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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


月の無い夜の土曜日に

■オープニング■

 ある日の月刊アトラス編集部。
 編集部の面々がいつもの如く締切寸前の大騒ぎをしている最中。
 ひとりの小さな男の子が駆け込んできた。
 そして身体の小ささを活かし碇麗香のデスクの横にまで要領良く回り込んで来て、曰く。

「この原稿、差し上げますから、代わりに僕を匿って下さい」

 そう言って少年が差し出した封筒の中には、四百字詰め原稿用紙四十枚程にもなる、手記が入っていた。
 内容は――『生ける死体』に関する民間伝承の考察。
 それもどうやら、比較的最近あった――けれど世間の反感を買わないくらいはほとぼりが冷めている――奇妙な連続殺人事件と、ギリシアの伝承にある『吸血鬼』を絡めてあり、怪奇雑誌の記事として興味深いと思われる代物。

「えっと、何かの穴埋めくらいには…なると思うんですけど」
 野球帽のつばの下から、屈託無くにっこりと笑い見上げる顔。
「ちょっと貴方これって…」
 ぱらぱらと要所要所を見、麗香は声を上げる。
 …何かの穴埋めどころか充分、特集記事が組めるレベルの、原稿だ。
 題材が『民俗学的な吸血鬼』となると少しマイナーにも思えるが、殺人事件と絡めたこの場合、それが逆に説得力にもなっている。
 …これはもっと本腰を入れてじっくり検討する価値がある。
「そろそろこの辺りをうろつくのはヤバいってエルさんに伺ってたんですけど、僕はこれでも、まだまだ好き勝手やらせて頂きたいんですよ」
 にっこり。
 ――エル。
 って場所のあるじの迷惑上等でそこらで年中お茶してる和菓子好きな女吸血鬼の名前では。
「ヤバいってどう言う事よ――」
「また僕を捜してるひとが居るらしいんですよ。まのみさんは諦めたってエルさんに聞いたんですけど、その『後ろの人達』がやっぱりまだ動いてるって」
「貴方を捜してるって…なんでよ」
「その原稿で判断して下さい。見りゃ察しは付きますよ。たぶん。で、えーとですね、こちらで匿ってくれるんでしたら、僕の名を出して僕を捜して来るような人は皆シャットアウトして欲しいって事なんですが」
「…部内のこの状況を見てその交換条件、徹し切れると思う? …えーと?」
 名前は。
「イオです。イオ・ヴリコラカス」
「イオ、ね。…そうね、いつもの面子の誰かが来て手伝ってくれるって言うんなら…貴方を匿ってもやれそうなんだけど…」
 編集部内の状況を見るに、そこまで余裕のある奴は――居なさそうだ。
 それでもこの原稿は、欲しい。
 来るのを待つんじゃ無く――誰か、呼ぼうか?


■原稿と殺人事件と吸血鬼■

 と、言う事でまず電話を掛けてみた先は綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)の元。
(…子供をひとり匿う、って事ですか)
「そうなんだけど。頼めないかしらね」
(良いですよ? 今日、公休日ですし。書店巡りしてたんですけど…めぼしい本も見当たりませんしね。…ところで、匿うのは男の子なんですよね?)
「ええそう。…男の子よね?」
 科白の後半で麗香は目の前のイオに直接問う。
 一応男の子らしい格好はしているが、この年頃の子供は男の子とも女の子とも判別付き難いのも確か。
「…そうですけど?」
 麗香の問いに、ん? と訝しげにイオ。
「…だ、そうよ。ええ。服のサイズ? ん、ウチの美都(みと)くらいかしら? ええわかった。じゃ、お願いね」
 そして麗香は通話を切る。
 …取り敢えずひとりは確保、と。
 でも他にも…もう何人か居た方が、良いわよね?
 と、通話を切った麗香が考え込んだところで。
 すぐ近くの机から声が聞こえた。
「イオ・ヴリコラカス…興味深い名前ですね」
 とんとん、と机で揃えた書類を机の主の編集部員に渡すと、彼――本名のアンリでは無くヘンリーと呼ばないと大人気無く怒るらしい、文化人類学を専門とする大学教授・桐生(きりゅう)アンリは、麗香の――イオを中心とした小さな騒ぎの方を向き直った。
「匿って欲しいと言う事だが…原稿を見れば察しが付くと言う事は、その中身が関っていると考えて良いんですね。…そしてここは――怪奇雑誌の編集部、と」
「桐生教授」
 はたと気が付いた麗香はヘンリーを見た。
「麗香さん、差し支えなかったら彼の書いた原稿を読ませて頂けませんか」
「え?」
「内容、ギリシアの吸血鬼…が絡んでいるんじゃありませんか?」
 ヘンリーは職業病でね、と呟き、少し考えるような素振りを見せた後、さらりと告げる。
「!」
 先に原稿をぱらぱらと見ていた麗香の驚く顔がヘンリーに向けられた。
 …ちなみにイオの方は、苦笑しているような――何とも言えない表情を見せていた。

