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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


10日間の恋人 −三下さんの受難3−
●序章
 ──約束したあの人は来てくれない。10日目の夜、ここで待ち合わせて一緒に行こう、と約束したのに…。…嘘つき…

「ただいま戻りました」
「お帰りなさい……?」
 吊り橋から身投げした女性の霊が出る、という心霊スポットを取材から帰ってきた三下忠雄の顔がどことなく緩んでいるのに気が付き、碇麗香は眉宇を潜めた。
 三下は原稿を置くと、端からみても「浮かれてます」という表情でデスクに戻る。
「三下さん、取材先で彼女出来たらしいですよ」
 編集部内の情報通の子がこっそり麗香に耳打ちする。
「恋人……」
 ふぅん、と三下を見つめて麗香は足を組み替えた。

 それから数日間。毎日彼女の元へ通っているのか、三下の姿はみるみるうちにげっそりとなっていた。
 またもしかしてとりつかれているんじゃ……と麗香が懸念していると、再び情報通の子が耳打ちをしてくる。
「何でも10日間一緒にいてくれたらその後ずっと一緒にいられる、って言われたらしいですよ。……結婚でもするんですかね……」
 結婚ねぇ、と呟きながらカレンダーを見つめる。三下が取材に行ってから今日で10日目。今日で最後の日。
 げっそりと痩せこけた身体で、しかし嬉しそうに退社していく三下の姿を見送ってから麗香は口を開いた。
「なんか気になるの。様子、見てきて頂戴。もし心霊現象だったら……取材よろしくね」

●本文
「女の霊に憑かれたか…。10日後に一緒というのも向こうが三下と一緒に現世に留まるとは考えがたい。恐らくは連れて行こうと…まぁ委細は不明だが最悪の場合を想定しておかないとな。人手が足らなくなってこちらにオハチが回ってきても困る」
 難しい顔で言った真名神慶悟。それに綾和泉匡乃が頷く。
 この二人、対照的な雰囲気を持ち、似ているところを見つけるのが大変だが仲はいい。
「大丈夫かな、三下さん……」
「大丈夫だろ? あれでも悪運だけはめっぽう強いんだぜ」
 灰色の髪に赤い瞳を持つ少年、というイメージが抜けきらない雰囲気を持った陵彬が三下を心配したように呟くと、それを茶化すかのように赤茶の髪に同色の瞳を持つ青年……こちらも少年という域を脱していないかのように見える…草壁鞍馬が言う。
「でも吊り橋の霊を取材にいって自分がとりつかれるなんて……」
 なんて三下らしいんだ、と皆同様の感想を心の中で持つ。呟いた彬は分厚いメモ用紙に何かをメモっていた。
 本人小説家の卵で、何かあるごとにメモっているのだ。
 鞍馬はインディーズバンドのボーカル兼ギタリスト。その方面じゃ結構有名で、箱に通っている面々が見れば写メが飛び交ったりする。
 彬のバイトに鞍馬が暇な時にちょかいをかけにくる、と言った感じだ。
 慶悟の方は仕事にあぶれると草間興信所や月刊アトラスに顔を出す。そこにはこういった仕事が転がっているからだ。ゴーストネットOFFの方は、謝礼が出ないまでも飲み物や食べ物が飲み放題・食べ放題になったりする事がある。いわゆる生活の知恵(?)である。
 一方匡乃は興味が無い事にはなかなか動かないが、今回個別に麗香から電話を貰っていた。その時の用に気まぐれの蟲が動いた。匡乃が編集部に来た時にはすでに三下の姿はなかった。
「大事がある前に行った方が方がいいかもしれませんね」
 匡乃の言葉に頷いた。

