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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>



【玄鷺商舗・通信販売部】 昇降変化脚立

●昇降変化脚立
 それは、梯子に似ている。
 それは、△ 上三角 △ の形をしていて。
 それは、家にひとつあると、ちょっと便利。ふたつはいらない。
 それの、材質はいろいろある。だけど、今、広告に載っているものは木製らしい。通常つかわれているアルミ製のものよりも小さいうえに重い。これは、不便。
 だいたいのところまとめてみると、こんなかんじだろうか。
 脚立ってのは。

『 昇降変化脚立【しょうこうへんげきゃたつ】
     当舗より新発売の昇降変化脚立・モニター募集中 』

「マニュアルに載せたいくらいの、典型的な怪しさね」
 碇編集長は、その広告をそんなふうに評した。月刊アトラスとはくらべものにならないくらい信用がある、ぃぁ、無駄に年季を重ねた老舗の雑誌の、1ページを完全に占めている。だけど、写真もイラストも添付されていない。クリーム色の地に、いいえ、もっと適切な表現がある気もするけど思い出せない色の地に、数行のテキストがならべられただけ。ThisIsシンプル。だけど、そのページからはきりつめられた美よりも、大切なものをわざと欠いたような、腹立たしい奇妙さのほうが、色濃くかんじられる。
 なぜ、脚立だろうか。ほんとうに、何故、いまさらこんなもののモニターを。
 脚立の名称の一部分、変化、がどうにも腑に落ちない。なにを意味するのか。
 広告主は、『玄鷺商舗・通信販売部』。くろさぎしょうほつうしんはんばいぶ、と読む。極小のゴシック体のルビは、パステルカラーのこげ茶色。ちなみに、本文は、黒に近い灰。
「聞いたことがない店ね」
 頬杖をつき、考える。賢しき者、思考は短し。
「気になるから、誰かにためしてもらいましょうか。さて、誰がいいかしら?」
 碇編集長、どうして自分でためさないんですか? どうも、無料でおためしできそうだけど。
「わざわざ被害者になる理由はないわね」
 お説、ごもっとも。

 広告の〆の文章、文章というより、悪魔的なあそびもないたんなる説明。
『 脚立:あがったりさがったりするためのもの 』

●都立図書館(汐耶)
 司書の仕事は、力仕事が基本だ。ブックトラックには山盛りの文庫本、ハードカバー、ムック、ひとつずつ、もとい一冊ずつ片付けていく。
「ふぅ」
 棚のいちばん上、というのは、なにか秘密めいたにおいがする。堂々と目に付く場所でありながら、到着がとても億劫なそこにおさめられた本の1冊は、ひらくとまだかすかにインクの残り香があった。きっと、とりだしがあまりに面倒で、誰も手に取ろうとすらしてないのだろう。それは本というものに生まれついた存在、装飾品ではなく実用品としてうまれた彼ら、にとって、すこし不幸ではなかろうか。
 めずらしく貸し出しの対象になった1冊は、その日、返却日ぎりぎりに都立図書館へもどってきた。綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)は背表紙をぽんと勇気付けるよう軽めにたたいたあとで、指定の場所に入れる。
「あなたはよかったわね。おつかれさま」
 いちばん上の棚に手を届くためにのぼった脚立から、今度は、とんっ、とんっ、と降下する。けれど、あまりリズミカルとはいかなかった。脚立の4本の脚は、おのおの長さが違っていたからだ。汐耶が足を降ろすたんびに、ぐらり、ぐら、と情けないバランスを訴える。
「これもずいぶんと、ガタがきてるようね」
 平地でゴトゴトと、シーソー運動をする脚立はさすがにまずいだろう。修理をしてやれば――たとえば、足のひとつに詰め物を入れる――まだまだつかえるかもしれないが、見た目は悪いし、いたずら好きが調子に乗って壊すかもしれない。だいいち、これは、彼女の私物ではなく、図書館の公共品だ。そろそろ、取替え時かもしれない。
「あたらしい脚立にすれば、もうすこし貸し出しも多くなるかしら?」
 これが、先日の彼女の一日。

