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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ある犯人の不幸。


 〆切あけから数日。
 嵐のような慌ただしさが静まり、のんびりしつつもそろそろ次の記事のネタが欲しいところだっだ。
 そんなほのぼのとした空間。
「てめぇら、大人しく手を挙げやがれ!!」
「た、助けてくださーーーい!!!」
 銀行強盗で追い詰められた犯人が銃を振り回し、三下を人質に取っている以外はいたって平和な光景である。
 編集者やたまたま居合わせた客なんかがほのぼのとお茶をすすったり本を読んでたりした。
 まあ、当然と言えば当然だろう。
 ここには犯人一人ぐらい、瞬きする程度の時間があれば楽に叩きつぶせる人材集っているのだから。
「………ネタにしますか?」
「そうね、怪奇事件じゃないけどいいでしう」
 ネタが向こうから飛び込んでくるのなら、願ったり叶ったりの話だ。
「じゃあおもしろおかしくした方がいいですね?」
「それは良い案ね」
 明らかに物騒な夜倉木有悟(やぐらぎ・ゆうご)の提案に碇・麗香はあっさりと賛同した。

【ステラ・ミラ】

 そのやりとりを耳にして、『おもしろおかしく』と言う単語にステラ・ミラ反応してしまった。
 見た目こそ腰まで届く漆黒の髪に、闇のように深い瞳。
 そう言った近寄りがたい印象であるのに……彼女は『親切』であり、同時に『好奇心も旺盛』であった。
「助けてくださいよ〜」
「動くんじゃねぇ!!!」
 三下の悲鳴と犯人の怒鳴り声を前に、ステラが考えた事は、いかに被害を出さずに面白くできるかである。
 普通に考えれば、物の数秒で犯人は制圧できる。
 あそこでお茶を飲んでいる九尾桐伯(きゅうび・とうはく)と海原みその(うなばら・みその)と綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)の3人。
 それから今来たばかりの光月羽澄(こうづき・はずみ)が広げたお菓子をのぞき込む瀬川・蓮(せがわ・れん)。
「ボクも食べていいかなぁ?」
 驚いて麗香が横を向く。
「いつから居たの?」
「ついさっきだよ」
 すぐ側に現れた少年……瀬川蓮(せがわ・れん)は麗香の隣を陣取り、入れたばかりのミルクティーを飲んでいる。
「もちろんいいわよ」
「ありがとう」
 羽澄が持ってきたパウンドケーキを取りだし、まずは一口。
「凄いおいしいねぇ」
 嬉しそうに笑う連に、羽澄も微笑み返す。
 非常になごやかな光景だった。
 サッと考えをまとめ上げ今はそのチャンスを待つ事にした。
 いたって冷静な行動を取る一同に、とうとう犯人が頭に来たようである。まあ当然だろう。
「ちくしょう!!!」
 男が銃を上に向け。トリガーを引く。
 威嚇でもしたかったのか……それは何の効果も現さなかった。
「……あれ? え?」
 二度、三度と引き金を引き……銃を振り回すとカシャンと音を立てて撃針が落ちる。
「ああああああ……」
 目を丸くする犯人に、見ている方は大笑いだ。
「わはははははは!!!」
「面白い事してるなぁ」
 大笑いする夜倉木に、完全に犯人をバカにしている蓮。
「く、くそっ!」
 壊れた銃を放り捨て、背後に手を回しもう一丁の銃を取り出す。
「まだあったんですね」
 あげ書けた桐伯の手を、汐耶が大丈夫と片手をあげる。
「一回怖い目見ねぇとわかんねぇ様だな」
 三下のこめかみに銃口を当てて引き金を引くが……。
 カチ、ン。
 またもや不発だった。
「な、な、な………」
 音はすれこそ、どうやっても弾丸は出ないようである。
 やはり何かをしたのだろう。
「封印させて貰いました」
「汐耶さんもやりますね」
「それほどでも」
 いくら銃を持っていたとしても、ここでは男は完全にいいオモチャだった。
「さて、そろそろいいでしょうかね」
「なにするの?」
「さあ?」
 何かを企んでいるような笑みである。
「ちくしょぉぉ!!」
「離してくださいよぉ」
 まだまだ元気に藻掻く三下は大丈夫だろうが、これ以上被害を広げるのもどうかとは考えた。
「ここに立てこもって、どうにかなると思っているんですか?」
「なっ、なんだと!?」
「そうよね、強盗して逃亡って話だけど……今頃警察が沢山いるだろうし」
 冷静すぎる汐耶と羽澄の言葉に腹が立ったのかにらみ返すが、二人の冷ややかな視線にすぐに怒鳴る事でその場を誤魔化した。
「だから今こうして考えてるんだ!!!」
「立てこもり犯にも色々ありますが、大抵上手く行かないものですよ。諦めたらどうです?」
「だまれ……」
 簡単に言い負かせる辺り、彼の未来は真っ暗だ。
「うるせぇ!!!」
 地団駄を踏んでいた足が、投げ捨てた拳銃を踏みバランスを崩す。
「うお!?」
「うわあ!?」
 三下もそれに吊られて倒れ書けてバランスを取ろうとばたつかせた手が、ついたてに当たり二人目掛けて倒れてくる。
「うわあ!」
 何とか飛び退いたが、三下を離せばいい物を、焦っていたのか人質という意識を捨てきれなかったのか捕まえたままだ。
 だからなおも混乱した三下が暴れて今度は側にあったポットを二人してかぶる事になる。
「うわちぃ!!」
「ぎゃー!」
 コードに足を取られ、観葉植物に突っ込み、上から段ボールが落下してきて、戸棚にぶつかり、転んだところにローラー付き椅子があり転がっていった。
 夜倉木はともかく、麗香に被害が及ぶ事も考慮して近くによりながら話し声で飛んできた物を防いでおく。
「わあああああ……」
 物が次々と壊れていく中、麗香はいい顔をしていないが……悪いのは三下だ。
「もったく………これじゃ給料から引いたって足りないわ」
 さすが不幸の女神に愛されているだけの事はある。
 壁に衝突して止まり、よろけながら壁に手を付き立ち上がった。
 ジリリリリリリリリ!!!
「な、誰が警報装置押しやがった!?」
 まだそんな事を言う余裕があったのか、そう思いながら……一同の視線が男の手元に集まる。
「……え?」
 警報装置のスイッチを押していたのは、他でもない男の手だった。
 そこから先は急展開。
 元々警察が追っていた事もあるのだろうが、あっと言う間に外に警察やら報道記者や野次馬で埋め尽くされていた。
「あ、あああ……」
 うなだれる男に降伏を余所に、ステラは虚空から取りだしたショットガンを麗香に突きつける。
「………え?」
「手を挙げてください、麗香様、それから夜倉木様も下がっててくださいな」
 言われたとおり、手を挙げたり下がったりしている事に蓮も気付いて話しかけてきた。
「何してるのぉ?」
「犯人とやらに協力してみようかと思いまして」
 この方が面白いに違いない。
「ボクモ混ぜて〜」
「いいですよ」
 協力者は多いほうがいい、無表情のままうなずくステラ。
「あなたたち………」
「ご安心下さい、大人しくしていただければ悪いようには致しません」
 両手をあげている麗香にショットガンを突きつけたまま、連にもライフルを渡してくれた。
 なんとなく構え、引き金を引く。
「こうなったらこいつだけでも殺してやるぅぅぅぅ」
「ひいいいい!!!」
 転がっていた植木鉢を、高く掲げ振り下ろす間際。

