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5年遅れの大予言
【オープニング】
投稿者:地球外生命体
もうすぐ花火の季節の到来ですね。ワクワクしちゃいます♪こんな時期にこんな事を言うのも気が引けるのですが、予言者の知り合いに聞いてしまったんです。『8月に開催される某所の花火大会の日に、巨大隕石が地球に落ちてくる』って!あんまり信じたくないんですが、彼女の予言は当たるんです。落ちてくる場所の特定まではできないのでどうしようもないと言えばそれまでなのですが、心の準備をしておいた方がよろしいかと。不快な思いをされた方は申し訳ございません。
***
「巨大隕石…?」
その、あまりに軽々しく人類の危機を語る書き込みに、長い黒髪の少女が呻いた。彼女、ササキビ・クミノはいつもなら「時間の無駄」と流してしまうその情報に惹かれている事に気付く。何故かと訊かれたら彼女は仏頂面でこう答えるだろう。
「何だか、不快だったからだ」
そんな曖昧な自分に少々苛立ちつつ、とにかくクミノは片っ端から天文リンクを当たって『予言』や『隕石』の類いを調べていく。そう、花火大会など、彼女にとって日付け以外の意味を持たないのだ。
***
甘いような、苦いような。独特の夏の風が黒く染まったばかりの空に吹き抜けていた。
天候は良好。今夜は絶好の花火日和だといえるだろう。
「おーい、みあおちゃーん!」
良く通るきれいな声に振り向いたのは銀の髪に銀の目を持つ可愛らしい少女、海原みあおだった。白地に小鳥模様の浴衣を着て、右手に綿飴、左手に水風船をぶら下げている。赤い金魚帯が風に揺れた。
「シュライン!」
「夏、満喫してるわね?」
名前を呼ばれて嬉しそうにみあおに近付いたのは切れ長の青い目を持つ女性、シュライン・エマだ。彼女は白い肌に良く映える紺色の地に、糸目菊模様の浴衣を着ている。
花火大会の会場に続く道。時間が早いせいかまだ人の数はまばらだった。
「ところで…みあおちゃんは知ってる?」
シュラインが歩きながら訊ねた。みあおは身長差を感じながら彼女を見上げ、首を傾げる。
「…巨大隕石」
シュラインの苦笑の入り混じった呟きにみあおが「あぁ!」 と声を上げた。
「シュラインさん…?」
その直後背後からの訝しそうな声に2人はそろって振り向く。そこには漆黒の髪と目を持った少女がいかにもレベルの高そうな、それでいて可愛らしい学校の制服らしきものを着て立っていた。その上何故か明らかにこの場にそぐわない、黒い大きな鞄を抱えている。
「あら、クミノちゃん。花火…好きだったの?」
シュラインは彼女を知っているようで少々意外そうに訊いた。彼女の生い立ちや性格を鑑みたならば、その質問は当然と言える。クミノは花火大会の会場を目指して楽しげに歩く人たちを横目に、小さく鼻を鳴らした。
「巨大隕石、だ。シュラインさんも知っているんだろう?私は予言から天文まで色々調べたんだが、有力な情報が得られなくてな。キーワードが<花火大会>だったからここに来たまでだ」
シュラインは少し面白そうに笑顔を作った。
「あなたの情報網で有力な情報がないって…ガセネタなんじゃないの?」
「念の為だ。それに予言者自体にも少なからず興味があるしな」
素っ気ないその答えに、しかしシュラインは笑顔を崩さない。それはどこか、母性を感じさせる笑みだった。クミノがそれに気付いてちょっと複雑そうな表情をしたとき、元気な声が上がった。
「隕石って言ったって、今日中に落ちてくるんだよ?見つかったとしてもどうにもなんないって。あんた、クミノっていうんだよね?海原みあおだよ☆よろしくね」
みあおは実年齢で言えば同い年くらいのクミノに、どこか影がある事を感じていた。それは自分にも少なからずある部分だからかもしれないが、とにかく一緒に楽しみたいと思ったのだ。
クミノはその明るさに驚きつつ、それでも不遜な態度で言った。
「隕石で人類が滅亡するまでな」
***
「私は行かない」
一緒に会場に行こう、と誘ったみあおにクミノはきっぱりとそう答えた。
「なんで?近くで見た方が迫力あって楽しーーー」
「しかたないのよ」
怯む事なく続いた言葉はシュラインによって遮られた。彼女の表情にはうっすらと影が刻まれている。
「私の側には、あまり…近付かない方がいい」