 そして麗香からヘンリーにその原稿が渡される。
 目を通しながら、ヘンリーはふむ、と何度か頷いていた。
 読了後、揃え直した原稿を、有難う御座いました、と言いながら麗香に手渡す。
「やはり、ギリシアの吸血鬼…絡んでますね――それも、以前あったあの殺人事件ですか。ふむ。言われてみれば確かに通ずる部分がある。私の記憶にある『ヴリコラカス』と言う吸血鬼の悪事とも合致しますしね」
 曰く。
 ――引き合いに出されていたのは、少し以前に、世間を騒がせた凄惨な事件。
 満月の夜に起こった子供三人の絞殺及び内臓破裂・死体損壊――血液と肝臓が行方不明となっている――事件。そして次の新月の、今度は肥満気味と言える大人が三人全身を切り刻まれて殺されていた――こちらも左胸が抉られていたり身体が焼かれていたりと死体損壊が為されていた事は変わらない――と言う、明らかな手段の違いはあれど、その異常性から関連性がありそうだと密かに報じられもしていた事件。
 取り敢えず、解決したとは、報じられた記憶がない。
 けれど今この原稿内で引き合いに出されなければ、麗香もヘンリーも、何故か忘れてしまっているようなところがあった。印象深い事件だったと言うのに。
 ――そして『ヴリコラカス』――ブルコラカス(brucolocas)とも呼ばれる事のある、その存在。
 これは、ギリシアで『吸血鬼』イコール『生ける死体』を指す、スラヴ語由来のvrykolakas――原義は、『人狼』。けれど殆ど吸血鬼の意で使われているらしいその名。
 この吸血鬼は白い屍衣を着て、爪が長く、顔が赤く、肥っていると言われる。そして――人を襲い、暴力を振るう、人死にを起こす、などと言われるが――今のこの場合、『子供の息を詰まらせて殺す』、『家の家具や道具を巻き散らす』、『胸に乗り、血を吸う』、『内臓を食らう――それも肝臓が好物』と、この辺りの悪事が『子供殺し』の事件の方に当て嵌まりそうなのだ。
 また、逆にギリシアで吸血鬼を退治する際には――『死体を焼く事』が一般的とされる。そして――『心臓を抉り出し』酢で煮たり、『死体を切り刻んだり』すると言う方法も取られたらしい。
 …これらもまた、『大人殺し』の事件の方に当て嵌まる、と言えそうである。
「今、ヴリコラカスって」
 麗香がはたと気付いたようにイオを見た。…彼は確か、今…何と名乗った?
 畳み込むようにヘンリーはそれに続く。
「…君に確認したいのですが…狙われているそうですけど、今後も自由にしたいということはそれなりの義務も発生する訳ですが、それは守れそうですか?
 固い事を言うようですが、私も無条件にイオ君を匿う訳にはいきません」
「義務、ですか?」
 きょとんと首を傾げるイオ。
 と。
「…貴方がそのフルネームを名乗る事自体が危ないんだって。イオ」
 いつの間にそこに居たのか、そろそろ聞き慣れた感のある女性の声が麗香の耳に飛び込んできた。
 イオはその主を見、あ、と声を上げる。
「エルさん」
「桐生さんの言う通り、『ヴリコラカス』なんて名乗ったら、怪しんで下さいって言ってるようなものでしょう?」
「あー、そうでした」
 あちゃー、とでも言いたげに、ぺし、と自分の額を叩いて舌を出すイオ。
 と。
「ひょっとして…エルさんじゃないですか?」
 そんな中に恐る恐る声を掛けてくる青い髪と瞳の優しげな女子中学生――海原(うなばら)みなも。
「あら? みなもちゃん…よね?」
「お久しぶりです…って、イオさんて…まさか、随分以前の、草間興信所でのあの時のお話に出て来ていた…」
「当たり。そろそろ切羽詰まっちゃってるみたいなの」
「ですがあの時のまのみさんは――」
 諦めた、と。
「…その通り、なんですが」
 エルと話すみなものその横から何処と無く仏頂面でぼそりと口を挟んできたのは、過去、イオを捜していて草間興信所を頼って来、まぁその際色々とあって――結局、捜す事自体を諦めた筈の当の人物――相楽(さがら)まのみ。
 そんな彼女とエルの顔を交互に見たみなもは思わず。
「…和解なさったんですか、御二方」
「そうなら良いんだけど」 
「不本意ながら…『この子』に関しては…放っとけなくて。エルが…どうやら一番詳しいのは、確かだし…」
 ほぅ、と気だるげに溜め息を吐きつつ言うエルに、イオを見ながら苦虫噛み潰したよう漏らすまのみ。
 …つまり状況は殆ど変化無し、と。
 まぁ、エルを前にして問答無用で戦闘モードに突入しない辺りは…まのみも取り敢えず進歩したと言えるか。
「『上』に言わないなら…イオの意志を優先するなら…教えても良いって言うから…」
 言い訳でもするようにまのみは連ねる。
「細かい事は良いです。今ここで喧嘩なさったりせずにエルさんと一緒に居て下さるって事。それだけで充分でしょう? ね?」
 邪気の欠片も無いみなもの笑顔ににっこりと見据えられ、まのみは渋りながらも、ん、と頷く。
 と、その時。
 編集部のドアから和服の美少女が顔を覗かせた。
 …が早いが開口一番。
「エル様にまのみ様じゃ御座いませんか! 和解なさったんですか御二方!」
 先程みなもが言ったのとまるっきり同じ科白が飛び出してきた。

■■■

 手製の『水まんじゅう』を携え現れた和服美少女は天薙撫子(あまなぎ・なでしこ)。
 彼女もまたみなも同様、イオがまのみに追われていたらしい――随分前の草間興信所での騒ぎの際、居合わせたひとり。
「で、こちらがその…イオ様なんですね?」
「…天薙のお姉さん――と言う事は、エルさんから聞いた事があります」
 人様に洒落にならないくらいの迷惑を掛けない限り、吸血鬼とか…所謂闇に棲まう負の存在でも受け入れて下さるようですよね?
 対魔の血族にしては、懐が深いと言うか何と言うか。
 述懐しながら、イオはぺこりと会釈。
 と。
 その様子を見ていたヘンリーが再び口を開く。
「ところで…君たちの話を聞いていると、何やら以前にもこのイオ君に絡む騒ぎがあったようだが、良かったら聞かせてもらえないかな」
 関連があるなら――聞いておいて損はあるまい。

 ――以前、草間興信所にまのみが人捜しに来た事があったらしい。その捜し人こそがイオ。が、少々普通の人捜しでは無かったようで――彼女が興信所の主に依頼をしている只中のその時、今ここにも居るエルがその場に唐突に現れた。こちらの彼女が現れるなりまのみはこのエルにあろう事か『発火』で攻撃を仕掛ける。そのままなしくずしに興信所内でバトルが始まり掛け、興信所の主がブチ切れた時があったのだ。
 曰く、まのみは対魔の役目を負っているクリスチャン――吸血鬼バスターで、エルはその宿敵に当たる吸血鬼――だが、同時に過去にはまのみの姉のような存在だった事もあるらしいと言う中々に複雑な事情があるようだ――であり、常に一触即発、顔を合わせたら最後、見つめあったその時にはまのみが牙を向くと言う――但しエルの方からは全く手を出さず、まのみを挑発しちゃわざと攻撃させているようだったのだが――とにかく険呑な間柄であったらしい。
 しかもまのみの『人捜しの依頼』をこそ、その時のエルは明確に邪魔しに来たらしく、戦闘?は更に激化。居合わせたみなもや撫子も仲裁に奮闘したらしい。
 が。
 そんな調子で暫し経った後。
 エルの口から『とある決定的な真実』が告げられ、悩みつつも――結局まのみはイオを探す事を諦め、最後には酷い様相を見せる興信所内の大掃除の必要性だけが残ると言う平和的解決を見せていたのだ。一応は。
「…と、言う事なんです」
 ぼそりとまのみ。
「イオは…『覚醒していない生来の吸血鬼』だ、なんて言われてしまったら…それは…まだ何の罪も犯していない事にはなりませんか」
 それは、『存在自体が罪』だと言われても…まのみはどうしてもそんな気になれない。
『捜索』――それを、本来対魔の役割のみを望まれている自分に求める以上、暗に求められているのは捜索対象の『退治』と考えるのは自然だ。
 が。
 まのみは敬虔なクリスチャンである両親に倣っての信徒である前に――今時の女の子だ。根は、普通の無宗教な日本人の女の子。実はそちらの比率の方が高い。
 だからこそ単純に、この構図は――納得行かない。
 だからこそその時はイオの捜索を諦め、今は――他でもないイオの為に、エルを前にしても暴れ出さない事に決めているらしい。
 ふむ、とまたヘンリーが頷いた。
「覚醒していない…と言う事は、ヴリコラカスの名から連想出来るような悪事は…君はしていないんですね?」
 イオに確認する。
「やってませんよまだ!」
 慌てて、イオ。
「…まだ?」
 じろ、とヘンリーがその顔を見た。
 気圧されるようにイオがヘンリーの顔色を窺う。しゅんと耳を垂らした子犬のような態度。
 言い訳するようにイオは続けた。
「そりゃ襲われたら全力で抵抗する覚悟はありますから…」
 聞いて、ヘンリーは微笑しつつ頷いた。
「…それなら、真っ当だろうよ。そんなに怯えないでくれ給え。君が何者であろうが、その『義務』を弁えている限り問題は無い」
「や、その抵抗手段が…『覚醒』したらそっちと似たようなやり方でやっちゃうかもって思うから…だから『まだ』って言った訳で…」
「…それは構わないんじゃないのかね? 無論、黙ってやられてろなどとは言わんよ。…ふむ。君はどうやらその『手段』からして忌避しているようだね?」
 興味深げな瞳で、ヘンリーがイオを見る。
「ひょっとしてこの原稿は…『勉強の成果』かな?」
「…う」
 痛いところを突かれたとばかりに、イオは黙り込むと、帽子を押さえてつばを下ろし、顔を隠す。
 まのみは俯き加減なまま、その姿をちら、と見上げた。
 けれど何も言わず、黙り込んで目を逸らす。
 実はその手には、ロザリオが握り込まれていた。
 そんなまのみの姿に、ぽん、と肩を叩く撫子。
 …察している。
「まのみ様の判断は、間違ってなんか、いらっしゃいませんよ」
「天薙さん」
 宥めるように言われ、まのみの表情も何処か和らぐ。
 と。
「柚品(ゆしな)です。原稿、教授から預って参りました――ってどうかしたんですか」
 ふと現れたのは考古学者の卵な大学生――柚品弧月(こげつ)。
 見慣れぬ少年を取り囲むように、普段からある編集部内の忙殺振りとは何やら別種の騒動の臭い。
 麗香の瞳がきらりと光った。
「柚品、この後――暇かしら?」
「…何か御用で?」
「手数が欲しいの」
「でしたら…絶版になってるアトラスの出版物…何冊か頂けませんかね」
「…柚品?」
「無論…タダで受ける気はありませんよ?」
 にっこりと微笑んだ彼のその表情には、胡散臭いくらい邪気が無い。
 一方、編集部の片隅で。
 外して置かれた受話器相手に、何やら…恐らくお仕事の一環であろう話をしている少女の幽霊。
 通話相手と普通に話をしながらも、編集部内の様子もかなり気になっている様子。
(…どうした、美都さん)
 やがて、受話器から怪訝そうな声が響く。
『あの、ササキビさんって…結構頼りになる方ですよね?』
 通話相手に思わず訊いてしまった。
 確かこの相手――ササキビ・クミノは、美都の死亡時の年齢よりたったふたつ年上なだけだと言うのに、元・企業傭兵で七百人から人を殺している、と言う大層な十字架を背負っていたと聞いている。
 この手の騒動には頼りになるかも、と思ってしまうのも無理はないかもしれない。
(…何か、あったのか?)
『いえ、あの…実は…』
「替わりなさい、美都」
『え? 編集長? はい』
 言われた通り美都は退き、麗香は机上に置かれていた受話器を取る。
「クミノさん? …ちょうど良かった、頼みたい事があるの」
 そして麗香は、イオの持ち込んだ件を通話先の彼女にも話し始めた――。

