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<東京怪談ノベル(シングル)>


The promise of an afternoon

 空は爽やかに晴れていた。
 初夏を感じさせる日の光は、優しく室内を照らし出している。
 柔らかい日の光の中で昼食を終えたみかねは、食べ終ったごはんのお皿を流しへと運ぶ。
「はい。お母さん」
「ありがとう」
 台所に残る母に手渡すと洗い物をする母はにっこりと答えた。
 水道の水が流れる音と、カチャカチャというお皿を洗う音を耳に入れながらも、窓際のソファーには新聞を読みつつ居眠りをする父の姿が。
 そんな穏やかな休日の午後。
 もう子供ではないけど、やはり家族が揃っているとほっとする。
 何気ない風景であったが、そう思うみかねであった。
 リビングへと移動したみかねは、パタパタとソファー座り、テレビのリモコンを手に取った。
 幾つかの操作をしテレビをつける。
 テレビに映し出されたのは、リアルタイムで流れる番組ではなく先日借りたDVDであった。
 貸してくれたのは三つ年上のみかねの恋人である。
 ずっと好きだったこの想いが通じたのは、ある冬の日の事であった。
 みかねは、リモコン片手にぼうっとテレビに見入った。
 今頃、試験の勉強中かなぁ。
 みかねと違い高校生の彼には、近く模擬試験があるという。
 今はその勉強中のはずであった。
 みかねは手にしたリモコンを、コロッとテーブルに転がしてみる。
「今頃、どうしてるのかなぁ…」
 テレビの中に向かって呟くものの、テレビは答えてくれない。
 逢いたい、と思う。
 でも勉強の邪魔はしたくない。
 それでも逢いたいのだ。
 相容れぬそんな思いに、みかねはふぅっと小さく吐息をついて、ソファーにもたれた。
 やがて洗い物を済ませた母も、共にソファーに座りテレビに向う。
 しばらく流れる映像に見入っていた母だが、どこか上の空のみかねにニヤリと笑った。
「みかね、最近かっこいい男の子と一緒にいるじゃない」
 母の言葉に、反射的に頬を染めるみかね。
「べ、別に…」
「すみにおけないわねぇ。今度紹介しなさいよ」
 そう言って、母はさらにみかねをつつく。
「今は勉強で急がしからダメ!」
 からかい大いに含んだ母の言葉に、みかねは思わずそう叫しまった。
 叫んでだみかねは、だんだんと赤くなる頬を手で押さる。
「……」
 横目で見る母の目は、相変わらず笑っている。
「もう!」
 やまぬ母の視線に、みかねは自分の部屋に駆け込んだ。
 相変わらずクスクス笑う母の声が、後ろから聞えていた。


 部屋に入り一人になると、みかねはベットにごろりと横になり、手じかにあったクッションを抱きしめた。
 ぎゅっと抱きしめると、微かに胸の鼓動が早い。
 そっと閉じたまぶたの裏には、その姿が浮かんでいた。
 ……さん。
 微かに名を呼ぶ。
 きっと、今頃勉強してるのだろう。
 そう思いながらも、視線は机の上の携帯電話に。
 電話…しないほうがいいよね。
 そう思うのだが…思いとは裏腹に携帯電話に手掛かる。
 ちょっと、ちょっとだけなら。
 DVDも返さなければならないし…ちょっと逢うぐらいなら…。
 いけないとは思いつつも、起き上がるとみかねは携帯電話を手に取っていた。
 ちょっと…ちょっとぐらいなら。
 そう心の中で言い訳して、慣れない手付きでメールを打ち込んだ。
『お勉強中忙しい時にごめんなさい。今度、時間の空いた時でいいので、DVDを返そうかと思って…』
 打ち込んで、何度も何度も読み返す。
 うん、変な所ないよね?
 それでもちょっと躊躇って…、思い切って送信ボタンを押した。
 送っちゃった…。
 もう、何があってもあのメールをなかった事には出来ない。
 あのメールの内容を見て、なんて思うだろう?
 迷惑だったかなぁ…。
 なんとなく、不安になって携帯電話のモニターを睨み付けた。
 一体どんな返事が来るのか…。
 待ちどうしいような、見たくないような複雑な気分でいると、唐突に鳴り出した携帯にみかねは急いで携帯電話を手に取った。
 表示される手紙の表示に、胸が微かに高鳴る。
 一体、なんて書いてあるんだろう?
 開いたそこ書いてあった言葉は…。
『いまからそっち取りにいっていい?』
 見た瞬間、嬉しくて、クッションを天井に投げた。
 近くのクマのぬいぐるみに、チュっとキスをする。
「あ、そうだ。着替えなきゃ!」
 そう言って、みかねは慌ててクローゼットを開いた。
 もう少し逢える。
 そう思うと自然と頬がほころぶみかねであった。