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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


ある犯人の不幸。


 〆切あけから数日。
 嵐のような慌ただしさが静まり、のんびりしつつもそろそろ次の記事のネタが欲しいところだっだ。
 そんなほのぼのとした空間。
「てめぇら、大人しく手を挙げやがれ!!」
「た、助けてくださーーーい!!!」
 銀行強盗で追い詰められた犯人が銃を振り回し、三下を人質に取っている以外はいたって平和な光景である。
 編集者やたまたま居合わせた客なんかがほのぼのとお茶をすすったり本を読んでたりした。
 まあ、当然と言えば当然だろう。
 ここには犯人一人ぐらい、瞬きする程度の時間があれば楽に叩きつぶせる人材集っているのだから。
「………ネタにしますか?」
「そうね、怪奇事件じゃないけどいいでしう」
 ネタが向こうから飛び込んでくるのなら、願ったり叶ったりの話だ。
「じゃあおもしろおかしくした方がいいですね?」
「それは良い案ね」
 明らかに物騒な夜倉木有悟(やぐらぎ・ゆうご)の提案に碇・麗香はあっさりと賛同した。

【海原・みあお】

 夏休みが始まって少し立った頃、海原みあおが絵日記の題材探しもかねて遊びに来たアトラス編集部でその事件は起こった。
「助けてくださいよ〜」
「動くんじゃねぇ!!!」
 テレビとかでよく見る光景だったが、誰一人として慌てる様子はなくむしろ楽しんでいるような雰囲気が漂っている。
 だからみあおも安心して、マグカップに注いで貰ったロイヤルミルクティーを飲んでいた。
 肩辺りでそろえられさらさらとたキレイな銀髪に、同じく銀の瞳。華奢で小柄な体型が非常に微笑ましく、守りたくなるような容姿である。
「せっかく一息ついたところだったんだけれど……楽しそうな提案だと思います」
 ほんの少し眼鏡越しに三下を見てから、そう言った綾和泉汐耶(あやいずみ・せきや)はなかなかに物騒な発言をするが、それもその気になればこの場はすぐに片づくという考えが合ってこそだ。
「でも離れてないと危ないかもだよね」
「そうですね、まあ三下さんに近づかなければ大丈夫でしょう」
 両手でマグカップを持ちながら、三下の方を見たみあおの意見に頷いてくれた彼、九尾桐伯(きゅうひ・とうはく)の言うとおり、三下に降りかかる不幸の方が危険な時がある。
 そこに普通にノックが響き、ドアが開いた。「こんにちは」
 丁重に包まれた紙袋と綺麗な箱に収められた菓子箱を持って訪れた光月羽澄(こうづき・はすみ)がアトラス編集部に着くなり見た光景がそれだった。
 物騒な騒ぎは、おおむねいつもの出来事である。
 さして気にした様子もなく、あいているところを見つけおいておく。
「碇さん、これお借りしてた資料です。ありがとうございました。それとパウンドケーキとクッキーが美味くできたから差し入れにどうぞ」
「ありがとう、そこでお茶してる人たちにあげたら喜ぶと思うわ」
「良くできてますね」
 こころよく礼を言う麗香と夜倉木はさておき、ようやく羽澄は悲鳴を上げ続けている三下に視線を移す。
「ここ、あまりクーラー効いてないのよ。人の好みに口出す気はないけど、男同士でくっつかないでくれる?見てるだけで暑苦しいわ」
「そんなぁ!!! 酷いですよぉ〜〜」
「あれか? 自称強盗だと言ってる、面白そうだから放っておいてるけどな」
「そう言えば拳銃も持ってるわね」
 入ってきた角度からじゃ見えなかったが、こうしてここに立ってみれば確かに解る。
「ボクも食べていいかなぁ?」
 それまでは一度も耳にした事のない声に麗香は驚いて隣を見た。
「いつから居たの?」
「ついさっきだよ」
 すぐ側に、気配も感じさせずないで現れた少年……瀬川蓮(せがわ・れん)は麗香の隣を陣取り、入れたばかりのミルクティーを飲んでいる。
「もちろんいいわよ」
「ありがとう」
 羽澄が持ってきたパウンドケーキを取りだし、まずは一口。
「凄いおいしいねぇ」
 嬉しそうに笑う連に、羽澄も微笑み返す。
 非常になごやかな光景だった。
 そのやりとりを耳にして、今まで傍観に徹していたステラ・ミラの耳に残っていたのが『おもしろおかしく』と言う単語である。
