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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


Black hero 

ことのおこりは、一通の分厚い封筒と一緒に送られた手紙。
書き出しはこんな言葉で始まっていた。

「僕は、恐ろしいものを生み出してしまいました。」

僕は、ごく普通の中学生です。
スポーツも得意でなく、頭も特に良くありません。
ただ、文章を書くのが大好きで、いろいろな空想や思いを
小説にしていました。小説の中でなら、僕はヒーローになれたから。
でも、現実の僕はいじめられっこで、毎日いろんないじめにあっていました。
そんなある日、僕は「彼ら」にいつものようにいじめられ、なぐられカバンの中の大事なフロッピーを壊されました。
その中には僕が書き溜めていた小説が入っていて…。

僕は、それが許せなかった。
だから、家で彼らを懲らしめるヒーローのお話を書きました。
いじめっ子を絶対に許さないという信念を持つ男。
夜の闇に潜む、絶対に逃げられない夜の戦士。
「ダークヒーロー ガイアス」

そしたら、翌日、彼らが誰かに襲われて重態だということを学校で聞いたんです。
僕は少し、うれしかった。でも、詳しく聞いて驚きました。
僕の書いた話とそっくり同じだったから。
おまけに犯人はこう名乗ったと言っていました。
「わが名はダークヒーロー ガイアス」

家に帰ってみたら、そのガイアスの話には、僕が書いていない続きが出来ていました。
「この世の中のいじめっ子という名の悪魔をすべて懲らしめるまで私の戦いは続く…。」

次の日の新聞にガイアスと名乗る男に闇討ちされた、僕の知らない少年たちが重症だといういう記事が載っていました。
次の日にも…、また次の日にも…。
そのたび、ガイアスの話は、僕の知らないところで作られていきます。
小説には、いじめられた少年達の苦悩や、ガイアスの思いも綴られていました。
「いじめる人間にはいじめられた相手の思いは解らない。」
それは、正に僕の気持ちです。ガイアスは僕の分身だと思いました。

でも、このままガイアスを放っておいたら、いつか、誰かを殺してしまうかもしれない。
例えいじめっこであろうとも、僕の書いたものが、僕の分身が誰かの命を…。
それが、僕はとても怖いのです。

どうか、僕の話を信じてください。
そして、ガイアスを止めてください。

「ねえ、どう思う?この手紙。嘘にしては出来すぎると私は思うの。
実際、少年狩りの事件が最近連続して起きているし、同封されてきた小説はそれと一致する。
彼がそれをモチーフに書いたとも考えられるけど、それにしては内容が詳しすぎるわ。
犯人自身しかしらないようなことも書かれている。
彼自身が犯人か、それとも…。」

碇編集長が逃がした言葉の意味を彼らは理解した。

「この文章はかなりなレベルだし、いじめに苦しむ少年の気持ちがよく表されている。
もし、可能ならこれを掲載してみたいくらい。だから、お願いするわ。」

この事件の調査を、そして解決を…。

資料を受け取り、立ち上がるのは誰だろうか…。

「遅いわね…」
時計を見て、小さく発した女性の言葉に、男性と、少女は頷いた。
待ち合わせの公園に午後4時。約束の時間をそろそろ30分は過ぎようとしている。
彼らの前に、碇編集長が言った依頼人は、まだ来ない…。
「ここから、そん人の学校近いんやろ。じゃあ、あたしちょっと見てくるわ。」
「ああ、頼むわ。えっと…」
「うちは、つばさ、大曽根つばさ。覚えてや。」
「解った、つばさちゃん、俺たちはここで待ってるから。」
「まかせとき!」
駆け出していった少女、つばさを見送った男性に、女性が声をかけた。
「慶悟さん、一緒に行かなくて大丈夫でしょうか?」
「まだ、依頼を受けたわけじゃないし、そうそう化けもんなんて出てきやしないさ。レイベル。」
「そう、ですね…。」
頷くレイベルに軽く微笑むと慶悟は空を見た。そろそろ、今日の太陽が月へと出番を交換するために地に帰ろうとしている。
もうすぐ…逢魔が時。