■■■

(…それは随分前のニュースになるな。言われてみれば…確かに、あったか。妙に儀式めいた…凄惨な事件だったな。まぁ、そのおかげで改めて探らずとも見当が付く訳だが。それにまつわる話のようだ、と言う訳だな)
 ヘンリーや麗香同様、クミノもまた、印象深い事件だと言うのに何故か忘れ掛けていた。
 ふむ、と考え込むような間を空けてから、クミノの声が再び受話器から届く。
(…その事件の犯人たちは、いずれ日本のモノではあるまい。海の外から来たモノどもか…何者かに追われてか。ふむ。ならば日本へとその犯人を逃がした討ち手には責任を負って頂かねばなるまいな)
 何事か考えつつ、クミノは連ねる。
(今聞いた限りのその様子では…何故か知らんが、イオさんはどちらからも追われているように思えるな? また、随分と複雑な事になっているようだ。…わかった。微力ながら私も手を貸そう)
 そして受話器からは頼もしい返事が返ってきた。
 と。
「碇様、著者校、終わりました」
 そう言って、原稿片手に麗香の元に現れたのは小柄で童顔ながらもFカップと言う巨乳の女性。
「…ああ、有難う。って、あ、貴方にも頼めるかしら、浦賀(うらが)」
「頼める? って、ああ、今のお話ですね?」
 合点が行ったように、ぽん、と両手を合わせ、浦賀と呼ばれた彼女――浦賀素美(すみ)はイオを見た。
 素美もその原稿拝読させて頂いて宜しいですか? と小首を傾げ、麗香に頼む。
 麗香は快く素美に原稿を渡した。
 そして、ぱぱっと目を通すなり。
「…凄いですね。イオ様おいくつですか? え? 九歳? マジですか!?」
 わー、と素直に驚きつつ、素美はぱらぱらと読んで行く。…とても九歳の少年が書くような文には見えない。
 そして読み終えた原稿を丁寧に揃え直すと、そ、と麗香に差し出した。
「及ばずながら、素美も手伝わせて頂きます」
 承知したとばかりに、こくりと素直に頷く。
 と。
 そこにふらりと姿を見せたのは尼僧――シスター姿の人物。
 滑るように歩いてきた彼女は、麗香の元まで来て、口を開く。
「何か――良からぬ気配を感じたのだが」
「…ロゼさん? ちょうど良かった――と言って良いのかしらね。微妙なところだわ」
 シスター風の彼女――ロゼ・クロイツを見た麗香は、苦笑しつつ言う。
「ちょうど良かった? …ならば…何か、私に新たな務めを与えてくれると言うのか?」
「まぁ、そんなところね」
 きょとんとした顔のイオを余所に、ん。とロゼは重々しく頷いていた。


■対応それぞれ/海原みなも■

 弧月の提案でまず応接室か何か、隔離出来る部屋を借りる事になり、皆はそれぞれ動き始める。何かあった時の為に、と次の逃亡先として素美のアパートが案として出され、その時点でロゼは黙々と、弧月の言い出した『隔離出来る部屋』――改まった場合にのみ使用される『応接室』――に今居る編集室等関連各所を廻り、神の文言を記した護符を銀の釘で打ち付け始めた。結界を張る気らしい。
 が。
「…ちょっと待ってくれ給え。ロゼ君、だったか」
 それを途中で制止したのはヘンリーだった。
「…何か?」
 怪訝そうな顔をするロゼ。
「あの、そんな確りした結界を張ってしまっては…この場所を警戒しろ、と追っ手の方々にこちらから教えているも同然になってしまうような気がするのですけれど」
 恐る恐る、訴えてみる撫子。
 その科白に頷くみなもと弧月にも気付き、ロゼは暫し考え込んだ。
「…場所が割れている事は…想定できると思うのだが」
 …だが…逆にわざわざ呼び込む事にもなり兼ねないと言う案も――然り。
 悩む。
 と。
 そこに電話を通したクミノの声が響き渡る。
(ならば、吸血鬼対応仕様の双方向応対可能監視装置がある。隔離する部屋とやらに設置しておけば…まぁ、気休めにはなるだろう。今からメイドアンドロイドのモナに持たせてそちらに送る。…構わんな?)
 受話器では無くその周辺にも直接聞こえるよう、スピーカーフォンに切り替えた、クミノとの電話から。
 と、ヘンリーから素朴な疑問が飛んだ。
「ササキビ君…でしたね。手伝ってくれると言うのなら、電話越しよりも君が直接来た方が早くはないか?」
「あのヘンリーさんクミノさんは…」
(…済みませんが私がそちらに赴いては屍の山が出来てしまう。この身には致死性の障壁が備わってしまっているのですよ。私の半径二十メートルの中には…生命活動を行っている者は居られない)
 ヘンリーの疑問を説明し掛けたみなもの科白の前に、クミノ当人からあっさりと答えが返ってきた。
 あまりにあんまりなその答えに、ヘンリーは思わず肩を竦める。
「…世の中、色々な方が居るものですね」
 正直、この答えには驚いた。
 と、そこに。
 真っ先に麗香が電話で呼び出した当の相手、汐耶の顔がひょっこりと出される。
 彼女の手には何処ぞのデパートの大きな紙袋。
「…あの、汐耶様、それは…?」
 薄らと予測が付きつつも、撫子はそ、と紙袋を示す。
「女の子の服、買って来てみたの。性別が違って見えればかなり印象も違うんじゃないかなってね。ウィッグもあるし」
 にこ、と微笑みつつ、撫子に言う汐耶。
「イオくんにはひとまずこれを着用して紛れてもらって…後は気配を誤魔化せれば何とかなるんじゃないかしら…と思ったんだけど」
 匿う、って言うんだったら。
「ま、良いんじゃないですか?」
 苦笑しながら、弧月。
「そうですね。それ着て…美都様と並んでいたらむしろ自然に見えるかもしれないですし」
 ほわん、と微笑みながら、素美。
 女装と言われ何処と無く嫌そうな顔をしているイオを余所に、話はどんどん決まって行く。

