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殺人予告は夢で見る
■件名:夢の話 投稿者:ディープ■
今朝凄い怖い夢を見て、気晴らしにと思ってこちらに来てみて驚きました。
皆さん同じ夢を見てるんですね。
同じような書き込みがたくさんあってホッとしました。
それでまとめてみたら以下の共通点が………。
・誰かに殺される夢。
・逃げ切れずに殺さた所で目が覚める。
・凶器はナイフで、犯人の男は深緑のトレーナーに黒いジーンズ着用。
・場所は木の沢山生えている、山か公園。
これだけ解ってれば捕まえられそうですよね、犯人。まあまだ実際に事件が起きた訳ではないですが。
■件名:私も見ました 投稿者:シュガー■
ナイフを何回か刺された瞬間に目が覚めましたが、凄く怖かったです。
実際に殺された人もいるという話を聞きました。
警察も動いてるらしいと聞きましたが……これは流石に噂でしょうか?
■件名:予知夢らしいです 投稿者:Lily■
私もきっと同じ物を見ましたた。
家族には痛みと被害者の恐怖心も感じたと言って気分が悪くなって寝込んでます。
話を聞いてみると、精神感応能力や霊力と言った特殊な能力を持っている人によりハッキリ夢を見やすくなっているらしくて。
『予知夢』なのではと言っていました。
本当だったら、これから起きる殺人事件を防げる事になりますよね。
誰か一緒に調べてくれる人は居ませんか?
早ければ早いほうが良いと思うので、連絡待っています。
【光月・羽澄】
その書き込みを見て、少し悩んでからすぐに返事を返した。
羽澄は夢を見ていないから何とも言えないから、とにかく状況が知りたい。
書き込みが帰ってくるのを待つ間に、羽澄も少し調べてみる事にした。
短時間だが、それだけで解った事が幾つか。
同じ夢を見たという人は結構な数に上っていて、ネット上ではそこそこの騒ぎになっているようである。
警察も実際に動いているという噂も出ていると言う事から調べてみたのだが……。
少しネットをくぐるだけでも似たような事件は幾つか見つける事は出来た。
すでに解決しいてる物や噂か解らないものも混ざっているから、もう少し詳しく知りたい。
警察の管理するデータベースを少しだけ見せて貰う。
「本当に起こってるのね……」
サラと薄い青みを帯びた銀の髪を後ろに流し、緑の瞳が画面を追っていく。
高速でスクロールする事件の一覧の中を一文字も見逃さずに追っていく。
二件ほど該当する物があった。
ずさんな犯行で放っておいても捕まるだろう事は確かだが……ここまで解っている以上三人目の犠牲者は出さない方がいいに決まっている。
だからこそ、出来るだけ早いほうがいいという言葉にもうなずく事が出来たのだ。
「よしっ」
実際にあった方が話が早い、夢とやらで特徴は書かれていても当事者でない限り細部までは解らないのだから。
念のためと思ってのぞいた掲示板には、早くも返信がしてあったのだ。
今ゴーストネットにいるらしい。
会えるという連絡を取り付けるなり、羽澄は自宅を後にした。
待ち合わせの場所で、Liryだろう人物を見つけて手を振る。
「こんにちは」
Liryこと、三日月リリィだ。
「こんにちは、羽澄ちゃん」
「リリィちゃんだったのね」
だとしたらあの書き込みにあった家族というのは、おそらく彼なのだろう。
「私はその『夢』見てないから解らないんだけど詳しく聞いてもいい」
「当然よ、私はまだ見ただけだからよかったけど……凄くリアルだった場合、痛みとか感情までしっかり感じたりみみず腫れまで残ってたみたい」
それはまた不憫としか言いようがない。
「夢で他に覚えてる事無い、場所とか犯人の特徴で」
「うん、確か……掲示板には深緑のトレーナーに黒いジーンズ着用までは書いてあったよね」
「首も絞められてたけど未遂で、あと凶器はナイフ、しかも何度も刺してる」