私立柳城学園中学。
「ここやね…。あっ。」
小さく声をあげ、つばさは頭をかかえた。大切なことを忘れていたのだ。
「あちゃあ、あたし、依頼人の顔知らんわ。あれ?名前も…なんて言ったっけ。確か…」
「勇太!」
「そうそう、それそれ。」
はっとして顔を上げる。壁の向こうから声が聞こえるのだ。不穏極まりない、悪意の音。声。
その意味するところを察したつばさは知っている。
彼女の足は躊躇うことなく学園の中へ飛び込んでいった。

「いっつも、いい子ぶりやがって。」
「おめえみてえな奴がいるとよ、世界の空気が無駄になるんだよ。」
「あいつらがいなくなって、安心してるんだろうが、そうはいかねえゼ!」
複数の人間が集まって、一つの何かを囲んでいる。何かは、少年だった。カバンを抱えて蹲る彼を取り囲んでいる。
少年達が殴り、蹴り、踏みつけて…。まるで、サンドバックのように…。
「先生、こっち、こっちや!」
つばさはわざとらしく大きな声を出す。少年達の動きがピクリと止まった。顔を見合わせる。
「やべえ。」
「いいか、勇太。これで終わりだなんて思うなよ。」
芸の無い捨てセリフを残し、彼らは逃げ去っていく。
「しっかりしぃ!あんた勇太やろ。」
「どうして…僕の名前を…。」
石のように蹲って動かなかった少年が、囁くような声で答えた。
ゆっくりと顔を上げ、立ち上がる。
つばさは、彼を見た。
眼鏡をかけた、弱そうな、どこにでもいそうな普通の少年。
でも、彼は不思議な光を、眼鏡の奥、その瞳に湛えていた…。

「遅くなって…すみませんでした。僕が…西尾勇太です。」
公園で待つ二人の元につばさが、彼を連れて来た。もう5時を回ろうとしている。
言い訳をつばさはしなかった。勇太も何も言わなかった。でも二人は彼を見ている。
足跡のついたシャツ、抱えられたカバン、服の袖から覗く青い痣。顔だけは傷一つ無い。
彼が遅れた理由を察したのだろう。二人とも責めなかった。
「俺は真名神 慶悟。こっちはレイベル・ラブ。キミの手紙を見た碇さんからの依頼で来たんだ。」
「あたしは、大曽根 つばさや。よろしゅうな。ん?どないしたんや?」
軽く自己紹介をする3人の顔を見つめたまま、動かない勇太に、つばさは気が付いた。
肩を震わせて彼は泣いて…いる?
「本当に、僕の手紙で、誰かが来てくれるなんて。僕を信じて、助けに来てくれる人がいるなんて…」
「信じていなかったのか…。」
その言葉が彼の背負っていた闇がどれほど重かったかを彼らに知らしめる。慶悟は薄く笑うと勇太の
肩をぽんと叩いた。
「言いたいことを曝け出してみろ。心の中の言いたい事を。俺たちは、聞いてやる。全部信じてやる。そのために来たんだからな。」
無理だと言い聞かせながら、ずっと待っていた。自分を信じてくれる人、助けてくれる人。
俯いた頬に小さく雫が落ちる。勇太はそれを手で、ぐいっと拭くと
「はい。」
と頷いた。真っ直ぐに、彼らを見て…。