■■■

 警戒の為、色々と暗器の準備・確認をしながらも廊下をふらつくロゼ。
 と。
 メカメカしい――けれどメイド風の衣装を来ているような外装になっている人型の人形――アンドロイドがふと前方――廊下の隅に姿を見せた。
 歩いているロゼの姿を見、すーっと近付いてくる。
 取り敢えず、敵意も害意も感じない。
「…何者だ?」
『コンニチハ、初メマシテ。ワタシハぷらぜのもなりすト申シマスめいどあんどろいどデ御座イマス。ささきび・くみのサマヨリ言イ付カッテ「吸血鬼対応仕様ノ双方向応対可能監視装置」ヲ持参致シマシタ。オ納メ下サイ』
「ああ、おまえがササキビと言う娘のところの…」
 ロゼが言うなり、プラゼノモナリス――通称・モナはインターフォンのようなその装置をロゼに手渡す。
『オ渡シ致シマシタヨ』
 そして来た時同様に、すーっと廊下を遠ざかって行く。
 …託されてしまった以上、届けねばな。
 渡された装置をじーっと見つつ考えると、ロゼは再び編集部の部屋に戻ろうと、足を向ける。
 と。
 幾らか見渡しの良いそこで、青い髪と瞳の少女――みなもがロゼに会釈していた。
 そして彼女は、そろそろと口を開く。
「あの、…ロゼさん?」
「なんだ?」
 急に話し掛けられ、ロゼは途惑う。――普通の会話は、慣れていない。
「シスターさん、なんですよね」
「…ああ。私は神の僕だ」
 淡々とロゼは答える。
「あの、もしお持ちでしたら…いえ、無ければそれは仕方無いんですけど、宜しければ幾らか…聖水を分けて頂けないでしょうか」
「…聖水を、か」
「はい。やっぱりあった方が…私の場合、安心出来ますから。荒事になったら…少しは役に立つでしょうし」
「承知した。…聖水シリンダ一本分で良いな?」
 言って、何処からともなく、す、と言葉通りの聖水シリンダを一本、取り出し手の中に収める。それをみなもに差し出した。
 ぺこん、と元気に会釈すると、みなもは聖水シリンダを丁寧に受け取る。
「有難う御座いますっ。…ところでそれ、なんですか?」
 そろそろとみなもが指差したのはロゼの持つ、モナの置いて行った装置。
「ああ、たった今…ササキビと言う娘のところのアンドロイド?だったか――が置いて行ったものだ」
「あ、そうなんですか。だったら早く設置しないとですね。行きましょう! ロゼさん」
 言って、みなもは空いているロゼの手を引き、応接室の方面へと向かう。

■■■

 件の応接室。
『か、可愛いです…イオさん…』
 笑いを堪えながら美都が言う。
 ぶすぅっとしかめっ面を見せる、アンティークドールばりな女の子がひとり。
 否、イオ。
「お似合いですわ。イオ様。これはわかりません。ええ」
 くすくすと笑いながら、撫子。
「本当にサイズも合ってるわね? 美都ちゃんくらい、って言われただけなんだけど。さすが碇編集長」
 感心したように頷く、汐耶。
「本当に可愛いですよ。イオさん?」
 にこにこと微笑みながら、弧月。
「…本当は女の子…だったりしないよね」
 こちらもまた苦笑しながら、まのみ。
 その場に居る面子にひとりの例外も無く言われ、イオは恨みがましげに一同を見渡す。
「…皆さん、単純に楽しんでませんか?」
「あら心外だわ。折角…ここに居るのが貴方だ、とバレないように奮闘していると言うのに」
 ふぅ、とこれ見よがしに溜息を吐きつつ、汐耶。
 と、そんな騒ぎをしている時。
「クミノさんの仰っていた装置、届きましたー。…ってうわっ、可愛いです!」
 ロゼを連れ、応接室に飛び込んできたのはみなも。彼女もまた何処から見ても女の子なイオを見て思わず叫んでいたり。
 みなもの叫びでは無く報告の方を受け、弧月が立ち上がった。
「俺が設置しますよ。えー、殆どインターフォンみたいな物と思って良いんですよね? このコードが…うーん。まぁ良いか、何とかなるでしょう」
 …困ったらサイコメトリーで使い方・設置方法を読み取ればどうにかなるだろうし。
 弧月は口には出さず心中でそう呟いた。

■■■

 と、暫し後。
 小会議室の入り口に設置した吸血鬼対応仕様の双方向応対可能監視装置のブザーが鳴り響く。
 何度も何度もしつこいくらい。
 そして――応対する間も待てず、ダンダンダンとドアを直接叩く荒っぽい音。
 中の面子はその時点で俄かに冷汗をかいた。
 ――ちなみにクミノの送ってきた装置に寄れば――お外に居るのは、属性・吸血鬼の皆さんだ。
「…やはり気配の問題だったんでしょうか」
 ぽつりとみなも。
「…これは…バレてると見て間違いなさそうに思えるんだけど」
 続ける、汐耶。
「しかも…お話し合いが通用しそうな気配ではありませんわね…」
 ひゅ、と『妖斬鋼糸』――曰く、この頃、何処で何があるかわからないので最近は常に数本、懐に忍ばせているらしい――の先端を伸ばしつつ、撫子。
 と。
 ドアの向こう側で。

 カシャカシャカシャーン、ドッ、ガ、ガガガガガッ

 ぐずぐじゅ、と腐った肉でも刺されているような音と共に、様々な――硬質の破壊音が連続した。
 そして、ボウッ、と火の付けられるような音まで。

 そしてそれらが鎮まった時。
(中はまだ大丈夫ですね、皆さん)
 クミノの送ってきた装置から、まのみの声が流れてきた。
 が。
 まのみのその背後からロゼの声が。
(ぬ…やはり暫し待て)
(すみません、まだです!)
 即座に話は切られ、再び、ガガガガッ。
 キュルルル、と何かが巻き取られる音が。
 …したのだが。

 ガキッ、ドカァッ
 メキ
 …メリ

 次の瞬間にはドアから爪が生えていた。
 薄ら、焦げ臭さまで漂ってくる。
「…」
 みるみるうちに、裂けて行くドア。
 その向こう側には不自然に膨れた、風船染みた男の姿が、ところどころ焼け焦げ、ワイヤで巻き付けられこんがらがっている。にも関らず、緩んだ隙を衝いてか、ドアへの攻撃を為していた。…ロゼとまのみのふたりが居たと言えど、思った以上の人数相手と言うのは手が回り切らなかったと言う事だろう。
 が、壁に叩き付けられ崩れ落ちたその体勢のまま、有り得ない動きでロゼは再びワイヤを繰り出した。それで一瞬だが、異様な姿の男たちの動きが止まる。――ロゼのワイヤが彼らの腕に足に絡み付いていた。
「…逃げよ」
 ロゼのその言葉と同時に、まずイオを庇うような形で抱き、飛び出したのは弧月に汐耶。そのすぐ後ろに庇うように、聖水シリンダを開封したみなもと『妖斬鋼糸』を構える撫子が。
 予め打ち合わせしておいた逃亡ルートに沿って、走り出す。