「あら、脚立の広告なんてめずらしいですね」
「そう。だから、思わず人身御供をさしだしちゃったんだけど」
 さて、その人身御供とやらが出発するのとほとんど入れ替わりで、汐耶はアトラス編集部にやってきた。碇・麗香(いかり・れいか)がそこらのデスク(追記:自分の陣地ではない)に出しっぱなしにしておいた雑誌を拾い上げる。癖のついた折り目をひらくと、広告が視界にとびこむ。いや、それはとびこむというにはあまりに地味な紙面、ただなんとなく目に入った。だが、先日の一件が心にのこる汐耶には、少々気を惹かれるものがある。
「あなたもいってみる? 人間はたぶん、まだ余裕があるわよ」
「そうですね‥‥」
 はい・そうします、と、汐耶は軽く承諾した。
「そう? じゃあ、えーと、地図はどこだったかしら。場所はここじゃないのよ、そんなに遠くないわ」
「あ、それじゃあ。三下さんを貸してもらってもいいですか? すぐにお返ししますから」
「いいわよ。すぐに返してね」
 お手軽なレンタル。枯れ木も山の賑わい、といいますし。三下ももしものときの盾ぐらいにはなろう、最初の一撃よけてくれれば、あとはなんとかなるから。
「それじゃ、出たり入ったり忙しないですけれど」
「いいえぇ、おかまいもしませんでぇ。いってらっしゃい」
 嘘つけ、最初からかまう気なんぞなかったろうが。
 という類のことを、意地悪く考えるタイプではないので。汐耶は無言の一礼に微笑を添えて、編集部を辞した。