カバンから勇太は、モバイルパソコンを取り出した。起動させ、中の文書を呼び出していく。
中学生が持つには高価すぎるものだ。つばさは少し眉をしかめる。
(ぼんぼんかいな?)
「最新型だな。いい持ち物だ。」
慶悟もひゅうと口笛を吹くが、答えた勇太の笑みは寂しげだった。
「僕の両親は会社を経営しています。いつも忙しくて、僕はずっと一人でした。物質的には不自由はないので幸せと言えるかもしれないですけどね。」
キーボードを叩く手が止まる。自分がいじめられる様になったきっかけが黒いディスプレイを通し
自分の心に映し出される。
恵まれた物質生活。それがいじめの原因と言えば言えた。
良質の品物を持っている勇太を彼らは妬んだのだ。
最初に一本鉛筆が無くなった。やがて、消しゴムが、ノートがカバンから消える。でも、勇太はそれを誰にも言わなかった。何が消えても、勇太のカバンの中身はすぐに元へと戻る。
ある日、一人の少年のカバンから勇太のものと同じ消しゴムがこぼれ落ちた。勇太は黙って拾って少年へと返す。
赤くなる少年。今、思えばそれがいじめのスイッチが入った瞬間だったのかもしれない。
「僕だけ、プリントを貰えない、ノートにいたずら書きをされる、そんなことは日常茶飯事です。
給食をわざと膝にこぼされたり、腕に鉛筆を突き立てられたり、中学校に入ってからはクラスのみんなから無視されて、そのくせ、お金や物をたかられたりしています。お金を出せないと言うと、万引きしろ、盗んででも持ってこい。そう言うんです。」
「先生とか、親御さんには相談できないの?」
淡々と話していた勇太は、レイベルの質問に表情を変えた。
「先生?証拠が無いと言って話なんて聞いてくれませんよ!友達も助けてくれない。両親の顔なんてここ数ヶ月見てないくらいです!」
堰を切ったように話す彼の勢いは止まらない。
「だいたい、いじめっ子なんて甘いもんじゃない。暴行!恐喝!窃盗!それをいじめなんて言葉でくくるのはおかしいんです。反抗しようとしても、1対多数。あっと言う間にボコボコにされて、さらにエスカレートする。もう、僕達のようないじめられっ子が逃れるためには転校するか、遺書を残して自殺するか、それしか無いんですよ。それをした子も少なくない。でも、そうしたら、また誰かが新しくいじめの的にされる。ずっとそれの繰り返し…。」
慶悟もレイベルも、彼の慟哭に言葉を失った。繰り返し訴えられては忘れ去られる現代の病理。
それを知らぬ自分達が、彼にかけられる言葉は無い、と…。
つばさだけは、俯いて唇を噛む。思い出したくも無い過去が思い出されてならなかった。
勇太の慟哭は自分に重なる。
「僕が、自殺や、犯罪に走らなかったのはこれがあったからです。パソコンと、そこに広がる無限の世界、そこでなら僕は何にでもなれたから…。」
そこにあるのはただのパソコン。だが、彼にとっては世界への扉。裏切らないたった一つの友。
「でも、その世界を壊されたとき、僕は、始めて怒りを叩きつけて文章を書きました。呪いをかけるような気持ちでさえ、あったかもしれない。そして…」
「ガイアスは動き始めた。」
レイベルが、勇太の独白を静かにくくる。小さく頷くと勇太は顔を上げた。
「お願いです。ガイアスを止めてください。僕は、どうしたらいいのか…解らない。」
慶悟とレイベルは多分、頷こうとしたのだろう。でもその前に、どうしても聞きたいことがある。
つばさは勇太の前に立った。そして聞く。
「勇太君。なんであんたガイアスをとめよ思うの?」
覗き込むように自分を見るつばさに、勇太は顔を引いた。
「うちは、ガイアスがやりすぎてる、って思えへん。虐められた子は重症にはならんかったかもしれんけど、同じ位の痛みをうけとる思うからな。あんただってそやろ?病院送りになった連中を
知っても、まだあんたをいじめる奴はおるんや。いっそガイアスに任せとった方が、世のため人のためのような気ぃするで。」
(人の心の傷を知らんもんには一度懲らしめてやったほうがええ!)
つばさは本気で思っていた。
それが真実であることを勇太は知っていた。つばさの言葉は自分に近い視線で有るが故に、同じ世界を知るもの故に説得力があった。勇太は逃げたかったのかも知れない。でも、逃げずに前を見た。つばさを真っ直ぐに見つめたのだ。
「最初は、僕も、そう思っていました。ガイアスがいじめっ子を退治してくれれば、僕のような苦しみを持つ人が減るかもしれないって。最初はうれしかったから…。
でも、ガイアスが動き出して、文章が生み出されて、一歩引いた視線で彼の行動を捕らえたとき、僕にはガイアスのしていることが僕をいじめるやつらと…同じに見えたんです。そして、それが…すごく醜く思えた。例えどんなに悪くても、弱いものを一方的に攻撃するなんて…。僕のヒーローに、そんなことはさせたくなかったんです…。あいつらと…同じになんてさせたくなかった…。」
「なら、それを伝えれば良い。心と、言葉でな…。」
今まで、まったく口を挟まなかった慶悟が告げた言葉。つばさと勇太の顔と心がそちらを向いた。つばさは肩をすくめて言い返す。
「説得する気ぃ?無理やろ。だって、勇太の手を離れて勝手に動いてるんやから。」
「どうして、そう思う。試したのか、伝えたのか?倒す前にできることがあるんならそれをしてみる価値はあるのではないか?」
「!」
勇太だけでない、つばさにもそれは向けられた言葉だった。慶悟は立ち上がると、もう一度勇太と視線を合わせた。
「お前は、ガイアスを倒したいのか?消し去りたいのか?」
ぶんぶん、首を横に振る勇太に、にっこりと微笑みかける。
「なら、止めて欲しいとヒーローに伝えろ。言葉に出して気持ちを伝えるんだ。今、俺達にしたようにな。それでダメならその時考えればいい。お前にとって大切な友を、お前が守るんだ。」
「僕が…、ガイアスを守る…。」
「そうだ。俺達がそれを助ける。でも己の行動は己で決めないと意味が無いぞ。」
慶悟の言葉を噛み締めるように拳を握る勇太の左側につばさは立った。そっと肩に触れる。
(見かけより、あんたは強いんやな…。)
見るとレイベルも同じことをしていた。
勇太は目を閉じていた。暖かさがダイレクトに自分の心に伝わってくる。勇太は目を開けた。。
「解りました。どうか、改めてお願いします。ガイアスを、僕を助けてください。」
今度こそ、慶悟とレイベルはにっこりと頷く。つばさが頭の後ろに手をやり不満げにうそぶく。
「俺達ってあたしも頭数に入ってるんかい?あたしはまだ賛成やないんだけど…。」
倒すか、ほっとくかしたほうが早いしな。ちょっと拗ねたフリをするそういうつばさに、慶悟が意地悪っぽく笑う。
「じゃあ、協力してくれないのか??」
「しないとは言うとらんやろ!」
あっさりフリを見破られつばさは両手を上げた。
鮮やかな笑い声がつばさを取り囲む。やがて、つられてつばさ自身も声を上げて笑う。
その笑い声の中に勇太の声もそっと入ってきていた。

