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冥府テレホンショッピング
〜 あの世からの通販番組 〜
ことの発端は、ある掲示板への書き込みだった。
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投稿者:四十万川
題名:怪しい通販番組
午前四時四十四分に、テレビのチャンネルを四十四チャンネルに合わせると、
「あの世からの通販番組」が見られる、という噂を聞いたのですが、
どなたか、詳しいことをご存じの方はいらっしゃいませんか?
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「あの世からの通販番組」。
「あの世」と「通販番組」という言葉の、このギャップは何だろうか。
少しの不思議さと、かなりの胡散臭さを含んだこの書き込みに、雫は微かな興味を覚えた。
そして、次に雫がその掲示板を覗いたとき。
まだ十数分しか経っていないというのに、先ほどの記事には早くも二件もの返信があった。
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投稿者:SASSA
題名:見た見た
ああ、「冥府テレホンショッピング」ですね。
つい先日、その方法で見ることが出来ました。
番組的には普通の通販番組とあまり変わりないのですが、
ちょっと出演している方々の顔色がよくないのが気になりましたね。
ちなみに、売っていた商品が「赤鬼青鬼の置物」や「血の池地獄入浴剤」など、
あまりにも胡散臭いものばかりでしたので、購入には踏み切れませんでした。
どなたか、本気で商品を購入した方、いらっしゃいますか?
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投稿者:嗚呼問答
題名:冥府テレホンショッピング
俺、この前「清酒 三途の川」ってのを注文したんだけど、
頼んだ翌日には届いたね。ちゃんと代引きで。
送り主は「冥府商事 商品配達部」とだけ書いてあった。
本当にあの世から送ってきてるのか、誰かの悪戯なのかはわからないけど、
あの世から送ってきてるなら凄いことだし、悪戯ならかなり手が込んでる。
まぁ、値段の方も特にぼったくられた感じじゃないし、
営利目的の詐欺ってことだけはなさそうだけどね。
ちなみに「清酒 三途の川」の方は、わりと辛口で美味かったよ。
興味があったら、頼んでみてもいいんじゃないか?
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「冥府テレホンショッピング」。
これ以上ないほどに胡散臭い話ではあるが、作り話にしてはあまりにもアホらしすぎる。
第一、午前四時四十四分にテレビを見てさえいればいいのだから、真偽の確認もそう難しくはない。
(ちょっと寝不足になりそうだけど、このままじゃ気になって眠れないかもしれないしね)
そう考えて、雫はこの話の真相を究明する決意を固めたのであった。
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〜 44ch 冥府チャンネル? 〜
午前四時四十分。
それまでは何も映っていなかった「四十四チャンネル」に、突然映像が流れはじめた。
どこから持ってきたのかわからないような、なかば投げやりな感じすら抱かせるイージーリスニングのBGMに、本物のような、CGのような、そんな微妙な「地獄の風景」が映し出される。
針の山に、血の池地獄。いずれも、非常に有名なところばかりだ。
本来ならばあちこちにいるはずの亡者の群れが見えないのが若干不自然ではあるが、CGで作ろうとすればかなりの予算と時間がかかってもおかしくないレベルの映像である。
そして何より、画面の右上に映る「LIVE」の文字が、一切のツッコミを黙殺するように燦然と輝いていた。
本物とはにわかには信じがたいが、ヤラセにしてはあまりにも手が込み過ぎている。
と、そんなことを考えているうちに、問題の「午前四時四十四分」が近づいてきた。
それにあわせてBGMがゆっくりとフェードアウトしていき、やがて完全に聞こえなくなる。
そして、ちょうど時計が午前四時四十四分を指した時。
突然画面が切り替わり、どこかのスタジオの中を映し出した。
「皆様おはようございます。本日も『冥府テレホンショッピング』の時間がやって参りました」
そう言って一礼した説明役と思しき男性も、隣の女性も、少し、どころか相当顔色が悪い。
何も知らずにテレビをつけて、この二人が映っていたら、間違いなくテレビの色バランスを確認してしまうレベルだ。
とはいえ、これもある程度の技術があればメイクでどうとでもできるレベルである。
本当に「あの世からの通販番組」なのか、それとも誰かの仕組んだヤラセなのか。
それを判断するには、どうやらもうしばらくこの番組を見てみる必要がありそうだった。
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〜 食べれば食べるほど…… 〜
