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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


学園の十七不思議

「編集長、ちょっとお聞きしたいことがあるんですが…?」
デスクで書類に埋もれる碇編集長に静かな声が問い掛けた。
声の主が最近アトラスに出入りするようになったライター見習いの少年であることを確認すると、彼女は優しく微笑みかける。
「なあに?答えられることなら答えてあげるわよ。」
編集者たちが見たら驚くような笑み。ショタ…というわけではなかろうが…。
「僕が、探偵さんというか、調査員の方たちに調査を依頼しても…いいですか?」
「?何かあったの?」
途端に顔が真剣みを帯びる。すでに編集長の顔だ。

彼は少し悩むように考え、意を決したように話しはじめる。
「あったというか、前からなんですけど…。うちの学校、やたらと怪談が多いんです。」
「怪談って学校の7不思議とかいう奴?」
「そうなんですけど…」
そう言って彼は話しながら指を折る、あれ、それ、これ…。
「ちょ、ちょっと待ってよ。もう七つどころか10超えてるじゃないの。」
「はい、だから、七不思議じゃなくて17不思議なんて言われています。」
けろりと言う彼に編集長はため息をついた。七が持つ数の意味など蘊蓄をここで語っても仕方が無いが…。
「で、それが何?ただの噂話でしょ。」
「僕も今までそう思ってたんですが…。」
彼は言う。最近その怪談の目撃者が校内で急増していると。
元々怪談のゴールデンタイムは夜だが、最近は昼間にそれを見た、という者さえいる。
そして…
「僕も見たんです。トイレで、その不思議の一人。花子さんに…。」
「あなた、女子トイレに行ったの?」
「いえ、男子トイレで。」
頭を抱えずにはいられない。男子トイレに出る花子さん?最近の怪談はなんでもありだ。
「で、花子さんが言うんです。僕に、来い。って。夜の学校に来て欲しい。って。理由は言いませんでしたけど。」
「それで、行くつもりな訳だ。」
「はい。興味があるので。でも、一人じゃ心細いし、誰か一緒に言ってくれないかあ、と。」
友達でもいいが危険がある可能性もある。その点、調査員の人たちならそれなり以上の力があるから
大丈夫だろう。信用も…何よりできる。彼は、そう言った。

彼女はノートパソコンを広げてキーボードを叩く。ディスプレイの横から顔をひょいと向ける。
「解ったわ。ファイル作ってあげる。でも、乗ってくれるかどうかは解らないわよ。」
「はい、ありがとうございます。」
頭を下げた彼に、報酬はレポート提出ね。と編集長は軽く笑って手を振った。


PM6:30
学園の多くの生徒達が、理事長の像の横をすりぬけ、校門をくぐり、帰路につこうとする。
そろそろ夜の帳が天に広がろうとする刻、今日は逆に門をくぐるものたちがいた。
一人。二人。一人、そしてまた一人。
でも、それを不信に思うものは誰もいない。
「忘れ物でもしたのかな?」
そう思ったくらいだった。彼らは同じだったからである。自分達と。
制服。それは一つの魔法。
それを纏ったとき、人は誰でも同じ仲間と見る。学校という一つ場所に括られた存在。仲間と…。

「今回はありがとうございます。」
依頼人、西尾勇太は頭を下げた。自分の好奇心のようなものだったのに、調査員の人たちの
手を煩わせて…。ちょっと罪悪感を持っていたらしい彼に、海原・みそのは軽く笑った。
「いいのですよ。学校というところに制服を着て入り込めるなんてそれだけでも十分に価値はありますわ。」
同意するように他の面子も頷いた。制服は勇太が知り合いから貰ってきたもの。
最近では珍しくさえなった学ランは最大サイズでも身長が大きすぎる五降臨・時雨が少しキツそうな以外は皆良く似合っている。時雨は前を閉じないことでなんとか対応していた。
女性はセーラー服モチーフの可愛いワンピース、女子には結構人気である。
「あれ?女性はみそのさんだけと聞いていたんですけど、女子の制服は二つ?」
「ああ、僕でしょう。」
乾・鏡華がスカートの裾を持って軽くお辞儀をした。某有名キャラクターねずみのバッグ、長い髪。女子の制服を着ていることからしても、どーみても女性にしか見えない。
「あの、失礼ですが、あなたは…男性ですよね?」
「似合いませんか?」
ニッコリ。笑顔で反論は封じられた。勇太は無言で首を振る。
「この髪とか目、目立ちそうだな…大丈夫かな?」
やや心配そうなのは陵・彬。銀髪、赤い瞳。確かに夜目にも目立つといえば目立つ。
「でも、大丈夫ですよ。もう少し経てば先生も帰るし、見つかったとしても金髪くらいなら学校にもいますから。エセも、そうでない人も。」
それはそれで、問題ある気がするが…、まあ言われたとおり、彬は気にしないことにした。
「後は…師匠が来るはずですよね?」
周りを見回す。編集部で真っ先に協力を約束してくれたのは彼だった。最初の事件で助けられたのをきっかけに可愛がってくれる彼を勇太は師匠と慕っている。
「そう言う事は普通師匠に相談するものだろ弟子よ?」
そうツッコまれ頭をぐりぐりされたが、すっぽかすことは無いと思っていたのだが…。
「よお!勇太。」
「わっ!し、師匠??なんでそんなカッコを?」
肩を背後から叩かれた勇太は思わず硬直していた。それも道理。彼の知る雪ノ下・正風は22歳のオカルトライターのはず。でも、今の彼はどう見ても自分と同い年くらいに見える。
「お袋にちょいと若返りのクスリを借りてな。まんざらじゃねえだろう?」
腰に手を当てて豪快に笑う正風に、勇太は小さく苦笑して、はいと微笑んだ。