太陽が姿を消し、学校が完全にその役目を終え、眠りにつき始めるころ。
4人はある中学の前に立っていた。
「どちらにしてもガイアスと対峙しなければならないな…。」
慶悟の言葉に頷く勇太。つばさは、勇太のモバイルを覗き込みながら彼に聞いてみた。
「新しく文章とか浮かび上がっておらんの?次に表れそうなところのヒントとか…。」
じっくり文章を調べれば、何かヒントがあるかも…。
頷いてキーボードを操作する勇太の手に、ふとレイベルの手が無言で重なった。
(何をするんやろ?)
そんな表情で見つめるつばさと慶悟を他所に、レイベルは呪文のように小さく呟きながら「力」を送ったのだ。二人にも、一人にも、それは感じられた。
送られた「力」に答えるように、ディスプレイはキーボード入力によらない文字をゆっくりと映し出していく。
「あっ!ガイアスが動いた。」
「何をしたんだ。レイベル?」
静かに笑って、彼女はディスプレイを見た。
「ガイアスは言葉によって生み出された言霊のようなもの。それに同じ言霊で介入して今、現在苦しんでいる子供のところにいくように誘導したの。」
「?」(よ、ようわからんわ。)
頭を捻るつばさたちに、レイベルは笑いかける。
「いいのよ。自分でもよく解らないから。とにかく標的の居場所は解ったんでしょ。行きましょう!」
頷いて、彼らは全員立ち上がり、ここにやっていきたのだ。

人気の無い学校を見つめ、慶悟は勇太に確認する。
「本当に、ここなのか?」
「はい、間違いありません。ここの体育館の裏手に、ガイアスが現れるはずです。」
「なら、急ご!もう現れているかもしれん。」
施錠のなされていない杜撰な警備の門を軽くクリアし、彼らは体育館の裏手へと向かった。