最初にウォレス・グランブラッドの興味を引いたのは、番組が始まって二番目に紹介された「地獄銘菓・冥府まんじゅう」だった。
その前に紹介されていた日本酒も悪くはないが、どちらかというと、こういったお菓子のようなものの方がベターである。
「おいしそうなお饅頭ですね。私、甘いものには目がないんですよ」
女性アシスタントの言う通り、見た目的にも悪くない。
となれば、後は味だ。
「そうでしたか。よろしければお一つどうぞ」
説明役に促され、アシスタントが饅頭を一つ試食する……と、ウォレスはそう予測したが、その予想は見事に裏切られた。
「それが、今はダイエット中でして、甘いものはちょっと……」
「大丈夫、ダイエット中でも全く問題ありません。
むしろ、そういった方にこそ食べていただきたいのがこのお饅頭なんです」
なんと、突然話が飛んで、饅頭がダイエット食品になってしまったのである。
もともと通常の食品では栄養を摂取できないウォレスにとって、基本的にダイエットは無縁の存在であった。
それ故、こうした「ダイエット食品」の存在自体は知っていても、特に興味を持つことはなかったのだが、いざ実際に商品案内を見てしまうと、いったいどういう原理で、どのような効果が期待できるのか、ウォレスも何となく興味が湧いてきた。
と、ちょうどそれを見計らったかのように、説明役が言葉を続ける。
「当社の職人が餓鬼道から持ち帰った特殊製法を用いることにより、このお饅頭は『食べれば食べるほどお腹が空く』という不思議な特性を備えています。
しかも、ただお腹が空くだけでなく、実際にカロリーを消費してしまうんです。
これこそ、ノンカロリーをも下回る夢のマイナスカロリー。
まさに、究極のダイエット食品でもあるわけです」
その説明に、ウォレスはふと考えた。
はたして、それはウォレスにも有効なのだろうか?
通常の成分の働きによるものであれば、おそらくウォレスには無効であろう。
しかし、何らかの魔法的な要素が加わっているとすれば、あるいはウォレスに対しても多少ながら効果があるかもしれない。
「ただ、このお饅頭ばかりを食べ続けますと、深刻な栄養失調を引き起こす恐れがありますので、」大量にお食べになる場合は、必ず通常の食品もお食べ下さいますようお願いいたします」
通常の食品で栄養が摂取できるならいいが、それができないウォレスの場合、もし効果があったらあったで大変なことになる。
「お茶請けに、おやつに、そしてダイエットにも最適の『地獄銘菓・冥府まんじゅう』。
九つ入りで980円でのご提供です」
そこまで聞いて、ウォレスはしばらく考え込んでいたが……やがて、まぁ何とかなるだろうと思い直して、とりあえず一度買ってみることに決めた。
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〜 プロも絶賛、この威力!? 〜
次にウォレスが注目したのは、この商品だった。
「最後のご紹介は、もはや地獄では定番となりました『入魂金棒』です」
その言葉に続いて、巨大な金棒が画面に映し出される。
(ヂゴクといえばオニ、オニといえば金棒ですか。なかなかよさそうですね)
ウォレスがそんなことを考えている間に、説明役が口上を述べはじめる。
「従来の金棒は、ほとんどが鉄でできていたため非常に重く、鬼でもどうにかこうにか振り回しているといった有り様で、まして人間が使えるようなものではありませんでした」
それに続いて、「いかにも」な感じの赤鬼のインタビューが流された。
「以前の金棒は重くてねぇ。最近は罪人が多いから、あれじゃ身体がとても持たないよ。
一人一発ずつ殴るだけでも、確実に腕と腰にくるね、うん。次の日は確実に筋肉痛だよ」
続いて、自分の背丈ほどもある巨大な金棒の扱いに四苦八苦する赤鬼の映像。
その言葉と映像を真に受けて、ウォレスはしみじみとこう思った。
(なるほど。こんな重労働をしなければならないとは、オニもなかなか大変なのですね)
その間に、映像は再びスタジオに戻る。
「そこで、この『入魂金棒』です。ちょっと持ってみてもらえますか」
説明役に言われるままに、女性アシスタントは「入魂」と書かれた巨大な金棒を持ち上げた。
軽々と、という感じでこそないが、まあなんとか扱えている、と言えなくもないレベルである。
「さすがに軽くはないですけど、見た目よりはずっと軽いですね?」
少しわざとらしい驚きの表情を見せるアシスタントに、説明役は満面の笑みでこう答えた。
「ええ。
従来の鉄に変えて、素材にはカーボンとチタンを使用。
さらに一部の構造を中空化させることで、耐久性を落とさず、驚きの軽さを実現いたしました。
これなら、腕力に自信のない方でも扱えますね」
さらに、その言葉を実証するかのように、再び画面に姿を現した赤鬼が「入魂金棒」を軽々と振り回して、白い歯を見せて笑う。
「これなら、毎日十発ずつでも楽々殴れるね。罪人はいい迷惑だろうけど、鬼としちゃ大歓迎だよ」
その豪快な笑顔が、ウォレスにこの「入魂金棒」の購入を決意させた。
「威圧感あるオブジェとして、また、いざというときの護身用に!
