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<東京怪談・PCゲームノベル>


あやかし荘奇譚 剣客の下宿8 師範代の素行調査

■夏だというのに
―若さというモノは良いものだ。
エルハンドは素麺を食べながらそう思った。
自分の部屋で、甚平を着て団扇を仰ぐ。すっかり日本の夏を楽しんでいる…。
或る事件を切っ掛けに、天空剣師範代織田義昭に様々な友人が出来た。
それである珍事件が加わる。
茜と瀬名雫がある魔物に襲われ、義昭が助けに入った時…瀬名雫は彼に一目惚れしたというのだ。
魔物のことも問題だが…瀬名雫と言えばオカルト関係以外殆ど興味を示さない女子中学生というではないか。魔物退治と三角関係…。稽古に学業、青春と大忙しの愛弟子。
魔物退治は片づいたとしても、想い人が出来たという妙な噂。
「義昭も此でだいぶ明るくなるだろう…っと言いたいのだが」
あやかし荘の狭い部屋に…雫、長谷茜が集まっていた。
「何故私の部屋でその話をする?」
エルハンドは溜息をつきながら2人に訊く。
「私、織田さんのこと分からないし…茜さんは教えてくれそうにもないし…だからエルハンドさんに訊こうと」
「だって…私だって…よしちゃんのこと…それに共通して…」
一間置いて
「「想い人って言う噂自体何か、おかしいもん」」
「ハモるな…。此処は恋愛相談所じゃない…」
剣客は溜息をついた。
「義昭は、夏休みに入ってしっかり稽古もしているし変わったところはない。心当たり…稽古の休憩時に上の空ってのは…良くあるな。悩みがあるなら第一茜に先に言うものだが…私にすら相談してこない」
麦茶を飲みながら自分が知る限りの事を言う。
「片想いの人が出来た?」
「かなぁ?」
茜と雫は首を傾げうんうん唸って考える。
「私はそう言うのは管轄外だ。私にだって分からないものは分からん。帰った、帰った」
「ぶ――!」
半ば追い出される形で2人は帰っていった。
数分後剣客は溜息をついて…静寂な部屋に戻ったのでほっとした。
「まったく…」
「この暑い中。二人とも元気やねぇ。若い者にはかなわんわ」
いきなりの関西弁にエルハンドは飲みかけの麦茶を吹き出しかけた。
玄関に大曽根つばさが立っているのだ。
「ノックもせずにいきなり喋るな…」
「ちょこっとだけ耳にしたさかい。瀬名ちゃんのことを気になってここに来たらあんじょうその話で…」
「先ほどの台詞…若い君が言う言葉じゃないと思うが」
「そやね。でもウチの正直な感想や」
麦茶を差し出すエルハンドに素直に答えるつばさ。
「ま、ウチはどっちに着くかは分かっているやろうけど、エルハンドさんは…」
「雫だな」
「もちろん」
元気な笑みを見せるつばさ。
「んじゃ、詳しいことは此処では分からんと言うのは分かったし。ほな、ごちそうさま」
麦茶のカップを空にしてパタパタと部屋から去るつばさ。
―はぁ
剣客は溜息を吐いた。

エルハンドが稽古するために長谷神社に出かける途中、
「エルハンド様こんにちは」
「撫子か、こんにちは」
天薙撫子と出会う。
「丁度お会い出来てよかったです」
「ああ…」
エルハンドの顔つきがおかしいと感づく撫子は
「織田君のことですか?」
「そう言うことだな…」
「確か…道場の中でも義昭君に片想いの人がいるとか何とか噂になっております」
「それ以上のことは誰も知らん。私もな」
エルハンドは肩を竦める。
「茜と雫が躍起になって真相を突き止めようとしている。ヒョッとしたら『自分』じゃないかとな」
「あらら、元気が良いですね」
クスクスと口元を手でおさえて笑う撫子。それにつられ笑みを浮かべる剣客。
喋りながら、神社に着き普通の稽古と「超越者」としての修行を行いその日は極普通に終わった。

実のところ…エルハンドはこの騒動(?)の結末がどうなるか知っている。
「先見能力」が有れば分かるものだ。
楽しくおかしく、若い者に青春して貰おうと考えていた。
稽古中、織田師範代がある「人物」ばかり眺めているのを知っている。
「義昭も…成長したものだ」
と心の中で思うエルハンド。
伊達に義昭を師範代まで鍛え上げた訳ではないのだから…。


●窓からやって来る魔術師シェラン・ギリアム
夜道…街灯の上には黒い影
影は、或る少年を見ていた。
ネットカフェに向かおうとしている少年…織田義昭を。
「噂…その出所は分かりませんが…此はチャーンスです」
影は笑い義昭を追うことにしたが…足を滑らせて真下に落下した…。