「…おまえなんか」
「死んでしまえ…。」
誰かが発する声が聞こえてくる。いじめっこの被害者が…?
4人は足を早め、急いで角を曲がった…。
「?」
彼らは、足を止める。そこにあったのは…異様な光景だった。
漆黒の甲冑、黒いマント。闇を纏ったような存在が、数名の少年達と向かい合っていた。
少年たちはその存在の手から放たれた黒い靄に身体を繋ぎとめられ、…嬲られている。
「た…助けてくれ…。」
必死で言葉を紡ぐが、少年達の声が届かぬように存在は…立ち尽くすのみ。
靄もまた少年達を解放しようとはしなかった。
「お前らなんか、死んでしまえ…!」
存在の後ろから、一人の少年が笑っている。口元から血を滲ませ、でも、それを拭こうとせず…。
その笑みはどこか凶々しかった。彼の言葉に促されるように存在は手を翻す。
「止めろ!ガイアス!!」
耐え切れずに発した勇太の怒声に存在は微かに反応した。靄がすっと存在の中に戻りゆっくりと、こちらを向く。
「わが名はガイアス。いじめという卑劣極まりない悪行を断罪するもの…。」
兜の奥に覗く空間は漆黒。感情の篭らない凍った声は聞く者達の背筋に何かを走らせる。
「我は弱きものの望みし姿。何故…止める。我が創造主よ。」
「そうだ!ガイアスがいれば、僕らはもう苦しまなくていい!地獄の日々から開放される。いや、あいつらを地獄に送ってやることさえできるんだ!!僕らからガイアスを奪うな!!」
ガイアスの背後に立っていた少年が強い調子で叫んだ。彼もいじめられっこであったろう。だがその瞳は今、狂気を孕んだいじめを与える側の目になっていたのだ…。
(確かに、醜いな。哀れで愚かや。いじめをする目は。)
つばさが深く息をつく。少年は怒鳴った。
「ガイアス!僕らを守って!」
彼の言葉に反応したのか、ゆっくりと、ガイアスは近づいてくる。勇太の方へ。
「危ねえ!!」
「勇太!!」
二つの声が同時に発せられ、二つの術も同時に動いた。
慶悟の禁呪の捕縛。同時につばさの「壁」の防御も発動する。
彼らの結界によって、ガイアスは動きを止める。どうしても動くことができない…。
「ガイアス!しっか…っ。」
バタン。声援を送っていた少年は突然意識を失って、棒のように倒れた。
それがレイベルのかけた「夢」の術だったことは後で知る。
「この子たちのことは任せて!」
レイベルの言葉に頷くと、つばさは勇太を見た。勇太は真っ直ぐにガイアスを見ると静かに近づいていく。ガイアスはもがきながら、勇太を見る。
もし、勇太に攻撃された時の為。つばさは棍を用意して身構えていた。
「何故、我を止める。我の存在を望んだのは、汝ではないのか?」
悲しげな表情で勇太は頷く。
「そうだ、僕が望んだ。地獄から救って欲しいと…」
「ならば…」
「でも!それは僕たちが自分でやらないと意味が無い。強い力でねじ伏せるなど僕らをいじめる奴らと同じこと。僕たちの戦い方はあいつらと同じであってはならないんだ!」
叫ぶ勇太にガイアスの抵抗の力が一瞬緩む。勇太に敬服し、膝を付こうとしたガイアスをさっきガイアスが操っていた黒い靄が、今度はガイアスを支配するように、包みこんだ。
「な?何や。一体?」
「ガイアスを、何かが操ろうとしている。そうか!ガイアスを実体化させた何かがあるんだ!!」
慶悟は符を取り出すと呪文を唱え始めた。禁呪の捕縛の結界が弱まる瞬間を狙って黒い靄に操られたガイアスは、勇太に襲い掛かる。
「させるか!喰らいな!棍!!」
庇うように身を翻したつばさは、ガイアスに念で作った棍の攻撃をみまった。「壁」に包まれ逃げ場を失った力がすべて、ガイアスに吸い込まれていく。ダメージはガイアスにはそれほどでは無いが、つばさが作った一瞬の間が、慶悟の術を完成させる時を稼いだ。
「祈念!調伏!!」
放たれた符が、ガイアスの額に張り付くとほぼ同時に、黒い靄がガイアスの身体から弾けるように飛び散った。
「グアアアアアッ!!」
断末魔のような悲鳴を上げ、ガイアスは地面に倒れ付した。ガイアスがさっきまでいた場所には
今、黒い靄の塊が蠢いている。それが、邪悪な意思そのものであることをその場にいたすべてが理解した。
邪気の塊は、反発しながらもゆっくりと符に吸い込まれていく。
やがて全てが消えた符を拾い慶悟は小さく囁いた。
ボッ!
音を立てて燃え上がった炎は、符を灰と風にして天へと運ぶ。
慶悟は、長いことその場から動かず、天を、風を静かに黙って見送った。