 ……彼女は『親切』であり、同時に『好奇心も旺盛』でもあった。
「俺を無視するな!!!」
「痛いです〜」
 三下の悲鳴と犯人の怒鳴り声を前に、ステラが考えた事は、いかに被害を出さずに面白くできるかである。
 サッと考えをまとめ上げ今はそのチャンスを待つ事にした。
 いたって冷静な行動を取る一同に、とうとう犯人が頭に来たようである。まあ当然だろう。
「ちくしょう!!!」
 男が銃を上に向け。トリガーを引く。
 威嚇でもしたかったのか……それは何の効果も現さなかった。
「……あれ? え?」
 二度、三度と引き金を引き……銃を振り回すとカシャンと音を立てて撃針が落ちる。
「ああああああ……」
 目を丸くする犯人に、見ている方は大笑いだ。
「わはははははは!!!」
「面白い事してるなぁ」
 なかなかに喜んで貰えたようではある。
 満足気に羽澄が作ってくれたクッキーをかじった。
「いい出来ですね、羽澄さん」
「おいしそうだねぇ、みあおもいただきまーす」
「ありがとう」
 ニッコリと微笑む。
 だが……。
「く、くそっ!」
 壊れた銃を放り捨て、背後に手を回しもう一丁の銃を取り出す。
「まだあったんですね」
 もう一度と思ったのだが、汐耶が大丈夫ですと片手をあげる。
「一回怖い目見ねぇとわかんねぇ様だな」
 三下のこめかみに銃口を当てて引き金を引くが……。
 カチ、リ。
 またもや不発だった。
「な、な、な………」
 カチンと音はすれこそ、どうやっても弾丸は出ないようである。
 やはり何かをしたのだろう。
「封印させて貰いました」
「汐耶さんもやりますね」
「それほどでも」
 いくら銃を持っていたとしても、ここでは男は完全にいいオモチャだった。
「さて、そろそろいいでしょうかね」
「なにするの?」
「さあ?」
 何かを企んでいるような笑みである。
「ちくしょぉぉ!!」
「離してくださいよぉ」
 まだまだ元気に藻掻く三下は大丈夫だろうが、これ以上被害を広げるのもどうかとは考えた。
「ここに立てこもって、どうにかなると思っているんですか?」
「なっ、なんだと!?」
「そうよね、強盗して逃亡って話だけど……今頃警察が沢山いるだろうし」
 冷静すぎる汐耶と羽澄の言葉に腹が立ったのかにらみ返すが、二人の冷ややかな視線にすぐに怒鳴る事でその場を誤魔化した。
「だから今こうして考えてるんだ!!!」
「立てこもり犯にも色々ありますが、大抵上手く行かないものですよ。諦めたらどうです?」
「だまれ……」
 簡単に言い負かせる辺り、彼の未来は真っ暗だ。
「うるせぇ!!!」
 地団駄を踏んでいた足が、投げ捨てた拳銃を踏みバランスを崩す。
「うお!?」
「うわあ!?」
 三下もそれに吊られて倒れ書けてバランスを取ろうとばたつかせた手が、ついたてに当たり二人目掛けて倒れてくる。
「うわ!」
 何とか飛び退いたが、三下を離せばいい物を、焦っていたのか人質という意識を捨てきれなかったのか捕まえたままだ。
 だからなおも混乱した三下が暴れて今度は側にあったポットを二人してかぶる事になる。
「うわちぃ!!」
「ぎゃー!」
 コードに足を取られ、観葉植物に突っ込み、上から段ボールが落下してきて、戸棚にぶつかり、転んだところにローラー付き椅子があり転がっていった。
「わあああああ……」
 物が次々と壊れていく中、麗香はいい顔をしていないが……悪いのは三下だ。
 さすが不幸の女神に愛されているだけの事はある。
 壁に衝突して止まり、よろけながら壁に手を付き立ち上がった。
 ジリリリリリリリリ!!!
「な、誰が警報装置押しやがった!?」
 まだそんな事を言う余裕があったのか、そう思いながら……一同の視線が男の手元に集まる。
「……え?」
 警報装置のスイッチを押していたのは、他でもない男の手だった。
 そこから先は急展開。
 元々警察が追っていた事もあるのだろうが、あっと言う間に外に警察やら報道記者や野次馬で埋め尽くされていた。
「あ、あああ……」
 うなだれる男は、あっさりと立ち直った。
「こうなったらこいつだけでも殺してやるぅぅぅぅ」
「ひいいいい!!!」
 転がっていた植木鉢を、高く掲げ振り下ろす間際。

 バアン!