■■■

 破壊音が聞こえるなり、編集部に現れていた神父風の人物――バーガンディはじろり、と相対していた三人を見る。
「あれは、なんだ?」
 バーガンディの冷ややかに問う声。
 その後ろで。
 廊下を駆け抜ける、当の応接室に居た面子。
「…やはり居たか。ならば今更卿らには用は無い――」
 と、言い捨て、廊下に向かおうとしたその時に。
 今度は、何やら風船の如く膨れた白い屍衣の連中が、今行った連中を追う形で廊下を駆けて来る。
 が。
 バーガンディはその姿を見るなり、無言のまま彼らに向け床を蹴り走り出した。
 次の瞬間には、その手にあった拳銃から、ガゥンと銃声が何発か響き渡る。
 そして膨れた男たちが編集部になだれ込んでも来た。バーガンディを敵と認めて。
 ついでに、編集部員も騒ぎに巻き込まれ薙ぎ倒されたり絶叫したりしている。
 唐突に阿鼻叫喚の地獄絵図。

「…ところで何だかヴァチカン絡んでるみたいね。これ?」
 咄嗟に隠れた机の影で、頭を抱えつつ、麗香。
 このバーガンディと言う人物は、どうもそんな気配がする。
「…イオの原稿と名前見る限り…民俗学方面って事になるから別なのかと思ってたんだけど」
「まぁ…『あそこ』は、布教先に元々あった土着の『古い神』や『精霊』、『怪物』の類は…すべて管轄内の『悪魔』になる訳ですからね。不思議では無いかもしれません」
 説明するように、ヘンリー。
「取り敢えず…この騒ぎは…イオ様たちへの足止めにはなるでしょうけども…うーん。素美が打ち合わせ通り先回りしておくにもこの状況で外に出るのは難しいですし…」
 考えつつ、素美。
 と。
「じゃ、私が貴方を連れ出してあげる。浦賀さん」
 いつの間にやら三人同様机の影にしゃがみ込み、そこに居たのは件の女吸血鬼。
「エル様!」
「何かあったら呼びなさいって言ったでしょ。…表立って私が出たら余計な火種だけど、裏で出来る事があるなら、何でもやるわよ?」
 にこっと微笑んで、エルはそう言ってのけた。

 …そして唐突に現れたエルがいつの間にやら素美ごと編集部から消えた後。
 さて、と麗香が机上をちら、と見遣った。
「…ヴァチカン絡みだったら…力技で行けるのはあの女くらいしか無いかもね」
 言って、麗香は受話器を外し、引っ張ってくると、手だけ伸ばして手早くプッシュし始める。
「どなたに?」
 掛けるのですか。
「――レイベル・ラブ。…捕まれば良いんだけど」


■覚醒、如何■

 エルに連れられ先回りが出来ていた素美に迎えられ、イオ・汐耶・弧月の三人は、件のアパートに滑り込む。
 そして見計らったように美都が素美の携帯電話から現れた。
『大丈夫でしたか皆さん!?』
「付いて来てる方はいらっしゃいますか!? 居たなら…素美が出ます!」
 トンファーを装着しつつ、素美が前に出る。
「…ああ、それはみなもちゃんと撫子さんが見てる筈…」
 はぁはぁ、と息を弾ませながら、汐耶が答えた。
 と、その時。
 みなもが先に姿を見せた。
「取…り敢えずは、追っ手の方、どちらも姿は見えません…」
 こちらも息を切らせながら、みなも。
 次いで現れた撫子は、懐に妖斬鋼糸を仕舞って、他の面子よりも幾らか落ち着いた様子で。
「ひょっとしますと…編集部の部屋の方にいらっしゃった…神父風の方と、戦ってらっしゃるって事は」
「ありそうですね。あの背の高い、細い十字架持ってらっしゃった…」
「…何の話です? それは」
 訝しげに弧月が訊く。…彼は逃亡の際、『気になる事』の方が先だったので――編集部の中を見ていない。
 が、みなもと撫子の言う、それは。
 弧月には心当たりのある人物。…何故なら先程、サイコメトリーで、『読んだ』中に居た。
『あのそれ、「終わった」ん…ですけど』
 恐る恐る、美都。
「え?」
『だから私がこうやってこちらに連絡出来ている訳で…』
「て事は本当にあの神父様、あの白い服の吸血鬼さんらしいひとたちと戦ってたんですか? でもそうなると…別にイオさんの敵と言う訳じゃないんじゃ…?」
 イオの顔色を伺いながら、小首を傾げ、みなも。
「…上から出てる『CAIN』への最終的な指令は結局、僕の抹殺ですよ。でも他の…ヴリコラカスも、奴らに取ってみれば滅すべき相手ですから。見掛ければ放って置かない。それだけでしょう」
 淡々と、イオ。
「…『CAIN』?」
 何だ、それは?
「…創世記の四章にある…この世に殺人と言う概念を齎したアダムとイヴの第一子…その名を戴いた、教理省内部でも非公式な…この現在に至っても活発に活動している、異端狩りの機関です。特別に許されている汚れ役。彼ら自身が異端でもある事が多い。言わば異端審問の最末端。遊撃部隊みたいなものでしょうか。同志からさえも弾かれ、蔑まれていると同時に――何をしても神の前では『罪』にはならない完全な免罪符をもらっている特殊な連中でもあるそうです」
 イオの説明に、弧月はちら、と目を向ける。
「君にはそんな、キリスト教の『異端狩り』に狙われる心当たりがあると、そう言う事なんですね」
「誰も狙われたくて狙われちゃいませんよ」
「ま、俺は特には構いませんがね」
 肩を竦めて、弧月は話題を切り上げる。
 彼はただ、イオの『未来』に見えたヒトコマが気になっているだけ。
「だけど、あの状況で見抜かれた、って事は…ここも、バレるのは時間の問題じゃないかしらね」
 アンティークドールばりな格好のまま、暑い、と取り敢えずウィッグだけ取っているイオを見ながら汐耶が言う。
『封筒に彼の者の臭いがどうの、って神父さんの方もおっしゃってた…ようです』
「確実ね」
 美都の科白を聞き、はぁ、と溜息を吐きつつ、汐耶。
 と。
(聞こえるか、私だ)
 クミノの声が、素美の携帯電話から発される。転送機能で通話しているようだ。そしてやっぱり、スピーカーフォン。
(幾つかトラップを設置した――が、気配程度で察してしまう程の連中相手では効果の程は期待できんだろうがな。が、私自身がそちらの状況を直接、把握可能な良い場所が確保できた。…何かあれば――いつでも、狙撃可能だ)
 そこで今度は汐耶の携帯電話から呼び出し音が鳴る。
(…私だ。聞こえるか汐耶君)
「ヘンリーさん」
(すまんな。止め切れなかった。申し訳無い。だがせめてこれだけは伝えておこう。こちらにイオ君を捜しに来た神父――バーガンディと名乗っていた人物は、あれは『機械』と見た方が良い)
「…どう言う事ですか?」
(自身に『課された仕事』だけを為そうとしているように見えたよ。私には。自分の意志など二の次で。イオ君を捜して――葬る事しか考えていない。…本心は違っても行動は何も変わらずに)
「…それって」
(説得は出来ない。…この私で駄目だったんだぞ? ならば初めにロゼ君が言った通り…迎え討つしか無いだろう)
 確かにヘンリーは…人とのコミュニケーション能力は、突出している。
 彼で駄目なら…それ以上の適任はそうそう居るまい。
(それと、吸血鬼の方への対処法だが…伝承の通りなら、一番効くのは件の殺人事件の――新月に起きた方の手段だ。切り刻み、焼く事。また、月の満ちて行く時は力が増している。だから欠けて行くその時に――出来れば新月に、土曜の晩から日曜の朝に掛けてするのが良いんだが)
「都合良い事に土曜日ですね。時間もそろそろ遅い…月齢は…どうでしたっけ」
 ちょっと記憶に無い。
 窓から直に空を見上げても…何やら曇っていて、見えない。
 と。
「まだ新月にはなりませんが…欠け始めてる時期じゃありませんでしたっけ」
 聞こえたのか、ぽつりと口を挟む弧月。
(ふむ。どうやら外は曇っているな? 吸血鬼は水を嫌うと言う説もあるのは知っているか?)
「聖水じゃ、なくてもですか」
 これまた聞こえたのか、ぽつりとみなも。
(海水を渡れない、とは聞いた事がないかね? ただの水でも、ある程度は意味を為す。今にも雨が降りそうなこの天気も、幸運かもしれない。取り敢えずは以上だ。…私が行っても却って邪魔になりそうだからな。ここで健闘を祈っているよ)
「あの、ロゼさんと相楽さんは…」
(こちらで待機している。そちらで動きがあればすぐに向かうそうだ。事前に動いては…逆に場所が付き止められてしまう可能性もあるだろう、とな)
「…それもそうですね。だから美都ちゃんがこちらに」
(浦賀君の電話を繋いだままにしておけば、彼女に頼むのが一番早いみたいだからな。それから、バーガンディなる人物の方は――『対吸血鬼』どころか…『対ヴリコラカス』をピンポイントで想定した装備をしている可能性が高い。銃も持っていた。…伝承では『魔法の銃弾で撃つ』と言うヴリコラカスへの対処法もある。それと先程言った、切り刻み、焼く事。…それらを総合して、狙ってくるだろう。参考にしてくれ給え)
 では、とヘンリーは通話を切る。
 そこでクミノの声が響いた。
(…イオさん)
「はい?」
(恐らくは――すぐにここも修羅の巷となるだろう。その前に命を落とさないで欲しい。その命は誰かを守れる命だから)
「――」
(言いそびれていた)
 淡々と言われ、イオは思わずびっくりする。
「…ありがと」
(礼を言われる事ではない。イオさんはイオさんの役目を果たせば良い)
 声と共に、ライフルの駆動を確かめてでもいるのか、がちゃりと金属音。