●上へ、下へと。
 戸をあけた隙間から、蛇のような冷気が漏出する。エアコンの効き具合は、良好らしい。
 部屋のカタチは、オーソドックスにキューブ。確率のかたよったダイスみたいな。
 海原・みなも、陵・彬、時司・椿(この3人はほぼ同時)、綾和泉・汐耶(三下つき ←おまけですか)、真迫・奏子の順に、入室を果たす。奏子がうしろでにドアをしめたとき、みなもは部屋にまちかまえていた男性と交渉をはじめていた。
「あなたが責任者の方ですか?」
「あ、ごめんなさい。僕もバイトなんで、よくわからないんです」
 ん?
「これをここに持っていけっていわれただけで。えーっと、ここにレポート用紙がありますよ。これに感想を書いて欲しいそうです。それから――‥‥なんていうんだろう、指令書?」
 秘密の作戦じゃあるまいし。稚気に満ちているというか、会社から権利を委託されているわりには、なんともはやたよりない。
「説明書ですか?」
 みかねた彬が訂正を申し入れると、「そうそう、それそれ」とたいしてことばの吟味もせず(文筆業志望の彬にはそれが気に食わない。もっと自分のことばに責任をもったほうがいいと思う)「じゃ、僕はこれで」と、逃げるように部屋を出て行ってしまった。今ひとつ頭蓋のねじがたりないようは顔をしていたけれど、うさんくささに気付くくらいの勘はそなえていたようだ。5人きりになると、それぞれはそれぞれに取り残された気分になった。さみしいように、いたずらをそそのかされたように。
 まるで軟禁されてるような気分でもあるし。
「じゃ、どうします?」
「やりましょ、さっそくやりましょ」
 汐耶が部屋の中央にうつり、椿が軽いフットーワークであとを追う。
 けれど、汐耶はいきなりのぼるような真似はせず、まずはモノを触感でたしかめた。あぁ、たしかに木だ。天然木、ニスのつやだし。高さは、あんまりない。
「バランスは――悪くないですね」
 ごん、ごん、と四方から負荷をかける。ずるり、と滑らし、ゴムのすべりどめの調子をみる。
「ちょっと高さが、ものたりないかしら? というより、中途半端ね」
 普段づかいで慣れているだけに、着眼点も批評眼もたしかだ。汐耶は感想のまとめにはいる。
「あたりまえだけど、このサイズじゃ、やっぱり一度にひとりしかのぼれないみたいですね。誰からにします?」
「それは、やっぱり三下さんでしょう?」
 それまで様子を見守っていた奏子が、微笑む。そりゃもう、朝、ゆっくりと花が開くがごとく。すると、室温がおおよそ3度ほど下がった気がした、約一名の人間、企業奴隷にとって。
「ボ、ボクですか?」
「だいじょうぶだと思いますよ。足をかけた瞬間に、あれ、ということだけはなさそうですから」
「でも、呪われてたりしてるかもなー」
 汐耶のフォローも、椿の思いつきのひとことで、塵となる。椿は頭に浮かんだことばを散らかすように並び立てた。
「あ、もしかして、碇さんのいってた『あたらしくないかも』ってそうゆう意味かな。えーっと、ほら、怖い話でよくあるパターン。男が中古車を買ったんだけど、どうにも調子がすぐれない。エンストをくりかえす、ブレーキがきかない、それだけじゃなくって、誰か他にもうひとりのってるような気がする。おかしいと思ってよくよく調べてみると、それは事故車で、持ち主はすでに死んでいた――‥‥」
「こらこら。脅かさない」
 いや、どちらかといえば、これくらいの供述を脅しにとるほうが悪いのだ。だが、三下はというと、すっかり怯えまくり、今にも脱出をはかりかねない勢いで、ドアノブを何度もまわしている。‥‥そのまえに、鍵を解除したら? とは、誰も教えてやらなかった。
 奏子は椿にむかって、苦笑する。
「だいいち、こんなんに中古もなにもないでしょ」
「俺もそう思います」
「というわけで、キミが代わりにいちばんね」
「いいですよ」
 あっさり請け負う。が、それをはばむ、声と声。
「あ、ちょっと待ってください」
「俺も、もうすこし待って欲しい」
 みれば、みなもは三下の隣に添ってドアノブの点検、彬は鞄からとりだした改造エアガンをながめすがめつ、トリガーに指をかけるしぐさ。
「海原さん、なにをしてるの?」
「万が一の事態にそなえて、脱出口の確保を」
「陵くんは?」
「お守りです」
 みんな、けっこういい性格してる。
 ついでに、前置きが長いねぇ?
「こうゆうのは、迷っちゃのびるばっかりだから。やると決めたら、すぐにやる!」
 ダッシュ、スピード、ジャンプ、えいやっと。本格的にやれば狭い部屋ではたんなる迷惑騒動だから、ちっちゃく、椿は動く。
「‥‥なーんも起きませんよ?」
 ちょっと調子に乗って、前後に揺すったり。ひっくり返らない程度に、蹴りつけてみたり。てっぺんで座り込んでみたり。
「いきなり白い手があらわれて、使用料とか請求されたらどうしよかと思ったけど、ぜーんぜんだいじょうぶ」
「ほんと?」
 のこる4人は(最後の一名:男性はドア護衛を担当)は、おっかなびっくり近づいた。たしかに。一見、なんにも起きてないように見えるけれど。
「だいじょうぶみたいですねぇ‥‥」
 みなもはぐるりをまわった。確認。まずは視線の先を脚立の足につけ、徐々に上方移動をはたし、するりと椿の位置を見やる。
「‥‥あれ、なんだか、椿さんってそうでしたっけ?」
