ただ、電話の相手が言った「半分近付いた」と言う言葉と週に1回と言う法則から、あと2回電話が入るであろうと仮定した。
昨日の時点で5回掛かっている電話に、残り2回を足すと7回。
週に1回と言う法則と回数を掛けて、49。
49と言えば、死者があの世へ行く為の日数だとも、あの世での行き先を決める為の裁判の日数だとも言われる。
もし、その日数を逆に辿ればどうなるか、と4人は思い当たったらしい。
「正確に、その人が亡くなった日って、思い出せます?」
茅依子に言われて、女はまた頬に手を当てた。
「私のお見合いを世話してくれたのは、全て叔母なんです。その叔母から電話で聞いたのが……。えっと、確か、亡くなってから今日で、85日になると思います」
「計算が合いますね」
亮一が答える。
死者があの世へ行くまでにかかった49日と、電話が掛かり始めてからの日数だ。
「その人とは、お見合いが上手くいかなかったんですか?」
「上手くいかなかったと言うか……、酷いマザコンで、お見合いの間中、ずっとお母様と一緒でないとイヤだと仰って……、それはちょっとどうかと思って、お断りしたんです」
成る程、と、亮一と茅依子は頷く。
お見合いを断られた腹いせか、或いは、余程依頼人が気に入ったのに断られてショックだったのだろう。
「何が狙いなのかはまだハッキリ分かりませんが、次の土曜には解決出来るよう、努力しましょう」
「結婚式までには、絶対解決しますから、大丈夫ですよ」
意図が何であれ、兎に角犯人が分かったのだから、多少、手の下しようがあると言うものだ。