最後の教師が帰ったのを見計らって、勇太は警備や鍵に細工をしに行く。
その間残された探偵たちは、今のところ解っている情報を整理していた。
「ここ、柳城学園は、私立の中高一貫教育でそこそこ有名な学校ですね。創立は戦後まもなく。50周年がこの間あったと聞いています。高度経済成長期に、大きな池を埋め立てて作ったということで、この池は、結構神域扱いされていたみたいですね。」
ぺらぺらと、カバンの中から取り出した手帳をめくり、鏡華は、事前に調べてきたこの土地の簡単な歴史をみんなに明かした。
「ああ、それで校内に祠があるのか…。」
ここに来る途中、彬は敷地の端に古ぼけた祠を見つけていた。自分がいたような田舎ならともかくなんでこんな都会にと思ったのだ。。
「何も」いないようだがお守りみたいなものなのだろうと素直に納得する。
「ボクも…昼間、学生たちに聞き込みをしてみたんだ…」
「何かありましたの?」
「いや…。最近怪談が多くなったとか、よく見かけるという話はあったけど…、それ以上のことは聞けなかった…。」
時雨はこっそり舌打ちする。
ホントならネズミや、猫に調べてもらおうと思ったのだが、何故か嫌がって入ってくれなかったのだ。「何か」がある、いやいるのは確実なのだろう。
「次元階段、悲しみのプール。囁きの生物室、孤独なスプリンター、真夜中の教師、血染めの調理実習室、闇夜のノクターン、誘いの屋上、トイレの花子さん…。確かに七不思議なんてとっくに超えてるな。」
勇太の書き出した十七不思議のレポートを、ひ、ふと数えていたのは正風だ。一つ一つはどの学校にもありそうなものだが、それにしても数が多い。
「で、依頼人である彼は何をお望みなのでしょうか?怪談の原因調査?それとも花子さんとの会談の立会いですか?新七不思議の究明かもしれませんわね。」
みそのがそう問いかけた頃、勇太が戻ってきた。
「準備はしました。もう中に入っても大丈夫なはず。お願いできますか?」
その前に、とみそのがもう一度さっきの質問を問い掛ける。
「花子さん、の用事をすませてから可能ならいろいろ調べたいと思っています。その判断はお任せしますよ。」
まずは、花子さんのところへ。彼の依頼に皆は頷いて従った。