クミノはわずかに俯いて言った。彼女は自分の能力である有毒の<障壁>を完璧にコントロールする術を持っていない。今も常に集中してそれを抑制している状態だ。このように人がまばらな場所ならまだしも、大勢の人が集まって皆の気分が高揚している中では何が起こるかわからない。その事を危惧しての言葉だった。
<障壁>のことまでは触れなかったが、人の多い所へ行くことが出来ないのだと告げると、みあおは少し考え込んだ。
「じゃあ会場に行くのを辞めよう」
「え?」
意外な言葉にクミノが驚きの声を上げ、気にしないで行けと伝える為に口を開いた。しかしその口が言葉を紡ぐ事は無い。
「人がいなくて高いとこを探せばいいんでしょ?そしたら花火も隕石も良く見える」
みあおは悪戯っぽく笑ってクミノを見据えた。シュラインも明るさを取り戻して笑う。
「なるほど。それはいいわねぇ。クミノちゃんも行きましょ」
クミノは、この2人と居るには結局<障壁>のコントロールに集中し続けなければならないのをわかっていた。それなのに頷いてしまったのは、夏の風の悪戯だったのだろうか。
花火大会の会場から少し離れた場所に公園があった。その誰もいない公園に3人の女性が入って来たのは花火が始まる直前の事だった。
「わぁ、見えるね!」
みあおはジャングルジムの一番上に器用に座って川の方を見ている。花火大会は、海に注ぎ込む河口付近で行われるのだ。海への道は坂道になっているので、坂を上った場所にあるこの公園からは会場を一望する事ができる。
そこが、コンビニで買ったこの辺りの地図から割り出した最良の場所であった。
「たまにはこういう場所で見るのも悪くないわね」
シュラインは自分の黄色い帯に挟んでいたうちわを取り出して仰ぎながら満足げに言う。
「私は隕石の調査をしに来ただけだからな」
クミノはあくまでもそう言って、ずっと持っていた黒い鞄からシートを取り出して地面に敷き、そこに座ってノートパソコンと怪しげな機械など取り出していた。携帯用カートリッジとその機械をパソコンに繋いで起動し、なにやら打ち込んだりしている。
そして花火が始まった。しんとしていたここまで人々のざわめきが届く。赤や黄色や緑の火が夜闇に大輪の花を咲かせていた。みあおとシュラインは思いのほか良く見える花火を一心に見つめていたから、クミノがパソコンの画面から顔を上げているのに気付かなかった。
***
「誰か来るわね」
花火大会も終盤に差し掛かった頃。シュラインはこの公園にまっすぐに向かって来ている足音を特有の敏感な聴覚で聞き取った。
「ほんと?なーんだ。せっかく貸し切りだったのにね」
みあおはそう言いながらもさほど嫌そうな顔をしていなかった。そもそも花火大会の会場で見るつもりだったのだ。花火を見る仲間が増えた所で問題があるはずもない。クミノは少し面倒くさそうな顔をしただけで特に何も言わなかった。
「あぁ、これは確かに穴場ですね」
そんな声と共に公園に入ってきたのは夏だというのに黒いスーツを着て眼鏡を掛けた男だった。街灯の下でその姿がはっきり視認できるようになった瞬間、みあおとシュラインが声を上げる。
「龍平!」
「浅野くん!」
2人に呼ばれた男、浅野龍平は知り合いが居た事にさして驚きもせず笑顔を作った。
「お久しぶりです。今日は花火日和ですね」
「それはいいけど、龍平、暑苦しい」
みあおはジャングルジムの上から龍平を見下ろして笑った。龍平は心外そうな顔をして自分の格好を見る。
「いいじゃないですか。スーツのボタン留めてないし…ホラ、ネクタイ下げてシャツのボタン開けたりもしてますよ?」
「じゃあ、だらしなーい」
スーツを着崩した青年にそう言い捨てると、みあおは花火に目を戻した。
「誰かに訊いてここに来たの?」
シュラインは2人のやり取りに苦笑しつつ訊ねる。さっきそのような事を言っていたのを聞いていたからだ。
「誰って訳でもないんですがね」
龍平は曖昧に頷いて「そちらの方は?」とクミノの方を見る。クミノは彼にさして興味はないようで再びパソコンの画面に視線を戻していた。
「彼女はササキビ・クミノちゃん。クミノちゃん、こちら<宇宙人>の龍平くん」
シュラインが2人同時に紹介すると、クミノがふと顔を上げた。その目は龍平の顔を訝しげに見上げている。
「…<宇宙人>?どういうことだ。あなたが<地球外生物>なのか?」
「まぁそういうことです。でも地球出身なんですよー」
ヘラヘラと並べ立てられる言葉を、クミノは聞いていなかった。不意に立ち上がると龍平に詰め寄る。
「巨大隕石は本当に落ちるのか?予言者とは一体誰だ」
「…何の話ですか?」