「そうって、なに?」
「えぇと、そう、です」
 上手くいえない。そう、としかいいようがないのだ。輪郭のにじんだ違和感、砂のよう、みなもをいつくしむ水のよう、入れ物を用意してやらないとくずれてしまうのに、この手はさみしく空っぽで。それでも、本物の水ならばみなもはなんとかできるけれど、こういう不定形はどうもできない。
「躁ってこと?」
「いえ、そうじゃないです。指示語のほうですけれど‥‥自分でも、何をいいたいかよく分からなくって‥‥」
「そういや、俺もみなもちゃんが、そう、じゃないように見えるなぁ。なんだろ、これ」
「‥‥それじゃあ、ずっと堂々めぐりだと思うぞ?」
 彬もくわわる。ここで引いては男がすたる、じゃない、『若者』がすたるから。みなもと同じように見上げ、「あれ?」なにかを思いつくと胸元からぶあついメモを取り出した。こまめに筆記する癖のある、彬。ここに来るときにも、同行者について気まぐれにメモっておいた事項に、目を通す。
 そして、納得した。
「あ、俺、分かった」
「顎」
「へ?」
「椿くん、そんなに、鬚が濃いほうじゃなかっただろ? 掌をあててみろよ」
「お?」
 いわれたとおりにすると、本当だ、ざらりとぎこちなくすべる感触。
「‥‥伸びてるわ」
「だろ?」
「別のことも分かった。そっちは『幼く』みえるんだ」
 たとえば、みなもの髪型がちがってみえる。いくぶん短く切りそろえられ、よくよくみれば口元も若い。くちびるには案外年齢が出るものだ。
「じゃ、今度は、降りてみるな。危ないからどいて」
 椿の跳躍、着地、足の裏に痺れが走った。ふたたび顎にてのひらをあてると、すっきりなめらかである。
「戻ったな」
「つまり、効果はのぼってるあいだだけってことか」
「降りれば、リセット。おーしまい、ちゃんちゃん」
 片手をあげておどけるが、誰からの感銘も得られなかった。むなしい。路線変更をせまられ、椿は多少寂しくなる。
「‥‥誰か、昇ってみる?」
「私はパスしておくわね。見てるほうが楽しそうだから」
 奏子、拒否を笑顔でつたえるが、悪気あっての行動ではなかった。こういうことはやるより見るほうがおもしろい、そう信念あっての故である。
「おーい、そっちの大学生はどう?」
「みささぎあきら。俺もいい」
「ちっ。つまんねぇの、意気地がない」
「ちょ、ちょっと待て。意気地がないとかじゃねぇぞ。俺はただ」
「‥‥うしろむき?」
「絶対に違う!」
 おたがいと大学生いう自覚があるなら、もうちょっと発展性のあるネタに昇華したほうがいい。――でもやっぱり、無理かもしれない。その横で、みなもと汐耶、もうすこし精神年齢が高い組は、分析をはじめる。
「これ、なんだと思います?」
「そうですねぇ」
 ひらめくものを探し、汐耶は目をつむる。次の瞬間に、ふいに口をついたことばは、自分でも少々意外だった。
「そういえば、『宇宙から来たかんづめ』って本があるんですが」
「え?」
「あ、唐突な話でごめんなさい。児童文学なんだけれども。そのなかに螺旋の塔にのぼる男の話があるんです。でも、彼はてっぺんにたどりつけない、途中であきらめてしまう。その理由は宇宙的パラドクスで――‥‥」
 ほんとうはいくらでも続きは語れるのだが、逐一話して、ネタバレになってしまうのは避けたい。司書として、それは最低の行為だと思う。汐耶は理性を発揮し、首をすくめる。
「ごめんなさい、思い出しただけです。でも、なんとなく分かってきました。これはつまり、極小サイズのタイムマシンみたいなものではないかしら?」
「あ」
 みなもは手を打った。ぱん。クリーム色の人工的な清潔さをほこる部屋に、音は響いてとおる。
「それで正解だと思います。ほんと、大きさはミニですよね〜」
「それに、ちょっと時間の幅が分かりくいですが」
 性能も分かりにくい。みあげられた椿は髭が濃くなったぐらいに対し(時間にすると1日とすこしくらいか?)、見下ろされたみなもは髪型がちがった(さすがに1日ではそんなに髪は伸びない、切ることはできるけど)。
「‥‥で、どうします?」
「どうしましょう?」
 いちばんの問題は、たぶん、それだ。汐耶とみなもは頸つきあわせ、彬も参戦し、三下はあいかわらずなかんじ、残りの二人はマイペース。
「え、昇ればいいじゃないですか」
 椿の意見はシンプルである。
「でないと、モニターにならないっしょ?」
「私はモニターじゃないもの。見学に来ただけよ」
 奏子の私見も、またシンプル。あぁ、いえ、もうすこしおまけがくわわる。
「‥‥でも、いいことを思いついたわよ」
 奏子は脚立を窓際にはこんで据え付けると、がらりと窓を開け放した。冷房がかかっているのにいいのかって? とりあえず、放置。
「ねぇ、ここから東京の街を見てみるってのはどう? みんなにうしろすがただけみせれば、精神的なダメージもすくなくなるでしょ? それに『人』をみるより、『風景』をみたほうが気持ちいいわよ」
 それは、名案なのか?
 よく分からない。が、ただおしつけあっているよりは建設的な気がする。建設的イコール前向き――かもしれない。そう悟った彬ははっと息を呑み、こわごわを隠しながらもやっぱりこわごわに挙手をする。
「俺、やります」
 彬の顔色は、いっそ悲愴のメロディが似合うくらいに、蒼かった。