警備を切り、学校の中に侵入するのは実は内部の人間なら、別に難しいことではない。(もちろん褒められたことではないので良い子は真似してはいけません。)
静かに中に入ると、勇太が「花子」さんと出会った旧校舎2階のトイレへ目指す。
「花子さんってどんななんですの?やっぱり子供なのですか?」
背後を歩くみそのの言葉に勇太は首を振る。案内もかねて、彼が先頭を歩かなければならない。
「大丈夫だ。その辺の妖魔くらいならおまえの気でも倒せる。任せた…。」
そう言って、正風は後ろに行ってしまう。勇太のすぐ後ろにみその、鏡華、彬、しんがりを正風と時雨が押さえた。
「いえ、子供は子供なんですけど、長い髪で、着物のような服を着た不思議な人だったんです。それに男子トイレだけじゃなくて、女子トイレにも出るっていうし…。」
ふと、足が止まる。北階段に差し掛かったのだ。
「ここも、不思議の一つ、次元階段です。ここを数えながら上ると最後の段に上る前に、どこか別の世界に飛ばされると、言われています。気をつけてくださいね。」
(と、言われても…)
彼らは思ったが口には出さなかった。数えながら上ると、ということは数えなければいいはずである。
でも、そう言われると何故か数えてしまうものだ。
(1.2.3.)
(4.5)
(6.7.8)
(9.10.11)
(…12…、13!)
「みなさん、あそこが…!?」
先頭を歩き、階段を昇りきって後ろを振り向いた勇太は唖然とした。背後をついてくるはずの彼らが誰一人いなかったからだ。
「みそのさん?師匠?彬さん?鏡華さん?…時雨さん?どこに行ったんです?」
自分のせいで、彼らに何かがあったら?蒼白になる勇太の頭に何かが伝わってきた。言葉ではない何か。どこかで体験した…感覚。
(心配はいらない。ちょっとしたテスト、というかお願いを頼んだ。彼らがそれを果たせば戻ってくる。こちらで待っていればいい。)
これが、テレパシーというものかもしれない。勇太は前を見た。感覚が自分を手招きする先を。
歩き出す。自分の目的地へ。彼らを信じて…。

「さて、次を…君、読んでくれますか?」
「えっ?」
自分にかけられた声に正風は顔を上げた。さっきまで自分は階段を上がっていたはずなのに、今、自分は教室で机に向かっている。
(何故?)
「どうしたんです?解りませんか?」
黒板の前には若い男性が窺うような顔を浮かべてみている。勇太のレポートを思い出した。
(真夜中、中等部3年B組の教室に、若い男性教師が現れる、熱血教師を目指したが、学級崩壊の上、病気で倒れたのが心残りで夜ごと教室で授業の練習をしているという…。)
こいつが、そうか…。マジマジと見つめる正風に彼はたじろいで一歩下がった。
机の上に何もないことに、また一歩。そして…
「やっぱり、僕の授業なんて、誰も聞いてくれないんだ。僕は、あの人みたいにはなれないんだ〜〜〜!」
勝手に悩んで勝手にキレた彼は頭を抱えてわめいた。
普通の人間なら放っておくところだが彼は幽霊、彼の怒鳴り声に合わせてイスや、机が空中を飛び回る。ポルターガイストが暴れる以上そのままにしておく訳にも行かない。
(仕方ないか…。)
手に剄の力を集め、机の下をくぐり、正風は彼に気を放った。
「ハアアッ!」
「うぎゅっ。」
武術家でもなんでもない普通の一般人(の幽霊)だった彼は避けることもなくあっけなく気を失い、倒れた。
机やイスががらがらと重力にしたがって落ちる。
ふうっと息をつくと、正風は幽霊が起きるのを黙って待つことにした。
「あ、あれ??」
「気が付いたか?」
幽霊に言うセリフではないと思ったが正風はそう声をかけた。
乱れた教室、そして、それを成してしまった自分自身を見つめ、彼はため息をついた。
「そうか、僕は…幽霊でしたね。もう、先生じゃない。やっぱり、テレビのようにはいかないんですね。」
テレビで憧れた教師のように、子供達と接して、彼らを導いていきたかった。でも…。
落ち込む彼を正風はポンと叩いた。
「俺は、あんたは、いい教師だと思うよ。先生。」
(先生…)
その名で呼ばれたのはどのくらいぶりだろう。彼は目を閉じた。子供に励まされ、子供を導き、そして教師は「先生」になるのだと、テレビで言っていたっけ。
自分も先生になれたのだろうか…。誰かの…、もう確かめるすべは無いけれど…。
「ねえ、君。」
「ん?なんです?先生。」
「僕には夢が一つあったんですよ。生徒と酒を酌み交わすっていう。もし、良ければ相手をしてくれませんか?」
あ、未成年はダメかな?そう呟く彼に正風は軽く首を振った。
「大丈夫だ。俺は実は…!」
「?」
「…なんでもない…。喜んでお相手するよ…。」
どこからともなく差し出されたグラスと、ウイスキーがそれぞれの手に握られた。
「乾杯!」
(チン)
鳴る筈の無いグラスの音が、正風には聞こえた気がした。
もう…彼の姿は見えない。
「天国で、いい先生になれよ…。あんたの生徒が待ってるさ…」
正風が置いたグラスも、彼の教科書も、彼の後を追うように静かに消えていった…。