『入魂金棒』は、69,800円でのご提供となります!」
決して安い買い物ではなかったが、ウォレス本人は非常に満足だった。
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〜 地獄生活も金しだい? 〜
その翌日。
掲示板に書かれていた通りに、代引で商品が届いた。
そして、やはり掲示板の記事にもあった通り、送り主の欄には「冥府商事 商品配達部」と言う記述のみがあり、住所等はいっさい書かれていない。
それがますます、マーヤ・ベッラの「真相を知りたい」と言う好奇心に火をつけた。
彼女は商品を受け取ると、配達の青年が集配の車に乗り込むのを見届けてから、あらかじめいつでも出せるように用意しておいたヨーロッパ製のスクーターに飛び乗り、目立たぬようにその車の後をつけてみることにした。
他にも数カ所に荷物を届けた後、配達人が最後に帰り着いたのは、東京湾沿いの倉庫の一つだった。
配達人がトラックごと倉庫の中に消えるのを確認して、マーヤはなるべく目立たない場所にスクーターを隠すと、足跡をたてないように倉庫の方へと歩き出した。
と、その時。
「おや? あなたもあの配達の人をつけてきたのですか?」
不意に声をかけられて、慌ててそちらの方を向くマーヤ。
するとそこには、配達人が最後に荷物を届けた先にいた外国人の姿があった。
「あなたも、ってことは、ひょっとしてあんたも?」
聞き返すマーヤに、男はこくりと頷いてみせる。
「ええ、私も『あの番組』の秘密が気になりまして」
どうやら、この男も自分と同じ目的でやってきた人間であって、敵ではないらしい。
「そっか、実はまーやもなんだ」
安心してマーヤがそう答えると、男は少しずれた反応を返してきた。
「マーヤさん、とおっしゃられるのですね。
私はウォレス・グランブラッドと申します」
こんなところで自己紹介もないだろう、と思って、マーヤは軽く苦笑する。
「ンじゃウォレスさん、早速あそこに行って話聞いてこない?」
「そうですね。それでは、行ってみるとしましょうか」
倉庫にたどり着いたマーヤたちは、全くためらうことなく、倉庫の横合いにあるドアをノックした。
「……何か御用ですか?」
ドアが開いて、二人のところに荷物を配達してきた青年が顔を出す。
「うん。詳しい話、聞かせてチョーダイ」
マーヤがそう言うと、彼は意外なほどあっさりと首を縦に振った。
「……まぁ、いいですよ。
どうせ、聞いても信じないと思いますけど」
その後、青年が語ったところによると。
現在の「日本の地獄」は、実は亡者の手にある。
昨今特に多くなった政治家や宗教家といった口の達者な連中が、他の亡者や比較的階級の低い鬼などをうまくだまくらかして味方につけ、「亡者にも人権を」から始まって「不当に重い量刑への抗議」「階級間格差の改善」「封建主義体制の打破」とだんだん過激な方向にエスカレートしていき、しまいには比較的階級の高い鬼とも内通して一気にクーデターを敢行。
ある程度の犠牲を出しながらも、敵を「中国の地獄」の方へと追い払い、「日本の地獄」を民主化する……という建前で、覇権を握ってしまったのであった。
ところが、せっかく覇権を握り、自分たちを含めた罪人への責苦を大幅に軽減したものの、苦痛がゼロになるわけではなかったし、それ以前に、地獄には自分たちが望むようなものがほとんど何もなかった。
彼らがどうしたものかと思案していると、その中でも妙な人脈を持っていた宗教家が、現世の霊能力者と手を組んで、一儲けする方法を思いついた。
そして、それがこの「冥府テレホンショッピング」だった、というわけである。
「……と、こういうことらしいですよ。
ちなみにこれ、青森の方から船で運んできてるみたいですから、おそらく冥府から引き上げる作業は恐山辺りでやってるんじゃないでしょうかね?」
青年はそう淡々と語り終わると、ふう、と小さく一つため息をついた。
「まあ、こんな話をしても、誰も信じちゃくれないでしょうけど。
実際、私も本気で信じてるわけじゃありませんし」
そんな彼を見て、マーヤはふとあることを思いついた。