 バアン!

 何かに打ち抜かれ、陶器でてきていたそれが土と共に四散した。
「…………は?」
 静まりかえる編集部。
 壁にハッキリと残る銃痕。
 呆然と見守る一同の視線が集まる。
「結構威力あるね、ボク驚いちゃったよ」
「誤解無きようにいっておきますが、私は共犯になってみようと思いましたので……撃とうと思った訳ではないんですよ」
「そうそう、今のは暴発だよ」
 言っている事も、やっている事もメチャクチャだった。
「立ちなよおじさん」
 ショットガンを押しつけられ、完全になすがままになった男に電話を取れと言う。
「ご安心してください、私たちが協力するからには、立派な立てこもり犯のあり方を伝授して差し上げますから」
「がんばってねぇ〜」
 こうして水面下では、事件は崖から落ちる勢いで悪化した訳である。



 本物よりも遙かに手際よく事を進めていくステラと蓮のおかげで、只の立てこもり犯は明らかに重犯罪者のレッテルを貼られていた。
 ちなみにテレビで流れて始めて知ったのだが、男の名は竹中原六助(たけなかはら・ろくすけ)22才だそうである。
「まずは犯行声明ですね、意志を明確にさせませんと踏み込んできてしまいかねません」
「じゃあ警察がこれないように、面白そうな脅し文句考えないとね」
 そうしてステラと蓮の二人で考えた脅迫文を犯人に突きつける。
 一瞬にして、面白いように竹中原が青ざめた。
「こ、これ、これ……」
「上手く読んでくださいね」
「失敗したら当たっちゃうかもよ」
 ライフルなんかで撃たれたら、死んでしまう。
 二回深呼吸してから、電話をかけ文面を読み上げる。
「この編集部は俺が占拠した、こちらの手を空かすようなマネは一切しない。質問も許さない。気にくわないような事をしたら人質を……」
 具いっ、ライフルの先端補を押しつけられ、慌てて後を続ける。
「人質をパーツに分けて、窓からばらまいてやる。踏み込むようなマネをしたら人質事ここを爆破する。こちらにはそれだけの事が出来る事を覚えておけ」
 命がかかっているだけあって、迫真の演技だった。
「では要求をする、一度しか言わないからよく聞け。逃走用の飛行機と車を一台ずつ、ワゴン車で窓にはフィルターをかけておけ。それが用意できる間の酒と食事、まずかったり安物だったら人質を料理してやるからな。そして3億も用意しろ、番号は全て不揃い使用済み意外は認めない。他に要求が出来たら連絡する」
 男が引きつり、受話器を置く。
 少し遅れてからテレビから歓声が上がる。
 それを見た竹中原は……わあっと、と崩れ落ちて泣き始めた。
「やれば出来るんだねぇ」
「優秀な犯罪者になれます」
「嫌だ……いやだぁぁぁぁ!!!」
 のたうち犯人はさておき、考えないとならないのが警察の対応である。
「警察の方は任せて、ボクが呼び出したモノ達で調べさせるから」
「では私は盗聴器や発信器の対策を練っておきます」
 向こうの手の内を探るのも、盗聴妨害も簡単な事だった。
 相手はただの人だと思って対処しているのだから、ステラや蓮の能力で簡単にこなせてしまう。
 この場合は力を使い盗聴器を妨害すればいいだけの事である。
 相手は電波妨害の機器を使っていると勝手に考えてくれるだろう。
 こうして、外の緊張状態とは裏腹にアトラス内部での宴会が始まった訳である。
 高級中華に特上寿司更にはテイクアウトのフレンチ、ワインにビールに日本酒まで各種取りそろえてあった。
 国家権力というのもなかなか侮れない。
 まあ、皿や何やらにいたる所にしかけてあった小型の発信器はステラに全て無効かされているのだから、警察のメンツとしては丸つぶれである事はおいておく。
 今は目の前の料理の方が重要だ。
 器用にナイフとフォークでオードブルを切り分け口に運ぶステラ。
 フカヒレの姿煮を食べる蓮。
「ワインは如何ですか、麗香様」
「いただくわ……」