正風は、我に帰った。目の前には心配そうに覗き込む勇太の顔が…。
「わっ!」
慌てて頭を振って顔を上げる。 正風は、周囲を見回す。周りでは仲間達がそれぞれの表情を浮かべながら立っていた。
自分を、そして勇太を見つめている…。
「良かった。皆さん無事で何よりです。」
「ここは…?」
「旧校舎 二階男子トイレ前です。もし、大丈夫なら…来てください。皆さんを待っている方がいるんです。」
(方?)
軽い疑問を目の端に浮かべたものもいた。だが、敵意は…感じない。
お互いに頷きあうと、彼らはそのトイレの扉を開けた…。

一人の子供が壁にもたれて立っていた。
「待ちくたびれたよ。やっと来てくれたか?」
真っ直ぐな黒髪、黒い瞳、典型的な日本の子供の外見をしている。服は、和服と貫頭衣を足して2で割ったような変わった装束。
女の子とも男の子とも見えるその人物は、外見に似合わぬ大人びた声で彼らを出迎えた。
すっとみそのが膝をつく。
「どうしたんだ?一体?」
不思議そうに聞く正風にみそのは目の前の人物を指し示した。
「あの方は、私が仕えていた方と同種の存在。」
「?」
意味が解らずはてなマークを浮かべる皆に勇太は簡単に説明した。
「このひとは竜神、いわばこの地を守る神と言える方なんです。」
「えっ?」
「神様〜?」
「トイレの花子さんが?」
「妖怪じゃなかったの?」
クッッ。四者四様の反応に「彼」(どちらかといえば男性に近いという)は吹き出した。。
「私は名乗った覚えはない。姿を見たもの達が勝手に花子さんと呼ぶようになっただけだ。私などよりもよほど有名なトイレの住人が人の世にはいるようだ。」
柔らかい物腰で笑う「彼」の言葉にみんながいっせいに勇太を見つめた。ちょっと冷たい視線…。
「ゆうた〜〜〜ぁ。」
「だって、あの、僕が言い出したわけじゃないし、みんがそう言っててだから、あの…。」
「まあ、そう責めないで。彼を呼んだのは人間である皆に、お願いしたいことがあったからなのだ。私の用件を聞いてもらえないか?」
正風の頭ぐりぐり攻撃になすすべなく手を上げていた勇太。庇うよう発せられたその言葉に皆は頷き「彼」を見た。
みそのも、正風も、勇太も。すべての視線を受けたことを確認すると窓の外を見ながらゆっくりと語り始めた。
「私は、この地の泉を守る竜神と呼ばれるもの。ひっそりと祀られていたが、戦後人々は泉を埋めここに学び舎を建てた。結果私はその力の多くを失った…。」
人外のものは外見が力を表す。だからこの姿になったのだと寂しそうに「彼」は笑った。
言葉を発するものは誰もいない。古くより地に住まう人外の者達の居場所を奪ってきたのは誰であろう人なのでだから…。申し訳無さそうな表情を浮かべる人間達に「彼」は軽く手を振る。
「別に気にする必要はない。私は私なりにここは気に入っている。若人の姿を見るのは楽しいことだ。ただ…。」
「彼」は言いよどんだ。勇太が後を続ける。
「長いことこの学校の正門の近くにあった祠が、最近理事長の像を作るために動かされたんだ。その方角が鬼門で学校を守る力が仕えなくなったって言うんだよ。」
ああ、と思い出すものもいる。そう言えばそんなものが確か…。
「本当の悪霊を近づけないために、学校に親しい霊たちをこの地に括ってしまったのは私だ。祠が元の場所に戻れば必要は無いが、私には現実に介入する力や、自分の祠を動かす力は無いのでな。
今は、不浄であっても、人と、水の気が動くここに姿を映し出すのが精一杯なのだ。だから…。」
だから、勇太を呼んだ。勇太の背後にいる自分達のような存在もおそらく計算に入れて…。
(なら、…僕がやるべきことは…)
小さく息をつき、時雨が立ち上がって外に出る。後に続くように、正風が、彬が、追って鏡華も…。
「おまえ達…。」
「ご心配には及びません。皆、何をすべきかちゃんと解っていますわ。」
微笑んでみそのも後を追った。勇太もお辞儀をして皆を追いかける。
「…人というのはだから、見捨てられぬな…。」
囁くような言葉は消えた。探偵たちを見送った「彼」の姿と共に…。