黒い靄と分離したガイアスはゆっくりと立ち上がると、再び勇太の方へと歩き出し膝をついた。
跪くと、顔を上げ、勇太を見つめた。
「主よ。我が努めは終わったのか…。」
(あいつ、まだ!!)
ガイアスを退けようと立ちはだった時、勇太はそれを軽く手で制す。
「あんた…。」
その声も耳に入らないように、勇太はガイアスに手を差し伸べる。
「ごめんよ。僕が間違っていたんだ。君は悪くない。でも、ここにいてもいけないんだ。大丈夫。僕は、僕らは大丈夫だから。戻ってきておくれ。」
「ああ。我がいるべき世界へ戻ろう。」
ガイアスは勇太の手にそっと触れる。黒い光がぱあっと舞い上がった。そして、身体はまるで溶けるように崩れていき、塵、いやドットなり、吸い込まれていった。パソコンと勇太の中へと…。
(僕のヒーロー。)
ぎゅっとパソコンを抱きしめた勇太の頬に銀の雫が流れ落ちた。
(いいこと、悪いことも、簡単にはまとめられんのやなあ。今回は、助けた気ぃで教えられた気がするわ。)
つばさは、自分よりほんの少し年上の少年の涙を見つめた。
最初に会った時から感じていた、不思議な光を持つ目から溢れたその涙は、妙に美しく思えてならなかったのだ。

レイベルが手当てをした少年たちを残し、彼らはその場を後にした。
つばさたちは、そこで勇太と別れることとなる。
「本当にありがとうございました。」
涙目でお辞儀をする勇太の肩をつばさは、ポンと叩いた。
その反動でぐらりと揺れる勇太。つばさは明るく笑った。
「しっかりしぃや。あんたは強いんやから。」
「は、はい!」
微笑ましい少年と少女の交流を、お兄さんと、果てしなく年上のお姉さんは優しく見守っていた。

翌日、勇太はいつものように登校した。
いつものように連中が、勇太を取り囲む。勇太は逃げなかった。真っ直ぐに彼らを見つめた。
ガイアスと対峙したときのように…。
「や…い。」
振り上げられた拳は勇太には落とされることが無かった。
怯えも、躊躇もなく、見つめられた瞳。強い意志。
弱気になりそうなとき、勇太は彼らを思い出す。
(相談相手立候補ならここにいるぞ。)
(しっかりしぃや。)
(あなたなら大丈夫よ。)
あの時に比べれば、なんてことない。何でもできる。きっと…。
心の支え、強い心。そして…夢。
もう、勇太をいじめられるものなど誰もいなかった。

それからしばらくして「月刊アトラス」に新連載が掲載される。
「ダークヒーロー ガイアス」 西尾 勇太 作
後にジュブナイルとして、いじめを赤裸々に伝えた小説として話題を集めることになるこの話。
実はフィクションの形を取ったノンフィクションであることを知るものは少ない。

そう、それは、この世に、たった4人だけ…。

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■   登場人物                  ■
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【0389 / 真名神・慶悟  / 男 / 20歳 / 陰陽師】
【0606 / レイベル・ラブ/ 女 / 395歳 / ストリートドクター 】
【1411 / 大曽根・つばさ / 女 / 13歳 / 中学生・退魔師】


NPC 西尾 勇太 男 14歳 中学生

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■         ライター通信          ■
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ライターの夢村まどかです。
今回はご参加くださりありがとうございました。

これは前回一度、お話を成立させた依頼なのですが、違うキャラクターに参加いただいたらどんな話になるかやってみたくてもう一度の窓オープンとなりました。
混乱させてしまったりでしたら申し訳ありません。
まだ、システムや仕事の受け方の理解に未熟さがあるようです。
お許しください。

今回はガイアスを肯定してくださった同年代のつばささんとの対話から勇太の決心をつけさせました。
心に寄り添って下さったことに感謝いたします。

真名神さんは、支えてくださる典型的な男性ということで、自分の足で立つ大人として勇太は尊敬したのではないかと思います。
こういうカッコいい男に憧れるのではないでしょうか?

レイベルさんのプレイヤーさんはおそらく前回もご参加下さったのでしょうか。ありがとうございます。
今回は、勇太以外にも救いの手を差し伸べていただきました。
前回と少し違った話にはしたつもりですがいかがでしょうか?

今度は別な依頼でお会いしたいと思います。
またよろしければどうぞよろしくお願いいたします。

ご参加下りありがとうございます。