「なかなか良いワインですね」
「……銃口がこっちを向いてなかったらもっとおいしく感じたと思うのよね」
 半眼で恨めしそう二に見る視線はさておき、やっぱりどうしても不幸なのは三下。
「何で僕は食べたらダメなんですかー?」
「どうしよっかなぁ」
 見せつけるように、上トロを食べる。
 しかもネタだけという羨ましい事この上ない具合だ。
「そんな事言わないで下さいよ〜」
「じゃあご飯だけあげるよ」
 同情したと見せかけて、残ったご飯を分けて置くと三下はそれを泣きながら食べはじめている。
 そこに蓮がはなっていたモノが、向こうの話を伝えてきた。
「車の用意がもう少しみたいだって」
「そうですか、では……乗り込む所を見えないようにして貰わないとですね」
 紙に台詞を書き込み、竹中原に渡す。
「どうぞ」
「……う、うう」
 さっき見ていたテレビに母親が出ていたショックが大きいようだったが、蓮がカチャリとライフルを持ち上げた事で素直に紙を受け取る。
「『車の用意が出来たら、そこに金を積み込んで入り口の前に寄せろ。それから回りにテントを張って乗り込むところが見えないようにする事も忘れるな』」
 そこで受話器を置き、ふらふらと二.三歩歩いてからへたり込んだ。
「これで後は待つだけです」
「楽しみだねぇ」
 テレビで解るのだが、警察も準備が出来たを知らせるための電話をかけてくる。
「ではまた電話をよろしくお願いします」
「うう……」
 震える手で受話器を握り、紙に書かれた事を読み上げていく。
「『逃走の邪魔をしたら人質は死ぬ。こちらにはスイッチ一つでフロア事消せる事を覚えておけ。合図があるまで突入しても同じ事だ』」
 受話器を置く。
 デスクに両手をつきうなだれる後ろ姿に、みあおが声をかける。
「どうして泣くぐらいならこんな事するの?」
「…………なんでだろうなぁ……?」
 もう涙も出ないようだった。
「どなたかご一緒しますか?」
 一斉に首をふる面々、これ以上の厄介事には巻き込まれたくはない。
「まあいっか、じゃあねぇ」
 碇と三下を人質にしたまま、今なお泣いてる竹中原を先頭に編集部から出ていった。
「どうするつもりなんですかね」
「さあ」
 車に乗り込む姿は、巧妙に隠されている。
「では運転をどうぞ」
 ワゴンの運転席に竹中原が乗り、後部座席にステラと蓮。そして疲れ切った様子の麗香と三下を乗せて発車する。
「運転、しっかりして下さいね」
 注意を促し、車を走らせている最中に一度鞄の中の札束を全部取り出す。
「うわぁ、凄いですねぇ!」
「三下君……」
「ごめんなさい……」
 小さくなる三下は置いて置いて、ステラはお札をサッと広げ中に仕込んである発信器を外して再び鞄の中に戻す。
「このように外すのを手伝って下さい」
 つまりは、そう言う事なのだろう。
「がんばろーっと」
 しばらくして、鞄の中に入っていた発信器はすべて外し終えた。
「では行きましょうか」
「へ?」
 視界がぶれた次の瞬間。
 見慣れた光景がそこに広がっていた。
 つまりはアトラス編集部に戻ってきた訳である。
「皆様お疲れさまでした」
「あー、おもしろかった」
 一斉に振り返る一同。
「え?」
「いつのまに!?」
「お気になさらないでください」
 妙に鞄に視線が集まっているのは、中に何が入っているか解っているからだろう。
「あなたたち……」
「怒らないでください、麗香様。三下様を助けるためにはこれしか方法がなかったものですから」
「人質に取る必要があったのかしら?」
「三下様が撃たれないようにと意外な事をしてみようと思いまして」
「どうしてごちそうが必要だったのかしら?」
「犯人の気を紛らわせるためです」
 あくまでも無表情のまま、言ってのける。
「では、失礼しました」
 そして姿を消すステラ。
 本当に面倒だったのはまあ、その後の話だがもはや関係のない話だ。