「ここ、ですわね。気の力の中心、あるべき場所は…。」
みそのと、勇太の指示で、彼らは石像をずらし、祠を元の場所へと動かした。
「…お・重い…。」
「鏡華、おめえも手伝えよ。」
「イヤです。僕の細腕にはそういうお仕事は向きません。」
男3人は力を合わせた。
思わぬ力仕事である。だが、こういうことに「力」は使えない。人間の力でやらなくては…。
「よ〜〜いしょおお!!」
カチッ。
あるべきものが、あるべき場所に戻ったとき、何かが嵌ったような小さな音と共に、学校全体が不思議な力に包まれる。
「ふう、上手くいったみたいだね。」
彬の声に答えるように祠の上の空間がゆらりと揺れて、「彼」が姿を表した。
「ありがとう。こころから感謝する。」
頭を下げられ、彼らは照れくさそうに笑う。
「だけど〜、このままだと、また祠、移動されちゃいません?」
「それなら、いい考えがあるよ。」
一番、学校に近い立場だった彬が勇太を手招きして耳打ちする。それに聞き耳を立てるように「彼」も聞いている。やがて、サムズアップ。了解のサインをして勇太は笑った。
皆も、それを聞いて大笑いし、それを実行に移す、やや過剰な演出をしたことを付け加えておこう。

翌日、学校中の噂になったことがあった。
学校の正門の横にいつの間にか移った祠と、それに跪くように地に伏した理事長像。
学生に紛れて噂を煽った彬とみそのと鏡華、学生から取材と称してその話を聞き、さらに煽ったのは時雨と正風。おまけに内部から勇太も話を盛り上げて、やがて柳城学園に新しい不思議が生まれた。
「夜中に歩く理事長像」と「守りの祠」
学校側も、無理にまた祠を移動するようなことはしなかったという。

「で、勇太。学校の不思議は七つに戻ったのか?」
「それが、結構学校が好きな連中が多かったらしくて、皆さんが祓ってくれた連中以外は、まだ
学校に残ってるみたいなんですよ。」
「新しい不思議も増えたしな。今度は十三不思議にでもなったりして…」
「こらっ!二人とも、原稿はできたの?正風君、あなたも彼の師匠なら文章でもしっかりお手本
見せなさいよ!」
碇編集長の怒鳴り声に、応接間で顔を見合わせると、原稿を差し出した。

アトラスの記事をめくりながら…思い出す。
門をくぐり、帰路についたとき、ふと後ろを振り返った後ろで輝いた、人には見えない、優しい光…。
知ろうと思わなければ知ることのない、異界の門は、すぐ隣に存在する。

報酬代わりにもらった制服をそっと手でなぞる。
同じ制服を纏った幸せな「知らない」子達の分も、せめて、自分達は忘れないでいよう。

見えない、でも確実に存在するものたちの、密かな囁きを…。
自分達は、この世界に、守られて生きているのだと…。


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■   登場人物                  ■
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【0391 / 雪ノ下・正風 / 男 / 22歳 / オカルトライター】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13歳 / 深淵の巫女】
【1564 / 五降臨・時雨 / 男 / 25歳 / 殺し屋】
【1712 / 陵・彬 / 男 / 19歳 / 大学生】
【1768 / 乾・鏡華 / 男 / 19歳 / 小説家】

NPC 西尾 勇太 男 14歳 中学生

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■         ライター通信          ■
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ライターの夢村まどかです。今回はご参加くださりありがとうございます。
ご期待に添えましたでしょうか?

NPC 西尾勇太はいじめから立ち直ったライター見習い少年。
前回の話で、皆さんに助けていただき、以後、私の作品(特にアトラス)での案内役と、狂言回しを務める予定です。
正風さんには、最初の依頼のとき積極的に関わって頂いたので、少し特別な対応をさせて頂いております。(ご了承下さい。)

今回の学校の怪談編でではお一人に一つずつ霊たちni
関わって頂きました。
他の怪談に興味のあるかたは合わせてご覧下さい。

正風さんには、「真夜中の教師」の解決をお願いしました。
先生の気持ちを解ってくれそうなのは正風さんだと思いましたので。

何故、「花子さん」が彼を呼んだのか、そこまで突っ込んで下さった方がいた場合は次元階段での対応が変わったのですが…。
ちなみに、柳城は竜城が転じた地名=学校名だったのはおまけ設定です。

ご参加下りありがとうございました。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
感想やご意見がありましたらお知らせください。

またの機会にお会いできることを祈って。。