 何かに打ち抜かれ、陶器でてきていたそれが土と共に四散した。
「…………は?」
 静まりかえる編集部。
 壁にハッキリと残る銃痕。
 撃った方向を見れば、そこには手を挙げた麗香にショットガンを突きつけているステラ。
 そして、ゆっくりと白い煙を上げているライフルを構えた蓮。
 呆然と見守る一同。
「結構威力あるね、ボク驚いちゃったよ」
「誤解無きようにいっておきますが、私は共犯になってみようと思いましたので……撃とうと思った訳ではないんですよ」
「そうそう、今のは暴発だよ」
 言っている事も、やっている事もメチャクチャだった。
「立ちなよおじさん」
 ショットガンを押しつけられ、完全になすがままになった男に電話を取れと言う。
「ご安心してください、私たちが協力するからには、立派な立てこもり犯のあり方を伝授して差し上げますから」
「がんばってねぇ〜」
 こうして水面下では、事件は崖から落ちる勢いで悪化した訳である。



 本物よりも遙かに手際よく事を進めていくステラと蓮のおかげで、只の立てこもり犯は明らかに重犯罪者のレッテルを貼られていた。
 ちなみにテレビで流れて始めて知ったのだが、男の名は竹中原六助(たけなかはら・ろくすけ)22才。
 今ではもう怒鳴り散らしていた勢いは完全に消え去っていた。
「俺は……俺は、わああああっ!!!」
 泣き崩れる竹中原を犠牲に、外の緊張状態とは無関係にアトラス内部での宴会が始まった訳だ。
 編集部の面々は、いい機会だとばかりに用意されたごちそうやら酒やら何やらを食べて大喜びしている。
 その横で、電話をかけようとしたが繋がらない事に気付いた。
 連絡が出来なかったら姉に怒られる。
「うーん……」
 長い銃を持っているから怖かったが、ステラの方に近づき言ってみた。
「おうちに電話しないと怒られちゃうんだけど……ダメかな?」
「いいですよ、どうぞ」
 簡単に帰ってきた返事に、ホッとして電話をかける。
「おねぇちゃん、少し遅くなるけどみあおは大丈夫だよ。うん、うん、気を付けて帰るから。じゃあね」
 電話を切り、ステラにお礼を言ってからもといたテレビの前の席戻った。
「警察もなかなかですねぇ、予想外にいい酒が揃っている」
 横でテレビを見ていたら、ニュースキャスターがワッと騒ぎ始める。
『来ました、来ましたー!』
「あ、みてみて、テレビのおねーさんが凄い事言ってるよ〜」
 みあおに呼ばれ、ブラウン管をのぞき込む。
「彼のご家族ですね」
 よく見えるようにとテレビの前から少し位置をずらして座り直す。
『六助ー! あんたは何でこんなバカな事をしたんだい!!!』
 がっくりとうなだれていた竹中原が顔を上げ、ブラウン管を凝視している。
『落ち着いてください』
 警察官の一人に宥められはしたが、意外にしっかりとした口調で説明を始める。
『そりゃあ、あの子は先生を困らせるような子でしたが……こんな事ができるような子じゃなかったんです!!!』
 それはそうだ、手伝っている人がいるのだから。
『六助は悪い子じゃないんです、人を殺せたり出来るような子じゃ……!!!』
「か、かあちゃ……」
『あの子は中学校の文集に『痛いのはいやなので、そうじゃない仕事お探します』って……』
「お、おかぁぁぁぁ!!!」
 画面に大写しされる文集に、頭を抱えてのたうち回る。
 これは恥ずかしい。
 全国ネットで流されたくないものである事は確実だ。
 しかも『仕事お』の文字が間違えている。
「う、ううっ……」
 もはや泣き崩れるしか無くなってしまった竹中原。
 世間から見れば只の凶悪犯の範疇だが、真相を知る今は犯罪史上他にないぐらい不幸な犯人に違いない。
「みあおだったらイヤだなぁ」
「そうですね、しかし過去の話が持ち出される事は珍しい話ではありませんから」
 準備のやたらいい母親は、通信簿から工作で作ったと思えるようなヤクルトの空きパックで作った恐竜らしき物まで取りだしていた。
「みあおは自由研究何にしようかなぁ?」
「あれはあまり良い出来ではないですから、参考にはなりませんね」
「だいじょうぶだよ、みあおはがんばるから」
 そ子で会話は中断する、ステラと蓮の相談が終わったようだ。
 それ以上に犯人が逃走するための車が来た事が大きかったのかも知れない。
 それはテレビで解るのだが、警察もそれを知らせるための電話をかけてくる。
「ではまた電話をよろしくお願いします」
「うう……」
 震える手で受話器を握り、紙に書かれた事を読み上げていく。
「『逃走の邪魔をしたら人質は死ぬ。こちらにはスイッチ一つでフロア事消せる事を覚えておけ。合図があるまで突入しても同じ事だ』」
 受話器を置く。
 デスクに両手をつきうなだれる後ろ姿に、みあおが声をかける。
「どうして泣くぐらいならこんな事するの?」
「…………なんでだろうなぁ……?」
 もう涙も出ないようだった。
「どなたかご一緒しますか?」
 一斉に首をふる面々、これ以上の厄介事には巻き込まれたくはない。
「まあいっか、じゃあねぇ」
 碇と三下を人質にしたまま、今なお泣いてる竹中原を先頭に編集部から出ていった。
「どうするつもりなんですかね」
「さあ」
 車に乗り込む姿は、巧妙に隠されている。
 そのまま発車し、緊迫した声で報道がなされる様子が逐一ヘリからの映像で流されていた。
 だがそれにもすぐに終わりがくる。
 ヘリの乗り換え場所……ここでは姿は絶対に映ってしまう、どうするつもりなのか。
「皆様お疲れさまでした」
「あー、おもしろかった」
 背後から聞こえるステラと蓮の声。
「え?」
 背後には、疲れた様子の麗香と三下の姿も。
「いつのまに!?」
「お気になさらないでください」
 そう言われても、足下にある大きな鞄な鞄が気になるが……誰もそれについて聞こうとはしなかった。
 聞いたら犯罪に巻き込まれそうである。
「あなたたち……」
「怒らないでください、麗香様。三下様を助けるためにはこれしか方法がなかったものですから」
「人質に取る必要があったのかしら?」
「三下様が撃たれないようにと意外な事をしてみようと思いまして」
「どうしてごちそうが必要だったのかしら?」
「犯人の気を紛らわせるためです」
 あくまでも無表情のまま、言ってのける。
「では、失礼しました」
 そして姿を消すステラ。
 本当に面倒だったのは、その後の話だ。