 数々の本棚と、古本に囲まれながらテレビを眺める。
『今犯人が捕らえられ……人質が解放された模様です!!』
 慌ただしく動く機動隊の様子を事細かにニュースキャスターが説明していたり、勝手な憶測を並べ立てている。
『無抵抗のまま捕まりましたが、何を考えているんでしょうね』
『最近ゲーム感覚での犯行が多いですから、もしかしたらゲームオーバーだとか思っているのかも知れませんよ』
 もちろん原因は、酷い目にあった後遺症なのだが。
「怖い事件もあるものですね」
「原因……」
「何か言いましたか、オーロラ?」
「………いえ」
 世の中物騒になったものである。



     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0332 / 九尾・桐伯 / 男性 / 27 / バーテンダー 】
【1057 / ステラ・ミラ / 女性 / 999 / 古本屋店主 】
【1282 / 光月・羽澄 / 女性 / 18 / 高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員 】
【1415 / 海原・みあお / 女性 / 13 / 小学生 】
【1449 / 綾和泉・汐耶 / 女性 / 23 / 司書 】
【1790 / 瀬川・蓮 / 男性  / 13 / ストリートキッド(デビルサモナー) 】

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■         ライター通信          ■
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【ある犯人の不幸。】にご参加いただきありがとうございました。

今回はコミカルでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?
プレイングもオープニングの会話から犯人をからかってくれる内容が書かれていたので書きやすかったです。
それに犯人に協力するというかたもいらしてくれたので話が膨らみました、ありがとうございます。
そしてやはりというかなんというか………三下の扱いが素敵でした。
ごちそうさまです。
三下君は本当に愛されていますね。

ご意見ご感想等お聞かせ下されば今後の励みになります。
皆様、ありがとうございました。