確認作業だ、そこからもっと詳しく情報をまとめ上げ引きだしていく。
「背丈はそれほど高くないし、普通の男の人だったかな」
「じゃあナイフはどう?」
「少ししか見なかったけど……折り畳みナイフで刃渡りはこのぐらい」
指で形作った幅は大体人差し指と親指を広げたぐらいの長さ、これなら何処でも買えるような代物だった。
一つ一つは何処にでもあるような情報だが、併せればそれなりには絞り込むことは出来るだろう。
「年とかは解った?」
「うーん……視界がぶれてて解らなかったから確かな事は解らないけど、結構若かったと思う……きっと20代中頃で……あっ」
思い出したように声を上げ、ナイフを振り上げるまねをする。
「ナイフを振り上げたのが私から見て右だったから左利きよ、あと……」
決定的な物がないかを思い出そうとしているらしい、確かにそんな物が都合よく出てくれば警察も苦労はしないだろうが、犯人を見たと言うだけで警察の捜査よりはましである事は確かだ。
もっとも警察に証拠品などがあれば話は別かも知れないが……。
「そうだ、時計なんて見なかった」
首を絞められたのだから、見ていたとしてもおかしくはない。
その読みは正しかったらしく『あっ』と言う音を作り出した。
「なんか凄い趣味の悪い時計だった、金色ビカビカでごっつい時計」
「解ったわ、それで調べてみるから他に何か解ったらいつでも教えて」
「うん、じゃあまた明日集まる予定になってるから、その時にゴーストネットでね」
その場は手を振って別れ、羽澄は調べ物を再開した。
約束通りの時間にゴーストネットに来たのだが、リリィの姿は見えなかった。
だが変わりに出かける前に確認していたうちの一人を見つける。海原みその(うなばら・みその)が一番最後の参加者である。
「こんにちは、ええと夢の書き込みの集まりで間違いない?」
「はい、間違いありません。いまは他のかたを向かえに行ったそうで、しばらくしたら戻ってくるそうです」
おっとりした口調に、こんな殺伐とした事件をほおって居るというのにどこかなごやかな空気が流れるが、みそのはそのままの口調で問いかけてくる。
「羽澄様は、どうして夢を見ると思います?」
「夢? そうね、科学的には寝ている間の脳の整理のためだって話は聞いた事があるけど……今回は予知夢って話だからちがうわね」
「そのようですね」
「予知夢ってどうしたら見れるのかしら、私は見た事がないから解らないのよ」
「予知無を見る事に普通という言葉はおかしいかも知れませんが、今回は少し違う気が致します。こんなにも沢山の方が予知夢を見るという事は、自然現象ではおこりえないことでしょう?」
そう、滅多にいないからこその特殊能力であり……予知夢を見ると言う事は特殊な事だ。
それが更に数多く存在するとなれば、それは誰かが介入していると言う事になる。
「つまり誰かが夢を流してるって事?」
「そうなりますね」
誰かまでは解らないが、関係者であると考えてもいいだろう。
そうでなければ誰かが殺される夢を見せる意味がない、まあ只の愉快犯だというなら話は別だが。
「やっぱり犯人がどうのより、事件が起こる場所を特定しないと駄目ね」
「戻ってらした様ですね」
みそのの言葉に振り返ると入り口当たりからこっちへと向かってくる三人組が見えた。
「あっ、羽澄ちゃん入れ違いだったんだね」
「これで来るっていった人は集まったみたいね」
手を振るリリィに九尾桐伯(きゅうび・とうはく)と大曽根・つばさ(おおそね・つばさ、これで待ち合わせの全員が揃った訳である。
まずは簡単にお互いの持っていた情報を交換してから、本格的な話し合いに移る。
「そうですね、さてどうしましょうか皆さん?」
「決まってるやろ、犯人を見つけてとっちめるんや!」
「やっぱり犯行現場に先回りするのが一番手っ取り早いのよね」
それが問題なのだ、やっぱり特定できそうな鍵を握っているのは夢を見ている桐伯とつばさもそれからリリィの三人だけなのだ。