義昭は稽古の終わりに茜と雫にネットカフェに呼ばれる。
「はぁ、ゆっくりしていたいのになぁ」
ブツブツと呟きながら先を歩く。
神格を覚醒、行使したので筋肉痛だ。朝起きればすっかり直っている程度の軽いものだが…。
「よしちゃん、おそーい」
「阿呆、こっちは疲れてるんだ」
「織田さーん♪こんばんは〜♪」
「雫ちゃん抱きつくの反則―!」
「はぁ…で何のよう?」
端から見れば仲良し3人組の風景に見える。
茜と雫は義昭本人直に訊いてみる事にしたのだ。それならわだかまりもない。
「はぁ?俺が片想い?彼女がいる?」
2人の前で大笑いしている義昭。噂は嘘だったのだろうか?
「本当にいないの?」
「いるわけ無いじゃん。告白を受けたのは目の前にいる雫ちゃんだけだし」
妙に「雫ちゃん」を強調しているので、茜はムスッとする。雫は照れ笑いする。
2人とも、表情がわかりやすい。
「でも答え聞いてないよぅ」
雫がせがむように義昭に言う。
「いや…気持ちは嬉しいけどさ…もう少し考えさせてくれないか?」
「むぅ」
困った顔をする義昭の言葉にシュンとする雫。
茜は茜で、不安な顔…。
―やれやれ…俺ってもてるの?
自問自答している義昭。
「用事はこれだけ?茜たちには重要かも知れないけど…俺は…」
と義昭が何か言いかけた時…
「ソウデース。想い人は、ズバリこの私!放浪の魔術師シュラン・ギリアムデス!」
と、ネットカフェの窓からロープを使ってやって来た黒コートの男が降り立った。
茜と雫は呆然として、義昭は豪快に椅子から転げ落ちる。
「「あんた誰?」」
茜、雫はこの変人に尋ねた。
「せんせーが言ってた…三下さんに護符を詐欺まがいな価格で売りつけようとしていた妙な魔術師と聞いてる…」
起きあがった義昭がご丁寧(?)に説明。
そんな会話も耳に入れず、魔術師は義昭の手を取って、真剣な眼差しでこういった。
「いえ、寧ろ三人の想い人が私である可能性の方が大ですか…そうですか(勝手に納得)いや、最後まで言わないで下さい…解っています。解っていますよ、アカネ、シズク…そしてヨシアキ。三人が私を巡って争うのは非常に胸の痛い事です。私のこの身は一つしかありません。おまけに私には既に心に決めたヒトが居る…悲しい事です」
そして、演技がかった様に空を見上げ…何故か涙している…。
(ネジが5本以上飛んでる、怖いヨー)
茜と雫はそう思った。義昭というと、じっくり得体の知れない生き物を観察している科学者のようだった。
シュランは
「しかし、それ程の想いを無駄には出来ません。さぁ、三人共☆私の胸に飛び込んで来るのです♪」
彼は両手を開き、3人が飛び込むのを待つ。

しかし待っていたのは。
茜の「神格御用達」ハリセンだった。
「ぶふぅっ!」
上下ともクリーンヒットしてその場で倒れる変態魔術師。
「世の中面白い人がいるんだなぁ」
と感心する義昭…。
「呑気に感想述べている場合じゃないでしょ!」
茜はハリセンで義昭を軽く突っ込んだ。

警察に突き出すか悩んだが、義昭が2人を宥めおとがめ無しとした。連絡先の居候先を調べ、居候先の高校生と可愛いイギリス人の少女がやって来た。2人は義昭達3人に謝った後この魔術師を引きずって帰っていったという。

紅茶を飲みながら義昭は言った。
「楽しい人だ」
シェランもさることながら…この織田義昭も只者ではない。


■大きくなる騒動
数日後のことである。
「織田義昭に彼女が出来た!」
という噂は、尾ひれ背びれが付いて、しかも
「実はショタコン趣味のお兄さんと!」
「着物のお姉さん好き」
「萌えの暗黒面に覚醒した」
とか、かなーり混沌とした噂もオマケでついていた。
学校でもネタになる義昭。
「俺の安息の地はないのか…特にオマケは要らないぞ。オマケだったら天使のマークがいい…」
と呑気なボケを言いながら、頭抱える義昭君。
「誰だ!こんな噂を流したのは!俺はそんな訳分からない趣味は無い!」
と屋上で叫んでも意味は…一応あった。やり場のない怒りのあまり神気が発散されたのだ。
ガラスぐらい、粉みじんに砕くほどの威力を放出したのだ。足下のコンクリートも少しえぐれている…。
「はぁ」
溜息をつく。
しかし…
「よしちゃ〜ん」
嫉妬の焔を纏っている茜が現れた。効果音が有れば…ズゴゴゴゴゴゴと出ていることだろう。
―あああ、あの噂を本気で信じているよ…茜ちゃん…。
義昭は項垂れる。
「おいおい、真実ぐらい見抜こうぜ、茜…?だ…だから、そ…そのハリセンを常備するのは…やめろぉ!」
説得むなしく…屋上で大きくハリセンの音が響いた…。
―それでも義昭君の受難は続くのです。