 三下に追いついたのは、丁度電車に乗り込んだあたりだった。
 男4人の尾行。目立たないはずはないのだが、三下は気にもとめていない様子で、膝の上に花束をのせて座っている。
「おお、愛の告白かぁ♪」
「そんな暢気な事言ってる場合じゃないだろう。生死がかかってるんだぞ」
「でも好きな人と一緒に逝けるならOKだろ」
「相手が本当に三下さんの事を好きがわからないんだぞ」
「恋も愛も一瞬の幻♪ ってね」
「鞍馬!」
「……二人とも静かにしろ」
 じゃないとたたき出すぞ? という目つきで慶悟に見られ、二人は黙る。
 鞍馬と慶悟は同じ歳である。しかしこうも違うのは育った環境の違いか本人の性格か。──どちらでもあるだろう。
 一番年少、といっても彬は19だが、心配そうに三下の姿を見ている。……が、その手に持たれたメモ用紙に何かを書き込む手はとまっていない。
「あれ? ケイちゃん!」
 いきなり呼びかけられて慶悟は周りを見るが姿はない。しかも「ケイちゃん」と言うのは自分の事かすらも怪しいが、なんとなく自分な気がしたのと、声を知っているような気がしたからだ。
「下よ下」
 言われて4人が見下ろすと、皆の腰のあたりの辺に顔があった。
「ヒヨリ……」
 それは時無町にある『時計屋』の自称看板娘、ヒヨリだった。
 ここで面識があるのは慶悟一人だが、ヒヨリは別の人間に視線を向けて目をパチパチさせた。
「うわ、ブレーメンの鞍馬?」
 ヒヨリの勢いに鞍馬は目を丸くしつつ頷いた。
「この間のライブ見に行ったよ〜♪ やっぱり鞍馬が一番格好良かったかな☆
ねね、サイン貰える?」
 お願いポーズで見上げられ、鞍馬は苦笑しつつ差しだれた紙にサインをする。
「ところで、男4人揃ってこんな所で何してるの?」
 きょとんと首を傾げたヒヨリに、彬がかいつまんで説明する。
「吊り橋の……あー、少し前に特集で出した雑誌のヤツね。三下ちゃんが書いてたヤツよね。彼のって着眼点が結構面白いんだけど、書き方が少し無難過ぎる点があるのよね……」
 とブツブツ批評しているヒヨリに匡乃が口を挟む。
「その記事読んだんですか?」
「うん、読んだわよ♪ アトラスのは愛読書だし」
 嫌な愛読書だな、と思ったのは横において匡乃は記事の内容を訊ねる。
「んっとね……とある女性がそこに仕事で来た男性と恋に落ちて、一緒に村を出ようと約束したんだけど、その男性は現れなかったんだって。んでそこで10日間待ってた女性は絶望の果てに身投げした、って。そのせいか知らないけど、夜男性が一人でそこを通ると、女性の幽霊が出る、って有名になったらしいわよ」
 思えば誰も下調べしてなかったね、と彬が呟く。
「その男性が三下だった、という訳か」
 難しい顔で慶悟は隣の車両にいる三下を見る。
 これだけ騒いでいるのに三下の方は全然気が付く様子はない。
「そうそう、これ相手の男性の電話番号♪」
「なんでこんなもの持ってるんですか?」
 やんわりと問うた匡乃に、ヒヨリはとびきりの笑顔を向ける。
「勿論、ご都合主義ってヤツよ♪ あ、ここ降りるから。まったね〜☆」
 ぎゅっとメモ用紙を鞍馬に握らせると、ヒヨリは華麗な足取りで去っていった。
「面白い子だなぁ」
「そうだね」
 鞍馬のもらした感想に、彬が頷いた。
「それでそのメモ用紙どうします? 電話してみますか?」
「そうだな……」
 鞍馬からメモを受け取り、慶悟は式神をとばす。
「電話かけるより、直接様子を見てみるか」
 と言ったところで三下はおりる準備にように立ち上がり、出口の方へと向かった。
 三下がおりたのは3つ目の駅だった。
 下調べをしてこなかった4人は、一番近いところの切符を買っていたのだが、どうやら乗り越し料金を払わなくて済んだようだ。
 生気がかなり吸い取られているせいか、三下の足取りはふらふらで、尾行をするにも楽だった。
 しばらく歩くと森のようなところに入り、辺りの暗さも手伝って暗闇が支配する。
 その中、何故か彬の身体だけだ薄ぼんやりと光っていた。
 月光にけぶるその髪を肌故、故郷では「月の精霊」と崇められていた。それせいだろうか。眩しい訳ではなく、まして暗すぎる訳でもなく、木々の間からもれてくる僅かな月光を浴びて仄かに光る彬に、余分な灯りは必要ないようだった。
 同じ村出身の鞍馬は彬のそれを知っていたが、匡乃と慶悟は知るよしもなく。しかし自らの霊力と鑑みると、他人の特殊能力に突っ込みをいれるような無粋な真似はしない。
 森の中をしばらく歩くと、吊り橋が見えてきた。
 その吊り橋の袂には三下の姿が。
 まだ女性は現れていないようだった。
 慶悟は女性が現れる前に、と残った式神をつかってその場に結界をはる。三下の魂を連れていかれぬよう、それと同時に女を逃がさぬよう、入れるが出られない袋小路の結界。
