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<東京怪談ノベル(シングル)>


ピィのミステリーファイル〜闇のディナー〜】
――夜の帳が下りた東京のとあるホテル
「どうだねっ、私のステーキの味はっ」
「お、美味しい! こんなの初めてよ!」
 ピィ・プレタは生まれたままの姿でペタンと腰を落とし、男の料理を一心不乱に食べていた。少女の幾倍か年月を重ねた男は満足そうに口元を歪めて見せる。
「ならもっと早く動かしなさいっ。料理が冷めてしまう!」
「う、うんっ」
 ピィは動きを早めて料理に取り掛かった。金髪を軽やかに揺らし、細い肢体が躍動する度に、小ぶりな二つの膨らみが小さく揺れる。料理が熱いのか、身体は赤く紅潮し、汗をキラキラと舞い散らせていた。零れた料理が小麦色の身体に流れてゆく。なるほど、衣服が汚れないように、彼女は一糸纏わぬ姿でいる訳か。少女はディナーが進むに連れ、次第に恍惚とした表情を浮かべていた。
「すごいっ美味しいよ! 気が遠くなって‥‥ふあぁぁっ!」
 ググッと身体を弓なりに撓らせた瞬間、ピィの躯に肉汁をぶちまけると、そのまま意識を失った――――

●夢見るは遥かなる故郷
――それは蒸し暑いフィリピンでの夜の事だった。
 ピィは帰路に着くために人気の無い道を歩いていた。僅かな外灯と月明かりの中、少女の靴音だけが闇に響き渡る。刹那、大きな影が行く手を阻んだ。
「ち、ちょっと‥‥なによ? 痛っ!」
 一瞬の出来事に彼女は立ち竦むと、背後からのもう一人の影に身体の自由を奪われ、抗いながらも路地へと引き摺り込まれる。
「やんっ! 離してよ! ちょっと、何処に‥‥えっ? やだっ! やめ‥‥(きゃああぁああぁぁっ!!)」
 次に響き渡ったのは薄い布の破れる音と、口を塞がれた事による、くぐもった悲鳴だ。
「な、なにするのよ! はむっ!?」
 怯えるピィが気丈に声を投げ掛けると、口に滑り込んだのは温かい料理だった。何度も何度もスプーンが運ばれ、少女の身体に零れたスープが小麦色の肌に艶かしく照り返す。
「はぁはぁ‥‥く、苦しいよ‥‥少し休ませて」
「ああ、休ませてやるとも。これから日本で同じ事を続けるのだからな」
 男の言葉にピィはキョトンとした表情を浮かべる。
――日本? 同じ事? それに、この男達は誰?
「‥‥あたしを、どうする気なの?」
 少女は金髪を揺らしながら背後の男に虚ろな表情を向けた。
「お前はっ俺にっ売られたのだ。借金のっカタにな。両親の元にっ帰りたかったらっ日本に来てっ今していることをっするんだよっ! 果たせるまではっ生きて帰さないからなっ」
 どうやら彼等はブローカーらしい。そう言えば、知らない男達が両親の前で怒鳴っていたのを聞いた事がある。半信半疑の少女に男が口を開く。
「闇のディナーってのが日本にある。お前は一流シェフの料理を目で楽しませながら堪能するんだよ」
「闇の‥‥ディナー?」
――闇のディナー
 それは日本でも余り知られておらず、噂でしかない。
 酔狂な一流シェフが全裸の少女に自慢のフルコースを食べさせる所謂ショウだとも聞く。それが東京のホテルで繰り広げられているというのだ。東京住民には都市伝説として一部に囁かれているらしいが、誰もその真相に辿り着いた者はいない。

「ミ、‥‥キミ!」
「‥‥う、んんっ‥‥はっ?」
 ピィは細い肩を揺り動かされ、深い眠りから覚めた。まどろみの中に浮かび上がったのは、不安そうな表情で見つめる男の顔だ。どのくらい眠っていたのだろう? 男の安堵にほころぶ顔から察して、長い時間を眠っていたのかもしれない。
「大丈夫かい?」
「だ、大丈夫よ、とても荒々しくて美味しかったから飛んじゃったわ」
 少女は疲れ果てている事を窺えさせぬように、あどけない風貌に小悪魔のような笑みを浮かべて男に視線を流す。彼はピィの言葉に満足げに微笑んでいた。
「ではデザートはどうだい?」
 男は自慢の棒アイスを少女の華奢な躯に這わすと、ピクッと身体を弾ませて小さく声を洩らす。これ以上ディナーを続けたら頭が変になってしまいそうだ。それでも悟られまいと振る舞った。
「あんっ! つ、冷たいわ‥‥でも、気持ちいいかも‥‥」
 ピィは半身を起こしてアイスに口を運ぼうとした時だ。
――ピピピピッ♪ ピピピピッ♪
 闇のディナーとは対照的に、爽やかな音色が赤い携帯電話から鳴り響いた。
「‥‥あら? 時間切れだわ」
 チロリと小さな舌でアイスを舐めて上目遣いで悪戯っぽく微笑む。男はとても残念そうだ。
「‥‥ま、待ってくれ! 延長料金なら払う!」
 スックと立ち上がったピィの背中に彼は縋り付き、両手で少女を弄った。だが、彼女は甘い声をあげるのを堪えてそのまま離れてゆく。
「ダメよ、あたしは行かなきゃいけないのよ」
 表情が窺えないだけに、ピィの気丈に振る舞う凛とした声は、男に別れを確信させるものだった。少女は呆然と立ち尽くしているであろうシェフに振り返る事なく、衣服を手早く纏うとホテルのドアに手を掛ける。
「ステキなディナーだったわ、ごちそうさま★」
――そして、あたしは次のホテルへと向かうの。
 新たなディナーが待っているから――――

 ご購入有り難うございました☆ 初めまして、切磋巧実です。
 内容がダイレクト過ぎますので(笑)加工させて頂きました事を御了承下さいね。フルに深読みしながら脳内保管して、瞳を閉じて再生させましょう(笑)。はい、見えて来ましたか〜?
 今回初めてピィさんを綴らせて頂きましたが、いかがだったでしょうか? しかも東京怪談モノは初めてだったりします。一番不安なのは「情熱的な語尾」でした。もっと乱暴な口調なのかな? その辺もシンクロしているか心配ですね。
 感想頂けると嬉しいです☆ お待ちしていたますね♪