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大切な結婚式を来週に控えた土曜日。
依頼人のマンションに7人の人間……、加えて、ストーカー対策として女についていたライの使い魔が居座っていた。
「すみません、狭くって」
恐縮しながら、女が全員にアイスコーヒーを振る舞う。
「どうぞお構いなく」
美桜が言いながら電話を見る。
「まず、あんたが出る。その次にあんた、最後にあんた。もし何か聞かれても絶対にYESとは言わないように」
言いながら、ライは美桜とシュラインと女を順番に指さす。
電話を掛けている犯人は判明したが、電話を掛けてくる意図が分からない。
しかし、命を断って、一旦あの世に行っておきながらわざわざ再び49日を掛けてこの世に帰ってくるのだから、何かしら考える処があるのだろう。
取り敢えずは、その意図、或いは男の感情を、確かめなくてはならない。
その為に、今日電話が鳴ったら、まず美桜が出て相手の意志を感じ取る。次に、シュラインが女の声を真似て出て、会話を試みる。
もし全く見当外れだった時の為に、ライは拳銃を用意してきた。
普通の銃弾に対悪魔用の「力ある言葉」を刻んだもので、対幽霊では効き目があるかどうかは妖しいのだが。
他にも、亮一は護符を依頼人と美桜など女性陣に渡してある。
因みに男はそれぞれ自分で身を守らなければならない。
「でもその人、この世に帰って来ても肉体はない訳ですよね?一体どうするつもりなんでしょう?」
茅依子の疑問にみそのが頷く。
「他の誰かに憑依して、近付くつもりでしょうか?」
「いや……」
亮一が何か言いかけた時、電話が鳴った。
女がビクリと肩を振るわせる。
「私、出ますね?」
美桜が全員を見回すと、それぞれ口を閉ざして頷いた。
「もしもし……?」
受話器を耳に当て、数秒。
「キャッ!」
美桜は短い悲鳴を上げて耳を塞いだ。手から滑った受話器が派手な音を立てて床に落ちる。
「どうした!?」
慌てて美桜に近寄る亮一。
「切れてるな」
ライが受話器を拾って確認する。
「ご、ごめんなさい」
美桜は受話器を落としてしまった事を、女に謝った。
と、再び電話が鳴り始める。
美桜は何かイヤな物を見るかのように、顔を歪めた。
「すごく、気持悪い感情が流れ込んで来て……」
「気持ち悪いって、どんな風に?」
次に電話に出るシュラインが尋ねる。
「何て言うんでしょう……、粘着質で、とても強い感情……」
まだ耳に何か残っているかのように、美桜は首を振った。
「それじゃ、出るわよ?」
シュラインが言って、受話器を取った。
「はい、もしもし?」
完璧に女を真似た声。
「もしもし、どちら様ですか?」
ふと、シュラインの表情が変わる。
全員が首を傾げてシュラインと受話器に注目する。
と、シュラインは軽く息を吐いて受話器を戻した。
「どうでした?」
みそのが尋ねる。
「こう言ったわ」
シュラインはとてもイヤそうに眉を寄せて、言った。
『来週、君の中に辿り着くよ。そうしたら、一生一緒にいられるね……』
「ヒッ」
女が短い悲鳴を上げた。
「君の中……?どう言う意味かしら?」
茅依子が首を傾げて亮一とライを見た。二人は何か思い当たる事があるようで、互いに頷きあっている。
「お見合いを断った理由が何だったのか、もう一度聞かせて頂けますか?」
亮一の言葉に、女は頷く。
「凄くマザコンな方だったんです。もう30を越えていたのですが、お見合い中もお母様と一緒じゃないとイヤだと仰って、それはあまりだと思ったものですから……」
「オレは最初、あんたの言った通り誰かに憑依するつもりなんだと思ったんだが……」
と、ライはみそのを見る。
「君の中に辿り着く、一生一緒に居られる、と言う言葉でハッキリしたな。憑依するんじゃない、宿るんだ。電話を掛けてくるのは、耳から侵入するつもりなのさ」
「宿る、ですか?」
みそのが首を傾げると、亮一が言った。
「恐らく、何か呪術的な方法を用いたのだと思いますが、49日掛けてあの世へ行き、49日かけてこの世に帰って来る事で、あなたの胎内に宿ろうと考えたのでしょうね。マザコンの男性が、好きになった女性と一生一緒に居られる方法の一つじゃありませんか?」
「恋人とか妻と言う対象じゃ駄目って事なのね……」
「恋愛よりも母性愛、か……」
シュラインと茅依子が顔を見合わせた。
「それじゃあ、どうやって相手の方を撃退するの?」
美桜の質問に、亮一とライは笑って答えた。
「そりゃ簡単だ」
「電話に出ないか……、出ても、耳を塞いでおけば良い。相手は耳から胎内に侵入するつもりらしいからね」
言いながら亮一は念の為来週まで持っておくようにと身代わりの護符を渡す。
「どちらにしても、来週の土曜は結婚式の当日で、電話に出たくても出られませんね」
溜息を付きながら、みそのが言うと茅依子も頷いた。
「つまり、最初から相手の計画は失敗だったって事ですね」
「お見合いは断られるし計画は失敗するし……、踏んだり蹴ったりでちょっと可哀想ねぇ」
「同情なんかする必要ない、自業自得だ」
シュラインの言葉に、ライが鼻を鳴らす。
「あなたの結婚式と49日目が重なってしまったのは、予定外だったでしょうね。可哀想と言えない事もないですが……」
やはり、自業自得だ。
亮一は命を粗末にした男を苦々しく思う。
「ま、結婚式が無事終わったら、お墓参りにでも行ってあげなさい」
シュラインが苦笑しながら言うと、またライが鼻を鳴らす。
「やめておけ、そう言う男は、すぐにつけあがるぞ」
女は取り敢えず安堵の息を付き……、6人は救いようのない男に向かって長い溜息を付いた。





end




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

1388 / 海原・みその   / 女 / 13 / 深淵の巫女
0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0413 / 神崎・美桜    / 女 / 17 / 高校生
0622 / 都築・亮一    / 男 / 24 / 退魔師
1697 / ライ・ベーゼ   / 男 / 25 / 悪魔召喚士
0293 / 瀬田・茅依子   / 女 / 18 / エクソシスト(普段は高校生)

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■         ライター通信          ■
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最近、日毎夜毎に隈が酷くなる佳楽です、こんにちは。
この度はご利用有り難う御座いました。
佳楽は寝付きが悪く、何時も布団の中で1時間から2時間ばかし悶々としています。
一体どうしたらすんなり眠れるんだかー……、と考えていると更に眠れなくなって、
気が付けばもう朝、と言う事がしょっちゅうです。
冬場はそれでも元気に過ごせるのですが、夏場は駄目ですね。
体力低下で毎日フラフラしています。
食欲だけは旺盛なんですけども……(遠い目)
漸く梅雨も明け、暑くなりましたので皆様、お体には呉々もお気を付けて、
楽しい夏をお過ごし下さいませ。
また何かでお目に掛かれたら幸いです。