■■■

 暫し後。
 もう夜も更けて、時計は次の日付を指そうと言う頃。

 走る音が、ばらばらっ、と響いた。
 そして。

 ダンッ

 ダンダンダンダンダンッ

 白王社ビル――アトラスで借りた応接室の時同様の、ノックとも言えないような荒々しい断続的な打撃音。
「…来たか」
『ロゼさんたち呼んで参りますっ』
 言うが早いか、美都の姿はその場から掻き消える。
 同時に、素美に予め断っておいたみなもが水道を捻り、流れ出す水を利用して水の壁――と言うより防御力も何も考えていない単なる水の膜――を玄関先に張った。
「水が苦手かもしれない、ってヘンリーさんが仰ってましたから…水道水ですが、試しに」
 …ロゼさんから頂いた聖水の方は、奥の手で。

 ダンダンダン、と叩く音は変わらず。

 そして。

 メリ

 …ドアが。

「…きっと、敷金で足りないでしょうからアトラスに請求させて下さいね…」
 思わず呟く素美。
「イオ君、こっち」
 手を引く汐耶に促されるまま、イオは窓からベランダを伝い、外に出る。弧月も後に続いた。
 が。
「待て」
 弧月の強張った声が、その行動を止める。
 下には神父服の見慣れぬ人物――バーガンディが、十字杖を片手に、佇んでいた。
 それはイオをサイコメトリーした時に見た、凶人。

 ――上方の、素美の部屋では、ドアが破られる音。

 と。

 パァンッ

 唐突に、射撃音が辺り一帯に木霊する――その正体は、クミノの威嚇射撃。
 ぴくりと反応したバーガンディが隙を見せたその時に、舌打つ弧月に、汐耶とイオの三人は植込みの中に飛び降りていた。
 気付いたバーガンディは、そちらへと足を向ける。
 が。

 カシャカシャカシャーン

 細い指先から、揮発可燃性物質シリンダがバーガンディへと向け、投擲される――が、十字杖ですべて叩き落とされた。
 シリンダを投擲したのは、ロゼ。
 …先程美都に呼びに行かせたばかりだ。来るのが早過ぎる。
「おまえは何者だ? 我らが導き手の僧服を纏ってはいるが…おまえは女であろう。…性別を偽るは異端の証」
 …何?
 階上の素美の部屋の面子共々、聞いていた一同が、一瞬、耳を疑った。
 ――このバーガンディ、女?
「否定はすまい。だが…卿こそ何者だ? 私は…木偶に用は無い」
 背筋が冷えるような視線で、じゅ…と蒸気を上げる十字杖を持ったバーガンディは、ロゼをじっと見つめた。
「黙れ」
 呟くなり、ロゼは、ざ、と短剣を数本指に挟み、一時にバーガンディに投げ打つ。

(…撃つか? どうする?)
「待って、ササキビさん」
 辺りの様子を見ながら、汐耶。その横で、イオは弧月に庇われている。がたがた震えて。
 …何か、少し様子がおかしい。この相手に余程怖い目に合わされたのか、それとも別の理由か――それはわからないが。
 ひょっとすると一番厄介そうな得体の知れない相手――神父らしい風体のバーガンディの方は、ロゼと相対したまま、動かない。
(撃たずに済めばそれに越した事は無い。待とう)
 携帯電話からは冷静極まるクミノの声。
 それでも彼女は狙いを外してはいない。廃ビルの階上から、ずっと、標的――バーガンディを捕捉し続けている。

■■■

 一方の素美の部屋。
 破られたドアからなだれ込んできた屍衣を纏った吸血鬼――ヴリコラカスたちは、足を踏み入れるなり苦しげに暴れだした。何事か。わからないながらも…効果を為しているとするならば、みなもの張った水の膜。
 だがやはり、人数が多い。
 初めの数名はそこで引っ掛かったが、そいつらを盾にして後発がどっと流れ込む。みなもの水を操る力は強くは無い。数で押されれば負けてしまう威力に過ぎない。
「はッ」
 水の膜が持たないと見た撫子は即座に『妖斬鋼糸』を繰り出し、ヴリコラカスを数匹、縛める。
 が、やはりまだ後発が。
 と。

 げし

 数体のヴリコラカスがあっさりと薙ぎ倒された――殴り倒された。
 倒れたその姿の後ろには、そろそろ見慣れた顔色の悪い女吸血鬼。
「エル様!」
「…ここまで切羽詰まれば姿隠してる理由もないしね。こっちの有象無象は私とまのみで何とかするわ。貴方たちはイオの方頼む。ここで一番危険なのは、あの十字杖の神父だから。…数を頼みたいの」
 言いながら再び、エルは裏拳で一体、殴り倒した。
 その後ろには炎を掌に点したまのみの姿が。焼く事が一番の解決法。ヘンリーの言が確かなら、まのみの技は一番適している。
 が。
「まのみ様、焼くんだったらなるべくお外でやって下さいお願いしますっ」
 みなもと撫子に次いで、ベランダから直にイオたちの後を追おうとしている素美から切実な声が飛んできた。

