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晴れ、ときどき…
外は晴れていた。
窓から見える空は、深く高く。
澄んだ蒼はどこまでも続いている。
こんな日に室内にいるなんて勿体無い。
榎真はそう思った。
折角の天気なのだから、外に繰り出せはどれだけ気持ちいいことだろう。
身体一杯に日の光を浴びて、伸びをしたらどんなに気持ちいいだろう。
机に向かいながら、榎真はそう思った。
だが如何せん、現実は異なる。
目の前には一冊のノート。
そのノートに向かい、榎真は複雑な数式をつらつら書き連ねて行く。
机の片隅の卓上カレンダーには、赤いペンで付けられた印が。
そのすぐ下には、小さく「模擬試験」と書かれている。
決戦の日は近い。
室内にいるなんて…。
そうは思うものの、模擬の勉強のため遊んでは居られない榎真であった。
はぁー、と一息ついて榎真は手を止めた。
いまいち気が散って進まない。
やる気が途絶えて、榎真は机の上に視線を泳がせた。
やがて、泳がせた視線が、すぐ横に置いておいた携帯の上で止まる。
手にすっぽり収まるぐらいの大きさのその携帯を手に取ると、榎真は折りたたみ式の画面を開いた。
そこには、見慣れた少女が微笑んでいた。
小柄な姿に、長い髪。
榎真の三つ年下の恋人である。
彼女の画像を待受画面にしている事は、他の人はもちろん、本人にも秘密だ。
いつ撮ったかも、秘密である。
もし彼女がこれを知れば、真っ赤になって携帯に手を伸ばすだろうけど。
そんな彼女も見てみたい気もするが、それよりなにより、この画像は榎真の何にも変えがたい宝物なのであった。
「確か、連休中はずっと家に居るって言ってたっけ……」
ふと思い出した彼女の言葉。
休みに入る前、学校からの帰り道を一緒に歩きながら話して帰った。
確かその時に言っていたっけ。
今頃、家で何をしているのだろうか?
テレビでも見るのだろうか?
それとも本を読んでる?
そう思うと、なんとなく口元に笑みがもれる。
きっと誘えば一緒に出かけてくれるのだろう。
が。
榎真はカレンダーを見た。
赤ペンで記した日付けは近い。
出かけている暇はなかった。
「そういえば最近逢ってないよなぁ……」
逢いたい、と思う。
出来る事なら今すぐにでも。
だが、赤ペンで記された日付がどうしてもそれを許さない。
「だめだ。進まねぇ」
得意なはずの数学だが、恋人の事を考え出すと、どうしても手が止まってしまう榎真であった。
諦めて榎真はシャーペンを机に置いた。
その時である。
微かな振動と共に、携帯から着信メロディーが流れ出した。
「あ…」
それは恋人からのメールであった。
榎真は急いで携帯を手に取ると、現れた手紙のアイコンをクリックし、メールを表示させる。
表示されたその名前に、微かに心が躍った。
ほんの些細な事であるが、榎真にはそれがたまらなくうれしい。
メールの内容は、借りたDVDをいつ返せば良いかと言う、生真面目な彼女らしい内容であった。
別にそんなのいつでもいいのにと思いながらも、メールが来た事自体がうれしい榎真だ。
すぐに返事を出そうとするが、ふと思い返した。
どう返事をするか…?
「……」
今すぐ逢いたい。
でも勉強が…。
それでも逢いたい。
「どうすっかなー」
二つの感情の葛藤に、榎真は思わず机に突っ伏した。
「うーんうーん」
暫くそうやって唸っていたが、数分後、決意を固めたように顔を上げた。
「よし!」
声を共に携帯を手に取り、未だに慣れない手付きで携帯のボタンと打ち始める。
『いまからそっちまで取りにいっていい?』
今夜は徹夜の覚悟をぐっと決めて。
榎真は打ち込んだメールの送信ボタンを押した。
もうすぐ逢える。
そう思うと、徹夜が気にならないほど、嬉しかった。
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