「時刻は……日暮れ後でしょうかね」
「で、場所が……回りは木ばっかでようわからんかったんやけど、自然公園かなんかやと思うねん」
「自然公園?」
「ほら、書き込みにあったやろ。うちはそこまで見てへんけど『山か公園』って、だからそお思ったんや」
思い出すというのは、実際にこうして似たような経験で話した方が簡単に出来る事らしい。
場所に関しての情報を羽澄がまとめて、現場を絞り込んでいく。
「犯人は見れば解ると思うのよね、変な時計してたし」
「うちも見た!!! すっごい趣味悪いと思った!!」
「ああ、確かに……所で場所ですが、範囲はどの当たりだと思います? 日本全国なんて事になったら流石に問題がありますよ」
桐伯の言葉にギョッとする。
考えなかった訳ではないだろうが、それは勘弁して欲しい事だ。
そうだった場合特定なんてできない。
「あっ、それは平気みたい。夢を見た人は東京限定みたいだから」
それならとホッと肩の力を抜くが、場所が解ってないのは同じ事なのである。
「うーー、早よせな次が起こってまう」
クシャリと髪を掻き回すつばさに、それまで黙っていたみそのがようやく口を開いた。
「よろしいですか?」
「なに、みそのちゃん」
「思念や集団無意識下の“流れ”を探ってみたのですが、大まかな場所は特定できたのでお伝えしようと思いまして」
そう言って微笑むみそのに、全員は一気に事件が進展した事を悟り顔を見合わせる。
「ええと、どの方向か解る?」
「南西の方角、近くに水が多く流れているようですね」
「世田谷当たりですかね」
「そこで川っちゅう事は……」
カタリと、羽澄がキーボードを叩く手を止めた。
「等々力渓谷で間違いないわね」
「急がな!」
ガタリと椅子から立ち上がるつばさ。
「そうね、間に合わなくなる」
みそのは言ったのだ、流れが特定できたのだと。
つまり……夢を流した人物はもうそこにいると言う事だ。
「今は4時半だから……」
「時間無い〜!!!」
「私の車で向かいましょう」
まさに鶴の一声。
桐伯のひと言で五人は等々力渓谷へと向かう事になったわけである。
車から降り、渓谷にはいると熱帯林のような蒸し暑さが全身にまとわりつく。
「暗いから視界が悪いわね」
「うーん、見て回ってみた方がええんと違う?」
確かにここでこうしてても何も進展しないだろう。
「とりあえず二手に分かれますか」
「そうだね、じゃあ……」
出来る事なら戦力に偏りはなくしたい。
「桐伯さんとみそのちゃが一緒で私とつばさちゃんとリリィちゃんが一緒でいい?」
みそのは運動音痴だそうだが桐伯が何とかしてくれるだろうし、こちらは女性ばかりだが主戦力が二人もいるのだから心配はいらない。
「解りました、では行きましょうか?」
「わたくしも何か解ったら連絡致します」
「ほなうちらも行こか?」
歩き始めていくらかもすれば更に日は落ちてきて足下は危うげだったが、羽澄とつばさの二人は平然と歩いていく。
「大丈夫、リリィちゃん?」
「うん、ここは普通の遊歩道だから……所でつばさちゃんは平気なの?」
「……ああっ!!! で、電話しといた方がええやろか!?」
まだ五時過ぎだが、事によってはもう少しかかるかも知れないのだから連絡はしておいた方がいいだろう。
「ご両親が心配するからその方がいいと思うわ」
「ほなちょっと……」
携帯電話をとりだし、つばさが自宅に連絡を入れる。
「リリィちゃんは平気?」
「うん、基本的には放任主義だし出かける前に言って来たから」
「ならいいけど」
「もう平気や、あんまり遅なりなって言われたけどな」
つばさが戻ってきたところに、声をかけられる。
「こんな遅くに、どうしたのですか?」
唐突に着物を着た女性、天薙撫子(あまなぎ・なでしこ)に声をかけられ驚きはした物の、話を聞いて直ぐにホッとする。
「では皆様も犯人を追っているのですか?」
話を聞いてみると、彼女も独自に事件を追っていたらしい。