■呑気に歓談?
あやかし荘に、また人が集まった。
撫子と、義昭、つばさに白里焔寿である。
焔寿は久々に皆元気でいるかなぁとフルーツケーキを持って遊びに来たのである。
撫子はいつもの綺麗な着物、焔寿の服装はグレーのツーピースですが、生地は夏用に薄手の半袖です。髪は白のレースのリボンでポニーテール。猫のチャームとアルシュを連れてスイカ模様のリボン付きだ。
「せんせーですか?噂を広めたのは?」
怒り口調でエルハンドに詰め寄る義昭。
「私が何故そんなことをしなくてはならぬのだ?」
笑いをこらえて答えた。
「面白い魔術師さんとは出会いましたけど…。茜は誤解してるし、学校の連れにはからかわれるし、しまいには、萌え者とかいう変な人物にもつけ狙われ…。つばさちゃんにまで訊かれるし…。大体…此を見ておもしろがるのはせんせーと宗家ぐらいです!」
かなりご立腹の義昭。
エルハンドは其れを止める気はないようだ。
「義昭君、少しは落ち着いて。焔寿さんが持って来てくださったフルーツケーキを食べましょう」
撫子が義昭を宥める。
「あ、はい…撫子さん」
いきなり、大人しくなる義昭。ケーキを食べて一言。
「美味しい」
まるでさっきの気迫は何処へやらの平和な顔だ。
「何か分からん人やなぁつくづく」
つばさは呆れかえる
「一体どうされたのですか?」
焔寿が良く分からないので尋ねる。
「いや、義昭に片想いの人が出来たとかなんとか妙な噂がたってね。茜と雫、そして義昭も困り果ててるって所だ」
「そうなんですか♪茜さんって…」
「俺の幼なじみで…撫子さんと同じ巫女だよ。少し能力は違うけどね…後性格はえらい違いだ…」
紅茶を飲んで一息ついている義昭が答えた。
「幼なじみですか…いいですねぇ」
「そうでもないさ…変な誤解を良く受けるしな…」
あまり茜のことは悪く言いたくないが、正直に話した方が良いのだろうかと悩む義昭。
「夫婦ハリセン漫才は上手いな。義昭がボケでツッコミが茜」
エルハンドはクククと笑う。
「茜さんはハリセンで人を蘇生したことも有りますよ」
「凄い〜」
「ハリセンで…人間業ではないわ」
撫子が付け加えるとつばさと焔寿は吃驚する。
すると、大きな足音が迫ってきた。
「もう!私はハリセン使いじゃないもん!」
茜本人参上。
「噂をすればとやらだ」
エルハンドの言葉に茜以外は笑う。
「ちがうったらちがう〜」
地団駄を踏んで抗議する茜だった。

【義昭の好きな人は誰か】
という座談会…もとい審問会がエルハンドの部屋で行われる。
「先生…」
義昭がエルハンドに訊いた。
「何故其処まで…するのです?」
「珍しく楽しい事件だ。たまには息抜きが必要なのだよ」
「やっぱり、宗家と同じだ…」
「で…誰がすきなんや?」
「其ればかりかよ」
「よしちゃんこの際、はっきりと!」
逃げ場なし…
「当然、私でしょう。ヨ・シ・ア・キ♪」
「何故、シェランさんがいるんだ!」
「其れはサンシタに護符を売ってきたところ何ですよ☆」
「漏れもいるぜぇ」
黒乃とシェランも現れる。
「どうなってんだよ〜」
義昭は、叫んだ。


■後日談
あれから数日後…。
「義昭の好きな人」という噂は全く聞かなくなった。
まるで…その噂自体がないような…。
「暗黒天空剣でもつかったのかな?先生…」
河川敷で寝っ転がっている義昭はそう呟いた。
噂を消すぐらいエルハンドなら簡単なことだ。

しかし、まるで夢のような出来事だったな…。
まぁ失恋も悪くない。
相変わらず、茜と雫との三角関係は続いている。
愉快な知人も出来た。


「今日より明日!」
義昭は身を起こし、エルハンドの住まうあやかし荘に向かった。

End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0328 / 天薙・撫子  / 女 / 19 / 大学生】
【1305 / 白里・焔寿 / 女 / 17 /天翼の神女】
【1366 / シェラン・ギリアム / 男 / 25 /放浪の魔術師】
【1466 / 大曽根・つばさ / 女 / 13 / 中学生・退魔師】
【1678 / 黒乃・楓 /男 / 17 / 賞金稼ぎ】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『剣客の下宿8』に参加していただきありがとうございます。
VSN『神の剣』とリンクしていますが、パラレルワールドとして書かせていただきました。
天薙様、白里様いつも参加ありがとうございます。
また、初参加のシェラン様、大曽根様、黒乃様ありがとうございます。

また機会が有れば宜しくお願いします。

滝照直樹拝