龍平は困ったように、自分の染めた茶色い髪に触れた。更に問い詰めようとするクミノをシュラインが止める。
「待って待って。浅野くんは自称<宇宙人>なだけであって、あの書き込みと同一人物だとは限らないわ」
その言葉の意味を理解してクミノは怪訝な顔をした。そこにみあおが動き辛い浴衣姿にも関わらず、まるで小動物のように素早くジャングルジムから降りてくる。
「ゴーストネットの掲示板に巨大隕石が降ってくるって書いてあったんだよ。龍平は知らないの?」
みあおの問いに龍平は記憶を辿るように少し黙った。
「…ゴーストネットっていうのは聞いた事ありますけど」
「誰に?!」
みあおは勢い込んで言う。龍平が知らないとなると、彼の関係者が一番怪しいからだ。
「母に。なんか…趣味らしいです。よく知らないけど」
「多分投稿したのは浅野くんのお母さんね」
シュラインが妙に確信を持って頷く。龍平はまだ何か思い出すように考え込んでいた。
「隕石っていうのも何か聞き覚えがあるような、ないような…」
「どっちなんだ」
クミノがいまいち話について行けない事に少し苛立って声を上げる。龍平はひとしきり唸り、やがて。
「思い出したー!」
その声は、花火大会の終わりを飾るべく一際激しく鳴った爆音にほとんどかき消された。その場に居た4人が思わずそちらへ目を向ける。
一瞬の闇。そして次の瞬間、空を覆うような量の赤や紫の炎の玉が地面に向けて降り注ぐ。それは筆舌尽くしがたい美しさでその場に居た者、いや、それを見た誰もが魅了されずにはられなかった。
美しい世界も、数瞬でその幕を下ろす。空にも大地にも再び暗闇が戻り、人々が日常に帰るべく動き始めていることすら感じられた。
「すごかったね…」
「えぇ」
「流石にな…」
みあおとシュライン、クミノすらも呆然としていた。そこで、龍平が締めくくる。
「<巨大隕石>降ってきたでしょう?」
***
クミノはあまんまりな龍平の話に感心するより呆れていた。これは花火が終ったあと龍平の携帯に彼の母から掛かって来た電話で明らかになった事なのだが、今回の<隕石騒ぎ>は彼の母とその友人の花火師による画策だったらしい。
ゴーストネットという、超常現象を解決する類いの人も見ている場所にあのような書き込みをすれば<事件解決の為>という目的で普段は来れない花火大会を楽しめる人も居るのではないか、という考えだったのだ。そこに腕のいい花火師の最新作で、大会のフィナーレを飾る巨大花火<隕石>のモチーフを加えて。
「じゃぁ、龍平のお母さんの企画は成功だね」
みあおはにこにこしながらクミノを眺める。クミノは「なんて人騒がせな!」と憤っていたが、あの時花火に感動していたのは皆がわかっていた。
「他にもそういう人、居たのかしらね」
「きっと居ますよ。あー今日は母さん機嫌いいんだろうなぁ」
シュラインの言葉に龍平はわずかに苦笑して答えた。みあおがその表情に突っ掛かる。
「龍平のお母さんって、どんな人なの?」
訊かれて、彼は苦笑いを深くした。
「変な人ですよ」
何となくその一言で一同が納得してしまったのは、やはり夏の風の悪戯に違いない。
オワリ
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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1415/海原・みあお/女/13/小学生
0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
1166/ササキビ・クミノ/女/13/殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは佐々木洋燈です!今回は花火をモチーフにしたせいか、いい話風味になりました。花火ってなんだか切なくありません?私は花火を見ると初夏だろうがなんだろうが、夏の終りを感じてしまいます。そのせいか森山直太朗さんの新曲が頭の中を巡っていました(笑。
クミノさんは初めましてですね。ありがとうございます!自分なりに難しい設定をなんとかしようと頑張ったのですが、どうでしょうか?勝手すぎるでしょうか??イメージを壊してしまっていたら申し訳ございません。彼女のような女の子は基本的に好きなので、またの機会にお会い出来たりすると嬉しいです。では、また☆
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