「では皆様も犯人を追っているのですか?」
「いまは手分けしてるんだけど……」
そこで羽澄は会話を中断させて携帯電話をとりだし話し始める。
「えっ!」
「どないしたん?」
驚いた声に、つばさの疑問は当然の事だったが……。
「犯人がこっちに逃げたって」
「ええっ!!!」
ざっと視線を来た方へと注意する。
「女性は向こうで保護したそうだから」
「後は捕まえれば解決やな!」
「一人で行っては危険ですつばさ様」
ここまでは真っ直ぐにここに来たのだから、森の中に入りさえしなければ挟み撃ちに出来るはずだ。
「どうする、このままじゃ逃げられちゃうかも!」
「しっ!」
羽澄の静かにと言う合図で黙り込む直ぐ後に騒々しい足跡が響く。
「来よった……」
「なっ!」
呼吸の荒い男が前を立ちふさがる一同を見てスピードを緩めるが、女性ばかりだと気付くと左手でナイフをちらつかせ陳腐な言葉で脅してくる。
「どけよ……さもない……」
「あのナイフ間違いありません!」
「ほんまや、左利き!!」
それに極めつけ……。
「ださい時計!!!」
ピタリと声が重なった。
「本当にセンス無いわね」
「貴様らぁ!!!」
ナイフを振りかざし向かってくる動きは何処までも素人の物だった。
その上激高している相手の動き程度は簡単に予測できる。
「わあああああ!!!」
ナイフを振り回した時点には間合いをとっており、かする事すらなかった。
それどころか瞬時に展開した鈍く光る壁を利用して高く飛び上がり、さながら映画のワンシーンのような跳び蹴りが炸裂する。
「残念やったなぁ、あんたの犯罪はもう年貢の納め時やで!!!」
眼前に根を突きつけた途端、男の体が唐突に引きずり倒され何メートルも引き吊られていった。
「!?」
地面の上に胴が這う後を5メートルほど残した後、木の上へとつり上げられる。
「後悔、していただきましょうか?」
「高く上がりましたのですね?」
何処までもほがらかな声。
その二人が、同行者……九尾桐伯と海原みなものだと聞いたのは後になってからだった。
「桐伯さん……」
誰かが呟く。
今は只つり上げられたまま、もがき続ける男を見上げている。
「すいません、警察ですか?」
そんな冷静すぎる羽澄の声がやけに響いた中、この事件は終わりを告げたのだった。
【終わり】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0328 / 天薙・撫子 / 女性 / 18 / 大学生(巫女)】
【0332 / 九尾・桐伯 / 男性 / 27 / バーテンダー 】
【1282 / 光月・羽澄 / 女性 / 18 / 高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員 】
【1388 / 海原・みその / 女性 /13 / 深淵の巫女 】
【1466 / 大曽根・つばさ / 女性 / 13 / 中学生・退魔師 】
NPC
【三日月・リリィ / ハンドルネーム『Lily』ネットで呼びかけをしたのが彼女】
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■ ライター通信 ■
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殺人予告は夢で見るに参加していただきありがとうございました。
今回も例によって個別に別れている箇所がありますので、そちらも会わせて読んでいただければ幸いです。
そして内容はと言いますと……。
夢を見た原因を見事に言い当てられた方がいらしたのがうれしかったです。
犯人が只の素人と当てられた方もいました。
ありがとうございます。
それでは、楽しんでいただけたら幸いです。
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