 しばらくそこで待っていると、式神が戻ってくる。
「……」
 式神からビジョンを受け取った慶悟の表情が険しくなる。
「なにかあったんですか?」
 匡乃に問いかけられて、慶悟は重い口を開いた。
「アイツ……結婚してやがった」
「ああ!?」
 思わず大声を出した鞍馬の口を彬が押さえる。
 ちらっと三下に視線を送ると、全く気が付いていない。
 慶悟が見たビジョンは、丁度帰宅した所の男性の姿。それを出迎える妻と子の姿も同時に映し出された。
 その子供の大きさから、女性と恋に落ちた時にはすでに結婚していた、という事がわかる。
 妻の連れ子でその後結婚した、という可能性もあるが、その子供は男性によく似ていた。
「男にとっちゃ、出張先での短い恋、ってヤツか」
 苦々しげに鞍馬が言う。
「あ、来た」
 三下の方を見ていた彬が呟く。
 その視線の先には女性のが姿が確かにあった。
 瞬間、慶悟の結界が閉じる。
「…三下さん…」
 突如現れた女性の姿に、三下は分厚いめがねの下の瞳を輝かせた。
「幸恵(さちえ)さん……」
「嬉しいわ、約束を守ってくれたのね」
「も、勿論ですよ! 約束は、必ず守ります」
 女性の顔は暗くてよく見えない上に、ウェーブのかかった長い黒髪が余計に表情を隠している。
「三下さん、本気みたいですね」
 匡乃の言葉に皆苦笑する。三下ばかりが本気では浮かばれない。
 しばらく三下と女性は何かを話ししているようだった。
「三下さんは…ずっと私と一緒にいてくれる?」
「も、勿論です!」
 直立で三下は敬礼宜しく背筋をのばす。
「うげ」
 鞍馬がうめいた視線の先で、三下と女性が手に手をとって吊り橋を乗り越えようとしていた。
 瞬間、慶悟の式神を飛ぶと同時にパン、と空気銃が弾けるような音が響き渡った。
 慶悟の式神は三下を取り押さえ、彬が持っていた改造エアガンから発せられた霊力入りの弾は女性を貫通していた。
「……三下さん……」
 女性が傷心の表情で三下を見つめる。
「さ、幸恵さん……」
 姿の見えない式神に押さえられた格好のまま三下は女性を見つめ返す。
「その人達は誰?」
 問われて三下はぐるっと自分を取り囲んでいる面々を見回した。
「バイトに来てくれている子と……仕事をたまに手伝ってくれる方々です」
 言っている事に間違いはなく、至極三下らしいいい方と言えば言い方なのだが、その場にどうもそぐわない。
「三下を連れて行ってもあんたは浮かばれないよ?」
 彬の言葉に女性はついと彬を見る。
「そうですよ。身代わりをいくら求めても所詮は他人です。その人のかわりには決してなれません」
「もうちょっと前向きになった方がいいぜ。他の男いくら連れていっても幸せにはなれないでしょ。だったら自分を捨てた男を見返すくらいの気持ちもたないと」
「死は決して覆らない。そして業を積む事は新たな出会いを遅らせる結果となる。イイ女にとってそんな不幸な事はない…だろう?」
 口々に説得の言葉が飛ぶ。
 それは三下を連れて行って欲しくない、という思いもあるが、女性を悼む気持ちも含まれていた。
 霊ははじめから誰かに害を加えようとしていた訳じゃない。ただ、あまりにも強い想いが残りすぎて、ただそれだけにすがってしまうのだ。
 そのことをそこにいる面々は重々承知していた。
 女性は自分に向けて話す人たちの姿をじっと見つめていた。
 その表情にはなんの感情も伺えない。
 そしてそれから三下へと視線を戻した。
 スイッと三下へ近寄る。それに皆警戒するように体を強ばらせたが、女性に悪意を感じられず、警戒したままじっと見つめる。
「…三下さん…」
「は、はい」
「…本当に、本当に一緒に来てくれるつもりだったの?」
 寂しげに尋ねた女性に、三下は戸惑ったように、しかししっかり頷いた。
「あなたがそう望んでいたから…それであなたが幸せになれるなら…」
 お人好し、という言葉が口々にもれる。
 でもそれが三下のいいところかもしれない。彼がすかれる所以。
 三下の応えに女性は薄く笑った。
「…三下さん…あなたは優しい方達に囲まれているのね…。ここで本当にあなたを連れて行こうとしたら、強制的に追いやられてしまうわね」
 陰陽師である慶悟、潜在的に霊能力を持つ彬に退魔の力を持つ匡乃。
 強制的に成仏させてしまおうとすれば、実力行使が可能である。
「三下さんを返して頂けますか?」
 女性は色のない瞳で匡乃を見る。
「返すも返さないも……三下さんは初めから私のものではなかった……」
 女性は薄く笑う。
「……そのまま成仏するのも難だな……」
 言って慶悟は含みのある笑みを浮かべた。