■■■

「卿も私の邪魔をする、か。あの場では知らぬ存ぜぬを通していたと思うのだが」
 考えるように素美に告げながら、バーガンディはゆらりと首を傾げる。
「それに異教の神の巫女か…私は卿らには用は無いのだが――私の邪魔をすると言うのなら、その障害は排除するのみ」
 言って、僧衣の下――ホルスターから拳銃一丁を引き抜く。
 それを見た素美は、じり、とバーガンディとの間合いを計りながら、腰を落とし、構える。バーガンディの正面に居るのは彼女と、ロゼ、撫子。きゅ、と『妖斬鋼糸』の先端を口で引きつつ、素美とロゼ同様にバーガンディの隙を伺っている。
 対するバーガンディは、茫洋と佇んだまま――ただイオと汐耶、弧月が消えた植込みを見据えている。
 それなのに…何故か、隙があるようには見えない。
 両手に無造作に十字杖と拳銃――モーゼルをぶら下げたまま、バーガンディは相対した娘らの様子を窺うともなく窺っている。
 やがて。
 跳ね上がるように十字杖が上を向いた。ほぼ同刻、踏み出される足は早い。いつの間に。把握出来なかった動き。素美は反射的にトンファーで十字杖の打撃を受け、カウンターで弾く形に打撃を繰り出した。が、バーガンディは一足飛びに後退し、打撃の威力を軽減する。そこに横合いからロゼの暗器が飛んだ。バーガンディの注意がそちらに一時逸れる。そこに素美は回し蹴り気味に蹴打を入れた。が、バーガンディはそれをも押さえる。けれどその蹴打に込められていた力は強かった。ガードする腕にも、先程までより明らかな力が込められている。
 痺れる腕を気にもせず、バーガンディはモーゼルを手の中で回し、握り込むとその手で力任せに素美のこめかみ辺りを叩き付けた。がん、と硬い音が周辺にまで響き渡る。
「浦賀様っ!!」
「…大丈夫です。天薙様」
 それでもまだ確りと構えて立ったままの素美は、再び間合いを計ろうと――摺り足で動き始めた。…今の音から考えて…平気な顔でいられるのは、かなりタフである。ある意味、尋常で無い。
 バーガンディは俄かに驚いたような顔をした。
 と。
 その隙を衝くように、バーガンディに向けて、きゅるるるる、と撫子の細い指先より放たれる、神の鉄で造られた鋼糸――『妖斬鋼糸』。それとほぼ同時、ロゼの手から間断無く大量に投擲される暗器の短剣。
 蝿でも払うようバーガンディは十字杖でそれらを払い――十字杖に『妖斬鋼糸』が絡まった事も、それを握る自身の腕に、避け切れなかった短剣で数ヶ所切り裂かれた事すらも殆ど気にしない。バーガンディは逆の手で握っていたモーゼルの銃口を、今度こそは迷う事無く植込みに向けた。そこに居る、気配は見える。男と女に庇われてはいるが…構うまい。
 今の私の役割はただ――これだけだ。
「…神に祈れ」
 言ったそのまま、バーガンディは銃爪に力を込めようとする――。
 が。
 今正に銃爪を引こうとした、その時。
 バーガンディは訝しげに首を傾げた。
 …その姿は何処かあどけなくさえある。
「何? 中止? イオ・ヴリコラカスの…ああ。まだ手を下していない。連絡は間に合っている」
 と。
「レイベル・ラブ殿と言えば…。そうか。ならば卿の言う通り我らの出番はここまでだ。帰投する」
 インカムに呟いたバーガンディは、妖斬鋼糸に絡め取られた十字杖を握る力をあっさり緩め、ヴリコラカス対応仕様『魔法の銃弾』を仕込んだモーゼルの銃口も、下ろす。そしてその、銃の方は当然のようにホルスターに差し込んだ。
「中止命令だ」
 静かな声が、低く響いた。
「我らはもう、イオ・ヴリコラカスを追わぬ。安心し給え。かの女吸血鬼も…ここ十年の吸血量がゼロである実情から鑑み、監視レベルに落とすと決まったようだ」
 何処か茫、として見える無表情でバーガンディは言う。
 確認してから、撫子は十字杖を縛めていた『妖斬鋼糸』を解いた。
 バーガンディは、ガラス玉のようなそんな瞳を、植込みに――そこからそろそろと出てきた、イオに直接向けた。イオは何故か、がたがた震えた――と言うより先程から起きている動悸が止まらないまま――たたじっと、バーガンディを見ている。
「私情を交えるならば…卿は不思議な御子にも見える」
 解放された十字杖を翻し、背に負う。
 …それは戦闘体勢を解いた印でもあり。
「我ら『CAIN』と然程変わらぬ」
 ぽつりと。
 何処か暖かみさえ感じられる声で呟いたそのまま、神父風の襲撃者は踵を返した。
 あっさりと。

 が。
 その無防備――に見える背に食らいつこうとする、ぼろけた屍衣を纏った――ぱんぱんに膨れた肌の、男たち。

 刹那、ぐす、と妙な打撃音がした。
 それはバーガンディの十字杖が、容赦無く『吸血鬼』の腹に食い込み、刺さる音。
 同時に。
 他方から。
 走り出た鋭過ぎる爪が、『吸血鬼』のその首を掻き切っていた。
 弾む息。
 幼子の。
 波打つ鬣の如き髪。
 赤く光る、瞳。
 そして、牙。
 …息を弾ませ、最後の一撃を加えたイオのその手の指先には、獣の如き鋭い爪が生えていた。

 その事実にも気付いているだろうに眉ひとつ動かさず、バーガンディは静かに口を開く。
「…ただな…このまま帰投するにも…これらの吸血鬼はどうやら相当数湧いてくる。しかもどうやら手当たり次第に人を襲う迷惑者のようだ――黙っては見過ごせぬ…仕方あるまい。折角、『土曜に生まれた者』として『覚醒』したのだ。助力を請おう――イオ・ヴリコラカス。――そして異教の能力者たちよ」
 相変わらずぼそりと。
 一同にそう告げながら、バーガンディは十字杖の先端を吸血鬼の腹から、抜いた。


■『生ける死体』と言われても■

 暫し後のアトラス編集部。
 結局、最大の敵だったような…バーガンディと共に散々暴れた後、いつの間にやら元の『普通の人間風』の姿に戻ったイオは、平和そうに撫子の持参した水まんじゅうに齧り付いていた。
 ちなみに用が済んで早々にバーガンディは言葉通り帰投している。
 イオたちここに居る面子の手も借り、どうやら感情・行動制御の利かない『洒落にならない問題有りな傍迷惑な吸血鬼』連中の方を土に返してから。
 今に至る。
 …バーガンディが退いた以上、一応、決着は付いた事になるらしい。
「人狼種、ですか」
「…『ヴリコラカス』の原義は確かに、『人狼』だがな」
 ふむ、とイオの食べているものと同じく水まんじゅうを突付きつつ、頷くヘンリー。
 とは言え…イオの正体の方も、吸血鬼絡みだったと…違うのだろうか。
「あー、私の言い方が悪かったみたいね。この子の血の源流の方では…『生ける死体』と呼ばれる存在は…吸血鬼も人狼も悪霊も呪術師も魔女も…殆ど意味の区別が無いの」
 結局、これら皆がひとからげにされちゃって、『生ける死体』を意味する同じ名で呼ばれちゃってる訳。
 私が一応属性『吸血鬼』で通っているし、一番一般的な意味合いだから、わかりやすいかなと思って日本語ではつい吸血鬼って言っちゃったんだけど。
 と、苦笑しながら緑茶を啜るエル。
「…でしたら…人狼、と言われても不思議では無いと言う事に…なるんですね。…ギリシアでは――と言うより、バルカン、と言った方が良いのでしょうかね。イオ様の原稿の内容を拝見しますと…」
 羊羹と寒天を重ねた中、金魚の飾りが涼しげにあしらってある素美の持参した水羊羹を頂きながら、撫子。
「『現在は殆ど吸血鬼の意で使われているけれど、原義のその意味がなくなった訳ではない』…と」
 イオの原稿を抜粋して読み上げると、汐耶は改めて原稿を揃え直し、封筒に入れると麗香に手渡す。
「…『土曜日に生まれた者』って記述もありましたよね。あの…バーガンディさんでしたっけ、もイオ君に向かってそんな事言ってましたけど…」
 ふとヘンリーに振る汐耶。
 何故なら彼は専門家。当事者であるイオやらエルに次いで…この場では一番詳しいだろう人物に当たるから。
「ああ、だがその特徴は、『吸血鬼になる者』の特徴であると同時に――『吸血鬼を扱う特別な能力を持った者』こそが『土曜日に生まれた者』と呼ばれる事があるんだ。ヴリコラカスは生前の妻やら他人の妻と性的関係を持つとも言われる。そして――その間に出来た子供こそが、『土曜日に生まれた者』。…土曜日には吸血鬼は墓の中で動かない故に、だそうだ。…実際イオを狙って来たヴリコラカスたちは動いていたがね」
「…それ、後者の場合は…つまりは…言ってしまえば『吸血鬼を退治する側』になりますよ…ね?」
「そうなるね」
 ヘンリーは肯定。
「と、なると…イオさんは…『どちらでもある』って事、ですか?」
 ぽつり、と口を挟むみなも。
「だから…イオ様は『吸血鬼の方』と『それを退治する方』、どちらからも狙われた、と、そう言う事になるんでしょうか? 『どちら』として覚醒するかわからない…とか? だったのでしょうか」
 続ける素美。
「まぁ…ひょっとすると浦賀さんの言う通り…かもしれないわね。実は私にもはっきりとはわからないんだけど。色々と『例外』のカタマリなのよ。この子」
 ぽん、と後ろからイオの両肩に手を置き、エルが言う。
「そもそも『何の覚醒もしないままこの歳まで生きて来れた』ってのが、その時点で変なの」
「…だからあの時は…私が差し向けられた?」
 素美持参の淡雪を突付きながら、ぼそりとまのみ。
「多分ね。疑わしきは…消しちゃった方が簡単だもの。貴方の『後ろの人』たち――ラブさんが、忙しいところにわざわざ力技な伝手付けてくれた方々――にすればね」
 あっさりとエル。
 …まのみは複雑そうな顔をして黙り込んだ。