「教えてくれてアリガト。そのお礼に、まーやの秘密も教えたげる」
そう言いながら、きょとんとした顔をしている青年の隣に移動すると、そっと彼の顔の前に自分の腕をかざした。
「よーく見て。何か気づかない?」
そのマーヤの態度を不審がりながらも、青年は言われるままに彼女の白い腕を見つめる。
白い−−そう、普通の人間ではあり得ないほどに白い肌と、そこに走るいくつかの縫い跡。
それに気づいてか、青年が突如弾かれたかのようにマーヤから離れる。
「な、ま、まさか……!?」
予想通りの反応にいくぶん気を良くしながら、マーヤはさらに彼の方ににじり寄った。
「そゆコト。まーや、実は、フツーの人間じゃなかったりするんだよネ」
「ま、マジで出たああぁぁっ!!」
青年の絶叫が、夜の倉庫街に響き渡った。
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〜 その後 〜
それから、数日ほど後。
ふと思い立って、ウォレスはもう一度午前四時四十四分にテレビの電源を入れ、チャンネルを四十四チャンネルに合わせてみた。
ところが、いつまで待っても、「冥府テレホンショッピング」が始まる気配はなかった。
何となく気になって、その後も数日間に渡って同じことを試したが、やはり結果は同じだった。
東京湾の「冥府商事 商品配送部」も、いつの間にか倉庫を引き払い、行方知れずになった。
こうして、少なくともウォレスにとっては、今回の騒動は終わりを告げたのである。
「冥府まんじゅう」は、先日訪ねてきた友人たちと一緒に食べてしまって、今はもうない。
夢のマイナスカロリーも、やはり吸血鬼であるウォレスには何の効果も及ぼさないらしく、幸か不幸かその効果を実感することはできなかった。
一緒に食べた友人たちは「本当にお腹が空いてきた」と言っていたが、それは食べる前にウォレスの説明を聞いたせいで感じた気のせい、もしくはウォレスを喜ばせようとしての演技だった可能性も否定できないため、真相は闇の中である。
そして、「入魂金棒」は今も部屋の隅に飾られている。
金棒は部屋の隅と言う微妙なロケーションにあってもその存在感を遺憾なく発揮しており、友人たちはそのあまりの威圧感にいささか引いていたようだったが、やはりウォレス本人は非常に満足であった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1415 / 海原・みあお / 女性 / 13 / 小学生
0526 / ウォレス・グランブラッド / 男性 / 150 / 自称・英会話学校講師
1808 / マーヤ・ベッラ / 女性 / 1 / プー
1449 / 綾和泉・汐耶 / 女性 / 23 / 司書
0424 / 水野・想司 / 男性 / 14 / 吸血鬼ハンター
1358 / 鬼柳・要 / 男性 / 17 / 高校生
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■ ライター通信 ■
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撓場秀武です。
この度は私の依頼にご参加下さいまして誠にありがとうございました。
・このノベルの構成について
このノベルはいくつかのパートに分かれております。
今回は最初のパート以外ほとんどのパートが個別となっておりますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。
・個別通信(ウォレス・グランブラッド様)
いつも御参加ありがとうございます。
金棒は今回一番最初から考えていたネタだったのですが、いかがでしたでしょうか?
書いているうちになぜかそこだけ海外の通販番組のようになってしまったのは、さすがに予定外でしたが……。
ともあれ、もし何かございましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。
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