 部屋の隅で女性のすすり泣く声が聞こえた。
 男は不審に思って起きあがる。
 隣で寝ている妻は何も反応をしていないので聞こえていないのか、ぐっすり眠っているのか。
 妻の泣き声ではないとすると……。
 男は声がする方に恐る恐る近づく。
「……やっと気が付いてくれた……」
 女性はパッと顔をあげて微笑む。
「!!!???」
 男は声にならない悲鳴をあげ、その場で失神した。

 一部始終を慶悟の式神が皆にも伝えていた。
 ちょっとした仕返し。あれくらいで女性が命を失った事に対しての償いにはならないが、それでも女性は満足しているようだった。
「ありがとう……」
 今までとはうってかわった優しい表情。
「それじゃそろそろ逝くか……」
 慶悟と匡乃、二人の術に見送られて女性は淡く光る。
「三下さん、本当にありがとう」
 涙に濡れた瞳を細め、女性は笑って逝った。
「……」
 三下の瞳から涙こぼれた。それはたった一滴の雫。でもそれは紛れもなく、女性一人の為だけに流されたもので、成仏を願うにはそれだけで十分だった。
「三下さん、大丈夫ですか?」
 女性を送った後、匡乃は三下に『治癒』を施す。それは完全に生気を取り戻す事はできないが、気力を戻す事は出来た。
「それじゃ帰るか」
 元気よくいった鞍馬に、三下は頷いた。

●終章
 三下は通常通りになった。生気を奪われていたせいでやせこけていた体も、前のように戻りつつある。
 以前と変わらず三下は麗香に怒鳴られているが、それがどこか嬉しく感じるのは、もう少しこのお人好しな人物がいなくなってしまう所だったからかもしれない。本人にすればそんな事で嬉しく感じてほしくはないだろうが。
「もう大丈夫みたいだな」
「そうだね」
 相変わらず彬のバイトの邪魔をしているのか手伝っているのかわからない鞍馬に、ソファに座って暢気にアイスコーヒーを飲んでいる慶悟。
 予備校の講師だというのに先日のレポートをデスクで書かされている匡乃の姿もあった。
 もう吊り橋に幽霊はでない。
 男に貼り付かせておいた式神が、ビジョンを伝えてくる。
 あの日の翌日、男は吊り橋にむかい、その袂に花を飾っていた。
 当然の報いか、その頭髪には白い物が目立っていた。
「三下くん! ここ誤字!! 何回言ったらわかるの」
 いつも以上に三下にあたる麗香の声を、皆笑って受け止める。
 三下が通常に戻って嬉しいのは編集部員だけではなかった。
「あ、はい!」
 直立不動でぎこちなく麗香のデスクに向かう三下の姿を、皆微笑ましく見ていた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師/まながみ・けいご】
【1537/綾和泉・匡乃/男/27/予備校講師/あやいずみ・きょうの】
【1712/陵・彬/男/19/大学生/みささぎ・あきら】
【1717/草壁・鞍馬/男/20/インディーズバンドのボーカルギタリスト/くさかべ・くらま】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは&初めまして☆ 夜来聖です♪
 今回は私の依頼を選択してくださりまして、誠にありがとうございます。
 4人1組、と言う事で適当に組んでいったら……ありゃ、ここって男だけじゃん! と気が付いたのは書き始めてから。
 まぁ美青年揃いなのでむさい、という感じにはならなかったですが(笑)
 匡乃さん、彬くん、鞍馬くんははじめて、って事でいかがだったでしょうか?
 もしイメージとか違うぞ! という事があったらバシバシ言ってやって下さいね。
 勿論慶悟さんもです☆
 男4人、という事でどうなるかと思いましたが、楽しく書く事が出来ました♪
 また別の機会にお目にかかれる事を楽しみにしています☆