 撫子がふとイオを見る。
「これから、どうなさるんです?」
「実はあんまり決めてない」
 イオは即答。
「でしたら…暫くの間、わたくしのところにいらっしゃいますか? …神社なのですけれど、どうでしょう?」
 言いながらイオを見、エルに視線を流す。
 …確か以前エルは…まぁ、実際問題殆ど気にはしていないようだが、対魔の血族である『天薙』の気配が苦手な感覚は一応、あると言っていた事がある。
 しかも神社と言えば…宗派は違えど浄化された場所、即ち『聖域』だ。
 イオの場合は…エルの言っていたような『苦手な感じ』、の方は…どうなのだろう、と。
「おしゃまな従妹が居るのですけど、気が合うかも知れませんし…」
「良いの?」
 きょろんと首を傾げ、イオは撫子を見返した。
 現時点で、撫子に対し何も気にしていない様子。
 撫子はそれを見て安堵した。
「どうぞ。是非」

 そんな中ふと横を見れば、緑茶の入った湯呑みを持ったまま、口も付けずにぼーっと座っているロゼの姿。
 ヘンリーは何となく察し、黙ったまま苦笑した。
 ――彼女もまた、ヒトでは無さそうだ、と。

 一方。
 密かにサイコメトリーで見た事も殆ど納得が行き、のほほんと緑茶を啜る考古学者の卵が一匹。
「ところで編集長。絶版の本の方ですが…」
 美味そうに緑茶を飲み干した後、さりげなく言われた弧月のその声に、ふ、と遠くを見た麗香。
「…忘れて無かったのね、柚品」

【了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 ■整理番号■PC名(よみがな)■
 性別/年齢/職業

 ■1252■海原・みなも(うなばら・みなも)■
 女/13歳/中学生

 ■1439■桐生・アンリ(きりゅう・あんり)■
 男/42歳/大学教授

 ■1449■綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)■
 女/23歳/司書

 ■0423■ロゼ・クロイツ(ろぜ・くろいつ)■
 女/2歳/元・悪魔払い師の助手

 ■0328■天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)■
 女/18歳/大学生(巫女)

 ■1582■柚品・弧月(ゆしな・こげつ)■
 男/22歳/大学生

 ■0983■浦賀・素美(うらが・すみ)■
 女/22歳/ライター

 ■1166■ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)■
 女/13歳/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。

 ■0606■レイベル・ラブ(れいべる・らぶ)■
 女/395歳/ストリートドクター

 ※表記は発注の順番になってます

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 ※オフィシャルメイン以外のNPC紹介

 ■依頼人■イオ・ヴリコラカス(いお・う゛りこらかす)■
 男/9歳/『土曜に生まれた者』・ヴリコラカス人狼種の『例外大バーゲン』(何それ)

 ■その姐御と言うか保護者と言うか後見人と言うか(え)■エル・レイ(える・れい)■
 女/?歳/吸血鬼(?)

 ■こちらは腐れ縁と言うか何と言うか…(何)■相楽・まのみ(さがら・まのみ)■
 女/17歳/高校生・民間吸血鬼バスターの発火能力者

 ■イオと服のサイズは殆ど同じと思しき幽霊■幻・美都(まほろば・みと)■
 女/(享年)11歳/月刊アトラス編集部の常駐幽霊でお手伝い

 ■追っ手の神父もどき■ルージュ・バーガンディ(るーじゅ・ばーがんでぃ)■
 女/15歳/教皇庁教理省非公式機関『異端狩り』:認識コード「CAIN−013」

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは。深海残月です。
 クロイツ様、柚品様、浦賀様、初めまして。
 ササキビ様にラブ様も初めまして…ってPL様…PC様御二方投入とは…こんなライターに…しかもPC様お預りするの初めてだと言うのに…本当に宜しかったのでしょうか(汗)
 そして海原様、桐生様、綾和泉様、天薙様にはいつも御世話になっております。
 …毎度好き勝手やらせて頂いております(礼)

 まずは…長。
 毎度の事ながら長引きっぷりが…。
 辟易してたらすみません。
 しかも今までで最長です。て言うかいつもの倍近くになるでしょうか?(おい?)
 えー、長引いたのでライター通信もなるべく省略の方向で(最近「調査依頼」では毎度/汗)
 苦情御意見御感想の方は…テラコンレターででもお願いします…。

 ちなみに、今回は■奔走■部分が、各人別行動だったり、一緒に行動していたりと…個別・共通部分が複雑に絡んでおります。但し、桐生様と浦賀様のみ、全面的に共通になっております。
 また、ササキビ様とラブ様は…最後まで完全別行動組になってしまったので、最後の■『生ける死体』と言われても■部分にも個別部分が付いてます。

「見付けられてしまう事」前提のプレイングの方が、思ったよりたくさんいらっしゃいまして(汗)
 なので荒事になってしまいました。だから余計長引いたとも言うんですが…。

 また、この依頼出すに当たって納品予定時期の…だいたいの月齢調べるの忘れてました(汗)なので今は欠けてるところだか満ちてるところだか…良くわかってない上に、作中の某氏の「欠けている」発言と現実の時間は合ってません。偶然合ってる可能性もありますが、全くのデタラメな可能性も高いです。ごめんなさい(汗)

 何はともあれ皆様、イオの依頼を聞き入れて下さって有難う御座いました。
 イオはどちらの側か、プレイングによってまちまち?でしたが…実はああでした。
 …って少々フェイントだったかもしれません(汗)
 やっぱり御面倒掛けてます(ぺこり)

 楽しんで頂ければ、御満足頂ければ幸いなのですが…。
 気に入って頂けましたなら、今後とも宜しくお願い致します。
 では。

 深海残月 拝