 現場検証に事情聴取。
 本来なら受けなくては鳴らないものであったが、みあおはまだ小学生だったからと上手い具合にみんなが帰れるようにしてくれたのだ。
「アトラス編集部で立てこもり事件があったんだって、怖いね」
「大丈夫、みあおは怖くなかったよ」
「え?」
 ○月×日 晴れ
 今日は立てこもり事件がありました。
 最初は怒ってたけど、後から泣いていたのでやっぱり悪い事はしない方がいいと思います。
 あと、大きくなってから恥ずかしくないような日記を書こうと思いました。



     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0332 / 九尾・桐伯 / 男性 / 27 / バーテンダー 】
【1057 / ステラ・ミラ / 女性 / 999 / 古本屋店主 】
【1282 / 光月・羽澄 / 女性 / 18 / 高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員 】
【1415 / 海原・みあお / 女性 / 13 / 小学生 】
【1449 / 綾和泉・汐耶 / 女性 / 23 / 司書 】
【1790 / 瀬川・蓮 / 男性  / 13 / ストリートキッド(デビルサモナー) 】

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■         ライター通信          ■
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【ある犯人の不幸。】にご参加いただきありがとうございました。

今回はコミカルでしたが、楽しんでいただけたでしょうか?
プレイングもオープニングの会話から犯人をからかってくれる内容が書かれていたので書きやすかったです。
それに犯人に協力するというかたもいらしてくれたので話が膨らみました、ありがとうございます。
そしてやはりというかなんというか………三下の扱いが素敵でした。
ごちそうさまです。
三下君は本当に愛されていますね。

ご意見ご感想等お聞かせ下されば今後の励みになります。
皆様、ありがとうございました。