 一瞬、刹那、秒速の歴史紀行。
 東京。
 過去の東京。
 教科書で学んだモノクロの悲劇、浮世絵が立体化する、関東平野が平野であることを実感させられる原っぱ、小指の先の爪にもみたない小さな黒い粒はたぶん生命。

「‥‥なんだか、すごい」

 みんなでそれぞれの時間を体験後、無言をつきとおしつつ、もう還ることにする。

『 脚立:あがったりさがったりするためのもの 』
 あがったり、さがったり。これに関する時間は横にではなく、上下に流れているらしい。上にのぼるか下にくだるか、そこまではどうも分からないけれど。

●鷺草(汐耶)
 汐耶は図書館のあたらしい脚立に、あれ、は選ばなかった。もちろんといえばもちろん、たいした害はなさそうだけれども、さすがに。ねぇ?
 職場。都立図書館。
 労働の昨日・今日・明日。司書の毎日。
 いつものように、また仕事をする。仕事なんて無機質なことばで汐耶のすべてをあらわせるわけはないが、でも言いつくそうなんて無駄な努力は最初からしないほうがいい。地球から、世界地図をおこすようなもの。三次元から二次元をプロデュースすると、ほら、ゆがみを覚悟しなければならない。
 だから、『仕事』でいい。
 直接、本に関する仕事だけでなく、読書環境をととのえてやるのも、また司書の仕事。
 汐耶は図書館の建物を出た。ただじっとしているだけでもすぐに乾くこの季節、建物を涼しげに演出する植物たちに水をあげようと思って。小型の常緑樹、いまは少々閑散期の花壇に、いくつかの鉢植え。
 鷺草が咲いている。

「そういえば、玄鷺商舗でしたね‥‥」
 思い出してしまった、脚立。記憶。けして、不快というわけではないけれど。
『ラン科・サギソウ属、山野草・球根・草花』
 近づく人もすくない、図書館の図鑑コーナーで調べれば、これくらいのデータはすぐ手に入る。
 これほどに、名が体をあらわす植物もめずらしい。細いしなやかな緑の茎に、唇弁の縁にはいった繊細なきれこみが、鷺の翼を連想させる。
 そういえばこんな句もあったな、と思い返す。

【 風が吹き鷺草の皆飛ぶが如(虚子) 】

 緑がしゃんとする。水やりの効果はあったらしい。
 では、なかに戻ろう。
 そして、まともな脚立に足元をまかせて、また本を片付ける。もちろん、司書の仕事はそれだけではないが。ぱちぱちとそろばんをはじくような音をたてて、彼女のなかで計画がくみあがってゆく。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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0314 / 時司・椿   / 男  / 21 / 大学生
1252 / 海原・みなも / 女  / 13 / 中学生
1449 / 綾和泉・汐耶 / 女  / 23 / 司書
1650 / 真迫・奏子  / 女  / 20 / 芸者
1712 / 陵・彬    / 男  / 19 / 大学生

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■         ライター通信          ■
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 このたびは、東京怪談での初の依頼にご参加いただき、ありがとうございます。あらためまして、はじめまして、もしくは、お久しぶりになります。紺一詠です。
 すいません、最初からたいへんな遅延をかましてしまいました。土下座のしようもございません。とにかく、ひたすらに頭をさげさせていただきます。
 オープニングと展開部以外は、いちおう個別となっております。よろしければ、他の方のものもごらんください。
 あ、ちなみに、脚立の能力は指定でもよかったんです(笑) どなたかがこんなものかしら、と予想をたててきてくだすったらそのとおりにする予定だったのですが、なかったようですので当初の予定どおり、あんなかんじとなりました。‥‥そのほうがつまらん? それもそうですね。ええ。
 それでは、精一杯のお詫びを感謝を込めまして、今回はこのへんで失礼させていただきます。

 >綾和泉・汐耶さま
 共通部分においての『宇宙から来たかんづめ』ですが、これはあれを読んで思いついた話でした。どうでもいい要素だったんで表に出す気はなかったんですが、汐耶さまの設定を読んで、ふとからめてしまいたくなってしまいましたもので。現在手元に現物がありませんので、あらすじはちょいとうろですけれど。